常任理事 真栄田 篤彦
去る3 月14 日(土)、ホテル日航熊本におい て、標記連絡会議が開催された。
当日は、司会の熊本県医師会の八木理事より 開会が宣された後、九州医師会連合会長の北野 邦俊熊本県医師会長より、「昨年の米国のサブ プライムローンに端を発した世界的金融危機 は、日本にも影響を及ぼし深刻な不況と雇用不 安を広めている。一方、医療を取り巻く環境は 更に厳しさを増し、医療提供体制の崩壊が現実 化しつつある。しかし、このような社会情勢が 先行きの見えない今こそ、医療を中心とした社 会保障へ積極的投資を行い、雇用を含めた拡大 を図り、国民が安心して生活できる社会を構築 することが大切であり、私ども九州医師会連合 会は日本医師会を支援すべく種々提言を行って いきたいのでご協力の程お願い申し上げる。ま た、本日の会議が熊本県医師会が担当する九州 医師会連合会の最後の行事となる。1 年間ご協 力に感謝する」と挨拶した。
西島英利参議院議員からのメッセージ
当初、当連絡会議にご出席され、中央情勢報 告を予定していた西島議員が所用のため欠席と なったことから、西島議員から届いたメッセー ジが概ね以下のとおり紹介された。
レセプトオンラインの義務化については、去 る2 月27 日の自民党医療委員会を開催し、140 名以上の国会議員が参加し口々に義務化反対の 意見を述べられた。その実績が見直しの方向と なり、現在、日医と自民党厚労族幹部との間で やり取りが行われ、閣議決定をひっくり返す段 取りが進められている。
また、高齢者医療制度もほぼ整理されてい る。先生方が安心して医療が提供でき、国民が 安心して医療が受けられる環境づくりに全力で 取り組む決意であるので、今後ともご支援ご協 力をお願い申し上げる。
日医委員会報告
今回は、(1)医療政策会議(福岡県:横倉義 武先生)、(2)介護保険委員会(鹿児島県:鉾 之原大先生)、(3)医療IT 委員会(大分県:内 田一郎先生)の3 委員会の審議内容についてそ れぞれ報告があった。概要は以下のとおり。
医療政策会議はメンバー14 名中医師以外の 大学教授が4 名入っており、座長は慶應義塾大 学大学院経営管理研究科教授の田中磁先生が務 めている。
今期(H20 ・21 年度)は、「経済成長と医療 政策のあり方」について諮問を受けたが、諮問 を受けた時点と現在とは経済情勢が異なること から、大不況の中での医療政策にシフトしてい くものと考えている。
今年度は4 回会議が行われたので、その概要 を以下に紹介する。
第1 回(H20.8.6)
唐澤会長より、「医療政策会議、生命倫理懇 談会、学術推進会議は会内会議の3 本柱に位置 づけており、昭和59 年発足以来、その時々の 重要課題について積極的な政策提言を受けてき た。今回は、政府の長年の社会保障費の機械的 削減が医療崩壊という形で、医療の現場や国民 に暗い影を落としているという状況を念頭に置 いて2 年間忌憚のない議論をお願いしたい」と 挨拶をいただいた後、フリーディスカッション を行った。
委員からの主な意見は次のとおり。
○今回の諮問事項から、「医療費亡国論からの 脱却」という副題を考えた。遂に日医が脱却 を図ろうとしていると受け留めた。
○医療現場の混乱がますます酷くなる時期に正 確でフェアな意見が言えるのは日医しかない。
○現在でも、医師は欲張り村の村長と思われて いる。日医がイメージチェンジして欲張り村 の村長説の誤解を解かないと国民の不信感は 払拭できない。
第2 回(H20.9.17)
桐野高明委員(国立国際医療センター総長) より、日本学術会議が平成20 年6 月に取りま とめた要望書(信頼に支えられた医療の実現− 医療を崩壊させないために−)を中心に講演が 行われた。
内容は、医療費抑制策の転換、病院医療の抜 本的改革、専門医認証委員会の設置等について 述べられた。その中で、我が国のアクセスを最 重要視した医療提供体制は、発展途上型の医療 であり、社会は先進国型のより質の高い医療を 求めている。医療の利便性と必要度、バランス を考える必要があり、医療の質、医療レベルの 評価、患者の権利、情報開示が4 本柱となる。
そのためには、医療の仕組みをどう変えてい くかが鍵であり、実働医師の確保、医師の連係 体制の推進、チーム医療の促進、医療の質を保 証する体制を図る必要があると提言した。
補足として、1)医療費の抑制は既に限界であ り医療費抑制策は転換が必要、2)医師不足につ いては養成数を増やせば解決するのか、3)専門 医制度については法的裏付けのある公的認証機 関の必要性を提言した。
第3 回(H20.11.19)
権丈善一委員(慶應義塾大学商学部教授)よ り、「小さすぎる政府の社会保障と政府の利用 価値−ミクロ・マクロの視点から−」と題して 講演があった。
内容は、医療費過大推計の法則が成立する理 由−悪いのは本当に厚生労働省なのかという話 しの中で、過去の医療費の将来見通しを見る と、2025 年度の国民医療費が平成6 年に試算し た時は141 兆円、平成12 年は81 兆円、平成18 年は65 兆円となっている。しかし、これは経済 成長率の高い時に予測したから141 兆円であっ たのであり、低い時に予測したら64 兆になって しまったというだけの話しであると述べた。
また、積極的社会保障政策と医療政策につい て持論を展開され、社会保障とは、ミクロは貢 献原則に基づいて分配された所得を、必要原則 に基づいて修正する再分配制度であり、マクロは、基礎的消費部分を社会化することにより、 購買力を広く全国にわたって配分する大きな灌 漑組織として機能する再分配制度と定義してい る。つまりミクロは、医療、介護、保育、それ に教育も加えた生活必需品に関する消費を社会 化することによって貢献原則に基づく配分で生 まれてくる歪みを必要原則で修正して埋めてい く。その政策チャンネルを利用しながら、実は 一国の中で富を今度は全国に再配分していく、 そういくマクロの経済政策でもあると主張した。
財源に関しては、OECD 加盟国の中で日本 より税や保険料等の負担が少ない国は、韓国、 トルコ、メキシコの3 カ国で、日本は下から4 番目である。こんな状態でまともな社会保障が 出来るわけはない。日本は公的医療が重要だと 考えがあり、公的医療が疲弊していることか ら、直接被害を被っている医療団体や関係者か ら負担増反対、消費税反対、埋蔵金があるので はないか等、あさはかな財政到達論を唱えてい ると厳しく批判し、今、必要なのは財源の確保 であり、消費税の引き上げが必要ではないかと 言外にいわれた。
日医も消費税引き上げに積極的ではなかった が、このような議論を機会に日医の論調も変わ ってきた。
第4 回(H21.1.14)
読売新聞の田中秀一編集局医療情報部長よ り、「信頼できる医療体制の確立へ−『医療改 革』読売新聞の提言」と題して講演が行われた。
田中氏は、信頼の医療へ構造改革5 本柱とし て、以下の提言をした。
【1】医師を増やし、偏在を無くそう
【2】医療機関の役割分担と連携強化
【3】医療の質を高め、安全性を確保
【4】高齢者医療を介護と一体で充実
【5】給付と負担の新ルールをつくれ
上記提言を受け、我々として受け入れられる 部分とそうでない部分があり、種々議論した。
その中で、特に問題点は医師の計画配置で、 縛りのある欧米の実情を挙げ、日本の自由標榜 制度は、世界的にも特異な制度であると述べた。
また、多数の救急患者が救急外来に押し寄 せ、救急医療を疲弊させているとして、フリー アクセスの規制も提言している。
また、財源に関しては、消費税を社会保障目 的税として2011 年度までに10 %に引き上げ、 中でも生活必需品は5 %の軽減税率を適用する よう求めている。
質疑応答
○質問:地域医療提供体制において、自ら律し て行くことが大事だというはなしであ ったが、我々は、公取の監視下で動い ており、また、自由標榜制の下で制限 できるのか。
○回答:法律では縛れないと思う。我々医師や 医師会がどう対応するかが鍵だと思 う。昨日の日医の医療政策シンポジウ ムに経済財政諮問会議の吉川議長が出 席されていたが、吉川氏は「医療費抑 制が医療を疲弊させていると主張する が、それは医療費抑制だけが原因なのかと」発言され、鎌倉市における行政 と医師会の連携による産科診療所開設 にふれていた。その話しを聞いて医師 の自律作用を社会は求めていることを 考えさせられた。
○質問:グループ診療の構築は口で言うのは簡 単だけど、具体的にはどうしたらいい のか。
○回答:地域の医師が全員医師会に参画し勤務 医と開業医が協力することが一番では ないか。
○質問:消費税問題は、政党は取り上げること によって選挙に影響するということで 大きな声はださない。日医はそれを後 押しするためにも消費税を引き上げる 必要があると表明すべきでは。
○回答:その通りだと思う。麻生総理も今度の 選挙の争点は消費税と入っている。
○質問:医療政策会議はこれまで財源確保につ いて種々議論されているが、それが一 番重要であることは確かである。厚労 省の官僚もそういっている。従って、 確たる財源を確保すべく、明確に消費 税と言って議論をすべきである。
○質問:医療は公共財と言うことであったが、 そうなると統制管理等大きな問題が生 じて来るので、充分に検討して欲しい。
○回答:これは読売新聞の意見である。
鹿児島県医師会常任理事の鉾之原大助先生 より、日本医師会介護保険委員会におけるこれ までの審議内容等について報告があった。
日本医師会介護保険委員会は19 名の委員に より構成されており、委員長は前日本医師会常 任理事の野中博先生が就任されている。九州ブ ロックからは、鉾之原先生をはじめ、大分県医 師会副会長の嶋田丞先生、福岡県医師会常任理 事の山内孝先生、熊本県医師会理事の米満弘之 先生の計4 名が参加されている。
介護保険委員会はこれまでに計5 回開催され ており、第1 回は平成20 年7 月17 日(木)に 開催され、当回において日本医師会長より「地 域完結型の医療・ケア体制をめざして」という 諮問を受けている。第2 回は9 月4 日に開催さ れ、「介護報酬改定に向けた要望・意見〜介護 人材の定着・確保を重点項目として〜」をテー マにディスカッションが行われている。第3 回 は11 月20 日に開催され、委員の川越雅弘先生 (国立社会保障・人口問題研究所社会保障応用 分析研究部第四室室長)より「ニーズに応じた 医療・ケア提供体制構築上の諸課題」をテーマ とした講演が行われるとともに、外部審議会の 審議状況等の報告が行われている。第4 回は12 月18 日に開催され、厚生労働省老健局老人保 健課課長補佐の田中央吾氏より「要介護認定に ついて」をテーマとした講演が行われた後、平 成21 年4 月の介護報酬改定について議論され ている。第5 回は平成21 年3 月5 日に開催さ れ、外部審議会の審議状況について報告が行わ れている。第5 回当日は、委員会の終了後に第 14 回都道府県医師会介護保険担当理事連絡協 議会が開催され、日本医師会常任理事の三上裕 司先生並びに厚生労働省老健局老人保健課長の 鈴木康裕先生より、平成21 年度介護報酬改定 についてそれぞれ講演が行われている。
委員会の内容については、第3 回の委員会に て行われた川越先生の講演において、介護サー ビス受給者数が2005 年の350.3 万人から2025 年には654.4 万人に増加すると予想されてお り、それに伴い介護サービス従事者数も2005 年の113 万人から2025 年には212 万人に引き 上げる必要があるとされているが、15 〜 64 歳 の人口が2005 年の8,442 万人から2025 年には 7,096 万人に減少するという(粗い)推計が示 され、介護サービス従事者数の確保は介護保険 制度の喫緊の課題であることが提起されたと報 告があった。また、委員会の検討内容を反映さ せた形として、去る10 月3 日には平成21 年度 の介護報酬改定について日本医師会としての意 見を社会保障審議会介護給付費分科会に提出し ている旨が説明された。日本医師会が提出した意見の主な内容は、介護従事者の離職率の高さ や賃金水準の低さ等を改善するための「1.介 護サービス提供体制の充実と環境整備」、介護 保険制度内での低所得者対策のあり方を再検討 していただくための「2.補足給付の見直し」、 介護老人福祉施設の配置医師の役割の明確化や 介護老人保健施設での診療行為の再検討、有床 診療所の制度上の対応等を見直すための「3. 適切な医療サービスの提供」、療養病床再編に 伴う介護保険施設等の基盤整備を再考するため の「4.施設の基盤整備に関して」、認知症高齢 者に係るかかりつけ医の相談機能の評価や、か かりつけ医師と認知症対応専門医との連携の評 価、高度のBPSD や身体合併症を有する認知 症患者に対応可能な受け皿の整備を図るための 「5.認知症高齢者に関して」、リハビリテーシ ョンの現行のサービス内容の見直しや、通所リ ハビリに関してサービス提供時間のみで評価可 能な仕組みを講ずるための「6.リハビリテー ションの充実」という6 項目が提起されている。
また、10 月30 日に突然、政府が平成21 年 度介護報酬改定は「プラス3 %」と発表したこ とから、日本医師会では、11 月14 日に全国老 人保健施設協会、日本慢性期医療協会の連名 で、社会保障審議会介護給付費分科会分科会長 宛に「次期介護報酬改定率ならびに本分科会の あり方等に関する緊急要望」を提出するととも に、介護保険委員会として意見を取りまとめ1 月7 日に「平成21 年4 月介護報酬改定につい て」として日本医師会の見解を発表していると 説明があった。見解の主な内容については、プ ラス改定については一定の評価をしているが、 過去のマイナス分も取り戻せない不十分な改定 率であるとし、今回の改定では介護従事者の人 材確保・処遇改善を大きな柱としている一方日 本医師会が指摘していた基本サービス費を引き 上げ、全体的に底上げを図るべきであるという 点は、夜間勤務や人員加配、専門職種の配置や 勤務年数等の加算で評価され、各サービスの基 本サービス費は一部を除いてほとんど引き上げ られていない改定になったとして、改定内容に 疑問を感じている旨が記されていると説明があ った。また、見解では、日本医師会が再三指摘 してきた「要介護認定」、「介護サービス情報の 公表制度」、「補足給付」についても早急に検討 の場を設ける必要がある点についても併せて記 していることが説明された。
なお、介護保険委員会は平成21 年度におい ても5 回の開催が予定されており、開催終了後 に答申が取りまとめられることになっている。
大分県医師会常任理事の内田一郎先生より、 日本医師会医療IT 委員会におけるこれまでの 審議内容等について報告があった。
日本医師会医療IT 委員会は15 名の委員によ り構成されており、委員長は愛媛県医師会常任 理事の佐伯光義先生が就任されている。九州ブ ロックからは、内田先生をはじめ、宮崎県医師 会副会長の富田雄二先生が参加されている。
医療IT 委員会は、第1 回が平成20 年7 月 31 日に開催され、当回において日本医師会長 より「医療のIT 化の光と影」という諮問を受 けている。
医療IT 委員会では、医療のIT 化に係る様々 なテーマの中でも「レセプトオンライン請求義 務化」を喫緊かつ非常に重要な問題として捉 え、委員会として早急に意見を取りまとめる必 要があるとの認識から、平成21 年1 月に「レ セプトオンライン請求義務化について」に係る 中間答申を発表しているとして報告があった。
中間答申では、先ず始めに、日本医師会は IT 化推進の立場からはオンライン請求自体を 否定するものではなく、医療機関や関係機関が ネットワークで接続され、患者・国民のために 活用されるのは時代の趨勢であるとしつつも、 強制的な義務化を行うことは地域医療崩壊を加 速させかねない重大な問題であるとして、オン ライン化を進める上での課題と要望として以下 の10 項目を示していることが述べられた。
(1)薬効薬理作用に基づいた医薬品の投与を認 めること
(2)被保険者証(保険証)の有効性の即時確認 システムの確立
(3)レセプトコンピュータ(レセコン)の統一 基準化
(4)レセプトデータの利活用に関する問題
(5)IT 化財源の別途確保
(6)平成21 年度予算概算要求
(7)少数該当の要件緩和
(8)代行請求業務の改善
(9)国保請求書、医療費助成制度などの書式統 一と電子化
(10)レセプト電算処理(電子媒体)の活用
特に、(7)の少数該当の要件緩和について は、年間レセプト枚数が1,200 件以下の医療機 関は、平成23 年度から最大2 年間の延長を図 ることになっているが、1,200 件を3,600 件ま で幅を広げ、また最大2 年間の期限のさらなる 延長を求めているとしている点や、(10)の項 目については、医療分野のIT 化はレセプト電 算処理だけでも十分達成できるにも関わらず、 提出をオンラインに限定する理由についての説 明がない点等を訴えている旨が説明された。
また、中間答申においては、総論として、日 本医師会におけるレセプトオンライン請求義務 化に対する見解として、完全義務化を撤廃した うえで「手挙げ」方式の採用を要望している点 や、万一「手挙げ」方式が受け入れられなかっ た場合の備えとして、代行請求業務の拡充と改 善、代行送信の確立、少数該当要件の大幅緩和 の3 点を要望していることを記している点や、 各論として、医療IT 委員会の見解として、全 国の約13,000 医療機関が手書きでレセプトを 作成しており今後もレセコンを必要としていな い点や、レセプト電算処理を標準搭載していな いレセコンを使用している医療機関も多い点、 レセプト電算処理化以降の際に、各医療機関が それまで使用していた独自の傷病名コードを厚 労省の定める統一コードに変換・整備する作業 が必要となる点、オンライン請求に係るコスト の点、等々の課題を含めた「医療機関からみた レセプト電算処理システム導入の意義、留意点 並びに効果」や、「医療機関からみたレセプト オンライン提出の意義・影響」等についても明 記している点が説明された。
併せて、医療IT 委員会から日医への提言に ついても明記していると説明があり、医師会に おける代行入力、代行送信等の代行請求業務は 非現実的である点や、現段階では、医療機関か らのオンライン送信は患者情報漏えいの可能性 が極めて高く、セキュリティポリシーの理解や 対応が不足したままに、国の性急かつ強引な IT 化は進めるべきではないとして、厚労省等 に今後も一層の働きかけを求める内容等が記さ れているとして報告された。