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増えている子宮体癌

武田理

ハートライフ病院 産婦人科
武田 理

子宮癌検診では子宮頸癌検診が主に行われて いますが、近年増えているのが子宮体癌(子宮 内膜癌)です。地域がん登録全国推計値の罹患 データではこの20 年の間に4 倍以上の罹患率 の上昇があり(1977 年に2 人/ 10 万人であっ たが2001 年には8.1 人/ 10 万人)子宮頸癌が 減少傾向(若年層は増加傾向)なのに対し対照 的な傾向です1)。子宮頸癌と体癌の罹患比率は 30 年前の9 対1 程度から最近では6 対4 程度ま で上昇しています。子宮頸癌の原因がウイルス であるHPV で性交渉により不顕性感染するの に対し、子宮体癌は遺伝(遺伝性非ポリポーシ ス大腸癌、HNPCC)、人種の他、プロゲステ ロンによる拮抗のない状態でのエストロゲン曝 露(unopposed estrogen)を介して子宮内膜 の増殖を促進し癌発生に至らしめると考えられ ており、即ち排卵障害(無排卵ではプロゲステ ロンが産生されないことから未妊婦未産婦/少 ない分娩数/早い初経/遅い閉経/不妊症/月 経異常など)、ホルモン療法(エストロゲン製 剤投与)、乳癌(エストロゲン依存性癌)及び その治療薬の他、動物性脂肪摂取等から増えて いる肥満(元々排卵障害を招きやすく、また更 年期からの肥満は卵巣外から産生されるエスト ロンが脂肪に蓄積する)、糖尿病(高インスリ ン、IGF-1 による癌細胞増殖、癌化へのプロモ ーター作用)等が危険因子です。

子宮体癌の好発年齢は50 歳代をピークとし て60、70 歳代と続き、子宮頸癌より高齢者に 多く発症し、発癌機序から二つのタイプに分類 されています。タイプI がエストロゲン暴露の 影響を受け、子宮内膜を発育させ、子宮内膜増 殖症となり、この一部から異型内膜細胞が発生 し、発癌します。高分化型腺癌が多く、早期例 が多く予後は良好です。タイプII はより高齢者 に発症し、エストロゲンの影響を受けない、組 織型が予後不良で進行例が多いと言われていま す。子宮体癌の主な症状は不正性器出血、閉経 後の出血とほぼ全例が出血や褐色の帯下にまつ わるエピソードで子宮頸癌が出血を自覚した時 には癌が進行しているのに比し、子宮体癌の場 合は早期でも出血や帯下を自覚するので頸癌よ り予後は良いと言われています(年齢調整死亡 率2.7 人/10 万人対1.3 人/10 万人1))。腫瘍マ ーカーはCA125、CA19-9、CA72-4、CEA などが報告されており、進行が進むと陽性率は 上昇し、子宮外進展例では非進展例より有意に 高値となります。治療は基本的に全例手術によ り子宮、付属器(卵巣卵管)摘出±骨盤内リン パ節/傍大動脈リンパ節廓清(リンパ節廓清の 治療的意義は不明)を行い、進行期を決定しま す。進行期、組織分化度、筋層浸潤、組織型等 により再発のlow,intermediate,high risk group に分け2)、low risk 群以外は追加治療を 検討します(本邦では主に化学療法。進行体癌 (III/IV 期)では放射線療法より有意な生存期 間の延長が報告されていますがI/II 期では同等 の治療成績3)4))。AP(ドキソルビシン/シス プラチン)療法がエビデンスのあるレジメンで すが3)より副作用の少ないTC(パクリタキセ ル/カルボプラチン)療法などタキサン系抗癌 剤併用療法でAP 療法と同等以上の治療成績の 報告が相次ぎ5) 6)、薬剤適応承認も手伝ってJGOG(日本婦人科悪性腫瘍化学療法研究機 構)では現在RCT(臨床試験)を行っていま す。また日本婦人科腫瘍学会により2006 年 「子宮体癌治療ガイドライン」が刊行され、今 後体癌の治療指針が改良を重ねられて行くもの と思われます。

子宮体癌の検診方法は子宮腔内へ細胞採取器 具(エンドサイト、ブラシ、吸引器)を挿入し て行われます。子宮頸癌検診時にはほとんど痛 みがありませんが、子宮体癌の場合は個人差も ありますが痛みや時に感染を併発すること、ま た高齢者では子宮が萎縮し器具が腔内へ十分に 挿入できないことなど細胞採取上の問題、また 採取された内膜細胞の評価が難しいなどの問題 点があります7)。体癌検診は子宮頸癌検診に来 た患者から選択して検診していますがその普及 率はかなり低く、半数以上の市町村では実施さ れていません。老人保健法で取り決められてい る子宮体癌検診の対象は最近6 ヶ月以内の不正 性器出血、月経異常、褐色帯下を認める女性が 対象となっていて、然るべき高次機関病院への 紹介を勧奨する、となっています(以前は50 歳以上、閉経後、未妊婦で月経不規則が検診の 条件でしたが、受診率向上のため現在は有症状 者全てを対象)。

他のスクリーニング法として経膣超音波(エ コー)検査は子宮内膜増殖症や子宮体癌を発見 する有効で簡便な検査であり、子宮内膜(の厚 さ)を観察することで特に高齢者は子宮体癌の 存在(5mm 程度)を推定することができ、子 宮頸癌検診時に積極的に併用していく必要があ ります8)。先述しましたように子宮体癌の検診 にはその手技上の困難性があり、画一的な検診 が不可能で、検診による死亡率減少効果が証明 されているわけではありませんが、外来受診で 発見された子宮体癌と検診で発見された子宮体癌の比較では検診発見群の予後がよいとの報告 があります9)10)。子宮頸癌はウイルスに対する ワクチンがすでに開発されており、将来的にそ の減少に拍車がかかることが予想されますが、 子宮体癌にはワクチンはなく、またその危険因 子が高齢、肥満、少ない妊娠回数などを考慮す ると増加傾向は今後も続き検診の意義を再検討 する時期が訪れるかもしれません。国は2006 年に発表したがん対策基本法で50 %の検診受 診率を目標としています。しかし長年にわたり 日本の子宮癌検診率がかなり低い(約15 %) こと、検診費用の一般財源化と市町村の財政難 の問題等のジレンマも存在します。現時点では 各医療機関が独自で有症状者や危険因子保有者 への啓蒙活動により病院受診を勧奨することが 子宮体癌の早期発見には近道と考えます。実際 に不正出血から半年、1 年以上経過して受診す る患者も少なくなく、もっと子宮体癌の存在を PR すべき時期に来ていると思われます。

閉経後正常子宮内膜:子宮内膜は線状もしくは確認できない。

閉経後子宮体癌Ia 期:高輝度内膜エコー、子宮筋層浸潤なし。

閉経後子宮体癌Ib 期:高輝度内膜エコー、手術標本でわずかに 子宮筋層浸潤(1/2以下)。

閉経後子宮体癌Ic 期:高輝度内膜エコー、子宮獎膜付近まで 子宮筋層浸潤(1/2 以上)。

1)厚生労働省がん研究助成金による「地域がん登録」研 究班の推計値.Jpn J Clin Oncol,33(5)241-245,2003
2)Morrow CP ,Bundy BN ,Creasman WT et al Relationship between surgical-pathological risk factors and outcome in clinical stage I and II carcinoma of the endometrium:a Gynecologic Oncology Group study. Gynecol Oncol 1991;40:55-65
3)Randall ME, Filiaci VL ,Muss H et al Randomized phase III trial of whole-abdominal irradiation versus doxorubicin and cisplatin chemotherapy in advanced endometrial carcinoma:a Gyneckogic Oncology Group Study.j Clin Oncol2006;24:36-44
4)Sagae S, Udagawa Y, Susumu N, Niwa K, Kudo R, Nozawa S. JGOG2033:Randomized phase III trial of whole pelvic radiotherapy versus cisplatin-based combined chemotherapy in patients with intermediate risk endometrial carcinoma.Proc Am Soc Clin Oncol2005;23:455s(# 5002)
5)Michener CM, Peterson G, Kulp B et al Carboplatin plus paclitaxel in the treatment of advanced or recurrent endometrial carcinoma.J Cancer Res Clin Oncol.2005;131(9):581-4
6)Akram T, Maseelall P, Fanning J et al Carboplatin and paclitaxel for the treatment of advanced or recurrent endometrial cancer.Am J Obstet Gynecol.2005;192(5):1365-7
7)上坊敏子、佐藤倫也、金井督之 他 子宮内膜細胞診診断精度の検討. 日臨細胞会誌 2000,39:381-8
8)赤松信雄,小高晃嗣,水谷靖司他 子宮体癌の筋層浸潤・頚部浸潤に対する経腟超音波検 査・MRI ・術中超音波検査の有用性の検討.第44 回 日本癌治療学会総会,2006
9)財団法人日本公衆衛生協会 「新たながん検診手法の有効性の評価報告書」2001.3
10)岡村智佳子 子宮内膜細胞診を用いた子宮体がん検診の日本におけ る成績.産婦人科の実際2008,57:1379-84