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平成20 年度都道府県医師会「地域医療、保健、福祉を担う
幅広い能力を有する医師」認定制度に関する協議会

常任理事 安里 哲好

去る10 月3 日(金)午後1 時半より、日本 医師会館において、標記協議会が開催されたの で報告する。

開会にあたり、飯沼雅朗日医常任理事より開 会の挨拶があり、次いで、唐澤人日本医師会 長より次のとおり挨拶があった。

尊い人命を預かる医師にとって、質のよい医 療を国民にわかりやすく提供していくために は、たえず最新の知識を身につけておくことが 必要である。医の倫理綱領の第1 番目に『医師 は生涯学習の精神を持ち、つねに医学の知識と 技術の習得に努めるとともに、その進歩・発展 に尽くす』となっている。

昭和62 年より日本医師会生涯教育制度を実 施しており、13 万人が参加しており、申告率 は70%となっている。これまで申告率をいかに あげるか課題であったが、その後、申告率が上 昇し、近年ではE ラーニング等セルフアセスメ ント等学習内容も多様化し、量的な問題より詳 細な研修の内容、質に重点が移ってきていると ころである。

日医では、認定制度について2 年以上にわた って議論してきており、都道府県医師会、郡市 区医師会の先生方のご理解をいただいてスター トしたい。

報 告

「地域医療、保健、福祉を担う幅広い能力を 有する医師」認定制度(案)について

飯沼雅朗日医常任理事から、資料に基づいて 説明があった。

○認定制度を検討した背景

医療事故の多発等の社会的要請と、生涯教 育推進委員会での検討を踏まえた自浄的要請に沿って、学術推進会議では、平成18 ・19 年度に「かかりつけ医の質の担保について− 日医認定かかりつけ医(仮)の検討−」の諮 問を受けて検討した。

○かかりつけの医師とは、なんでも相談できる うえ、最新の医療情報を熟知して必要な時に は専門医・専門医療機関を紹介でき、身近で 頼りになる「地域医療、保健、福祉を担う幅 広い能力を有する医師」

○日医生涯教育制度のボトムアップによる「か かりつけの医師」の資質向上

○「総合科」「総合科医」の問題点→フリーア クセスの崩壊に繋がる。

○日医生涯教育修了証と認定証には、何ら社会 的効力がないためか、生涯教育に対する motivation にはなっていない。

○日医生涯教育制度の自己申告率を100%にす るのは義務化となる。重要なのは、生涯教育 の質の問題である。

○認定制度をめぐる学術推進会議での意見

  • 1)反対意見:医師の間で資格の有無で格差が でる・フリーアクセスの制限・人頭割り・定 額払い・総枠規制に結びつく可能性がある。
  • 2)賛成意見:患者の適切な受療行動に繋が る、医師免許更新制を求める声に対して、 医師の集団が自発的に行うことによりクリ アできる、大学病院等で長年専門医として 勤務してきた医師が開業する際の学習内容 とする。

1)2)の協議の結果、学術推進会議報告書で は、「一部の委員から異論があったが、認定 制について前向きの議論を進めてきた」とさ れ、両論併記のうえ、「最終的には、日本医 師会の判断を仰ぎたい」と結ばれた。

○厚労省のいう標榜科名「総合科」の新設には 反対

○教員免許更新制導入と医師免許の更新

教員は、平成21 年4 月1 日より10 年間の 更新期間中の2 年間に30 時間の更新講習を 受講・修了することになった。医師免許更新 制の声が上がる可能性も考えられる。

○日医が関連3 学会(日本プライマリ・ケア学 会、日本家庭医療学会、日本総合診療医学 会)やカリキュラム作成に参加した日本老年 医学会、日本小児科医会、日本臨床内科医 会、日本専門制評価・認定機構等の協力を得 て認定制度を創設し、国民の要請に応えたい。

○平成20 年8 月11 日に都道府県医師会宛意見 募集した認定制度(案)について説明。

○地域住民の信頼に繋がる認定制度の導入する ことについて、ご理解・ご協力をいただきた い。手を上げていただいた医師会員に参加い ただく制度であり、できるだけ多くの医師に 参加していただきたい。

○「地域医療、保健、福祉を担う幅広い能力を 有する医師」と専門医

幅広い診療能力を横軸にして、専門的能力 が縦軸となる。

※これまでの生涯教育制度を底上げして、認定 制度を主導的に創設することこそが、国の考 えると思われる「フリーアクセスの制限、人 頭割、定額払い、総枠規制」に結びつかない 唯一の方法だと考えている。都道府県医師会 からいただいたご意見を反映させたいと考え ており、本制度の創設について、ご理解いた だき、建設的な意見をいただきたい。

協議・質疑応答

各県から事前に出された質問及びフロアから の質問に対して、岩砂和雄日医副会長・飯沼雅 朗日医常任理事・福井次矢生涯教育推進委員 会委員が応えた。

京都府:このような医師の研修に関しては、誰 も反対するものではないと思われる。日医 は、勤務医に対してどのような風に考えて いるのか、勤務医も対象になるのか。

日医回答: 20 時間位勉強して果たして担保で きるのか、難しい。かなり個人の予定にあ わせる少なくともセルフアセスメントをし ていただく。

大学病院などの急性期医療機関の勤務 医、限られたものしか診ない会員は受けていただきたい。

宮城県:医師免許更新制を防止するためのもの であるとの説明だったらよいが、耳鼻科や 眼科等の会員はどうするのか。

日医回答:耳鼻科や眼科の先生方には、カテゴ リー7、6 を受けていただきたい。

埼玉県:今日は、ご意見をいただきたいとの案 内であった。このような案件は、都道府県 医師会長会議、代議員会にかけなくてはな らない事項だと思うがどうなのか。

日医回答:生涯教育カリキュラムで生涯教育認 定制度を使って生涯教育認定制度を行う ことは現在できている。認定制度を作った ときにはその概念を使うことは希望として 持っている。認定制度が決まらなければ動 かない。認定制度を作ることを決定するの は常任理事会か全理事会である。

埼玉県:埼玉県では、理事会での協議のあと代 議員会で協議することになっているが、日 医はどうなっているのか。執行部がそんな いいかげんでは困る。

三重県:今の医師会が置かれている状態、医療 費削減で小さなところからつぶれていくと ころも出てきている。私の近辺はみなそう なっている。厚労省は何をしようとしてい るのか。高齢者に対してフリーアクセスの 制限や、主治医とかを出してきている。日 医がそれに応えてどうするかということで あって、今の対応は厚労省に飲み込まれる と思う。日医がなすべきことは全力をあげ てこれを阻止することであると思う。

東京都:そもそもこの問題は、国民がどんな医 療を求めているのかということから検討が 始まっている。すべての科の医師が参加す る新しい医療モデルを国民に示すことが当 初の目的である。そのことが十分伝わって いないために、示されたカリキュラム案へ の意見がでていると思う。

東京都は、認定制度について賛成である。

日医回答:国民の信用を得るために、医師とし て何をやらなければならないか、自主申告 ではあるが、客観的な評価が必要である。 我々自身が身を削ってやっているというこ とを国民に理解してもらう。

宮城県:対価があってもよいのではないか。

日医回答:いろんな考え方あるが、我々自身が みずから取り組むということであって、お 金に響くということではない(お金で差別 することはない。)

鹿児島県:認定制度を作らなくも十分対応でき るのではないか。

島根県:各県の賛成と反対がどのくらいの数 か、伺いたい。

日医回答: 2 回目のアンケートでは、賛成とか 反対とかは聞いていない。

広島県:日医の考えに基本的に賛成である。し かし、厚労省がやろうとしている“総合 科”には反対である。

佐賀県:日医の認定制度は、対厚労省なのか、 対国民なのか。地方での医療状況からする と、そのようなレッテルを貼っても患者さ んが選ぶ基準は別である。

鳥取県:生涯教育プログラムを充実させること が重要。

新潟県:新潟市とその周辺の市町村は全く違 う。地域の医療がどうなっているのかを作 る以前に、国民に問うべきである。

大阪府:このような地域医療を担う医師は重要 である。底辺を広げる、横の幅を広げるこ とには賛成である。しかし、大阪府では郡 市区すべてが反対との意見であった。日医 がこの制度を立ち上げることが、人頭割に ならないことだとかが会員はまだよくこの 制度がわかっていない。もう少し時間をか けて、会員の多数が賛成というところまで になってから立ち上げてはどうか。また、 福井先生は、国保中央会の委員会には「総 合医」のメンバーとして入っているのか、 反対しているのか、日医の同意を求められ ないか、懸念している。

日医回答:国保中央会で行おうとしていること に賛成ということで入っているわけではない。総合医とは何かということを説明する ためである。報酬との関連には反対してい るところである。飲み込まれて日医のお墨 付きでやるということはない。国保中央会 では、四面楚歌でやっている。

滋賀県:生涯教育のプログラムのボトムアップ には大賛成。これと認定制度をごっちゃに してしまうからおかしくなる。厚労省の総 合科の担保はできない、スピリッツとして やっているんだということである。会員の 郡市区の意見を纏めて出してくださいとい うことであったが、あまりにも期間が短す ぎた。時間的余裕をいただきたい。

医師がボトムアップして、医師が十分頑 張っているということを、国民に情報開示 すれば、それで十分いけると考えている。

茨城県:茨城県は、全国で2 番目に十万単位の 医師数少ない。総合医が、国の医療費削減 に使われるのは困る。厚労省の総合科は危 険な発想であると考えている。後期高齢者 医療もそうだが、あるところまで行くと、 厚労省はこれを利用されてしまう。今日 は、意見を纏めてこなかったので、早急に 纏めて日医に報告したい。

大分県:厚労省対策と本来の幅のある医師の二 つある。外から言われるのはなくて、内か ら勉強させることが必要。厚労省対策とい う言葉を除いたほうが会員に説明しやす い。日医が目指す形のものを模式図を作っ て、全会員に配布すべき。国民の意見を聞 いておかなくてはいけないと思うので是非 対応をお願いしたい。

福井県:アメリカの専門医制度、プライマリ・ ケア制度は、50 年経ってやっと形ができ ている。日本の学会制度はまだ短く、すぐ にはできない。

長崎県:長崎県では、執行部は賛成だが、郡市 区は違う。また、都市とへき地は事情が違 う。都市地域では連携もできているので、 あまり総合的な診療は必要を感じないが、 郡市部は医師が少なく必要を感じている。 厚労省がいう総合医療との問題とは切り離 して研修をしていくほうがよい。何もしな いのは最悪のパターンと考えており、厚労 省と関係なくやることがよい。

長野県:学術団体である医師は勉強することは 当然。これによって、国民や厚労省に信用 できると思われるのでやっていただきたい。

福井県:生涯教育制度は学術団体である医師会 には当然である。しかし、今議論している 総合医制度ということとは別なことである と思う。

神奈川県:今の医師免許は、更新がない。国民 はどうもそのあたりを言っているのではない か。日医は、大風呂敷を広げていいのではな いか。日医の総合診療医とするべき。日医 という言葉をはっきり入れるべき。

東京都: CME とこれとは違うのではないか。 眼科や耳鼻科の先生方がどういう形でコミ ットできるか、日医がするのはやる人はや っていいが、厚労省が決めたものは必ずや らなくてはいけないものである。

日医回答:結果として、免許更新制の話が出た ら、これを使うつもり。

愛媛県:本日の協議会は、協議会であって結論 を出すものではない。その前に、日医生涯 教育をやっているということを国民に知ら せることが先決である。

北海道:北海道では全員反対である。代議員会 で北海道医師会として反対することになっ た。今早々にやるのは反対。

協議会を閉会するにあたり、日医飯沼常任理 事より、「本日はご意見をいただき感謝申し上 げる。本日いただいた意見を日医にて検討して いきたい。」と挨拶があった。

印象記

安里哲好

理事 安里 哲好

いろいろな会に出席しているが、今回の協議会のように紛糾しているのも初めてであった。本 年度の5 月に認定制度に関する意見を求めた結果、「国に先駆けて、日本医師会が関連学会の協力 を得て、認定制度を創設すべきである」とするのが20 医師会、「認定制度を創設すべきであるが、 日本医師会以外の他の団体に任せるべきである」とするのは1 医師会、「認定制度を創設すべきで ない」とするのは14 医師会であった。残りの12 医師会は「その他」と回答しているが、時期尚 早とか医師会内で協議が不十分等、どちらかと言うと現時点では積極的ではないと言う感がした。 今回もそれより前進しておらず、数字的にはほぼ同じでも、反対意見の声が大きかった印象を受 けた。

生涯教育のカリキュラムのボトムアップは賛成だが、しかし認定制度とリンクされるのは良く ない。生涯教育の向上と認定制度とに乖離がある。診療報酬とのリンクの心配もある。厚労省の 「総合科医」制度に繋がり、フリーアクセスの阻害、人頭割、定額払い、総枠規制になって行かな いか。医療保険制度とのリンクや「総合科医」制度とのリンクしないという担保はあるのか。今 回のテーマについて、各地医師会が充分に理解していない背景があり、もうちょっと時間を要す るのでは。勤務医も必要か、また眼科や耳鼻科を専門としている医師も必要か。国民の理解を得 るとなると、全医師が対象となるか。そして、生涯教育のカリキュラムのバージョンアップをし て行くことは、日医の理事会で承認されているが、認定制度については、平成22 年4 月頃までに 開始するとしているも、まだ承認されていないとのこと。この様に、多くの意見が出され、日医 は前途多難な状況で、上手く船出が出来るのかと思料する。

小生は、この認定制度そのものも、そして、充実したカリキュラムを伴う生涯教育制度(形式 的でなく)と認定制度との結びつきについても、基本的に賛成である。日本の医師は優秀で、い ろいろな領域の研修をすでに受けており、日々の診療の上で、これ以上は要らないのではと言う 声もある。更に、今以上に認定制度を創設すると、それを取得したり維持したりするのに地理的 にも、時間的にも金銭的にも更に負担になるとの意見もある。しかし、全ての診療(科)に関わ る諸問題の核となるところを重点的に履修するようにし、加えて「地域医療、保健、福祉を担う 幅広い能力」を有する医師の育成と更なる向上を目指していくことは重要と考える(生涯教育カ リキュラムの行動目標:T〜Z)。充実した生涯教育がなされている事への国民の理解、そして、 その事によって医師免許更新制度の論議を無実化するためにも必要であると考える。

日医執行部と各地医師会とには温度差がある。九州各県医師会は概ね賛成、沖縄県医師会は5 月には「その他」、今回は条件付で、「日医認定地域医療医」が適切であるとアンケート調査に答 えている。実施されるまでに紆余曲折が生じ、時間を要すると思われるも、実施されるのなら、 三つの点を要望したい。一点目は日本プライマリ・ケア学会、日本家庭医療学会、日本総合診療 医学会の協力(或いは発展的に統合して)は勿論、その他の多くの英知を得て、充実した、会員 の評価を充分に得ることの出来る生涯教育制度となることを切に希望する。二点目は、各学会の 協力を得て単位の相互乗り入れを可能にし、できるだけ多くの医師が認定医になれる背景作りを 培ってもらいたい。三点目は諸費用と申請手続きの簡便さの配慮を願いたい。

会議に参加して、短時間に、適切に自己の考えをまとめ、その主張の要点を相手に強く訴える という修練を積むことが望まれることと、重要な会議(今回は代理出席)の前日には、深酒を控 える習慣を身につけることが大切であることを改めて痛感した。