今帰仁診療所 石川 清和
北京オリンピックは、北島康介の奇跡の復活 と金メダル、バドミントンの末綱・前田ペアが 敵地での中国No1 を倒した大金星、女子ソフ トボール上野の熱投413 球で宿敵アメリカを打 破し優勝と、大きな感動を与えてくれると同時 に前回の金メダリスト室伏が5 位(上位選手の ドーピングにより繰り上げ銅メダルに)に終わ る等スポーツの厳しさを教えてくれるスポーツ の祭典である。一方で金メダルを獲得すること によって莫大な利益が得られるために、競技力 向上をもくろみ薬物の不正使用の誘惑に負ける 選手も出てくる。
何故ドーピングはいけないのか?
スポーツはフェアでなくてはいけない! 審 判や相手選手への金品の授与によって試合を不 正に操作することはアンフェアであり、スポー ツ界からの追放もまれではない。同様に薬物等 による競技力向上はスポーツのフェア精神を破 壊する行為である。ドーピング検査の最大の目 的はスポーツのフェア精神を守る為である。例 えば1988 年ソウルオリンピックで陸上、100m 走で金メダルを獲得し、試合後のドーピング検 査で陽性になったベン・ジョンソンは1985 年 スタノゾールを使用し始めてから記録が伸びだ したという。またドーピング薬の副作用による 被害も大きな問題である。興奮剤の投与による 死亡事故、蛋白同化ホルモンの副作用によると 考えられる突然死、性障害が報告されている。
スポーツの世界で最初のドーピングは興奮剤 であり、ギリシャ時代やローマ時代に格闘技の 選手に興奮剤を与えた記録がある。19 世紀に なり水泳、サッカー、自転車競技、ボクシング とスポーツ全般にドーピングが行われるように なった。カフェイン→ヘロイン→コカイン→ア ンフェタミン→エフェドリンとドーピング逃れ の新しい薬物が次々と出現し、1950 年代から は蛋白同化ホルモンが筋力増強剤として使用さ れるようになった。新たなドーピングの方法 は、薬物検出方法との競争となり、スポーツや オリンピックが商業主義となることでとどまる ことを知らない。そして1999 年の世界陸上に おいて多数のスター選手がドーピングによりメ ダルを剥奪された。また、冷戦時代の東ドイツ においては国威掲揚のため多数の10 〜 20 代の 選手に蛋白同化ホルモンが投与され、今でもそ の副作用に悩む選手が少なくない。
主なドーピングの方法を記す。
(2008 年世界反ドーピング機関(WADA)国際
基準)
禁止薬物
1.蛋白同化薬 蛋白同化男性ステロイド薬お
よびその他の蛋白同化薬
2.ホルモンと関連物質 エリスロポイエチン、
成長ホルモン、インシュリン、hCG 等
3.β 2 作用薬 サルブタモール、テルブテリ
ン等
4.ホルモン拮抗薬と調整薬 アロマターゼ阻
害薬、坑エストロゲン作用薬等
5.利尿薬と隠蔽薬
禁止方法
1.酸素運搬能の強化 血液ドーピング(自己血を含む輸血)
2.酸素摂取や酸素運搬、酸素供給を人為的に
促進すること
3.検体のすり替え、尿の改変などの物理・化
学的操作
4.静脈内注射は緊急の医療状況、遡及的治療
目的使用は除外措置を取った場合以外は禁止。
5.遺伝子ドーピング
*競技会では興奮薬(エフェドリンなど)、麻
薬が禁止される。
*また特定競技においてアルコールやβ遮断薬
が禁止対象となる。
検査の方法
競技会検査(ICT):競技会で優勝者と競技参
加者から1 〜 2 名
競技会外検査(ECT):抜き打ち検査で、ト
ップアスリートはいつでも検査される可能性が
ある
5 月1 日のECT でドーピング違反となった中 国の男子競泳背泳ぎの第一人者欧陽鯤鵬は友人 とバーベキューをして食べた肉に入っていた 「肉赤身化剤」クレンブテロールが原因と考え られた。この不注意な違反によって欧楊は「永 久出場停止」となった。彼には気の毒だが、選 手は自らの飲食には常に全責任を負う。一流選 手は安易に差し入れや、他人から提供された飲 食物を口に入れてはならないのである。
日本ではいまだにドーピングは対岸の火事で あり、スポーツ選手に対して行うドーピングの 検査は競技団体によって温度差がある。費用の 問題や、ドーピングの知識がなかなか普及して いないことが原因である。J リーグが昨年我那 覇に対して課したドーピングはJ リーグのトッ プがドーピングの規定の「適切な医療」を十分 に理解していなかったことによる。今後も医療 現場で問題になるかも知れないので記しておく。スポーツ仲裁裁判所(CAS)が示した 「適法な医療行為」とは
一方高橋らによれば日本ではアマチュアでの ドーピングが広まっている可能性があるとい う。プロのトップ選手がドーピング疑惑で揺 れ、その際に使用したサプリなどが紹介され る。又これらの薬物やドーピングの方法がイン ターネットで流布しドーピングが容易になって いる。
その一方でドーピングによる健康被害の相談 も多く寄せられているという。
蛋白同化ホルモンによる女性化乳房、睾丸の 萎縮、性格の変化、不妊症、さらには突然死の 可能性も指摘されている。
このような状況を受け日本アンチドーピング 機構(JADA)はドーピング後進国(シドニー オリンピックでドーピング検査数/大会参加者 数は下位)である日本のドーピング検査数を増 やすことを目標にしており、今後は高校総体な ど若年者への啓蒙をかねて検査範囲を広げてい くと考えられる。
JADA ではDoping Control Officer(DCO) を養成しており、講習会、ドーピング検査実習 を行っている。毎年11 月のツール・ド・沖縄 でドーピング検査を行っておりDCO 資格取得 希望者や検査会場の見学、ドーピングの検査手 順について知りたい方は下記までご連絡くださ い。(ドーピング検査の見学はできません)