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急性胆管炎診断・治療
〜ガイドラインを中心に〜

沖縄県立南部医療センター・こども医療センター 消化器内科
嘉数雅也 千代田啓志 林成峰 岸本信三

【要 旨】

急性胆道炎(急性胆嚢炎・急性胆管炎)は急性期に適切な対処が必要であり、特 に重症急性胆管炎では適切な診断・治療・処置を行わないと死亡にいたることもあ る。種々の診断、治療手技が開発されているにもかかわらず、その客観的な評価は なされておらず、診療の標準化はされていないのが現状である。

平成17 年、EBM に基づき臨床医に実際的な診療指針を提供することを目的に、 急性胆管炎・胆嚢炎の診療ガイドラインが出版された。これは、日常的に急性胆管 炎の診療に携わる専門医だけでなく、初期治療にあたる多くの臨床医に対して最良 の診療を提案するために作成された。

今回、このガイドラインの解説とともに、症例を提示しガイドラインの活用法を 示すことによって、今後の急性胆管炎の診療の手助けになればと考える。

【はじめに】

平成17 年、EBM に基づき臨床医に実際的な 診療指針を提供することを目的に、急性胆管 炎・胆嚢炎の診療ガイドラインが出版された。 このガイドラインでは、MEDLINE と医中誌か ら抽出された15,759 文献のうち、全文を吟味す る必要があると判断された2,494 文献を抽出・分類し、その行為の推奨度が示された【図1】。推奨 度A・B がエビデンスレベルが高くなっている。

今回、このガイドラインの解説とともに、症 例提示しガイドラインの活用法を提示する。

【図1】

【図1】推奨度分類(文献1 から抜粋)

【診断基準】

急性胆管炎は、胆汁の感染が本態であり、こ れを血液検査・画像所見で特異的に証明するこ とや、病理組織学的に急性胆管炎を診断するこ とも困難である。腹痛・発熱・黄疸の Charcot3 徴が最も有名な臨床徴候で事実上の 診断基準ともなっているが、実際にはこの3 徴 を呈していないことも少なくない。これは特異 度の点では優れているが、急性胆管炎のうち約 50 〜 70 %程度にしか認められず感度の点で限 界がある。急性胆管炎の症例全体を対象にする と発熱や腹痛は80 %以上に見られるのに対し て、黄疸は60 〜 70 %に認める程度という報告が多い。また、Charcot3 徴に意識障害とショ ックを加えたReynolds5 徴を呈す重症胆管炎は 非常にまれであり、治療方針の決定の際には、 この様な重症となる前段階の病態を同定するこ とが求められる。

このガイドラインでは、非侵襲的、簡便かつ 早期に診断するために、血液検査と画像所見を 参考にして感染と胆道閉塞・胆汁うっ滞を証明 することによって診断を可能とする診断基準が 作成された【図2】。

古典的なCharcot3 徴をA、検査・画像診断 をB とし、A の全てを満たすもの、A のいずれ か+B の全てを満たすものを確定診断とした。

【図2】

【図2】急性胆管炎の診断基準(文献1 から抜粋)

【重症度診断】

重症急性胆管炎はReynolds5 徴を来たした 胆管炎とされ、急性閉塞性化膿性胆管炎 ( AOSC:Acute Obstructive Supprative Cholangitis)という用語が最重症の胆管炎と して用いられてきたが、その定義や診断根拠が 曖昧で混乱が見られる。種々の報告をまとめる と、重症胆管炎は、保存的治療に抵抗し、臓器 不全(腎不全・ショック・DIC ・意識障害) を伴う、早急に胆道ドレナージが必要な胆管炎 として位置づけられる。

このガイドラインでは、重症:敗血症による 全身症状をきたし、直ちに緊急胆道ドレナージ を施行しなければ生命に危機を及ぼす胆管炎、 中等症:全身の臓器不全には陥っていないが、 その危険性があり、速やかに胆道ドレナージを する必要のある胆管炎、軽症:胆管炎を保存的 治療でき、待機的に成因検索とその治療(内視 鏡的処置、手術)を行える胆管炎と定義し、 【図3】の如く重症度判定基準を設けた。ショ ック、菌血症、意識障害、急性腎不全を認める 場合は重症。黄疸、低アルブミン血症、腎機能 障害、血小板減少、39 ℃以上の高熱を認める 場合は中等症。重症、中等症を満たさないもの は軽症と判定する。

【図3】

【図3】急性胆管炎の重症度判定基準(文献1 から抜粋)

【血液検査】

急性胆管炎に特異的な生化学マーカーはな い。感染による急性炎症所見と胆汁うっ滞を証 明することにより、急性胆管炎の診断が可能と なる。急性胆管炎では白血球増多、CRP 高値の 炎症反応の増強がみられるが、1/4 の症例では 白血球数は10,000/mm3 以下で左方移動のみを 呈し、重症胆管炎の場合は白血球が減少するこ ともある。胆汁うっ滞の証明としては、高ビリ ルビン血症(直接型優位)、胆道系酵素(ALP、 γ GTP、LAP)の上昇がみられ、肝障害まで 呈するとAST、ALT の上昇が見られる。

重症の胆管炎では、腎不全(BUN、Cr、K 上 昇)、DIC(血小板減少、FDP 上昇)、などを来 たし、腎不全の合併、ビリルビンの高度上昇、 血小板減少、アルブミン低値、PT 延長及び代謝性アシドーシスは胆管炎の予後不良を意味する。

また、急性膵炎の合併には注意する必要があ り、1/3 の症例で高アミラーゼ血症を示す。

【画像診断】

胆汁感染の有無を画像診断により判定するこ とはできず、胆道閉塞の有無、その原因となる 胆管結石や胆管狭窄などを証明することに意義 がある。

まず行われるべき画像診断としては、腹部超 音波である。胆嚢内結石や総胆管結石の描出、 肝内胆管や総胆管の拡張から急性胆管炎を疑う ことができる(推奨度A)。しかし胆管炎の超 音波診断は必ずしも容易とはいえず、胆管拡張 や胆管壁肥厚など参考所見とはなるものの、胆 管炎に特異的ではない。胆管結石の描出能も特 異度には優れるが、感度は良好といえず超音波 画像のみでは積極的に胆管炎を否定することは 困難である。

CT 診断は、胆管拡張や胆道気腫などがその 存在を疑う所見はあるが、確定的所見とはいえ ず、また結石の描出能も良好とはいえない。し かしながら、結石や腫瘍などの成因診断や、肝 膿瘍や胆管周囲膿瘍などの合併症の有無判定に は有用である(推奨度B)

超音波・CT による急性胆管炎の診断に関し ては、詳細に検討された報告は皆無に等しく、 急性胆管炎における画像診断の困難さを反映し ている。

DIC-CT(Drip Infusion Cholagiographic- Computed Tomography)は、近年の高精 度装置の登場により診断能は格段に向上 し、胆嚢摘出術前の胆道系の解剖把握にも 有用で、ERCP と同等の診断能を有する が、黄疸例では造影率が著しく低下する (推奨度C)。

MRCP(Magnetic Resonance Cholangio Pancreatography)は、急性胆管炎の成因 となる胆管結石、悪性胆道閉塞などの描出 率は良好で胆道系全体の把握ができドレナ ージ法の選択にも役立つ(推奨度B)。無 侵襲で造影剤を必要とせず合併症がない、術者 の熟練を要さないなどの利点を有する。

ERCP(Endoscopic Retograde Chlangio Pancreatograpy)は、胆管結石や腫瘍による 胆管閉塞などの成因診断には最も優れている が、近年はより低侵襲のMRCP、DIC-CT の 有用性が報告されている。しかしながら、中等 症、重症の急性胆管炎と診断されれば、ドレナ ージ治療を前提としたERCP を優先させるべ きである(推奨度A)

【診療指針】

初期治療は原則として、胆道ドレナージ施行 を前提として、絶食の上で十分な輸液、電解質 の補正、抗菌薬投与を行う(推奨度A)。通常 健常人の胆汁は無菌であり、総胆管結石では胆 汁培養陽性率が58 〜 76 %に上昇し、更に胆管 炎を併発すると100 %近くになると報告されて いる。すなわち、急性胆管炎と診断された症例 は全例、診断がつき次第、full dose の、胆汁 移行性の良い抗菌薬の静注を開始する必要があ る(推奨度A)。中等症や重症胆管炎症例にお いては速やかに胆道ドレナージを行い、重症度 に応じた抗菌薬投与が望まれる【図4】。

ドレナージ法に関しては、内視鏡的胆管ドレ ナージ(推奨度A)、経皮経肝胆管ドレナージ (推奨度B)が推奨されるが、症例や施行者の 技量により成績は異なるため、現時点では施設毎に確実にドレナージできる方法を採用すべき である。また上記ドレナージが不成功、あるい は行うことが出来ない場合の最終手段として、 開腹ドレナージが位置付けられている。

【図4】

【図4】急性胆管炎の診療指針(文献1 から抜粋)

【症例】

【患者】72 歳 男性

【主訴】上腹部痛

【既往歴】脳梗塞? 4 年前にふらつきを感じ近医 でCT・MRI 精査し血液をさらさらにする薬 (薬剤不明)を2 年ほど内服していたが、現在 内服・通院はなし。

【現病歴】先日昼過ぎから臍上部の違和感を自 覚。徐々に痛みに変わり、夕食(カレー・肉) を食べた後から上腹部痛増強するため当院救急 受診となる。下痢・便秘なし。

【入院時現症】
BP 120/60mmHg、HR80、RR18、BT36.2 ℃、 眼球結膜黄染なし。眼瞼結膜貧血なし。

腹部に圧痛やMurphy 徴候は認めず、上腹部 に自発痛を認めた。腸蠕動音は亢進気味で、 CVAtenderness は認めず、その他身体所見に 特記事項認めなかった。

【検査結果】
WBC18900、CRP0.19 とWBC 上昇を認め、 AST259、ALT225、ALP451、LDH383、γ GTP449、T-Bil2.4 と肝胆道系酵素上昇と共 に軽度の黄疸を認めた。DIC、腎障害、低アル ブミン血症は認めなかった。

図5

図5

【腹部エコー】
胆砂を含む複数の胆嚢結石と、肝内胆管拡張を 認めた。胆嚢腫大、胆嚢壁肥厚なし。総胆管結 石確認できず。

図6

図6

【CT】
造影CT では、胆嚢結石を認め、肝内胆管、総胆管拡張と下部胆管に総胆管結石を思わす High Density Lesion を認め、冠状断ではより わかりやすくなっている。

図7

図7

【MRCP】
胆嚢結石と総胆管拡張、下部胆管に結石を疑う 陰影欠損を認めた。

図8

図8

【診断・経過】

上腹部痛に、ALP、γ GTP、WBC の上昇 と腹部エコー、CT、MRCP で総胆管拡張、肝 内胆管拡張、胆嚢結石、総胆管結石を認め胆嚢 結石の落下結石に伴う急性胆管炎と確定診断し た。重症度判定はT-Bil 2.4(ビリルビン> 2.0mg/dl 以上)のみである中等症急性胆管炎 と判定した。

補液開始と共に、SBT/CPZ:スルペラゾ ン®2g/日投与開始したところ速やかに上腹部 痛、検査データともに改善を認めた。当院では 総胆管結石や閉塞性黄疸に対するドレナージ療 法はERCP を用いたERBD、ENBD を基本2) にしているが、本症例は、全身状態も落ち着い ており、待機的にERCP 施行した。傍乳頭憩 室症例で乳頭の固定は不良であったが総胆管造 影成功し、中部胆管に約15mm 大の総胆管結石 を疑う陰影欠損を認めた。パピロトミーナイフ にて口側隆起を超えない程度にEST(中切開)を行い、結石嵌頓も危惧されたため砕石バスケ ットで結石排石した。術中穿孔や出血は認めな かった(図9)。

以降、術後経過も順調に改善し、後日外科に て腹腔鏡下胆嚢摘出術施行し、治療終了した。

図9

図9
上段左:胆管造影で中部胆管(内視鏡裏)に陰影欠損
下段1):傍乳頭憩室 乳頭腫大
下段2):胆管挿管
上段右:砕石バスケットで結石把持
下段3): EST(中切開)
下段4):総胆管結石排石

【考案】

本症例は、腹痛・発熱・黄疸のCharcot3 徴 のうち、腹痛しか認めていなかった。しかし急 性胆管炎の診断基準に照らし合わせると、検 査・画像所見はすべて満たしており、確定診断 することは容易であった。発熱・黄疸、 Murphy 徴候も呈しておらず、症状だけからで は急性胆管炎の診断は困難であったが、採血検 査・画像診断を加えると診断は容易で、このガ イドラインの診断基準が有用であることを実感 できる症例であった。バイタルサインに異常な く、重症感もなかったが、重症度判定基準に照 らし合わせると中等症と診断され、緊急ドレナ ージも念頭に置きながら、絶食・補液・抗生剤 投与を行った。

繰り返し重症度判定をすることで重症度が下 がれば治療継続、上がれば治療方針変更するこ とができ、臨床現場では使いやすく、的確に治 療方針を決定できる。本症例についても待機的 にERCP を行い総胆管結石排石し、後日腹腔鏡 下胆嚢摘出術施行することにより、患者におけ る身体的負担も最小限にとどめることができた。

このガイドラインでは、今回提示はしなかっ たが、抗生剤の使用法や、ドレナージ法を選択 する上で参考となる推奨度も提示されており、 実際の治療をしていく上で参考となる。しか し、これらを強要するものでは無く、日常的に 急性胆管炎の診療に携わる専門医だけでなく、 初期治療にあたる多くの臨床医に対して、現時 点で利用できる最新の臨床研究成果(エビデン ス)を取り入れた最良の診療を提案するために 作成され、それぞれの専門性と技量に見合った 適切な医療を提供することが、急性胆道炎の治 療成績向上することを目指して作成されてい る。当院のように、多くの診療科を有し、研修医も多く、救急診療が盛んな施設においても、 急性胆道炎の診療の際、共通理解が得やすく診 療に役立つ事を実感でき、教育に関しても理解 がしやすいことを実感する。

【結語】

急性胆管炎・胆嚢炎の診療ガイドラインを解 説した。

症例を提示し、実際の急性胆管炎の診療にお けるガイドラインの使用法を提示した。

われわれは、このガイドラインの有用性を実 感しており、多くの臨床家の日常診療の助けに なるものと判断している。

【参考文献】
1)高田忠敬、他:科学的根拠に基づく急性胆管炎・胆嚢 炎の診療ガイドライン、医学図書、2005
2)嘉数雅也、他:当院でのERCP 挿入困難への対応、 沖縄県医学会雑誌、46:53~56、2008

著 者 紹 介

嘉数雅也

南部医療センター・こども医療センター 消化器内科
嘉数 雅也

生年月日:
 昭和47 年8 月17 日

出身地:
 沖縄県 豊見城市

出身大学:
 川崎医科大学
 平成10 年卒

略歴
 平成10 年 沖縄中部徳洲会病院研修医
 平成13 年 沖縄中部徳洲会病院内科
 平成15 年 大船中央病院内科
 平成16 年 大阪赤十字病院消化器内科
 平成17 年 沖縄県立那覇病院消化器内科
 平成18 年 現職

専攻・診療領域
 消化器内科、内視鏡処置・治療



Q U E S T I O N !

問題:急性胆管炎の診断、治療について正しい のを選べ。

  • 1)Charcot3 徴やReynolds5 徴を呈さない、急 性胆管炎もある。
  • 2)急性胆管炎の診断に採血検査は必須で、高 Amy 血症には注意を要する。
  • 3)急性腎不全、DIC、意識障害を呈す急性胆 管炎は重症である。
  • 4)急性胆管炎治療の原則はドレナージである。

a(1,3,4),b(1,2),c(2,3),d(4 のみ), e(1 〜 4 のすべて)


CORRECT ANSWER! 8月号(vol.44)の正解

脳卒中後の視野障害に対するリハビリテ ーションの新たな試み

問題:背側視覚路が損傷された時に起こる主な障 害はどれか?

  • (1)空間視情報処理の障害
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正解 (1)