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我が家のおばあちゃん犬

工藤啓久

海邦病院整形外科
工藤 啓久

我が家は17 歳になる犬を飼っています。人 では後期高齢者に充分入っている年齢のようで す。シーズーという小型犬のメスで、名前はあ すか、私がポリクリをまわっているときに18 万円で我が家にやってきました。今はわかりま せんが、当時はペットショップで人気の犬種だ ったようです。シーズーの起源は17 世紀初め のチベットで当時この犬種は、神聖な犬として 高い地位を得ていて、中国で獅子狗(シーズー クヮ)と呼ばれていたことからその名がついた そうです。とくに清の西太后が溺愛していたこ とは有名で、当時宮廷では1,000 〜 4,000 頭も のシーズーたちが飼育されていたといわれてい ます。

純系の犬種には、その犬種によってかかりや すい病気があり、シーズーは鼻腔狭窄、眼瞼 内反症、白内障、進行性網膜萎縮症、乾性角結 膜炎、股関節形成不全、外耳炎、呼吸器疾患、 アレルギー性皮膚疾患があげられています。独 特の目の大きな犬のため、眼の病気が多いよう です。今はかえって純系の犬より病気になりに くい点からmix(雑種?)の犬の方が人気があ るようです。

我が家のおばあちゃん、あすかも白内障、緑 内障、アレルギー性皮膚炎、皮脂をわずらって います。おそらく胆嚢炎もあります。視力はほ とんど無く、耳もほとんど聞こえていません。 歩行はぎこちなく、ふらふらと壁伝いに歩きま す。眼の色が緑に見え、眼球がすこし飛び出し たような状態になっているため、毎日点眼をし ています。医療費は我が家でダントツで高く、 月に1 〜 3 万かかっています。ちなみに最近高血 圧症の診断で内科に行きはじめた終戦直後に生 まれた年代の母親(もうひとりのおばあちゃ ん?)も「わたしもこんな風になるのかね?医 療費で老後のお金がなくなる」と不安がってい ます。週に3 〜 4 回プールかジムに行き、肥満も なく、血圧も高いといっても境界域で、最近運 動不足の私よりあきらかに健康的と思われる人 でも病名がつくと明日は我が身と思うようです。

こんなうちのおあばちゃん犬ですが、所謂 “ぼけた”と思わせる症状を示したのは3 年前 アパートを引っ越した後のことでした。トイレ の失敗が多くなり、無駄ぼえをし、夜中おろお ろ徘徊し、狭いところへ入り動けなくなって鳴 きつづけることがしばしばありました。毎日20 分ぐらいしていた散歩も、家を出てすぐに抱い てくれといわんばかりに靴にのっかって動こう としなくなりました。今から考えると、そのと きからあまり眼は見えていないながらもなんと か感覚で生活していたのに、環境が変わったた め、いろいろなことに対応できなくなったと思 われます。インターネットで調べると、・食欲 /下痢・生活リズム・歩行状態など10 項目から なる“イヌの痴呆の診断基準”なるものがある ことを初めて知りました。その時のうちの犬に あてはめるとかなりの高得点でした。

次第に体調もだんだんわるくなり、引っ越し をして3 ヶ月後の冬には食事もままならないよ うになりました。数十秒の痙攣があったりして “もうだめかなー?苦しむことがあるなら安楽 死も考えないといけないのか”と思うこともし ばしば。いまさら引っ越ししたことを後悔しま した。整形外科医である私は、大腿骨転子部骨 折や、胸腰椎の圧迫骨折で入院してくる患者さ んを診てきており、元気と言われている高齢者 ほど環境の変化に弱く、入院2 〜 3 日で一気に 認知症が進んでいくことをよく見ているのに …。と思いました。幸いなことに、母の介護の 甲斐があってか、冬を乗り切り、すこしずつ衰 えながらも認知症の症状と思われる問題行動も 少なくなり、食事も可能で、今も一緒に生活し ています。トイレも誘導をすれば(時々は抱え てトイレに)何とか可能でおむつも今は必要ありません。ほとんど寝ていて、かつてのアニマ ルコンパニオンのお仕事はほとんどできなくな りました。ただ一つ、私が帰宅すると、数十秒 たったのち、“え、帰っての”という感じで起 き上がり(足の振動?におい?何で感じている かは不明)、あたりをぐるぐるまわり、私が触 れると甘える仕草を1 分ぐらいとる習慣のみ、 かろうじて残っています。毎日その行為がある だけで、なんとなく愛おしく感じながら、一番 身近にある老いを痛感しています。

このように「老い」は、小さい我が家庭だけ でなく、社会問題として我々の眼前にはっきり と存在しています。「ある年齢集団に対する、否 定的ないし、肯定的偏見もしくは差別」は明ら かに精神的、制度的に存在すると思われます。 ある作家が“「老い」を考えることは、「生きる かたち」を考えることではないだろうか”と述 べていました。わたしは生きるかたちを考えな がら老いに接していけるのか?これに対して何 が出来るのだろうと考える今日この頃です。

★リレー状況
−平成17 年以前掲載省略−
50.樋口大介先生(独立行政法人国立病院機構 沖縄病院)Vol. 42 No.3
51.古謝淳先生(南山病院)Vol. 42 No.5
52.城間清剛先生(城間クリニック)Vol. 42 No.7
53.野原正史先生(のはら元氣クリニック) Vol. 42 No.10
54.久貝忠男先生(沖縄県立南部医療センター・ こども医療センター)Vol. 42 No.12
55.米田恵寿先生(沖縄県立宮古病院) Vol. 43 No.3
56.仲地広美智先生(宜野湾記念病院) Vol. 43 No.6
57.与座一先生(ハートライフ病院)Vol. 43 No.9
58.勝連英雄先生(かつれん内科クリニック) Vol. 43 No.12
59.真栄田宗慶先生(アメカル耳鼻科クリニック) Vol. 44 No.3
60.池原康一先生(中部徳洲会病院)Vol. 44 No.5