沖縄メディカル病院会長
真栄城 徳佳
チャンプルーとは沖縄の家庭料理の一つで、 数種類の材料による混ぜ合わせ炒め料理で、昨 今長寿食として広く注目されている健康食の呼 び名(方言)である。
沖縄県が世界に冠たる長寿県であるのは、恵 まれた自然環境のみならず、県民の食生活が大 きく関与していることは言うまでもないが、中 でもチャンプルーはその最たるものである。 「医食同源」を説くまでもなく栄養学的にバラ ンスの良くとれた料理だからであろう。我が先 人達の知恵によって培われて来た優れた食文化 として誠にありがたい恩恵である。しかも、安 価で手軽で美味しいのが何より嬉しい。
「日光浴、海水浴、森林浴は体の健康に大変 良いが、心の健康には人間浴いわゆるコミュニ ケーションが良い」。全国日本学士会創立四十五 周年記念式典でのある来賓挨拶の中の言葉であ る。本会の理念である国際交流、産学交流、業 際(異業種)交流をすすめる話であるが、機知 に富んだ含蓄ある言葉として感銘深く忘れ難い。
個人の世界は狭く、力は小さく、経験は僅か である。多様な他人(社会)との交わりにおい てこそ総合性が生まれ、見聞が拡がり、経験を 分かち合えるということであろうか。
また、一国あるいは一民族のみの平和、繁栄 はありえず、それも国際交流によってのみ可能 であることは歴史の教えるところである。
今世紀における科学技術の進歩は、分析を基 調としたその高度化、細分化によることが大き いが、その歪みも無視できず、人間不在に陥る のもままみられるところである。
医療界においても、これまでの過度の専門分 化から来る疾病中心から、総合性、倫理性、公 共性が問われるようになり、今日患者中心、人 間中心のいわゆる全人的医療へと変わりつつあ ることは御承知の通りである。
二十一世紀は全ての分野に総合化、連携が人 間福祉を中心に重要な課題となろう。日本の多 くの業界組織が、それぞれの分野での活躍は盛 んでありながら、業際的交流、相互協力にみる べきものがないのは、日本人の民族性あるいは 教育制度に原因があるのだろうか。
わが国の縦割社会の弊害は良く知られている が、多くの震災における危機管理、事後処理の 不手際は何よりその証しである。
わが国におけるよく知られた業際的交流組織 体は何れも外国発祥で、多くは欧米先導型で あることはいささか残念である。唯一、わが国 発祥で六十年余もの伝統と実績のあるのは全 国日本学士会のみであるのは何とも淋しい限り である。
閉鎖的になりがちなのは、わが国の単一民族 性によるものか、また学校教育が、欧米のソク ラテスの流れをくむEducation(啓発)Study (考究)の創造力開発志向であるのに対して、 儒教、仏教の影響かTeaching(教える)と Learning(学習)の知識志向に偏して、学生 は思考型より暗記型が優位となって、高等教育 においてもその理念である「創造的知性と豊な 人間性」の育ち得ぬまま、実社会では一業界に 組み込まれていくためかも知れない。
「一芸に秀でる」とよく言われるが、「専門バ カ」「医者の世間知らず」との声があるのもまた 事実である。いささか耳の痛い話である。
七十五歳以上の「後期高齢者医療制度」また 「後期高齢者終末期相談支援料」等はその最た るものである。私はむしろ七十五歳以上は人生 の収穫期黄金期と云う意味で光輝高齢者と自負 している。
今、日本はグローバルなパラダイムチェンジ (枠組の組替)を迫られているが、先ずは、社 会の発展には業際交流こそ原点となるのではな いか。
どのような世相であれ、個人も社会も健康でありたいものである。
釈迦に説法になるが、WHO(世界保健機関) によると、「健康とは単に病気や欠陥がないだ けでなく、肉体的精神的更に社会的にも良好な 状態で、意欲にあふれた社会生活に順応し、活 動できしかもしっかりとした精神的支柱を持っ ている状態である」と定義している。
そういう意味でも、一業界内だけでの交流は 心の糧として偏食のそしりをまぬがれない。
全ての職業の枠を越えたバランスある学際 化、異業種交流(チャンプルー交流)こそ最高 の心の健康食であり、創造的知性、豊な人間性 の母と言えよう。個人の向上、学問の進歩、社 会の発展、更に世界平和のためにもチャンプル ー交流を大いにすすめる次第である。