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私の腰痛闘病記

久手堅憲史

嶺井リハビリ病院 久手堅 憲史

平成17 年4 月、私は、東北大学病院検査部 (感染制御・検査診断学分野)に籍を置いてい ました。4 ヶ月の研修の後、最先端の院内感染 対策・東北大学医学部の研究・診療の現状につ いてある程度の知見を得ることができ、帰沖す ることにしました。その引越しの荷造り中、ち ょっとしたダンボールの箱をもったときのこと でした。“魔女の一刺し”が突然やってきまし た。それまでは、肩こりはありましたが腰痛を 感じたことはありませんでした。ただ、中腰に なるとわずかな違和感がありその姿勢は無意識 のうちに避けていました。また、以前脊椎のゆ がみを指摘され、いつか腰痛がでるよ!と予言 されていました。

それから苦しみの日々が始まりました。立っ て歩くことはかろうじてできましたが、長い距 離は困難でした。数分間の起立でさえ、何かに 寄りかからなければいけませんでした。カバン より重い物を持つことはできず、仰向けに寝る こともできず、ルンバールをされるときのよう に海老のような体位でのみ横になることが可能 でした。腰痛がこれほど大変なものとは、自分 で体験するまで全くわかりませんでした。今、 振り返れば、腰痛を訴えて来院した患者さんに 湿布と鎮痛薬を処方し、内科ではここまでしか できません。これ以上のことは整形外科に行っ てみてもらってくださいと、説明していました。

数回、残っていた当直のときには、当直室と 外来診察室との往復が困難で、外来診察室の隣 の部屋のベッドで海老になっていました。引越 しの荷物は郵便局に電話して、部屋まで取りに きてもらい、ゆうパックで送りました。最後に 残った荷物を車に積み込むために赤帽さんにお 願いしました。そして、車を港に持って行って フェリーに乗せて(港までの一時間半の運転も やっとでした)引越しはなんとか完了しました。

帰りの長時間の飛行機での体位にとても不安 がありました。椅子の高さ、硬さ、座るときの 感触が椅子ひとつひとつ違うことがわかるくら いに敏感になっていました。あの狭く窮屈な機 内での長時間の座位に耐えられるかどうか?

仙台から東京経由の新幹線を経て東京から帰 沖することにしました。新幹線は座席がゆった りとしていてリクライニングもしっかりして体 位の調節がよさそうでした。場合によっては、 東京で宿泊し、休憩をはさむことも可能です。 東京〜沖縄便は便数が多く、時間の調節も楽で した。ならば、新幹線で博多まで来て、福岡か ら飛行機に乗ってみては?そのときは、そこま では思いつきませんでした。乗り換えのときな ど、試練はありましたが、なんとか沖縄にたど り着きました。それからも腰痛は気分屋で日に よって痛みの程度が変わったり、下肢の痺れの 場所が変動したり、一部の筋肉が筋力低下し普 段使わない筋肉で歩行している感じがしたりし ていました。

帰沖してから、県内の有名な整形外科専門病 院を受診したときの対応はがっかりのひとこと でした。レントゲンを撮って異常はありません と説明を受け、コルセットを処方、もしご希望 でしたらメコバラミンを処方しますよ(あまり 効きませんがというニュアンスに受け取れまし た)。次回、MRI を予約しておきますとのこと。 私はこの痛みからまだまだ開放されることはな いのかと絶望的な気持ちになりました。MRI の 予約は電話でキャンセルしました。私は、治療を診断より優先してもらいたかったからです。 次に、泉崎病院(現おもろまちメディカルセン ター)のペインクリニックを訪ねました。担当 医の加治佐先生による、硬膜外麻酔の効果はま さに“魔法”のようでした!痛みが消えていく のが、目に見えるようでした。2 回受けると痛 みはほとんどなくなっていました。また、同時 に城間健治先生に投与してもらった、三環系抗 うつ薬の腰痛に対する意外なまでの即効性も実 感しました(後にセロトニン作動性ニューロン と腰痛の関連性が重要な事を知りました)

しかし、痛みは取れたものの長く立ちっぱな しなとき、座りっぱなしのとき“腰はうずきま した”。同級生である某病院整形外科部長が飲 み会の席で言っていた、「腰痛は治らないよ」 と言っていた言葉が思い出されました。

転機が訪れました。昨年9 月から嶺井リハビ リ病院に勤務することになったことです。病院 内の初印象として、眺めの素晴らしく、廊下や 病室をはじめ全てのスペースがひろびろとして いることが印象的でした。気分が爽快でした。 医局から病室まで広々とした廊下を数日往復し ているうちに腰が軽くなっていくのを感じまし た。病棟業務の合間に一杯お茶を飲むために意 識的に医局まで何度も往復しました。エレベー ターではなく、階段を昇るようにしました。腰 痛はついに消え去りました。私にとって、嶺井 リハビリ病院での勤務は、“私の腰痛のリハビ リをする場”であったのです。何にも代え難い 経験ができ、嶺井リハビリ病院には感謝の気持 ちで一杯です!

それから、腰痛の患者さんに対して優しくな りました。腰椎のレントゲンを撮影したり、骨 密度の測定、エルカトニンの注射、アレンドロ ン酸ナトリウムの内服を勧めたりなど、できる 範囲のことはするようになりました。

医師である自分が病気になって学ぶことは、 大変大きな財産になったと思いました。

嶺井リハビリ病院から眺める景色