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終末期医療をめぐる 最近の話題

源河圭一郎

日本尊厳死協会評議員同九州支部理事
(あいわクリニック勤務)
源河 圭一郎

平成20 年2月に日本医師会第X 次生命倫理 懇話会は「終末期医療に関するガイドライン」 の最終答申を取りまとめました。厚生労働省の ガイドラインや日本救急医学会の指針など、最 近数か月間に限っても終末期医療に関する幾つ かの提言がありました。

この様な動きの背景には、全国各地で終末期 医療に関するさまざまな事件や議論が沸き起こ って、国民の関心が非常に高まるとともに、医 療現場の混乱に何らかの対策を立てなければな らない深刻な状況があります。

戦後の日本社会では、家族主義の退潮に伴っ て核家族化が急速に進み、家庭内で肉親の死を 看取ることが困難となり、病院死が80 %を超 えるようになりました。

ここに至って高齢者の終末期医療をターゲッ トとした医療保険の改定が矢継ぎ早に打ち出さ れてきました。先ず平成18 年4月の診療報 酬・介護報酬改定で「在宅療養支援診療所」が 設定されました。すなわち、「在宅ターミナル ケア加算」として死亡14 日以内に2 回以上往 診すれば2,000 点、これに加えて死亡24 時間 以内に訪問して看取れば10,000 点という高点 数が新たに設けられました。更に平成20 年4 月施行の「後期高齢者医療制度」では「終末期 相談支援料」として、患者の同意の下に医師・ 看護師が患者・家族らとともに終末期の治療方 針を話し合い、文書にして提供すれば、患者1 人1 回に限り200 点が設定されました。これら の措置により、今後「在宅での看取り」や「終 末期延命治療の見直し」が加速されるか否か、 大きな関心が寄せられています。

在宅療養支援診療所が行う「在宅ターミナル ケア」を推進するためには、今後患者の病状の 急変時や家族の介護負担を一時的に引き受け、 短期入院が可能な既存の病院、とくに緩和ケア 病棟との病診連携がますます重要になってくる と思います。これは介護保険における短期入所 療養介護に相当するものと理解しています。

緩和ケアの概念も大きく変化しています。従 来の考えですと、がんの末期に苦痛除去のため に行われるケアを意味していましたが、現在で は「がんの診断」と同時に緩和ケアが始まり、 病期の進行につれて緩和ケアの比重が次第に大 きくなるという考え方です。緩和ケアの内容も 多岐に亘り、疼痛などの身体的苦痛を除去する だけでなく、精神的苦痛、社会的苦痛、霊的苦 痛を一括した全人的苦痛(トータルペイン)に も対処することになっています。

終末期とは何か、ここであらためて考えたい と思います。日本医師会の「終末期医療ガイド ライン」(平成19 年)によると、「終末期」と は「最善の医療を尽くしても病状が進行性に悪 化する事を食い止められずに死期を迎えると判 断される時期」と定義し、これとは別に「狭義 の終末期」として「臨死の状態で死期が迫って いる時期」(臨死期)を定義しています。

健やかに生きて、安らかに死を迎えるという 「尊厳死」の思想が国民の中で、今静かな広が りを見せています。終末期に臨んで意味のない 延命治療は中止して、痛みの除去など充分な緩 和ケアを受け、人間としての尊厳を保ちつつ、 自然な状態で迎える「尊厳死」の普及を目指して、国民の合意形成に向けた粘り強い地道な運 動が展開されています。

医師が延命治療を中止できるのは、患者自身 の意思表示が何よりも重視され、しかも家族が これを拒否しない時に限られています。

世間では「安楽死」と「尊厳死」が混同され て使われる事がよくあります。「安楽死」は苦 痛を訴えている患者に第三者が同情して薬物を 与えて安らかに死なせる「殺人」であり、意味 のない延命治療を中止して自然な状態で迎える 「尊厳死」とは明らかに違います。日本でこの ような安楽死を実行すれば殺人罪で刑事訴追の 対象となります。

また「脳死」と「植物状態」という言葉も誤 って使われている事がしばしば見受けられま す。両者の大きな違いは、「脳死」では大脳皮 質・脳幹ともに機能が失われた臨死状態で「狭 義の終末期」に相当しますが、「植物状態」で は大脳皮質の機能は失われていますが脳幹の機 能は保たれ、栄養補給、感染症予防などの医学 的全身管理を行えば長期生存も可能で、終末期 ではないとの見方があります。ただし、ほとん ど回復の見込みがない長期間持続する遷延性植 物状態の場合、延命治療の中止時期に関して議 論が分かれています。

「終末期医療」を考える際にしばしば議論の 対象になるもう一つの疾患に筋萎縮性側索硬化 症(ALS)があります。呼吸困難のために人 工呼吸器が装着されていても長期生存が可能で 終末期に該当しないとされる事が多く、この疾 患の延命治療中止は刑事訴追される可能性があ ります。ただし、呼吸器を装着しなければ生存 できない状態は終末期であるとする見解もあ り、ここでも議論が分かれて決着がついていま せん。

高齢社会を迎えている沖縄県でも終末期医療 の問題は避けて通れません。これを機会に終末 期の延命措置の中止について県医師会々員諸氏 の御理解が深まれば望外の喜びです。