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水虫の正体

富永智

南部徳洲会病院 富永 智

水虫という皮膚病は、例えば「風邪」には負 けるかもしれませんが、そのくらい、誰でも知 っている名前です。足の皮疹を主訴に受診され る患者さんは、「水虫ではありませんか?」と、 患者さんの方から病名、診断名をいきなり切り 出されることもよくあります。こんな時の対処 法はいくつか考えられます。外来患者数の多い 先生は、言い方に個人差はあっても、「水虫で しょう。」あるいは、「水虫ではなくて湿疹で す。」と返事を、どちらかに選ばれると思いま す。直接顕微鏡検査の経験が多いほど、臨床所 見だけで、だいたい判断可能だからです。私の 外来は患者数が多くないので、「調べてみまし ょう。」と返事して検査することがよくありま す。検査がどうしても必要だから、というわけ でも必ずしもなく、そう言った方がスム−ズに 診察が運ぶからです。患者さんが検査を要求さ れている場合、それが必要ないことを長々と説 明するより、検査した方が時間の節約になるか らです。水虫の菌が顕微鏡でどのように見える かですが、結構バラエティ−がありますが、1 例を写真1)に示します。検査してみて、水虫菌 が見つからなくても、臨床診断が優先で、「菌 は見つかりませんが、水虫に見えますので、水 虫の軟膏を塗って様子を見てください。」と説 明することもよくあります。

写真1)

写真1)

さて、表題の、水虫の正体ですが、個人的な 意見になるかもしれませんが、白癬菌が(ケラ チンを溶かすケラチナ−ゼという酵素を出し て)皮膚の角層の中に入り込んで、それに対し て、人間の免疫系が反応した現象、とでも言い ましょうか。免疫系が、もし強い反応を起こせ ば、紅斑、水疱、かゆみなどが出現します。足 のゆびの間はこすれますから、水疱は破れて、 びらん局面になることもあります。一般的に、 水虫、というイメ−ジの臨床になります。しか し、もし、免疫系が強い反応を起こさなかった 場合、どんな皮疹になるのでしょう。足底の写 真2)をご覧ください。この症例では直接顕微鏡 検査で真菌陽性でした。この患者さんは、かゆ みもありませんでしたし、皮膚がただれてもいません。この臨床を表現すると、角化と鱗屑、 ということになります。私は、どちらかという とこのような臨床を呈する乾いた水虫の方を日 常多く経験しています。

写真2)

写真2)

足底角化型白癬が痒くないとしても、少なく とも3 つの問題が生じるので、患者さんに治療 は勧めます。一つめは、家族への伝染です。特 にお風呂の足拭きマットや、スリッパは伝染さ せる可能性が高い、との一般的な見解です。二 つめは、爪白癬に発展することがあることで す。前に、ケラチンを溶かすケラチナ−ゼとい う酵素を出す、と述べましたが、人間の体でケ ラチンをたくさん含むところは、主に3 か所、 皮膚角層、爪、毛です。ですから、爪にも、毛 髪にも、ケラチナ−ゼで潜り込んでいきます。 写真3)は顕微鏡写真ですが、毛髪内に菌要素が 認められます。写真4)は、母指の爪白癬の臨床 です。真菌検査陽性でした。この症例では爪が 破壊されています。爪白癬の臨床にもバラエティ−があり、最も多く経験するのが、混濁肥厚 のタイプです。爪白癬の治療では最近は内服薬 を使うことが多いです。ただ、他の内服薬と飲 み合わせが問題になることがあります。対象と なる内服薬には一部の系の降圧剤も含まれます が、これが、よく処方される薬なのです。どう 飲み合わせが問題になるかといいますと、それ らの薬の血中濃度が高くなることがあるとのこ と。さて、三つめですが、足の白癬菌が、殿 部、ソケイ部にとんで、タムシとなることがあ ります。水虫もタムシも同じことです。

写真3)

写真3)

写真4)

写真4)

これまで、水虫という臨床の正体ということ で述べさせてまいりましたが、水虫菌の正体に ついても簡単に述べさせていただきます。足白 癬の起因菌は主に2 種で、T r i c h o p h y t o n rubrum と、同属のT.mentagrophytes です。 真菌、そしておそらく植物も同じ傾向があると 思うのですが、環境が良ければ良いほど、自分 自身の特徴を出してきます。生物の個々の特徴 が最大限現われる機会はどんな時でしょう。私 は生殖の時だと思います。しかし、述べたよう に、良い環境が整わないと、生殖しようという 気にならないようです。生きた真菌を取ってき て培地に置いても、条件が良くないと、菌糸し か出さず、綿毛のようなボ−っとしたコロニ− になり、どんな菌か見当がつかなくなります。 反対に、条件が良いと、写真5)に示すように、 特徴のあるコロニ−を作ってくれます。この、 粉をまぶしたようなコロニ−はT.mentagrophytes のものです。その一部を取ってきて染色した所見が、写真6)そして、7)です。6)7) ともT.mentagrophytes です。7)のような大分 生子は、私はT.rubrum のそれと区別ができ ないのですが、6)のような、巻きひげを見ると、 T.mentagrophytes なんだなあとわかります。

写真5)

写真5)

写真6)

写真6)

写真7)

写真7)



お知らせ

第17回沖縄県医師会県民公開講座
「ゆらぐ健康長寿おきなわ」

心停止と救命蘇生
〜あなたの大切な人を助けるのはあなた〜

  • 日 時:平成20年6月21日(土) 13:30〜15:30
  • 場 所:ロワジールホテル那覇(天妃の間)
  •  
  • 司 会:玉井 修(沖縄県医師会理事)

講 演

座 長 琉球大学医学部救急医学分野 教授 久木田一朗

心肺蘇生と自動対外式除細動器(AED)
琉球大学医学部救急医学分野 教授 久木田一朗

実際の治療について
琉球大学医学部第3内科講師 神山 朝政

実際の救命方法・救急車の適正使用について
那覇市救急本部救急課救急推進係長主管 徳元 律夫

人命救助体験談
琉球大学法文学部 准教授 石崎 博志