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血圧コントロール不十分および
治療抵抗性高血圧患者を診たとき

琉球大学医学部循環系総合内科学分野
助 教 崎間 敦
准教授 大屋祐輔
教 授 瀧下修一

【要 旨】

国内外の一般住民を対象とした疫学研究や大規模介入試験およびメタアナリシス により、厳格な血圧コントロールが脳・心・腎・血管イベントを抑制することが明 らかとなり、高血圧治療ガイドラインにおける目標降圧レベルに反映されている。近 年、降圧治療中の患者の血圧コントロール状況が報告されているが、140/90mmHg 未満の目標血圧値までコントロールされている割合は必ずしも高くない。とくに糖 尿病、慢性腎臓病、肥満および睡眠呼吸障害を合併した高血圧患者では、降圧薬の 併用療法を行なっても血圧コントロールが不十分な患者が少なくない。3 種類以上 の適切な用量の降圧薬(利尿薬を含む)を用いても血圧コントロールが不十分な場 合に治療抵抗性高血圧と定義している。治療抵抗性高血圧患者は、血圧コントロー ル良好群と比較して、左室肥大、頸動脈内膜中膜壁厚増大の頻度が高く、尿中アル ブミン排泄量も増加していること、さらに、脳卒中、腎不全および2 型糖尿病の発 症頻度が高いことが報告されている。これより、治療抵抗性高血圧対策をとること は、脳・心・腎・血管イベントを抑制する上で極めて重要である。本稿では、血圧 コントロールが不良な要因、治療抵抗性高血圧の臨床的特徴とその病態について概 説する。

キーワード:血圧測定、服薬コンプライアンス、利尿薬、アルドステロン、臓器障害

定義および頻度

生活習慣を十分に改善し、薬理作用の異なる 3 種類以上の降圧薬(そのうち1 剤は利尿薬で、 その他の薬剤は忍容性が認められる最大用量) を用いても目標血圧140/90mmHg 未満(糖尿 病、腎障害合併例では130/80mmHg 未満)ま で降圧しない場合を治療抵抗性高血圧と定義し ている1,2,3,4。しかし、本邦では利尿薬の使用が 限られているので、利尿薬を含まない場合でも 治療抵抗性高血圧とされることが多い1。治療 抵抗性高血圧の正確な頻度はまだ不明である が、大規模介入試験における服薬数、血圧コン トロール状況から、その頻度が推測されてい る。CONVINCE 研究では、140/90mmHg 未 満を達成できなかった割合は33 %で、そのう ち3 種類以上降圧薬を服薬していた患者は 18 %であった5。ALLHAT 研究では、5 年間 の観察期間中に140/90mmHg 未満を達成でき なかった患者の割合が34 %で、そのうち15 % は治療抵抗性高血圧であると推測している6。 VALUE 研究でも、30 ヶ月の観察期間の時点 で140/90mmHg 未満を達成できなかった患者 の割合が40 %で、そのうち10 %は治療抵抗性 高血圧であると推測している7。しかし、これらの試験では、高リスク患者が多く含まれるた め、実際の割合を過大評価している可能性があ る。本邦のJ-HOME 研究によると、高血圧患 者3,400 名のうち、3 種類以上の降圧薬を服薬 していた患者は528 名であった。この患者群の 血圧コントロール状況をみると、血圧コントロ ール良好群は17.8 %のみで、外来血圧コント ロール不良群は16.1 %、家庭血圧コントロー ル不良群は23.5 %、外来および家庭血圧コン トロール不良群は42.6%であった8。以上より、 J-HOME 研究における治療抵抗性高血圧の頻 度は約13 %と推測される。しかし、厳密な定 義での治療抵抗性高血圧患者の頻度はこれより も低いと考えられ、日常臨床ではコントロール 不良患者への対策が重要である。

おもな原因、臨床的特徴と対策

血圧コントロール不十分および治療抵抗性高血圧には種々の要因が関与する1,2,3,4(表1)。適 切な血圧測定、担当医の降圧治療に取り組む姿 勢、服薬コンプライアンス、肥満やアルコール 過剰摂取などの生活習慣の問題、糖尿病、慢性 腎臓病や睡眠呼吸障害などの合併症、白衣高血 圧や二次性高血圧の有無をチェックする必要が ある。

表1

1.血圧測定

治療抵抗性を示す原因として、カフサイズの 不適合、偽性高血圧、白衣高血圧など正確な血 圧値が捉えられていないことがある。コメディ カルや医師は適切な血圧測定を行う必要があ る。上腕が太い場合、カフ幅が広くないと血圧 が誤って高く測定される。偽性高血圧は、粥状 動脈硬化、内膜肥厚により動脈内圧と比較して カフ圧が著しく高くなることによる。1)臓器 障害はないが著しい高血圧、2)降圧治療によ る有意な降圧はないが、めまい、ふらつき、倦 怠感などの低血圧臨床症状、3)上肢血圧が下 肢血圧より高いことなどの所見があれば、偽性 高血圧を疑う。その確定診断には、観血的に直 接的動脈内圧の測定を行う必要がある。降圧治 療中の患者の約20から25%に外来血圧は 140/90mmHg 以上あるが、家庭血圧は 135/85mmHg 未満の正常血圧域にある患者群 が存在しており、白衣現象または白衣高血圧と 呼ばれている。家庭血圧の自己測定または24 時間自由行動下血圧測定(ABPM)を用いて、 白衣高血圧を診断することができる。

2.服薬コンプライアンスと担当医の取り組み

患者の服薬コンプライアンス不良の問題は血 圧コントロール不十分の要因のひとつである。 降圧治療による効果が得られない場合、服薬コ ンプライアンスが不良か否かを明らかにする必 要がある。特に降圧薬治療を強化する前には、 常にこのことに留意すべきである。1)服薬数 や回数の多さ、2)コスト面、3)降圧治療の期 間が長くなっていること、4)喫煙習慣、5)過 度の飲酒習慣、6)運動不足などが服薬コンプライアンス不良を予測する因子であると述べら れている4。一方、担当医の降圧治療への取り 組みがコントロール状況に影響する。降圧治療 に関する消極的な姿勢と現状の血圧値に満足し ていることが、血圧コントロール不十分な要因 のひとつになっている9。また、医師自身の心血 管病のリスク評価は高血圧治療ガイドラインの 管理指針より低く、降圧療法の見直しも不十分 であることが示されている10。血圧コントロー ルを向上するためには、患者の服薬コンプライ アンスを確認し、患者の治療に対する認識度を 増すこと、高血圧生活習慣修正に向けてのサポ ート、適正な降圧薬の選択などが重要である。

3.体液貯留

治療抵抗性高血圧患者の大部分に体液貯留が 関与している。その要因のひとつとして、血管 拡張薬による代償性の交感神経系やレニン・ア ンジオテンシン系の亢進による腎臓での水・ナ トリウム再吸収の亢進がある。また、高血圧患 者では循環調節機構の動脈圧受容体反射機能の 障害により、血圧上昇に伴う反射性徐脈や交感 神経系抑制の程度が減弱している。このような 場合では、利尿薬の適正使用により有効な降圧 が認められることが多いが、利尿薬の投与量は 不適切であることが多い。実際には、サイアザ イド系利尿薬を少量から追加投与する。高用量 では、代謝面への副作用が懸念されるので、増 量する際は注意を要する。

4.合併症、生活習慣および薬剤の影響

糖尿病、慢性腎臓病、肥満、左室肥大および 睡眠時無呼吸症候群のいずれかが合併している ことも多い。これらの合併症の存在は体液貯留 を助長させている。その他に食塩およびアルコ ール過剰摂取、喫煙、運動不足などの生活習慣 が降圧治療を妨げる原因になっていることもあ る。また、パニック発作およびパニック障害の頻 度は正常血圧群と比較して高血圧患者で多く、 病歴聴取の際に、この障害の有無を鑑別する必 要がある11。非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、甘草を含んだ漢方薬、糖質コルチコイド、交感 神経刺激薬などは血圧上昇作用を有する。また、 薬剤相互作用によりNSAIDs はCa 拮抗薬以外 の多くの降圧薬、コレスチラミンはサイアザイド 系利尿薬、リファンピシンはβ遮断薬やCa 拮抗 薬の降圧効果を減弱させる。

5.アルドステロン

高血圧患者における原発性アルドステロン症 の頻度は4.6 〜 32 %とされ12、従来考えられて いるものよりその頻度が高いことが予測されて いる。また、血圧コントロール不十分の高血圧 患者の17 %は原発性アルドステロン症であった との報告もあることから13、治療抵抗性高血圧の 原因として高アルドステロン症が注目されてい る14。アルドステロンは、レニン・アンジオテン シン・アルドステロン系の最下流にあり、古典 的には水、ナトリウムおよびカリウムの調節に関 連するホルモンと考えられていた。しかし、アル ドステロンは、昇圧作用に加えて脳・心・腎・ 血管などに対して直接的に障害を引き起こす心 血管リスクホルモンであることが明らかにされて きている15(図1)。特に、塩分過剰摂取の状況 下では、アルドステロンの心血管リスクホルモン としての役割がさらに高まると考えられている。 したがって、高血圧や臓器障害の進展抑制にお いて、アルドステロンを抑制することの重要性 が認識されてきている。アルドステロン拮抗薬 スピロノラクトンが治療抵抗性高血圧患者の血圧コントロールに有効であり、スピロノラクトン 投与により降圧に加えて降圧薬の服薬数が減少 したと報告されている16。さらに、利尿薬、 ACE 阻害薬またはARB を含む3 種類以上の降 圧薬を服用している治療抵抗性高血圧患者に対 して、低用量のスピロノラクトン(平均31mg/ 日)の併用による降圧効果を検討した研究によ ると、スピロノラクトン投与により原発性アル ドステロン症の有無にかかわらず有意な血圧の 低下(平均25/12mmHg)が得られた17(図2)。 このことから、現在の降圧治療の主要選択薬で あるCa 拮抗薬、ACE 阻害薬、ARB に加えて利 尿薬を併用しても血圧コントロール不十分な患 者に対して、アルドステロン拮抗薬は有効な降 圧をもたらすと期待できる。アルドステロン拮抗 薬を使用する際に最も注意すべき点は、血清カ リウム値の上昇である。血清カリウム値が 5mEq/L 以上の患者にはアルドステロン拮抗薬 の投与は原則的に禁忌であること、また、慢性 腎臓病、微量アルブミン尿、蛋白尿を有する糖 尿病患者は、高カリウム血症の副作用がおこり 易いことを認識しておく必要がある。

図1

図1 アルドステロンの臓器障害および昇圧作用のメカニズム

図2

図2.治療抵抗性高血圧患者に対する少量スピロノラクトン追 加投与による降圧効果

まとめ

高血圧の日常臨床の場において、各種降圧薬 の使用が可能になり血圧コントロールは以前に 比べて随分と改善してきているが、治療抵抗性 高血圧を含めたコントロール不十分な高血圧の 頻度は必ずしも低くない。その要因として、1) 担当医の消極的な降圧治療、2)服薬コンプラ イアンスの問題、3)不適切な血圧測定、4)体 液貯留、5)二次性高血圧などがあげられる。 血圧コントロール不十分な患者を診たとき、上 記の有無を確認する必要がある。治療抵抗性高 血圧では体液貯留が占める割合が大きいので、 適切な利尿薬の併用療法が必須である。最近、 治療抵抗性高血圧の昇圧メカニズムのひとつに アルドステロンの関与が明らかとなってきてい る。なお、適切な治療を行なっても、目標血圧 レベルに達しない場合は高血圧専門家(FJSH) への紹介を考慮すべきである。

文 献
1)日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会 (編):高血圧治療ガイドライン2004、ライフサイエ ンス出版、2004.
2)Chobanian AV et al, the National High Blood Pressure Education Program Coordinating Committee. Hypertension 2003;42:1206-52.
3)Mancia G et al. J Hypertens 2007;25:1105-87.
4)Izzo JL Jr et al. Hypertension Primer 4th edition, Lippincott Williams & Wilkins, 2008.
5)Black HR et al. JAMA 2003;289:2073-82.
6)ALLHAT Collaboration Research Group. JAMA 2003;288:1981-97.
7)Julius S et al, for the VALUE Trial. Am J Hypertens 2003;16:544-8.
8)Oikawa T et al, the J-HOME study group. J Hypertens 2006;24:1737-43.
9)Oliveria SA et al. Arch Intern Med 2002;162:413-20.
10)Persson M et al. J Hypertens 2004;22:65-71.
11)Kaplan NM. Arch Intern Med 1997;157:945-948.
12)Stowasser M. Curr Hypertens Rep 2001;3:230-9.
13)Gallay BJ et al. Am J Kidney Dis 2001;37:699-705 14)Calhoun DA et al. Hypertension 2002;40:892-6.
15)Duprez DA. J Clin Hypertens 2007;9:13-8.
16)Ouzan J et al. Am J Hypertens 2002;15:333-9.
17)Nishizawa MK et al. Am J Hypertens 2003;16:925-30.



著 者 紹 介

崎間敦

琉球大学保健管理センター
准教授 崎間 敦

昭和40年 12月 21日

出身地:南城市玉城

出身大学:琉球大学

略歴
1984年3月 沖縄県立知念高等学校卒業
1992年3月 琉球大学医学部医学科卒業
1992年4月 琉球大学医学部附属病院
        第三内科臨床研修医
1993年4月 仁愛会浦添総合病院内科臨床研修医
1994年5月 敬愛会中頭病院内科臨床研修医
1999年3月 琉球大学大学院医学研究科博士課程修了
1999年4月 琉球大学医学部附属病院第三内科医員
2000年4月 琉球大学医学部第三内科助手
2002年7月 米国Wake Forest 大学医学部
        高血圧血管病センター
        Debra I. Diz 研究室リサーチフェロー
2004年7月 琉球大学医学部循環系総合内科学分野 助手
2007年4月 琉球大学医学部循環系総合内科学分野 助教
2008年4月 琉球大学保健管理センター准教授 現在に至る

専攻・診療領域
 高血圧腎臓内科、生活習慣病、老年医学

資格
 医学博士、日本内科学会認定内科医、日本高血圧学会 評議員、Fellow of Japanese Society of Hypertension (FJSH)、Fellow of American Heart Association (FAHA)、AHA ACLS Provider

所属学会
 日本内科学会、日本高血圧学会、日本動脈硬化学会、日 本腎臓学会、日本老年医学会、日本循環器学会、 American Heart Association Council for High Blood Pressure Research

その他・趣味等
 スポーツ観戦、旅行



Q U E S T I O N !

問題:新たな心血管リスクホルモンとして心血管 障害や治療抵抗性高血圧の病態に関与し ているホルモンを次の中からひとつ選べ。

  • エンドセリン
  • カテコールアミン
  • アルドステロン
  • コルチゾール
  • アンジオテンシンU

CORRECT ANSWER! 3月号(vol.44)の正解

不整脈に対する根治療法:高周波カテー テルアブレーション
発作性上室性頻拍および心室頻拍の適応 と成績

問題:次のうち正しいのは何番か?

  • 1)頻拍発作のないWPW 症候群はカテーテル アブレーションの適応はない。
  • 2)房室結節回帰性頻拍に対するアブレーショ ンはslow pathway の選択的アブレーション である。
  • 3)通常型心房粗動は心房中隔の卵円窩の周囲 をリエントリーする頻拍である。
  • 4)基礎心疾患のない心房細動の多くは洞房結 節の周囲から発生する。
  • 5)左室起源の特発性心室頻拍治療第一選択薬 はNa チャネルブロッカーである。

正解 2