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沖縄県医師会医学会 精神神経学会長
近藤 毅 先生

近藤毅先生
P R O F I L E
【学歴】
昭和58 年3 月
弘前大学医学部専門課程卒業
昭和58 年5 月 第75 回医師国家試験合格
昭和59 年4 月 弘前大学大学院医学研究科入学
昭和63 年3 月 同上修了、医学博士(弘前大学)
【職歴】
昭和58 年4 月 津軽保健生活協同組合健生病院内科
昭和63 年4 月 浪岡町立病院精神科科長
平成1 年4 月 弘前大学医学部・神経精神医学講座・助手
平成3 年3 月 文部省在外研究員(英国、ウェールズ大学医学部
臨床薬理治療学教室)
平成9 年9 月 弘前大学医学部附属病院・神経精神科・講師
平成11 年4 月 弘前大学医学部・神経精神医学講座・助教授
平成15 年4 月 琉球大学医学部・精神病態医学分野・教授(現職)
【資格】
医師免許証
昭和58 年取得
精神保健指定医 昭和63 年取得
【所属学会】
日本精神神経学会、日本臨床精神神経薬理学会(理事)、日本てんかん学会(評議員)、日本神経精神薬理学会、日本生物学的精神医学会

こころの診療科として、一 般の方々が抵抗感を持たずに 相談受診できるような環境作 りを、沖縄ならではの形で目 指していきたいと思います。

Q1.沖縄県医師会医学会精神神経学会長にご 就任されて1 年が過ぎましたが、ご感想と今 後の抱負をお聞かせ頂けますでしょうか。

また、先生が青森の弘前大学から琉球大学 に赴任されて今年で6 年目を迎えましたが、 沖縄県の気候や文化、あるいは地域性等につ いて、どのようにお感じですか。そして、沖 縄県の精神医療について、どのような感想を もたれているか、また、精神医療についての ご意見があればお聞かせ下さい。

沖縄県精神神経学会は、今年で第29 回の開 催となる伝統のある歴史を持ち、一県単位の学 会としては毎年20 〜 30 演題数を持つアクティ ブな学会として機能しています。地域の先生方 およびコメディカルの皆様からは神経精神医学 領域の幅広いテーマをいただき、毎年活発な議 論が展開されています。琉球大学精神科神経科 からも出来立ての研究成果や症例報告を積極的 に発表するようにしており、若手精神科医達の 登竜門として、日頃の自己研鑽を披露し、学会 発表に挑戦する場となっています。特別講演、 教育講演およびシンポジウムでは、精神医学の トピックを取り上げ、プログラムの充実を図っ ています。今後も、本学会で取り扱うテーマ は、広く、深く、新しく、をモットーとして継 続していければと願っております。

厳冬の北国から来た私にとって沖縄の冬は大なりましたが・・・。南国文化とひとまとめには 言い切れないものがありますが、人々は交流し 合うことを大切にし、家族の連帯感が強く、地 域の相互援助精神がまだ機能している点では、 「古き良き日本」の既視感にとらわれます。そ の沖縄も時代の波にもまれて変遷の過程が進行 しつつあり、人々の心の中には伝統的な精神と 現代への適応との葛藤の幅が拡がってきたよう にも感じます。

沖縄県の精神医療においては、特色のある精 神科病院およびクリニックが役割分担して機能 しており、特に他県よりも精神科リハビリテー ションが非常に充実している点が印象的です。 一方、病床を有す総合病院精神科が少なく、し かも、偏在化しているため、今後、高齢化社会 に伴って増加することが予想される、身体合併 症を有す精神科患者の総合的治療がどうなって いくのかが懸念されるところです。

Q2.大学は教育・臨床・研究と多岐にわたっ たお仕事をされていると思います。先生が 赴任されて児童・小児外来も開かれたと聞 いておりますが、その後の状況はいかがで しょうか。また、研究面や研修医の教育等 と今後の抱負をお聞かせ下さい。

出生率が全国第1 位である沖縄県において、 児童思春期精神医療の充実は焦眉の課題です。 しかし、全国的に児童精神科専門医の絶対数は 不足しており、他都道府県においてもその運営 には困窮を抱えているのが現状です。地域の潜 在的ニーズに応えるべく、琉球大学附属病院精 神科神経科においても、平成16 年より児童思春 期専門外来を開設し、患者数も増加の一途を辿 っています。現在、発達障害、小児神経症およ び思春期症例の診療を行っており、地域貢献の みならず、教育・研修面での領域拡大の意味合い も込めて、多くの医学生や研修医達にも児童思 春期精神医療の現場を体感してもらう機会を提 供していきたいと考えています。その中から、 一人でも多く、未来の児童思春期精神科医を志 す人達が出てくることを切に願っています。

Q3.沖縄は島嶼県で多くの離島を抱えており、 精神科の医局からも医師を派遣しています が、今後の離島の精神医療について、どの ような方向性で考えておられるのでしょう か。

いつも頭を抱える問題です。精神科の場合は 県立宮古病院、県立八重山病院が対象となりま すが、前者については医局から人事面でサポー トを継続中で、後者は神戸大学より医師が派遣 されている現況にあります。両者とも県立病院 ですので、人材確保については県側の努力も必 要と考えます。長期的展望として、離島医療を 経験することに対するメリットやサポートが実感 できるシステム構築が不可欠であることを痛感 しており、医局としてどのような貢献が出来る か検討中です。また、長期派遣による不安の解 消のため、当面は円滑で流動的な人材ローテー ションを図っていく必要があると考えています。

Q4.県内の自殺者が年々増加し、平成18 年に は400 人に達しており、自殺死亡率は全国 順位でワースト12 位という状況の中で、健 康長寿県復活において、うつ病、自殺予防 対策が重要視されておりますが、このこと について先生のご見解をお聞かせ頂けます でしょうか。また、精神神経学会の取り組 みがございましたらお聞かせ下さい。

自殺は多要因による現象であり、医療モデル だけでは解決できません。医療機関のみならず 行政、保健、労働、司法の分野がそれぞれの役 割を果たすと同時に連携を形成しながら、総合 的自殺予防対策を構築していく他に王道はあり ません。また、短期的に数値目標のような形で 効果が現れるわけではなく、継続性のある地道 な取り組みを進めていく必要があります。沖縄 精神神経学会では、うつ病の早期発見・早期治 療を促進するための地域住民への効率的啓発活 動、うつ病休職者の心理的負担を軽減するデイ ケア活動、うつ病のプライマリケア促進のため の一般医への働きかけ、に取り組んでいます。 また、琉球大学精神科神経科においては、これまでタブー視されがちな自殺というテーマを地 域住民や一般医にも下ろして、死を考える人達 に具体的にどう対応していくか、を啓発講演や セミナーを通して取り上げています。最近で は、働く人たちのメンタルヘルスにも焦点を当 て、うつ病になる前のストレスの段階で労働者 の気付きや職場の環境調整を促すための啓発活 動にも着手しました。これらは、いずれもアウ トカムリサーチの中で得たエビデンスを基にフ ィードバックを繰り返して、効率化に向けての 発展的進化がなされるよう心掛けており、いず れ医療関係者以外にも啓発活動の担い手の輪を 拡大し、大きな流れを作っていければと願って います。

Q5.県医師会に対するご意見、ご要望があり ましたらお聞かせください。

医師会分科会として、沖縄精神神経学会およ び沖縄心身医学会を常日頃バックアップしてい ただいており、この場を借りて深謝申し上げま す。また、自殺予防活動の一環としてのうつ病 プライマリーケア促進活動にも全面的なご協力 をいただいており非常に助けられております。 自殺予防はわれわれ精神保健関係者と県医師会 との連携が不可欠であり、今後とも、研究調査 や啓発・研修活動についてのご協力を引き続き お願いいたします。なお、琉球大学精神科神経 科では、地区医師会単位で2 回シリーズのうつ 病プライマリケア促進に向けたセミナーを企画 しておりますので、積極的にご活用下されば幸 いです。もう一つ、医療現場のメンタルヘルス について、病院で働く方々を対象に啓発講演と 職員へのアンケート調査(個人のストレス関連 項目と職場環境診断をフィードバックせていた だきます)を組み合わせたリサーチ活動を開始 しましたので、こちらもご協力下されば声が掛 かった病院に可能な限り参上いたします。よろ しくご活用下さい。

Q6.先生の座右の銘、日頃の健康法やご趣味 などをお聞かせ下さい。

座右の銘は柄でもないので持っていません。 禁煙にも失敗しましたし、ジョギングも3 日坊 主の体たらくです。仕事に関しては、だらだら 続けたり、億劫で溜めたりすると、ストレスの 元なので、集中して片付けて後は振り返らない 主義です。以前、こころの健康増進に向けての 原稿を書いたことがありますが、皆さん、「こ ころの自由度」を忘れず、「こころのリラクゼ ーション(五感のリフレッシュ)」の時間を作 り、「こころのエンターテイメント」を意識し て取り入れ、「こころのダイナミズム(動いて いること)」を失わないで下さい。言うは易し、 有言不実行の私が極意を語るのも何ですが・・・。

インタビューアー:副会長 小渡敬