沖縄県医師会 > 沖縄県医師会の活動 > 医師会報 > 5月号

はしか0 プロジェクトの最新情報
−はしか0 キャンペーン週間(5/11 〜 5/17)に寄せて−

知念正雄

沖縄県はしか0 プロジェクト委員会委員長
知念 正雄

はじめに

2006 年〜 2007 年の関東一円における成人麻 しんの流行は、国の予防接種行政に大きな転換 をもたらした。2012 年麻しん排除を目標として、 2008 年4 月より5 年間にわたる中1 ・高3 の生 徒に対する補足的MR ワクチン接種が開始され ることになった。本県におけるはしか0 プロジェ クト活動の現状を報告し、5 月11 日〜 17 日に実 施されるはしか0 キャンペーン週間への会員の皆 様のご協力をお願いする次第である。

1)2006 〜 2007 年麻しん全数把握の状況

2008 年1 月より麻しんは全数把握疾患にな り、麻しんと診断した全ての医師は可能な限り 24 時間(〜 7 日間)以内に地域保健所へ届け 出ることが義務づけられた。本県においては 2003 年から麻しん全数把握事業を実施してお り、表1 に示される如く各医療機関が麻しん疑 い例を速やかに報告し、地域保健所と県衛生環 境研究所の迅速な対応による病原診断が確実に 実施されている。検体提出率が95 %以上にな っていることは、全数把握事業に対する周知 性、受容性が高く、本県におけるサーベイラン スシステムが定着して施行されていることを示 している。2006 〜 2007 年は、首都圏における 成人麻しんの流行に大きな関心と注意が向けら れ、多数の疑い例が報告された。

本県では2005 年に麻しん発生0 を達成した が、2006 年は疑い例の報告数が59 例に増えて 確定例は18 例となり、2007 年は132 例の疑い 例のうち22 例に麻しんが確定された。確定例 の殆どは移入麻しん例からの2 次・3 次感染で あり、遺伝子型は全てD5、塩基配列も関東で の流行例とほぼ一致していた。

表1.全数把握事業による麻疹発生報告

表1
2)移入麻しんの発生事例

(1)修学旅行生からの麻しん発生

2006 年11 月に東京からの修学旅行生331 名 の集団から4 名の麻しん患者が発生した。来沖 2 日目に3 名の有症者が南部地域の診療所に受 診し、麻しんが疑われて南部保健所へ届出がな された。報告した診療所は、院内感染の拡大を 防止するために午後の診療を中止した。このこ とは敬服に価する英断である。発生報告の24 時間後にPCR 陽性が判明し、県健康増進課と 保健所は修学旅行生に対して、健康調査や有症 者の病院受診、患者の入院管理など各方面にわ たる調整を行い、修学旅行に最大限の配慮を払 いつつ感染拡大阻止の対策を実施した。中部地 域で他に1 例の発生が出たのみで、修学旅行生 以外の発症が見られなかったのは大きな成果で あった。この事例では、修学旅行出発の1 〜 2 週間前に麻しんに罹患した生徒が2 名いたこと が明らかにされた。学校現場における麻疹に対 する危機管理意識が極めて低いことは否めな い。校医は健診のみならず日常的に学校現場と の密接な連携をとり、感染症に対する学校内の 危機管理体制を確立しておく必要がある。

(2)中部地域におけるアウトブレイク(図1)

2007 年10 月に中部福祉保健所管内において、32 歳の症例が報告された後に家族内で4 例、病院内感染で4 例が確定診断された。小児 は1 例のみで、他はすべて成人であった。この 事例では初発例の感染源が不明であったが、た またま小児科診療所を受診した患児家族の情報 から、関東へ旅行歴のある成人麻しん患者が9 月末頃にいたことが判明し保健所が追跡調査を したところ、症例の血清学的検査でリンパ球の PCR は陰性であったが、PA 値8,192 倍以上、 IgM6.75 と上昇していて、最近の麻しん罹患が 証明され、本例が一連のアウトブレイクの感染 源であると断定された。感染源症例の受診医療 機関からの報告がなされなかったのは残念であ るが、本県におけるサーベイランスシステムの 威力が発揮された事例であり、保健所による健 康観察追跡者数は1,400 名を越えた。

図1

図1.中部福祉保健所管内におけるアウトブレイク

3)最近の麻しんの特徴

(1)成人麻しんが多い−麻しんは内科医の領域 となった

2007 年に麻しん確定した22 例のうち、15 歳 以上の成人麻疹が20 例で大部分を占め、小児 は2 例のみでいずれも家族内感染(母親・兄か ら)である。この様に最近の麻しんでは成人の 発症が多く、ワクチン歴がないか、或いは不明 例が1 回接種者を上回っている。成人麻しんで は行動範囲が広いため、多くの接触者を生じさ せ、しかも症状に差異がみられて、診断が遅れ ることが多い。したがって感染拡大阻止対策に は大きな労力を必要としている。麻しんはもは や小児科医だけではなく、内科医の領域にもな っていることを充分認識して毎日の診療にあた る必要がある。

(2)移入麻しんが多くみられる。

本県における散発例や地域におけるアウトブ レイクでは、流行地域へ旅行歴のある者からの 麻しん発症が多く、日常診療における感染予防 に対する意識を高めておく必要がある。移入麻 しんからの感染を防止するには、県内における ワクチン接種率を向上させ、地域免疫力を高め ておくことが重要である。平常時におけるワク チン接種勧奨の意義は大きい。

(3)医療機関での感染が6 割を占める。

感染を拡大させる場所としては医療機関が多 く、院内感染の占める割合は40 〜 60 %となっ ている。25 分間の院内滞在接触で感染発症し た事例の報告もあり、有症者の病院(診療所) 受診では受付窓口でのトリアージが重要であ る。さらに、医療職だけでなく事務職その他の 職員のワクチン接種歴・免疫抗体保有の有無確 認は、施設管理者の社会的責任となってきた。

4)中学1 年生(3 期)、高校3 年生(4 期) に対する補足的MR ワクチン接種

国の2012 年麻しん排除の計画により、2008 年4 月1 日より、従来の1 期・2 期の定期接種 の他に中学1 年生(3 期)、高校3 年生(4 期) に対して5 年間にわたる補足的MR ワクチン接 種が定められた。この年齢の対象者は内科・産 婦人科の病院・診療所を受診する機会も多く、 それぞれの立場でのワクチン接種の積極的勧奨 と接種が望まれる。

おわりに

本県における麻しん全数把握事業の現状と課 題について報告した。麻しんが“子どもの病 気”から“大人の病気”になったことを充分認 識して、小児科のみならず内科・産婦人科を含 めたすべての科の病院・診療所の日常診療の中 で、麻しん・風しん混合(MR)ワクチン接種 の勧奨を積極的に推進していただきたい。