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肝臓週間(5/19 〜 5/25)に因んで

仲吉朝邦

ハートライフ病院消化器内科
仲吉 朝邦

肝臓週間とは

肝疾患についての正しい知識と、予防につい ての知識の普及を目的として、2001 年度から 日本肝臓学会により企画されているもので、今 年は5 月19 日〜 25 日が「肝臓週間」に当てら れています。これを機会に皆さんも肝疾患につ いて知識を深め、興味を持っていただければと 思います。

肝細胞癌のハイリスク群

日本において原発性肝癌による死亡者数は年 間約3 万5 千人に達し、この20 年間で2 倍以上 に増加しています。2000 年以降は横ばい傾向 が見られていますが依然として患者数、死亡数 が多く十分な対策が必要です。原発性肝癌の9 割がウイルス性で、そのうち8 割がC 型、2 割 がB 型肝炎ウイルスによるものです。

C 型肝癌の場合は、男性が女性に比べ約2 倍 で、年齢が高くなるほど増加し60 〜 70 才台に ピークがあります。初期の慢性肝炎からの発癌 は比較的まれですが、病期が進行し肝の線維化 (F0 〜 F4 で示されます)が進むほど発癌率が 増大します。F1(軽度)では年率0.5 %です が、F4(肝硬変)では年率7 %と極めて高率 になります。従って臨床の場では現在どの程度 の線維化であるのかを把握することが重要で す。線維化は血小板数である程度推定が可能 で、血小板数15 〜 18 万でF1(軽度)、13 〜 15 万でF2(中等度)、10 〜 13 万でF3(高 度)、10 万以下でF4(肝硬変)に相当します。

B 型肝癌の場合は、男性が女性に比べ約4 倍 で、C 型より約10 才若い50 才台にピークがあ ります。B 型でも肝硬変からの発癌が当然多い のですが、C 型と異なり比較的線維化が軽い状 態からの発癌もたびたび見られます。B 型慢性 肝炎の大多数はHBe 抗原が消失しHBe 抗体が 出現すること(HBe セロコンバージョン)によ って肝炎が沈静化しますが、発癌はセロコンバ ージョン後におこることの方が多いので肝炎が 沈静化しても、肝機能検査や超音波による定期 的な経過観察を継続することが必要です。

ウイルス性慢性肝炎の治療方針

厚生労働省よりB 型およびC 型慢性肝炎治 療ガイドラインが示されています。

B 型では年齢(35 才未満/35 才以上)、ウイ ルス量(107 コピー未満/107 コピー以上)、セ ロコンバージョンの有無によりインターフェロ ン(注射)かエンテカビル(内服)かに分けら れています。

C 型では治療歴(初回治療/再治療)、ウイル スの型(グループT/グループU)、ウイルス量 (高ウイルス量/低ウイルス量)によってインタ ーフェロン単独療法かリバビリン併用療法に、 投与期間も48 週間か24 週間か等に分けられて います。これらの治療によりウイルスの完全消 失と肝機能の改善が得られた症例では、未治療 の症例や無効例に比べて明らかに肝癌の発生が 抑制されます。また、たとえウイルスの消失が 得られなくても治療中肝機能が改善した症例は 肝硬変や肝癌への進行が抑えられることがわか っています。最近、ALT(GPT)値正常でも ウイルスが持続感染していれば慢性肝炎へ進行 することがわかり、ALT 値(30IU/ml 以下 /31 〜 40IU/ml)、血小板数(15 万以上/15 万 未満)によって経過観察を行うか治療開始すべきかの方針もガイドラインに示されています。

慢性肝炎を沈静化させることによって肝硬変 への進展を抑制し、肝癌の発生が抑制されま す。すなわち、慢性肝炎の予後を改善させるこ とが可能です。治療方針決定の際には肝臓専門 医へご相談ください。

非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)

飲酒歴がない(男性≦ 30g/日、女性≦ 20g/ 日)にもかかわらず、アルコール性肝障害に類 似した肝障害が起こることがあり、これらを総 称して非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD) といいます。NAFLD には単純性脂肪肝や脂肪 性肝炎(NASH)などが含まれます。過栄養・ 運動不足などによって脂肪肝となり、インスリ ン抵抗性、酸化ストレス等によって脂肪肝に炎 症が加わった状態(脂肪肝+肝炎)がNASH で す。NASH の診断には肝組織検査(肝生検)が 必要です。わが国では成人の8 %がNAFLD と 推定されています。脂肪肝の10 %にNASH がみ られ、NASH 症例の5 〜 10 年間の経過観察で5 〜 20 %に肝硬変への進展が見られ、さらに肝癌 を発症したとの報告があります(図1)。

図1

図1

沖縄県では全国に比べBMI25 以上の肥満者 の割合が高くメタボリック症候群の増加が危惧 されていますが、同様にNAFLD/NASH につ いても増加することが予想され、NASH 由来の 肝硬変、肝癌の増加も十分予想されます。

検診で軽度肝機能障害を伴う脂肪肝を指摘さ れた場合、自覚症状がなく周囲にも同様の指摘 を受けたことのある人が多いため、受診者の大 半は病識がなく肝臓の病気とは思っていませ ん。また医療者側も「程度が軽いから」「脂肪 肝のせいだから」と対応しがちです。そのため 要精査者が必要な精密検査を受けずに病期の進 行につながってしまう可能性が指摘されていま す。決して放置せず、予後の説明などによって 動機つけや教育を行うことが必要です。ALT (GPT)≧ 80 IU/L、ヒアルロン酸や4 型コラ ーゲン7S 等の線維化マーカー上昇を伴う脂肪 肝の場合はNASH 診断のため肝臓専門医にご 紹介下さい。

平成20 年3 月1 日現在の沖縄県の日本肝臓 学会会員数は62 名で、そのうち肝臓専門医は 11 名です。この数は他県と比べても明らかに 少なく(例えば九州では福岡241 名、佐賀37 名、長崎40 名、熊本51 名、大分30 名、宮崎 22 名、鹿児島50 名)、本県より人口の少ない 佐賀県や宮崎県の1/3 〜 1/2 しか肝臓専門医が いないことを示しています。肝疾患患者の教育 や治療、検診で肝機能障害を指摘された方の指 導はまだ十分ではないと思われます。肝臓週間 には講演会も企画されていますのでぜひご参加 いただき、肝臓に興味をもたれた(すでに持っ ている)特に若手の先生方には肝臓専門医を目 指していただければと切望します。