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九州ブロック日医代議員(含・次期)連絡会

副会長 玉城 信光

去る3 月8 日(土)、ホテルニュー長崎にお いて標記連絡会議が開催され、九州ブロックか ら選出されている委員により、日本医師会委員 会報告が行われたので報告する。

今年度は、日本医師会社会保険診療報酬検討 委員会について近藤稔委員から、また、有床診 療所に関する検討委員会について美川隆造委員 からそれぞれ報告がなされた。

長崎県医師会蒔本常任理事の司会により開会 されたあと、井石九州医師会連合会長(長崎県 医師会長)から、次のとおり挨拶があった。

「日医役員をはじめ九州各県医師会の代議員 の先生方にはご多忙の中、ご来県いただき感謝 申し上げる。今回は、日医の委員会報告とし て、社会保険診療報酬検討委員会と有床診療所 に関する検討委員会の2 題を報告いただくのでよろしくお願い申し上げる。」

1.社会保険診療報酬検討委員会 (近藤稔委員・大分県)

当委員会は、唐澤会長より下記2 点について 諮問され、議論を行ってきた。

1)「診療報酬改定の影響とその対応〜平成18 年4 月改定について〜」

2)「現在の診療報酬における問題点について」

今回の報告では、答申書での報告を予定して いたが、未完成のため、日医鈴木常任理事が中 医協で説明された資料に沿って、概ね次のとお り報告された。

【平成18 年4 月〜 5 月 医療費の動向ポイント】

1 日当たり医療費の伸び率について、制度改正 や診療報酬改定の影響のない平成17 年度伸び率 (対前年度比)と比較した場合の差は、▲ 2.3 %となっている。

【療養病床の再編に関する緊急調査報告:日本 医師会 2006 年10 月】

2006 年7 月現在の医療区分1 の患者構成比 は、病院41.0 %、有床診療所59.9 %、全体で 42.1 %であり、患者数にすると約10 万人であ る。医療区分1 のうち、63.4 %が病状が安定し ていて、退院可能な患者である。しかし、 63.4 %のうちの約70 %は受入れ先がなく退院 が不可能である。医療区分1 のうち、30.9 % は、病状が不安定で退院の見込みがない患者 で、そのうちの20 %程度が入院医療を必要と している。

また、2006 年10 月分レセプト調査結果から は、7 月と比較すると、病院の医療区分1 の患 者は30.0 %に減少している。しかし、有床診 療所においては、59.9 %から約57 %とわずか な減少であり、中医協には有床診療所を全面に 出して議論していきたいとのことである。

【7 対1 入院基本料届出状況と看護職員の募集 状況等について】

7 対1 入院基本料の届出状況や私立大学病院 等における看護職員募集・内定状況、国立高度 専門医療センター等における看護職員募集・内 定状況等について調査結果を受けて、11 月29 日中医協総会における主な指摘(看護関係)と して、急性期入院医療の実態に即した看護配置 を適切に評価するという7 対1 入院基本料の創 設の方向性、また、医療安全対策の観点から も、手厚い看護体制に対する適正な評価は重要 である。しかし、地域で看護不足を来たしてお り、医療機関が混乱しているのは、看護の必要 度に応じて7 対1 入院基本料の届出を認めるべ きではないかとの指摘があった。

【看護職員の需給に関する調査− 2006 年10 月 調査−】

標記の調査結果から得られた課題として、1) 看護配置基準の引き上げは、段階的に行うよう に方向修正をすべき(激変緩和)であり、そう でないと、地域医療の短期間での崩壊へ繋が る。2)早急に准看護師養成策を見直すべきであ るとしている。

また、看護職員の給与は、もっとも高い公立 病院と、もっとも低い個人病院との間で、1.4 倍の差がある。

【厚生労働省への建議書】

平成19 年1 月31 日付、中医協土田会長は、 柳澤厚生労働大臣に対し、「7 対1 入院基本料 の基準を見直し、急性期等手厚い看護が必要な 入院患者が多い病院等に限って届出が可能とな るようなものとすること。また、看護職員確保 に関する各般の施策について、積極的に取り組 むこと」を建議した。

【疾患別リハビリテーション料の見直し(案)】

診療報酬改定結果検証部会におけるリハビリ テーション料の検証結果を踏まえ、18 年度改 定の趣旨に則り、よりきめの細かい対応を行う ため、疾患別リハビリテーション料の一部変更 が行われた。

【あるべき医療の確保に向けた緊急提言−経済 財政諮問会議「基本方針2007(素案)」に対し て−:日本医師会 2007 年6 月6 日】

日本医師会では、総合医療政策課を設置し、 「基本方針2007(素案)」に対し、1)日本の医 療現場の実態、2)地域医療を守るために、3)あ るべき医療費の確保に向けて、緊急提言した。

なかでも、あるべき医療費と新たな財源につ いて、日本医師会推計によると、2015 年度に は44.6 兆円があるべき医療費であるとしてお り、それは、総医療費のGDP に占める比率を OECD加盟国平均並みの8.8%(日本は8.0%) にするための費用であるとしている。

また、先進国並みの医療費水準を実現するた めには、新たな財源が必要であり、国家財政全 体を見直しする等、特別会計の改革や決算ベー スでの検討を求めるとしている。

【後期高齢者医療制度について日本医師会の考 え方】

75 歳以上では、疾病の発症率、受療率、医療 費(とくに入院)が急速に高まり、保険原理は 機能しにくい。したがって、保障原理で運営し、 公費負担割合を医療費の9 割に引き上げる。

【被用者保険における格差の解消について】

政管健保の保険料率は82/1,000 %であるが、 それを上回る組合数は、1,584 組合中387 組合 である。今回の診療報酬改定では、82/1,000 % に統一にしようとしたところ、健保連等が反対 した。その代わりなのか、組合側は2,200 億円 のうちの750 億円を組合、250 億円を共済組合 が提供した。

日医総研の計算では、保険料率を82/1,000 % に統一すると、約1 兆円捻出できるとしている。

【2008(平成20)年度診療報酬改定について】

日本医師会は、2007 年10 月30 日付で、 「2008(平成20)年度診療報酬改定に向けての 要望書」を提出した。中医協はそれを受け、平 成20 年度診療報酬改定については、とりわけ 産科・小児科や救急医療等の実情等に照らし て、次期診療報酬改定においては、勤務医対策 を重点課題として診療報酬の評価を行うべきで ある。

また、支払側は、医療における資源配分の歪 みやムダの是正による範囲内で行うべきとの意 見であったのに対し、診療側は、地域医療を守 るために診療報酬の大幅な引上げの実現を行う べきとの意見であった。

<質疑応答>

長崎県医師会:明石先生より質問

今後の財源は、特別余剰金から取れるとの事 だが、消費税のアップが現実的ではないか。日 医で意見は出ないのか。

大分県医師会:近藤先生回答

個人的に思っている方はいると思う。しか し、医師会は金儲けをしていると捉われがちな ので、日医からは積極的に発言することはでき ない。

長崎県医師会:佐藤先生より

厚労省は、政策を頻繁に変えてくるが、その 政策や方針が間違っていると納得させるべきで ある。7 対1 問題に関しても、そのままいけば、 中小病院は崩壊し、地域医療は崩壊する。

大分県医師会:近藤先生回答

委員からも同様な意見があがっている。委員 会には権限はないので、日医執行部と厚労省と で徹底して話し合うべきである。

長崎県医師会:押渕先生より要望

医療経済実態調査は不合理で、現実的でな い。中医協で議論する場合は、実態に基づいた 調査をして欲しい。

2.有床診療所に関する検討委員会(美川隆造委員・佐賀県)

有床診療所は、高齢者の療養や介護の受け入 れ、正常・異常分娩、あるいは、小手術から比 較的高度な手術の実施まで、地域に密着し住民 のニーズに応じた適正な医療を柔軟に提供する ことで、長い間、我が国の中核的医療単位とし て機能してきた。

また、大病院とは異なり、病者・家族にとっ て、距離的・心理的アクセスの良さは何物にも 代え難いものがある。

したがって、多様化する患者のニーズに対応 していくには、大病院の組織医療より、有床診 のほうが、より適切な全人的医療の提供が可能 である。

これまで、有床診の管理者は、入院患者を医 師自らの責任で管理し、法的な要求がなくても 必要な看護職を配置してきた。また、安全基準 等の規制にも対応してきた。

国は、昭和60 年の第一次医療法改正で「地 域医療計画」を策定したが、有床診の病床を “緊急避難的な病床”と位置づけ、“正式な病床 ではない”として、地域医療計画の必要病床数 の算定から除外した。

こうしたことにより、“見かけ上の病床不足” という事態が出現し、一年間に一挙に6 万床と いう未曾有の病院の“駆け込み増床”を引き起 こし、必然的に看護職の不足を招いた。

この医療計画で、国が“有床診無用論”を明確に打ち出しているにもかかわらず、当時の日 医の対応は極めて曖昧で、これをそのまま受け 入れたために、後に大きな問題を残すことにな った。

有床診の今後の存続に危機感を持った有床診 開設者は、昭和63 年2 月に全国有床診療所連 絡協議会を立ち上げ、日医に存在意義を強く訴 えてきた。

その後、平成14 年9 月からプロジェクト委 員会として「有床診療所に関する検討委員会」、 平成18 年度には、他委員会と同様の常設委員 会となった。

同委員会の基本的論点は、1)「患者の入院期 間に関する48 時間規制の扱い」、2)「診療報酬 における評価」、3)「法制上の枠組みのあり方」 の3 点に絞られ、48 時間規制の撤廃に向けた議 論が中心的論点となり、白熱した議論が展開さ れた。

平成16 年度・17 年度も同様の議論が続き、 有床診の機能を類型化して法制化することにつ いても検討されたが、既に有床診の療養病床が 機能していることから、これ以上の制度的区分 は適当でないとした。

一方、厚労省は平成17 年4 月から初めて有 床診の問題を社会保障審議会医療部会に諮問 し、医師ではない委員から見ても“48 時間” という超非現実的・不可解な患者収容期間制限 条項が、医療法施行以来、実に60 年も続いて きた。

こうして平成18 年6 月の第5 次医療法改正 で、実態からかけ離れた“48 時間”という収 容期間制限がようやく撤廃された。

しかしながら、有床診の無床化が年毎に著し くなっており、毎年約1,000 の診療所が病床を 閉鎖している。その主な原因として、病院と有 床診との入院基本料の格差の拡大、介護施設を はるかに下回る低い入院料が、病床の運営を急 速に困難にしている。

このまま年1,000 施設の病床閉鎖が続けば、 12 年後には有床診は消滅することも予想される。

本委員会では、平成18 年度後半から19 年度 にかけて、「平成20 年度医療費改定に向けての 有床診の診療報酬における評価」について議論 を行い、1)改正医療法と診療報酬との整合性の 観点から、入院基本料が適正に評価されるこ と、2)後期高齢者医療制度に係る診療報酬改定 においても、有床診の入院医療が適正に評価さ れること、3)地域における有床診の今後の役 割・機能がこれまで以上に重要となることの3 点を盛り込んだ緊急提言(H19.3.16)・緊急 要望(H19.10.22)を唐澤会長宛に提出した。

今後の有床診のあり方として、今回の医療法 改正を機に、「病院病床」と「診療所病床」は 別の概念で捉え、最大でも19 床という経営効 率の悪い有床診を患者の利便のために存続させ るため、複雑な病床区分や制約を設けず、実態 に即したものにし、急性期から慢性期、終末期 に至る医療・介護が行える自由な病床として、 その柔軟な特性を維持させるべきである。有床 診の入院に係る診療報酬については、「病院」 と「介護施設」の中間程度の評価がなされて当 然であると委員全員が合意している。

<質疑応答>

大分県医師会:嶋田先生より質問

入院基本料の加算には限度があるので、有床 診療所に関する制度や機能を変える事によっ て、評価してもらうほうが良いのではないか。

例えば、在宅支援診療所や医療・介護難民の 受け皿など、これらに対応する事で診療報酬を 上げてもらった方が良いと考える。

佐賀県医師会:美川先生回答

診療科によって抱える問題はまちまちであ る。全科や終末期等を扱うのは非常に困難であ る。全体で考えれば、入院基本料のアップを要 望することが妥当である。

無床化が増えてきているが、看護師や当直が いなければ、夜間の対応が非常に困難であると いう問題も出てくる。

印象記

玉城信光

副会長 玉城 信光

平成20 年3 月8 日(土)午後の会である。場所は長崎。3 月8 日、9 日は乳癌学会九州地方会と 九州チーム医療研究会が福岡で開催された。乳癌学会の世話人をしている私としては大変都合の よい会議であった。午前中に乳癌学会に出席し、午後医師会の皆と落ち合い長崎へ行った。翌日 曜日に早朝福岡に戻り学会に出席できた。沖縄からも多くの先生方の発表があった。

九州医師会連合会長挨拶の後に報告として

(1)社会保険診療報酬検討委員会(近藤稔委員・大分県) の報告がなされた。詳細は報告を見て頂きたい。

(2)有床診療所に関する検討委員会(美川隆造委員・佐賀県)

有床診療所は、高齢者の療養や介護の受け入れ、正常・異常分娩、あるいは、小手術から比較 的高度な手術の実施まで、地域に密着し住民のニーズに応じた適正な医療を柔軟に提供すること で、長い間、我が国の中核的医療単位として機能してきた。私も沖縄の有床診療所協議会の会長 として美川先生に大変お世話になっている。

有床診開設者は、昭和63 年2 月に全国有床診療所連絡協議会を立ち上げ、日医に存在意義を強 く訴えてきた。

平成18 年6 月の第5 次医療法改正で、“48 時間”という収容期間制限がようやく撤廃された。 それと同時に自由開業であった有床診療所が開設に許可が必要になってしまった。そのうえ、有 床診の無床化が年毎に著しくなっており、毎年約1,000 の診療所が病床を閉鎖している。その主 な原因として、病院と有床診との入院基本料の格差の拡大、介護施設をはるかに下回る低い入院 料が、病床の運営を急速に困難にしている。

このまま年1,000 施設の病床閉鎖が続けば、12 年後には有床診は消滅することも予想される。

有床診療所の未来には不確定要素が多いが、産婦人科での分娩数は全分娩の40 %以上を担って おり、これからも心意気のある先生方に有床診療所の開設をお願いしたい。また会員の皆様の有 床診療所への一層のご支援をお願いします。

長崎観光をする事なく長崎の夜はふけていった。