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沖縄県医師会理事退任のご挨拶

今山裕康

前理事 今山 裕康

理事を退任するに当たり、ご挨拶申し上げます。

平成16 年より沖縄県医師会理事を拝命し2 期 4 年間主に医療保険を担当しました。自分なり に精一杯担当させていただきましたが、会員各 位には何かとご不満な点もあったかと存じます。 この紙面をお借りしてお詫び申し上げます。

さて、地区医師会の経験はありましたが県医 師会とはどんなところだろうと多少不安な気持 ちがあったのは事実です。ところが不安はすぐ に払拭されました。何はともあれ事務局の職員 がよく働かれるのには驚きました。至れり尽く せりかゆいところに手が届くような気配りで大 いに助けられました。

また、九州医師会連合会より日本医師会の勤 務医委員会に推薦される機会に恵まれ、2 期4 年間務めさせていただきました。日本医師会の 活動の一部を直にみることができ、非常に貴重 な経験でありました。

ところで、悲しい出来事ですが、一部勤務医 の中で新しい勤務医の医師会を作ろうという動 きがあります。これは医療界がぎりぎりのとこ ろまで追い詰められた証なのかもしれません。 すなわち、勤務医が相手を思いやる気持ちを持 つ余裕さえなくなったためなのかもしれません。

これからますます医療を取り巻く環境は厳し くなっていくものと考えられますが、お互い相 支えながら難局を超えていっていただきたいと 思います。

まず、医療保険を担当したことについて、私 にとって非常によい経験をしたと思っておりま すが、会員のお役に立てたかどうかは不明で す。恥ずかしい話ですが、医療保険を担当する まで、医療保険制度を全く理解していませんで したし、「保険医療機関及び保険医療養担当規 則」なるものが存在することさえ知りませんで した。早速、医科点数表の解釈(通称青本)を 読んで猛勉強をしましたが、年のせいか、なか なか頭に入りません。やはり実地が最大の勉強 になりました。即ち、個別指導の立ち会いであ ります。これは非常に役に立ちました。“百聞 は一見にしかず”であります。この経験から保 険診療に関する理解は深まったと思います。と ころで、この立ち合いで気が付いたことは先生 特に勤務医の先生はこの規則をあまりご存じで ない方がおられ、時に規則の存在自体を全く知 らない方もありました。

この経験を通して思ったことは日本の医学教 育が間違っていることです。それは世界に冠た る日本の医療保険制度を学生時代に全く教えて いないということです。病因、病態生理、診 断、治療といったことは教えるのに、日本の医 療を支えている制度について全く無知のまま医 師になる。日本の医師である以上、教科書的、 あるいは学問的に正しいことでも保険診療の上 実際にはできない医療が非常に多く存在するこ とを知っておかなければならない。この理解な くして日本における患者中心の医療は成り立た ないことをもっと教えるべきです。

また、医療情報システム委員会を担当させて いただきました。

私の考えは、“IT 化推進はまず事務局から” でした。いくらIT 化推進を声高らかに叫んで みても、肝心の事務局が遅れていては何もなり ません。“櫂より始めよ”であります。事務局の努力によりペーパーレス化は進み、今では事 務局内の書類はほぼ電子化されております。医 師会全体のIT 化はこれからの課題であり、そ のためには医師会事務局内にシステムエンジニ アを採用することが必要だと考えます。是非、 ご高配いただきたいと思います。

県医師会理事となった年に九州医師会連合会 を通して日本医師会勤務医委員会の委員に推薦 され、2 期務めさせていただきました。1 期2 年 間で日本医師会長の諮問に対して答申書を書く のが作業であります。1 期目は植松会長、2 期 目は唐澤会長でした。

両会長の勤務医に対する考え方は非常に異な っていました。植松会長は“全国の医師は不足 していない。偏在が問題である。”とする一方、 唐澤会長は“医師が不足し、医療崩壊の危機に 瀕している。”との認識であり、2 人の基本認識 の違いは大きいものでありました。

全国勤務医部会連絡協議会というのがあっ て、各都道府県医師会の勤務医が集まって会合 するというのがあります。植松会長時代は熊本 県、香川県が担当でしたが、ややお祭り気味な 会合でしたが、唐澤会長に交代して最初の埼玉 県担当の会合では勤務医の不満が爆発し激しい 議論が交わされました。平成19 年度は我が沖 縄県が担当県でありましたが、この流れは続い ており「沖縄宣言」として全国に発信されたこ とはよかったと思いますが、討論の時間が少な く参加者から不満が寄せられことは多少残念で ありました。

最後に医師会活動の中で感じたことであり、 あえて書かせていただきました。

今回、医療事故に対する“新しい原因究明制 度”についての議論の中で新しい勤務医の医師 会を作ろうという機運があります。このときの 議論は、医療は特殊であり高度の専門知識がい るから、事故に関しては専門家の集団が原因を 究明すべきという考え方であります。これは非 常に危険な考え方だと思っています。いわゆ る、専門家に任せておけ、素人は口出しするな 的発想です。患者中心の医療、開かれた医療と いいながら根底にはどうせ素人には解らないの だから任せておけ、いわゆるパターナリズム (paternalism)がこんこんと流れているのであ ります。やはり医療界が信頼を得、本当の意味 で患者さんと協働で医療を実践するためには、 患者・家族と医療提供側だけでなく第3 者も入 った状態で予防医学から終末期医療までを支え なければならないことは明白であります。しか し、いまだ医療界にパターナリズムが蔓延って いるのだと思うと、憂いとともに非常に残念な 気持ちになります。はなはだ私見であり、ご意 見もあろうかと存じますが、退任のご挨拶とし て平にご容赦ください。

最後にご指導、ご鞭撻をいただいた稲冨前会 長、宮城現会長を始め各副会長、理事の先生方 には厚く御礼申し上げますとともに、山城局長 を始めとして事務局各位には心より感謝申し上 げます。