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ソリューショントークのすすめ

長田清

長田クリニック 長田 清

家庭や仕事場で会話がスムーズに弾んでいま すか。何かギクシャクしたり、停滞したりして いませんか。そういう時に役に立つ会話法をご 紹介します。

まずはこういう会話を見て下さい。

●帰りの遅い娘に

父「毎日毎日帰りが遅い。勉強もしないで遊び 回って、大学はどうするんだ」

娘「・・・(無視)」

父「食事は8 時前に済ませな いと、体によくないぞ」

娘「お父さんだって、毎晩酒飲 んでお腹メタボでブヨブヨ」

父「何言うか、お前だって足が太いだろう」

娘「うるさい、むかつく。遺伝よ」

母「お父さん、傷つくことあまり言わないで」

父「だって本当のことだろう。お前だっていつ も、足が太い、太いって嘆いているだろう」

母「あなたに言われたくないわ。あなたの方が 太っているじゃないの」(`へ´)

父「何!大体お前のしつけがなってないから、 娘が夜遊びしているじゃないか」(`へ´)

こういう会話をProblem Talk(問題志向会 話)と言います。悪気はないのですが、つい何 気なく相手の欠点、問題を指摘して注意しま す。注意して直させようと一生懸命になり、優 位に立つため弱点だけついて、いつの間にか、 けなし合いになってしまうことがあります。本 当は家族と楽しい会話をしたいはずなのに、ど うしてこうなってしまうのでしょうか。

次の会話を見てください。

○帰りの遅い娘に

父「お帰り」

娘「うん」

母「お腹空いたでしょう、お味噌汁温めるね」

娘「うん。おかずは」

母「きんぴらごぼうたくさん作ったの。鶏の唐 揚げもあるよ」

娘「またチキンね、焼き肉が食べたいな」

母「カレーもあるわよ、冷蔵庫」

娘「うん、じゃあ、それも温めて。今日さ、 マックでだべっていたらね、サヤカが失恋し たんだって。相手は27 才の居酒屋店員」

父「え、男と付き合っているのか」

娘「私じゃないよ、お父さん。サヤカよ、それ に別れたって」

母「それで」

娘「3 ヶ月付き合ったのに、別の女ができて、 頭来たって、写真破ったって。可哀想」

母「可哀想ね」

父「それでお前なんて言ったんだ」

娘「高校生だから、まだそんな恋は早いと思う の。そんな浮気な男、早く分かって良かった ね、と言ったわ」

父「そうか、お前はしっか りしているな」

娘「うん」(^.^)

母「お父さんゆずりよ。考 え方は慎重でお父さんに よく似ているわ。安心よ」(*^_^*)

聞いていて、安心できる会話ですね。欠点、 問題点をつっつかず、楽しい会話が続いていま す。誰も怒らないので安心して娘さんがいろい ろなことを話してくれます。こういう会話を Solution Talk(解決志向会話)と言います。 相手の良いところ、やれているところに焦点を 当てた会話で、相手をねぎらい、認めることを しています。問題トークだと、相手の悪いとこ ろを注意していろいろ教えようとします。この お母さんはそういうことをしていません。娘の 考えを聞いて、認めてあげて、良いところをほ めています。子どもといえども、それなりにし っかりしたところがあるのです。それを認めて いくことで子どもは成長するし自信を持って、 自ら判断して自分を守ることができるようにな ります。相手が患者さんでも同じことです。

診療の中でもこういう解決トークを心がける と話が弾み、患者さんも心地よくなります。

ちょっと紹介してみます。(個人情報保護の ために、個人属性は少し変更してあります。

○ 74 才女性 不安障害。不眠、不安、落ち着 きがなく、涙が良く出る、などが主訴。初回 はいろいろ話を聞いて、安定剤デパスを眠前 に処方。その2 週間後。

患者「眠れるようになっています」

医師「良かったですね」

患者「でも本当は友達に騙されて、金銭関係のこともあるんです。絶対返してくれなくて、 払いきれなくて、破産したんですよ。」

医師「そうでしたね、大変でしたね」

患者「それで眠れなくなっ て・・・」(>_<)

医師「そうですか、いろいろ あって大変でしたね。でも その苦しみから元気になるためにどうやって きたんですか」

患者「友達が、車で連れ出しに来てくれる。 日曜日にはスーパーの朝市があるので、そこ に、買い物とか行く」(^_^)

医師「へぇー、朝市いいですね」

患者「はい」(^。^)

医師「他にはどんなことをしてますか」

患者「カラオケにも誘ってくれる。シルバー割 引とかもある」

医師「そんな割引があるの?」

患者「はい、たまにある」

医師「何を歌うの、演歌?」

患者「・・・あまり歌えないけど、音楽が鳴っているだけで楽しい」(^.^)

医師「なるほど、そうやって、 気持を切り替えて、頑張っ ているんですね」

患者「はい」(*^_^*) (生き生きしてくる)

相手が出してきた問題を根掘り葉掘り聞かな いようにしています。「どうして保証人になっ てしまったの」「ちゃんと相手の財産を確かめ なかったの」「もっと早く対応できなかったの」 「反省する点は」「どうして自分で頑張らない の」「もう少し努力してみたら」などの会話は 問題志向型になります。法律場面では役に立つ 場合もありますが、診察場面では役に立たない 会話です。

その代わりに、できていることを聞きます。 「できていることは何ですか」「どうやってそれ ができていますか」「どうなりたいですか」「そ のために自分ができることは何ですか」という 質問をします。良いところ、頑張っているとこ ろ、未来への希望を引き出していきます。する と自然に笑顔が出て元気になります。

他科の先生から、精神科や心療内科って苦し い話をたくさん聞かされて大変でしょう、と言 われることがあります。でも苦しい話の後に は、うまくいっていること、楽しいこと、面白 いこと、良かったことを引き出していくので、 楽しい話にシフトしてお互い楽になるんです。 短い時間でも、診察場面でのSolution Talk は 役に立ちます。「最近何か良かったことない?」 「楽しかったことはなかった?」

昔、病院勤めしていたときに外来の看護師さ んから「長田先生は気楽でいいね。患者さんを 笑わせて帰して、遊んでいるみたい」と言われ てショックでした。遊んでいるのではないで す。真剣に、笑ってもらうようにしているので す。ただ、面白い話をこちらがするのではなく て、楽しい話を引き出していくと、自然に元気 になっていくのです。まあでも、遊んでいると 思ってもらってもいいかな。それはSolution Talk しているとこっちも楽しいから。(^_^;) SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬) を使って脳のセロトニンを増やすより、自力で 分泌量を増やすお手伝いをしたいからです。