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未成年者飲酒防止強化月間に因んで

玉井修

曙クリニック 玉井 修

昨年から未成年者集団飲酒による補導のニュ ースが多く新聞紙上を賑わしています。3 月、 4 月と卒業や入学を期に更に未成年飲酒の補導 が増え、更に危惧するのは新入生歓迎コンパ等 での一気飲みで急性アルコール中毒によって前 途洋々たる優秀な若者が命を失う事態を危惧し ています。飲酒運転撲滅運動は県民運動として 盛り上がりを見せ、大きな成果を上げたことは 問題意識を社会全体で共有できれば社会を良く できるという事を印象づけました。飲酒天国や ら飲酒に寛容と言われ、飲酒にまつわる様々な 問題を抱える沖縄県において、継続して飲酒に 関する弊害を訴え、社会認識を高めていく試み は忍耐強く続ける必要があります。安謝小学校 の校医をしている関係で、昨年の夏に小学校6 年生を対象に未成年飲酒の危険性について講演 する機会を得ました。約1 時間の講演の間、小 学生には法律で禁じられているからダメという 話より未成年飲酒による様々な弊害を理解して 貰うことに努めました。自分を大切にする気持 ちを育む事によって飲酒をしないという選択を 自発的に選んで欲しいと願ったためです。講演 会において用いたスライドで講演内容を簡単に 説明しましょう。

小学校での講演会

飲酒をはじめて経験する場面とはどの様な場 面でしょうか?皆さんもよ〜く思い出してみて ください。はい、そうです。ほとんどはお正月 やお盆の時に親に勧められて飲んだのが始まり です。これは全国データでもしっかり出てきて います。ですから、まず講演会の冒頭に居酒屋 などへ家族で出かけ、親が飲酒のきっかけを作 らないように釘を刺します(表1)。そして、飲 酒が未成年にとって如何に危険かを説明しま す。特に脳の発達には悪影響を及ぼし、イチロ ーなどの一流選手は運動神経もさることながら 明晰な頭脳がなければ一流の運動選手にはなり 得ないと力説しますと男の子などは真剣な眼差 しでこちらを見つめます(表2)。そんなに問題 のある飲酒を何故大人は許されるのか?そんな 素朴な疑問が湧いてきます、ここで大人は体が 出来上がっているから構わないのだと逃げを打 つことはしません。飲酒は大人にとっても弊害は大きい事を素直に認めてしまいます(表3)。 飲酒の弊害の中で、喧嘩や交通事故の問題も取 り上げます。実際に救急病院で遭遇した症例の 話をすると子供達は真剣に聞き入ります。酒を 飲んで喧嘩をして指を骨折したギタリストの 話、一気飲みによる急性アルコール中毒で10 年間に70 人の新入大学生が死亡している事を 話します(表4)。そして最後に小学生に対して 自分自身を大切にすることを訴えます。学力試験で成績が悪かったりと、様々な教育現場での 問題が取りざたされる昨今ですが、自分自身を 大切にし、他人を思いやる気持ちを何よりも大 切に育んで欲しいと訴えます(表5)。実際に講 演会ではもう少し図表を交えて、小学生にも解 りやすくしてあります。もし先生方で講演会な どでお使いになりたいというご希望がありまし たら那覇市医師会事務局のライブラリーにあり ますのでCD-ROM でデータをお貸ししていま す。先生方がお好きなようにモディファイして ご利用いただけたら幸甚の至りです。

表1

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表2

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表3

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表4

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表5

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沖縄県警察本部からの資料

さて、ここまできて、頻繁に報じられる未成 年飲酒の問題は単にマスコミが騒いでいるだけ なのか、それともかなり深刻な問題なのかをも う少し深く検討してみたいと思い、県警本部に 問い合わせて資料を頂きました。(県警資料1 〜 5)。これを見ると、沖縄県は統計が出ている 平成13 年以降、未成年飲酒補導は全国の約10 倍という恐ろしい実態が浮かび上がります。深 夜徘徊、飲酒、喫煙により中学生、高校生が午 前0時を過ぎた時間帯に多く補導されていま す。また、調査範囲はまだ充分ではないとの事 ですが、お酒の入手先としてコンビニ・スーパ ーなどからお酒を購入している場合が多いとの こと。全国データでは、お酒は自宅からの持ち 出しが多かった事と比較して、沖縄の未成年飲 酒を助長しているのは深夜営業のコンビニ・ス ーパーである可能性が示唆されます。コンビ ニ・スーパーの特に深夜帯における未成年に対 するお酒類の販売をしっかり監視するシステム 作りは有効かも知れません。そして何より、未 成年者がそんな深夜帯まで夜間徘徊することを 許容する家庭自体が病んでいます。安謝小学校 でのアンケートでは未成年飲酒に関して家庭で 話をしたことがあるかどうかの問いに対して、 約6 割の子供達が家庭での話し合いがあったと 答えています。未成年飲酒の問題は、まずその 危険性をしっかり伝える事、そしてその事に対 して家庭で大人と子供達が真剣に話し合いを持つ必要があると思います。家庭という社会を構 成するべき分子構造が崩壊し、子供に無関心な 親、自分を大切に出来ない子供、お互いに思い やることの出来ない子供がバラバラになって社 会の中に秩序無くさまよっています。未成年飲 酒の問題は家庭機能の崩壊が招いた一つの枝葉 に過ぎません。もっともっと深刻な問題が根深 くこの沖縄の社会を蝕んでいるのです。

沖縄県警察本部からの提供資料