翔南病院 循環器科
大城 力、芳田 久、山城 啓、新里達志、
澤岻由希子、大城義人、知花隆郎
【要 旨】
高周波カテーテルアブレーションとは、経皮的に心腔内に挿入した電極カテーテ ルの先端と体表の背面に貼り付けた対極板との間の高周波通電により、頻脈性不整 脈の起源あるいはそのリエントリー回路の一部となる心筋組織を挫滅することによ り不整脈を根治する方法である。アブレーションのエネルギー源として当初は直流 通電法が行われていたが、1980 年代後半に入り直流通電から安全なエネルギー源と して高周波が主流となった。さらに、先端電極4 〜 8mm のlarge tip カテーテルや 先端部分の角度を変更可能なdeflectable カテーテル、マッピングのための種々形状 の電極カテーテルそして、最近では異所性興奮の発生源から心臓各部位への興奮伝 播様式まで鮮明なカラーの動画で表現できるシステムelectro-anatomical mapping (CARTOTM)やnon contact mapping system(EnSiteTM)の登場で手術成功率が飛躍 的に向上した。現在カテーテルアブレーションはWPW 症候群、房室結節回帰性頻 拍(AVNRT)、心房頻拍、心房粗動および特発性心室頻拍などの根治療法として 広く応用されfirst line therapy としての有用性と安全性は確立されたものとなった (図・表1)1)。また、各施設とも従来薬物療法が主体であった心房細動に対するア ブレーションも積極的に行われるようになり成績の向上が認められる。本章では、 日本循環器学会のガイドラインを元に各不整脈のカテーテルアブレーションの適応 と当院での成績および知見を報告する。
表1 カテーテルアブレーションの適応となる不整脈
図1 当院で施行したカテーテルアブレーションの内訳
カテーテルアブレーションは不整脈の根治療 法である。患者は、いつ発作が起こるかわから ない不安や長期におよぶ服薬およびその副作用 の心配から解放され、カテーテルアブレーショ ンの優位性は経済的、身体的および精神的側面においても薬物療法よりはるかに優るものと考 えられる。しかし、全ての頻拍性不整脈がカテ ーテルアブレーションの適応となるわけではな く、常に重篤な合併症が起こりうることを考慮 しなければならない(表2)。
表2 カテーテルアブレーションの合併症(当院)
多施設の共同研究によるカテーテルアブレー ションの成功率は、副伝導路アブレーションで 93 %、房室結節回帰性頻拍のアブレーションで 97 % 2)、心房粗動や心房頻拍では70 %3)となっ ている。一方、1996 年の報告による重篤な合併 症は3 %で、完全房室ブロック、心筋穿孔、心 タンポナーデ、脳血栓塞栓症、大動脈弁や僧帽 弁の弁損傷などが報告されている4)。なお当院 における重篤な合併症は1 %未満である。
2001 年の循環器学会が発表したガイドライ ンではアブレーションの適応になる不整脈を、 症候性の頻拍で薬剤抵抗性の場合、あるいは患 者が薬物服用が困難であったり、薬物の長期服 用を望まない場合などとされている5)。
しかし、アブレーションを第一選択とするか 否かに関しては、各施設における経験と成績に 応じて決定するのが妥当である。
以下、各々の疾患に対する概要とアブレーシ ョンの適応について述べる。
WPW 症候群とは正常の房室結節を介する伝 導路以外に、房室弁輪部に心房と心室を連結す る房室間副伝導路が存在し、PR 間隔の短縮や 心室早期興奮によるデルタ波などの特徴的な心 電図所見を呈する症候群を言う。副伝導路の順 行性伝導が存在せず(従ってデルタ波を有しな い)、逆行性伝導しかないWPW 症候群を「潜 在性」WPW 症候群と言い、この場合は体表心 電図からの診断は不可能である。WPW 症候群 は、顕性、潜在性共に房室結節と副伝導路を介 して心房と心室の間で興奮旋回する房室リエン トリー性頻拍を呈する。また、WPW 症候群は 健常者に比べ心房細動を発症する率が高く、特 に、副伝導路の順行性不応期が短い例では心房 細動から心室細動(Pseudo VT)に移行し突 然死に至る危険性がある6)。表3 にWPW 症候 群で突然死をきたす可能性の高いハイリスク群 を示す。
表3 WPW 症候群のハイリスク群
副伝導路に対するカテーテルアブレーション は、僧帽弁輪部あるいは三尖弁輪部の局所電位 で、心房-心室間の最短伝導時間を示す部位が 至適焼灼部位となる。また、副伝導路が逆伝導 しかない潜在性WPW 症候群においては、心室 ペーシングを行い局所の心室-心房伝導時間の最短部位に対して焼灼を行う。WPW 症候群に 対するカテーテルアブレーションの有効性、安 全性は確立されており、1999 年の多施設共同 研究によるアブレーション成功率は左側自由壁 95 %、右側自由壁90 %、前中隔98 %、後中 隔88 %と報告されている2)(表4)。
表4 房室結節回帰性頻拍と副伝導路アブレーションの成功率と再発率
ACC/AHA ガイドラインではアブレーショ ンの絶対適応として、症状を有し薬剤抵抗例、 副伝導路の順行性有効不応期が短縮しているハ イリスク例をあげている(表5)。しかし、カテ ーテルアブレーションの経験豊富な施設では成 功率95 %以上(われわれの施設ではそれぞれ 左側自由壁99.2 %、中隔98.6 %、右側自由壁 99.0 %である)で、さらに合併症の発生率も少 なく適応は拡大されつつある。前述のハイリス ク群や薬剤抵抗性ばかりではなく、頻拍発作が あり患者が薬物療法よりカテーテルアブレーシ ョンを望む場合はWPW 症候群の全例が適応 と考えてよい。さらに職業や社会的問題(パイ ロットや公共交通機関ドライバー、高所や水中 での作業者、スポーツ選手)を考え、頻拍の既 往がなくとも社会的適応の観点からカテーテル アブレーションが選択される場合もある。
表5 WPW 症候群に対するカテーテルアブレーションの適応
また、特殊な副伝導路症候群としてマハイム 束による房室リエントリー性頻拍がある7)。マ ハイム束は、WPW の副伝導路と異なり心房と 脚枝などの刺激伝導系を連結する副伝導路で房 室結節様の減衰伝導特性を有する。通常逆伝導 はなく起こりえる頻拍はマハイム束を順行性に 房室結節を逆行性にリエントリーする逆方向性 リエントリー(antidromic AVRT)である。 アブレーションは三尖弁輪周囲のマッピングに てマハイム束電位と呼ばれるヒス束波様の spike 電位記録部位のカテーテルアブレーショ ンで比較的容易に根絶可能であるが、まず、マ ハイム束であるかどうかを疑い、確定診断する ことが重要である。
WPW 症候群と同様に発作性上室性頻拍の約 40 %を占める頻拍症である。
房室結節における二重伝導路(房室結節への 前方入力路である速伝導路/fast pathway と後 方からの入力路である遅伝導路/slow pathway) 間のリエントリーが本頻拍の機序である。 頻拍の90 %はslow pathway を順行性に、fast pathway を逆行性に旋回する通常型AVNRT で、残り10 %は非通常型AVNRT(fast pathway を順行性にslow pathway を逆行性に旋回) である。slow pathway かfast pathway のどち らか一方の伝導路を焼灼すれば根治できるが、 fast pathway アプローチは高率に完全房室ブ ロック起こす危険性があるため、現在ではslow pathway のアブレーションが選択される。slow pathway に対するアブレーションは、Koch 三 角部後下部で“slow(pathway)potential”と よばれる特徴的な棘波を呈する心房波が記録さ れる部位に通電を行う。AVNRT に対するカテ ーテルアブレーションのガイドラインを表6 に 示す。AVNRT に対するカテーテルアブレーシ ョンの成功率は97 %前後、再発率は5 %前後、 合併症発生率は1 %前後と報告されている(表 4)2)。AVNRT の至適焼灼部位が中隔に存在 するため、合併症として完全房室ブロックの割 合が高く注意すべき点としてあげられる。当院 では成功率100 %、房室ブロックに関しては通 電直後に一過性の2 : 1 房室ブロックを一例の みに認めたが、恒久的ブロック例はない。
表6 房室結節回帰性頻拍に対するカテーテルアブレーションの適応
頻拍による強い症状を伴う場合、あるいは持 続ないし反復性に著明な頻拍が生じる場合は心 機能の低下(tachycardia induced cardiomyopathy) をきたすことがある。頻拍の機序は異所性 自動能亢進、ないしは術後の心房切開瘢痕部周 辺(incisional AT)や房室結節近傍(アデノシ ン感受性AT)などに生じるリエントリーが機序 である。通常、AT は概ね薬剤抵抗性が多くアブ レーションの適応となる例が多い(表7)。しか し標的部位が後中隔や房室弁輪部に限定されて いるAVNRT やWPW 症候群と異なり AT の 起源は心房内のすべての部位が発生源となり得 るためマッピングに多少時間を要するが、経験 の豊富な施設ではAT の起源である最早期興奮部位を同定することは、それほど困難ではなく 数回の通電で根治可能な場合が多い。
表7 心房頻拍に対するカテーテルアブレーションの適応
通常型心房粗動は三尖弁輪を反時計方向に旋 回するマクロリエントリーである。そのカテー テルアブレーションのターゲットは三尖弁輪部 と下大静脈(Isthmus)を線状焼灼することに よって99 %以上の確率で成功する。しかし、 何らかの基礎心疾患に伴う心房障害部位や心手 術後の心房切開瘢痕部周辺を旋回する非通常型 の心房粗動(incisional reentry)の回路は複 雑で、通常の心内電位図のみではリエントリー 回路の把握は困難である。しかし、このような 非通常型心房粗動でもCARTOTM やEnSiteTM などの三次元的マッピングする事が可能な機材 が用いられるようになり、興奮回路を同定する ことが容易となり手術成績が向上した8)。
表8 にT型心房粗動に対するカテーテルアブ レーションの適応を示す。
表8 I 型心房粗動に対するカテーテルアブレーションの適応
心房細動の機序は複雑で、興奮旋回説や異所 性刺激生成説などがあるが、基礎心疾患を持た ず、心房径の比較的小さな心房細動の多くは異 所性起源の巣状興奮(firing)や期外収縮がト リガーとなって心房の各部位で細動様興奮旋回が生じていると考えられるようになった。その 発生部位の約80 %以上が肺静脈と考えられて おり、左房と肺静脈間の伝導をカテーテルアブ レーションによって隔離する「肺静脈隔離術」 が様々な手法で行われている。しかし、当施設 では、必ずしも心房細動源性期外収縮が肺静脈 ではなく、上大静脈あるいは下大静脈と右心房 との接合部または冠静脈洞から巣状興奮(firing) が発生し、同部位の通電にて心房細動が 根治した症例も経験しているので、心房細動に 対するカテーテルアブレーションはガイドライ ン(表9)にもあるように直に肺静脈隔離をす るのではなく、不整脈起源が肺静脈に限定され ているものを適応とした方が好ましいと考えて いる。また、心房細動治療群にI 群抗不整脈薬 を投与して粗動化した例に、Isthmus のアブレ ーションを行い洞調律に復帰させる方法を Hybrid Therapy と呼び、アブレーション後も 抗不整脈薬を予防的に投与することで、有効率 が高くなることも報告されている9)。
表9 心房細動に対するカテーテルアブレーション
持続性あるいは発作性の心房細動や非通常型 心房粗動、および心房頻拍などにより強い自覚 症状や血行動態の破綻をきたし、多剤薬物療法 あるいはカテーテルアブレーション治療困難な 症例においては房室接合部離断術の適応が考え られる。本法の問題点はペースメーカー植え込 みが必要な点である。したがって、本法適用に 関する患者への十分な説明が必須である。しか し、従来のアブレーション難渋例に対する新た な方法や新しいアブレーション用ディバイスが 数多く開発されたため、上述した難治性不整脈 に対しても房室接合部のアブレーションの適応 は減少しつつある。右側からのアプローチでほ ぼ房室接合部離断は可能な場合が多いが、稀 に、左側からの焼灼が必要な場合がある。両方 法を用いれば成功率はほぼ100 %近い。尚、当 院ではこれまでにアブレーションを施行した約 750 例中接合部アブレーションを施行したのは 2 例のみである。
心室性期外収縮は、一般的に良性な不整脈 で基礎疾患がなく心室頻拍に移行するような 危険性のないものに対する治療は不要である (表10)。しかし当施設では、強い症状を有し 著しく日常生活に支障をきたす症例で、投薬 より根治療法を希望される方にはカテーテル アブレーションを施行している。
表10 心室性期外収縮に対するカテーテルアブレーションの適応
心室頻拍に対するアブレーションの適応は、 まず明らかな基礎疾患を持たない特発性心室頻 拍である。特に代表的なものはQRS 波形が左 脚ブロック+下方軸を示すもので、右室流出路起源である(稀に左室流出路起源の事もある)。 流出路起源の心室頻拍は運動やカテコラミンで 誘発されやすく機序はtriggered activity と考 えられβブロッカーが有効なことが多いが、ア ブレーションも容易で患者が希望される場合は 当院では第一選択にしており95 %以上の成功 率である。また左室起源の特発性心室頻拍で右 脚ブロック+左軸偏位(稀に右軸偏位)を示す 心室頻拍もアブレーションの良い適応である。 通常心室頻拍はNa チャネルブロッカーが有効 であるが、上記の特発性左室起源心室頻拍は C a チャネルブロッカーが著功し機序は Purkinje network 間のリエントリーと考えら れている。アブレーションは左室後中隔下部で ペースマッピングを行い比較的良好なペーマッ ピングが得られる部位の近傍で、できるだけ早 期性を有するPurkinje 電位が記録される部位 にて焼灼すると容易に頻拍は停止する(表11)。 著者らは以前に右脚ブロック+左軸偏位と右脚 ブロック+右軸偏位の2 つの頻拍を有するVT に対して中隔側のPurkinje 電位記録部位の通 電にて両頻拍が誘発されなくなった症例を報告 したがおそらく成功部位のPurkinje が両頻拍 の中心共通路だったと推測される10)。
表11 心室頻拍に対するカテーテルアブレーションの適応
カテーテルアブレーションは多くの上室性 および心室頻拍症の治療として確立された治 療となったが、いまだに心房細動や基礎心疾 患に伴う心室頻拍の成績は充分とはいえず、 これらの複雑な機序による不整脈に対する治 療もさらなる発展が望まれるところである。
【文献】
1)大城力、沖重 薫、: カテーテルアブレーションの適
応と成績、臨床医、中外医学社、2002 年; vol. 28
No6:685-89
2)Calkins H et al. Catheter ablation of accessory
pathways, atrioventricular nodal reentrant
tachycardia, and atrioventricular junction Final
results of a prospective, multicenter clinical trial.
Circulation 1999; 99: 262-70.
3)Sheinenmann MM : NASPE survey on catheter
ablation. PACE 1995 ; 18 : 1474-8.
4)Hindricks G : Incidence of complete atrioventricular
block following attempted radiofrequency catheter
modification of the atrioventircular node in 880
patients : results of the Multicenter European
Radiofrequency Survey (MERFS) : the Working
Group on Arrhythmias of the European Society of
cardiology. Eur Heart J 1996 ; 17 : 82-8.
5)循環器病の診断と治療に関するガイドライン: Japanese
Circulation Journal. 2001 ; vol. 65 Suppl,V
6)Zardini M Risk of sudden arrhythmic death in the
Wolff-Parkinson-White syndrome and atrial
fibrillation. Relation between refractory period of
accessory pathway and ventricular rate during atrial
fibrillation . Am J Cardiol 1974 ; 34 : 777-82.
7)大城力、芳田久、新里達志、山城啓:マハイム束に
対する高周波カテーテルアブレーション、沖縄県医師
会報誌, vol.42 No3、2006.
8)大城力、芳田久、新里達志、山城啓: Electroanatomical
mapping system(CARTO)により複数の心房粗動を同定
しカテーテルアブレーションに成功したファロー四徴症
術後の一例、沖縄県医師会報誌, 2007 年;投稿中
9)新里達志、芳田久、大城 力、山城啓: 心房細動に対
するHybrid therapy の効果, 沖縄県医師会報誌Vo.40
No.3, 0917-1428、2004.
10)大城力、芳田久、新里達志、山城啓:頻拍中拡張期
電位の記録された中隔側の高周波カテーテルアブレー
ションで、同時に2 種類の左室起源心室頻拍の消失に
成功した一例:沖縄県医師会報誌, vol.42 No4 : 46-
49、2004 年.
著 者 紹 介
翔南病院 循環器科
大城 力生年月日:昭和40年11月9日
出身地:沖縄県 名護市
出身大学:琉球大学医学部 平成2年卒
略歴
平成2 年 琉球大学医学部附属病院第2 内科(医員)
平成4 年 沖縄県立那覇病院 勤務
平成10 年 北部地区医師会病院 勤務
平成13 年 琉球大学医学部附属病院第2 内科(助手)
平成13 年 横浜赤十字病院心臓病センター 勤務
平成15 年 翔南病院(循環器科主任・心臓カテーテルセンター長)専攻・診療領域
循環器・不整脈その他・趣味等
読書・映画鑑賞
問題:次のうち正しいのは何番か?
1.論文:耳鼻咽喉科領域の内視鏡下手術
問題:次の中から間違っているものを選べ。
正解 2
2.論文:転移性骨腫瘍と放射線治療について
問題:次のうち、正しいものを選択せよ。
正解 3、4、5
2 月号に掲載しました生涯教育コーナーの設問の 部分(81 ページ)に誤りがありましたので、下記 のとおり訂正し、お詫び申し上げます。
(正)c. MCV/RBC(× 106/μ l)<13 のときは、 サラセミアを疑う。
(誤)c. MCV/RBC(× 106/μ l)<13 のときは、 サラセミアを疑う。