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第53 回耳の日(3/3)に因んで

我那覇章

琉球大学医学部附属病院耳鼻咽喉科
我那覇 章

「耳の日」は耳疾患に対する啓蒙と難聴者の ために役に立ちたいという願いを込めて日本耳 鼻咽喉科学会の提案により制定され、今年で第 53 回となります。

耳は聴覚のみならず前庭覚(平衡)でもある ため耳の疾患では難聴に加えめまいが起こる疾 患も多くあります。今回は「難聴と聴覚補償 (補聴器、人工内耳など)の現状」、「めまい」 についてお話したいと思います。

【難聴と聴覚補償の現状】

全国の身体障害者のうち聴覚・平衡障害者の 手帳を持っている方は40 万人を超えています。 (厚生省統計要覧’07)身障手帳の対象となら ないものの、難聴で生活に支障をきたしている 人々は総人口の10 〜 20 %は存在すると見込ま れており(日本学術会議感覚器医学研究連絡委 員会’06)難聴および平衡覚障害は身近で切実 な問題です。

<補聴器>

軽度から中等度の難聴に対して補聴器は有効 な手段です。マイクで音を集めて、アンプで音 を増幅し、スピーカーで音を発生させる、これ を小型化したものが補聴器です。このアンプが アナログ処理のものをアナログ補聴器と呼び、 デジタル処理のものをデジタル補聴器と呼びま す。最近の補聴器はほとんどがデジタル補聴器 になっています。音声のデジタル処理は患者の 多様な聴覚特性に合わせたきめ細かな調整(フ ィッティング)が可能となり雑音抑制や指向性 のコントロールを行うものもあります。補聴器 は一般的に知られている気導補聴器の他に外耳 道閉鎖症や伝音難聴に効果的な骨導補聴器があ ります。形状も耳かけ型、箱形、挿耳型と様々 な種類があり装用者のニーズに合わせて選択が 可能です。

補聴器は中耳炎などの伝音難聴では補聴効果 が大きいですが、老人性難聴などの感音難聴で は有毛細胞や聴神経が障害されているためにい くら上手に補聴器を合わせても聴力改善には限 界があります。業者によっては補聴器を着用す れば何でもよく聞こえるように宣伝しているも のもおり、高額な補聴器を売りつけトラブルに なる事例も少なからずあります。平成17 年4 月から施行された「薬事法の改正」(厚生労働 省)に伴い補聴器は単なる医療機器ではなく、 「管理医療機器」に変更となりました。このよ うな現状と社会的変化に伴い、日本耳鼻咽喉科 学会では「補聴器相談医」制度を発足しまし た。補聴器活用に関する専門的な助言・指導が できるように学会の定めた研修を修了した会員 に補聴器相談医を委嘱し難聴者が補聴器を適切 に活用することに貢献する活動を行っておりま す。補聴器相談医はhttp://www.jibika.or.jp/senmon/senmonkensaku.html で検索すること ができます。

全ての補聴器は最終的に音を耳に提供する事 に変わりはなく、補聴器を装用しても言語を理 解できないような高度の難聴に対しては人工内 耳が適応となります。

<人工内耳>

蝸牛(内耳)は音という空気振動のエネルギ ーを電気信号に変換し脳へ音を伝達していま す。蝸牛の障害により高度の難聴になった症例 (感音難聴)に対して人工内耳は適応となりま す。初期の人工内耳は一度言語を獲得した後に失聴した患者(後天性難聴)に行われてきまし た。後天性難聴では手術後数ヶ月で会話ができ るようになります。その後先天性難聴でも早期 に人工内耳を行えば、言語療法により言葉を獲 得することが可能であることがわかってきまし た。手術はできるだけ早期に行う方が長期成績 が良く、2 歳までに手術を受けた患者の67 % が普通学級へ進学できたとの報告も見られま す。手術時期が遅くなるほど言語獲得は悪く、 個人差はありますが4 歳を越えると充分な言語 療法を行っても聴覚のみのコミュニケーション は難しくなってしまいます。我が国における人 工内耳の装用者は2006 年8 月時点で4,600 人 を超えています(その内35 %が小児例)。新生 児聴覚スクリーニングなど難聴に対する早期介 入の有効性が広く認識されつつあり、2006 年 には人工内耳の適応も拡大されました。適応年 齢はこれまで2 歳以上であったものが2006 年 より1 歳6 か月以上となり、難聴100dB 以上 から90dB 以上へと適応が拡大しました。人工 内耳はかなり有効な手段となりましたが、未だ 万能ではありません。人の聴神経は数万本ある のに対して、人工内耳は22 個の電極刺激によ り聴覚を代償しているため、本来の聞こえとは 異なる異質な音感覚となります。医用器具の進 歩は著しく今後も改良が加えられさらに言語理 解を向上させる取り組みが続いています。

沖縄県では診断・治療・リハビリを一貫して 行う施設として琉球大学医学部附属病院のみが 認定されています。琉球大学耳鼻咽喉科におけ る人工内耳手術は累計100 症例近くに達してお り難聴治療に積極的に取り組んでいます。

【めまい】

聴覚と同時に平衡覚(体のバランス)のセン サーは内耳にあります。前庭、半規管が平衡覚 を司っています。めまいは主としてこれら内耳 の部分的あるいは全体的な障害、または聴覚も 巻き込んだ障害により生じます。これが、俗に いう「耳から来るめまい」です。

めまい発作では小脳・脳幹の梗塞・血管障害 や腫瘍性疾患が原因となっていることもあり、 まずこれらを除外する事が大切です。詳細な問 診、発作時の眼振を含む神経学的所見、臨床経 過、耳鼻咽喉科的検査がめまいの診断に必要で す。日常診療において比較的頻繁に遭遇する 「耳から来るめまい」についてお話します。

<良性発作性頭位めまい症>

寝返りをした時や仰臥位から座位になるとき など頭位変換後に回転性めまいを起こす疾患で す。難聴はありません。通常、めまいは安静を 保つと1 分以内にめまい改善します。原因は半 規管内の微小な浮遊耳石(通常耳石は浮遊して いないが運動や振動により耳石が半規管内で遊 離した状態となる)が原因とされています。半 規管内の浮遊耳石が頭位変換とともに半規管内 を移動し内部のリンパ液に流れが生じます。こ れが半規管膨大部のクプラを刺激した結果、患 者さんはめまいを自覚します。多くは治療によ り数日から1 週間程度でめまい症状は軽快しま す。これ以上持続する場合は理学療法(浮遊耳 石置換法、浮遊耳石を半規管から排除する方 法)や手術治療(半規管閉鎖術)を行います。

<メニエール病>

メニエール病は難聴、耳鳴り、めまいが反復 して生じる疾患です。メニエール病は30 歳台 後半から40 歳台前半に発症することが多く、 ストレスとの関連が指摘されています。

メニエール病の本態は内リンパ水腫(内リン パ液が内耳に余分に貯留する)です。長期的に はめまい・難聴発作を繰り返しているうちに、 難聴は進行し不可逆性となります。めまい発作 が長期に続いている例では最初一側の難聴であ ったものが両耳とも難聴になる傾向がありま す。従来メニエール病は一側耳の病気と考えら れていましたが、最近では約30 %は両耳に発 症し最終的には両耳が高度の難聴になることが 分かってきました。めまい発作は各種治療であ る程度治すことができますが、固定した難聴が 治る可能性はほとんどありません。治療はまず 保存的治療を優先します。保存的治療(めま い・難聴発作時のステロイド投与やイソソルビドの内服など)に抵抗しめまい・難聴発作を繰 り返す症例においては手術(内リンパ嚢開放術 等)を行います。特に両側例では手術を行い聴 力のそれ以上の悪化を防ぐ必要があります。琉 球大学耳鼻咽喉科においてはめまい・難聴発作 のコントロールが不良なメニエール病患者に対 して内リンパ嚢開放術を行っています。めまい に対する内リンパ嚢開放術は約80 %の症例に 有効で、また70 %の症例で聴力悪化を防止す ることができます。メニエール病においてはこ れらの内服や手術といった治療以外にも日常生 活において精神的・肉体的ストレスを避ける・ 調節することも大切です。

【おわりに】

以上、聴覚補償の現状とめまいについて述べ ました。難聴やめまいは生命予後に直接関係の ない場合が多いですが、QOL は著しく損なわ れます。難聴・めまい等の症状を認める場合は 是非お近くの耳鼻咽喉科医(http://www.entryukyu.jp/okinawa-part/index.html)にご相 談いただきたいと思います。



お知らせ

日医生涯教育協力講座
セミナー 生活習慣病の克服をめざして

日本医師会生涯教育講座5 単位

日本内科学会認定内科専門医認定更新2 単位

  • テーマ:臓器保護を重視した高血圧治療のアプローチ
  • 日 時:2008 年3 月7 日(金)18:30 〜 21:30
  • 場 所:沖縄コンベンションセンター会議棟B 2階大会議室
         宜野湾市真志喜4−3−1 TEL 098−898−3000

<一般演題>

座長 仲田清剛先生(中頭病院ちばなクリニック院長)

1.心血管疾患危険因子としての心拍数  井上卓先生(ハートライフ病院循環器科医長)

2.当院における糖尿病患者の高血圧治療の現状  屋良朝博先生(中頭病院糖尿病センター医長)

3.腎疾患治療における降圧療法  上江洌良尚先生(うえず内科クリニック院長)

<基調講演>

座長 瀧下修一先生(琉球大学医学部循環系総合内科学教授)

「早朝高血圧Up To Date 」

苅尾七臣先生(自治医科大学COE/内科学講座循環系総合内科学教授)