那覇市立病院内科 金城 譲
今回、若手コーナーへの原稿を依頼された 時、これまでは大先輩方が投稿されているのを 知っていた私は、タイトル自体は私に当てはま るものの、いささか違和感を感じておりまし た。医師4 年目という立場で、いったいどのよ うな原稿が書けるのだろうと、暗澹たる思いで すが、これまで感じてきたことを徒然と述べて いきたいと思います。
私は現在、那覇市立病院で内科医師として勤 務しています。学生の頃、決して優秀とはいえ なかった私は、「このままではいけない。どこ か厳しい病院で初期研修を受けて、根性をたた き直さなくてはいけない」と一念発起し、とあ る大阪の、研修が厳しいと有名な病院で初期研 修を開始しました。
意気揚々と飛び込んだ先で待っていたのは、 想像を絶するすさまじい世界でした。大阪(し かも南!)のある意味情熱的な方々(患者さ ん、スタッフ、その他大勢)は、普通にしゃべ っているだけでも、私には怒鳴られているよう に聞こえ、恐らく1 日100 回以上は「すみませ ん」と言っていたような気がします。何も出来 ない1 年目ということなど全く関係なく、「お 前医者やろ」と言わんばかりに次々と仕事が襲 ってきます。「とにかく何かしなければならな い!」と、1 日中病院内を走り回っていて、こ れまでの学生時代のポリクリなどとは全く異な る世界にいることを痛感させられました。
初めての救急当直。緊張しながら問診票を診 ると、「37 ℃台の発熱と咳、痰」と記載されて おり、「風邪かな、でも肺炎かもしれない。ま さか結核?」と、ドキドキしながら慣れない口 調で患者さんを呼ぶ。するとドアが開くなりい きなり「いつまで待たせとんじゃコラァ!」と 怒鳴る患者さん。その瞬間、挙げていた鑑別診 断もいっぺんに吹っ飛んでしまい、固まってい る横で先輩医師が対応する、といった苦い思い 出もありました。
その病院では、3 〜 4 日に1 回当直があり、 自分が当直をした日に入院になった患者さんは 全て自分が主治医になるシステムだったので、 多い日は一気に10 人近くも受け持ち患者が増 え、蟻地獄からいつまでも抜け出せないような 気分でした。インフルエンザに罹患し休んでい る同期をすごく羨ましく思い、「お見舞いに行 きつつ、ウイルスをお裾分けしてもらおうか」 などと考えたこともありました。
当初の期待通り、いやそれ以上にハードな研 修でしたが、そこで出会えた底抜けに明るい同 期や、尊敬できる上司、周りのスタッフには本 当に励まされました。青臭いですが、「夢と目 標、そして同じ志を持つ仲間がいれば、どんな 環境でも頑張れる」と感じた、本当に充実した 2 年間でした。多くの患者さんとその症例も、 今の自分にはなくてはならない財産となってい ます。(ついでに嫁さんも見つけました。人生 においてもかなり充実した研修でした!)
3 年目からは現在の那覇市立病院で勤務する ことになりました。沖縄では年中インフルエンザ 罹患者がいたり、大阪では経験したことのないATL や糞線虫症に出会ったり、長袖の白衣が必 要なかったり、96 歳のおばーが隣のベットの 106 歳のおばーに「私はあの方に比べたらまだ子 供さぁ」と言っていたりと、とても新鮮でした。 また、医局には大学時代の同期や、たくさんの 先輩・後輩がおり(昔住んでいた家の、その裏 にあった家の優しそうなおじさん(失礼な表現 ですみません)が、実は現在の院長先生であっ たことも判明しました!)、いい刺激を受けなが ら仕事をすることが出来ています。
最近は、怒濤の初期研修時代より少し余裕が でき、いろいろなことを考える時間も出てきま した。これまでの少ない経験で感じたのは、患 者さんを診ていくうえで必要なのは、もちろん 医学的知識や技術はさることながら、それに負 けず劣らず「人間力」ではないかということで した。
患者さんにはそれぞれ社会的背景や人生観が あり、抱えている身体的・精神的・社会的問題 も様々です。
また現在の医療がそれをますます複雑にして いる気がします。そういった中で、患者さん一 人一人と向き合っていくためには、決して一方 的な価値観やマニュアルなど通用する訳もな く、「人間としての、懐の深さ、幅広さ」が要 求されていると感じます。「命」が関わってい る現場なので、当然なのかも知れません。
その力をつけるためには、やはり人生経験を 豊富にしていくことが必要なのでしょう。フォ レストガンプのようにいけばいいのですが、現実はなかなかそうもいきません。いろいろ考え た挙句、一番の近道は本を読むとの結論に達し ました。
幸い医局には、非常に読書家の外科部長がお り、その先生に色々な本を紹介して頂き参考に しています。なるべく様々なジャンルの本を読 むようにしています。その他講演会に参加した り、いろいろな分野の方々と交流を持つのもい いかもしれません。
患者さんを診るときも、なるべくいろいろな 話をしながら、医療的なこと、そうでないこと も含め「この人にしてあげられることは何だろ うか」と考えるようにしています。限られた時 間では全てを実現させるのはなかなか難しいで すが、そういった行為が習慣となっていくよう 心掛けています。
最終的に、病を癒すのは勿論ですが(癒せな い時も多々あります。その場合でも)、患者さ んに「病気なったのは決して幸運とはいえない が、これを機に健康の大切さ、家族のありがた さに気づくことができた」と思っていただけれ ば、医師としてこんなうれしいことはありませ ん。関わっていく少しでも多くの患者さんにそ う思っていただくのが私の目標です。
来年度より当院に内科後期研修医が新たに4 人も加わることになり、非常にうれしく思うと ともに、これから若い力で病院をますます活気 あふれるものにしていけたらと意気込んでおり ます!那覇市立病院に少しでも興味のある先生 方(初期・後期研修医、スタッフ問わず)、ぜ ひ一度当院にいらしてみませんか。お待ちして います。