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アトピー性皮膚炎の診療
ステロイド軟膏の基本的な使い方
〜アレルギー週間(2/17 〜 2/23)に寄せて〜

萩原啓介

中央皮フ科 萩原 啓介

アトピー性皮膚炎はごくありふれた皮膚疾患 であり、学校検診などの統計では生徒の約10 〜 15 %に見られると言う1。また成人アトピー 性皮膚炎の頻度も増加傾向にあると指摘されて 久しい2。従って、小児科、内科のみならず一 般のプライマリーケアに携わる臨床医にとって も是非その診断、治療の基本は知っておかなけ ればならない疾患の一つである。

アトピー性皮膚炎の診断は、日本皮膚科学会 による診断基準3、また最近では日本アレルギ ー学会による「アトピー性皮膚炎診療ガイドラ イン2006」4により比較的容易に行える。1) 掻痒、2)特徴的皮疹と分布、3)慢性・反復 性経過の3 項を満たす症例の中で、除外診断を 注意深く鑑別する。皮疹は年令とともに変化す るのでそれぞれの年令(幼児期、幼少児期、思 春期・成人期)における特徴を充分に知ってお く必要がある。重症度の基準は厚生労働科学研 究のガイドラインでは、軽症、中等症、重症、 最重症の四つに分類されている5。即ち、軽症 は面積に関わらず、軽度の皮疹(軽度の紅斑、 乾燥、落屑主体の病変)のみ見られるもの。中 等症は強い炎症を伴う皮疹(紅斑、丘疹、びら ん、浸潤、苔癬化など)が体表面積の10 %未 満のもの。重症はそれが10 %以上30 %未満の もの。最重症は30 %以上となっている。

診断を確定し、重症度の判定を行ったら次は 治療である。厚生労働科学研究のガイドライン は治療の3本柱として、1)原因悪化因子の検 索と対策、2)スキンケア、3)薬物療法をあげ ている。医療従事者の間ではしばしば薬物療法 重視の傾向がみられるが、これらの3本柱はい ずれも同等に重要であり、患者の一人一人の状 況に応じてきめ細かい対応が求められる。

日本皮膚科学会アトピー性皮膚炎治療ガイド ラインでは、アトピー性皮膚炎の炎症に対して ステロイド外用療法を中心とすることが明記さ れている6。ステロイド外用薬はその強さによ り、ストロンゲスト、ベリーストロング、スト ロング、マイルド、ウイークの5段階に分かれ る。外用薬の選択は皮疹の重症度により決定さ れる。重症の皮疹にはベリーストロングまたは ストロング、中等症の皮疹にはストロングまた はミディアムクラス、軽症にはミディアムクラ ス以下を第一選択とする。乳幼児、小児では重 症と中等症の皮疹に対してはこれより1 ランク 低いステロイド外用薬を選択する7

また皮疹の部位によっても薬剤吸収率が異な るので注意を要する。ステロイド外用薬の部位 別吸収率は大略して上肢を1 とした場合、頬で は13 倍、足では0.1 倍、背中では1.7 倍(陰嚢 では42 倍)といわれる8。顔面は薬剤吸収率が 高く、また皮膚萎縮、毛細血管拡張などのステ ロイド外用剤の局所副作用が出やすいのでスト ロング以上は使用しないのが原則である。乳幼 児は吸収率が高く、高齢者では皮膚が薄くなっ ているのでよく吸収され、どちらも弱めの外用 薬を使用する。

ステロイド外用薬の効果を引き出すためには 必要量を正しく塗ることが大切である。そのた めの目安として、finger tip unit(FTU)が 簡便である。これは軟膏の場合大人の人差し指 の先から第一関節までの長さが約0.5g であり (ローションタイプのものでは1 円玉程度の大きさ)、これで大人の手のひら約2 枚分の面積 が塗れる。これで実際塗ってみるとかなりの 「べたべた塗り」である9。FTU 以下の量では 皮疹の炎症が十分コントロールできず、外用を 継続しているにもかかわらず、皮膚は赤黒く、 厚く、苔癬化してくるので、これがステロイド 剤の副作用かと誤解してしまうことになる。

炎症の鎮静には通常3 〜 4 日のステロイド外 用で赤みや痒みは治まるが、そこで使用を止め ず、症状をみながら漸減あるいは間欠的投与を 行い、徐々に中止する。通常、皮膚をつまんで 硬い部分が柔らかくなるまで10 〜 14 日程続け るように指導する。

さて症例に最適な外用薬を処方しても患者さ んが塗ってくれなければ何にもならない。アト ピー性皮膚炎ではしばしば罹患面積が体表の 10 %を超え、それでも治療の中心は外用療法 であるために患者さんは毎日かなりの時間を費 やしている。このため少しでもコンプライアン スを上げようと、ステロイド外用薬、保湿剤、 抗生物質外用薬などの混合を試みる医師は多 い。しかしながら、混合調整の際に注意しなけ ればならないポイントがいくつかあり、それを 東京逓信病院の江藤先生は次の4 点にまとめら れている。1)油脂性のステロイド軟膏とO/W 型の乳剤基剤は混ざらない。2)ジェネリック 製剤と先発品では大きな違いがある。3)希釈 してもステロイド剤の効果が比例的に減少する のではない。4)基剤のpH により効果が低下 することがある9。この詳細は文献に譲るが、 実用的なこととして以下のことは覚えておくべ きであろう。まず、同一の軟膏および乳剤性基 剤どうしは混合可能であるが、異種同士は混合 不可であること。ゲル剤どうしは同一であって も不可であること。ザーネ軟膏、ユベラ軟膏、 レスタミン軟膏、ウレパール軟膏、ケラチナミ ン軟膏などは「軟膏」とあるが実はO/W 型の 乳剤基剤であり、ステロイド軟膏とは混ざらな いこと。W/O 型の乳剤基剤であるパスタロン ソフト、ヒルドイドソフト、ネリゾナユニバー サルクリーム、メサデルムクリームとステロイ ド軟膏は混合可能であることなどである。しか しながら一般の臨床医ではステロイド剤の混合 調整は避けた方が無難であろう。単剤使用でも 適切に選択された強さのものであれば、効果は 期待できよう。難治な症例は皮膚科専門医に紹 介すればよい。

ステロイド外用薬を強く忌避する患者さんは いまだに多い。その理由のほとんどはステロイ ド外用薬の副作用についての誤解に基づくもの が多いので、正しい知識を丁寧に説明していく 必要がある。ステロイド外用薬の副作用で最も 多いのは毛包炎、白癬などの感染症であり、最 も難治なものは酒さ様皮膚炎であるといわれ る。しかし、大半の副作用は中止すれば治る。 副作用が怖いからといってランクの弱いものを 使い炎症を抑えきれず、かえって長期化させて はいけない。ステロイド外用薬の正しい使い方 に習熟しておきたいものである。

文献
1)Saeki H, Iizuka H, Mori Y, et al: Prevalence of atopic dermatitis in Japanese elementary school children, Br J Dermatol, 162: 110-114, 2005.
2)Hagiwara K, Nonaka S: A statistical assessment of atopic dermatitis at Ryukyu University Hospital from 1988 to 1992. Ryukyu Med J 15: 31-35, 1995.
3)日本皮膚科学会:アトピー性皮膚炎の定義・診断基 準, 日皮会誌, 104: 1210,1994.
4)日本アレルギー学会アトピー性皮膚炎ガイドライン 専門部会:アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2006 (監修:山本昇壮、河野洋一)、協和企画、2006
5)厚生労働科学研究:アトピー性皮膚炎治療ガイドライ ン2005(監修:河野洋一、山本昇壮). 2005
6)古江増隆、古川福実、秀道広、竹原和彦:日本皮膚科 学会アトピー性皮膚炎治療ガイドライン2004 改訂版、 日皮会誌, 114:135-142, 2004.
7)佐伯秀久:アトピー性皮膚炎、日皮会誌, 117: 1417- 1425,2007.
8)Feldmann R. J. et al.: Regional variation in percutaneous penetration of 14C cortisol in man, J. Invest. Dermatol. 48 (2): 181, 1967.
9)江藤隆史:外用薬の適切な使い方、滝沢始他編:診断 と治療、診断と治療社、東京、Vol.95, No.9: 1615- 1620, 2007.