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アスピリン喘息(aspirin-induced asthma:AIA)とは?
〜アレルギ−週間(2/17 〜 2/23)に因んで〜

嘉数朝一

嘉数医院院長 嘉数 朝一

はじめに

成人気管支喘息の約10 %はアスピリンをは じめとする非ステロイド性抗炎症薬(nonsteroidal anti-inflammatory drugs:NSAIDs) によって喘息発作が誘発されることが知られて いる1)。アスピリン喘息(aspirin-induced asthma:AIA)はその名称から一般にアスピリ ンに特異的な喘息という誤解を与えているが、 アスピリンのみならず全てのNSAIDs により 喘息発作を起こすことが報告されている。

NSAIDs を含んだ貼付薬、塗布薬、点眼薬 等でも発症を誘発し、十分な問診がないままに NSAIDs が投薬されると、ときに意識障害を伴 う程の大発作が誘発され、死亡する事例も報告 されている。NSAIDs は鎮痛解熱剤としてすべ ての臨床医に処方される可能性があるため、 AIA においては、その使用に関しては十分な注 意が必要とされる。

1.AIA の臨床的特徴

2004 年のBMJ2)の報告ではAIA が成人喘息 の21 %を占め、AIA の頻度は従来考えられて いたより多い事が明らかになってきている。 AIA の臨床像は、小児には稀であり30 〜 50 歳 代を中心に発症し、男女比は2 対3 と女性に多 く、慢性通年性の喘息患者でステロイド薬投与 を要する重症例に多いが、軽症例にも20 %ほ どに含まれている。

特に大発作の既往を有する例が多く、成人期 に発症した喘息患者で嗅覚低下、鼻閉、鼻汁な ど嗅覚障害や、慢性副鼻腔炎、鼻茸等を高頻度 に合併する。

特に鼻茸はAIA 患者の約7 割に認められる 事も報告されている。

成人発症の中等度以上の喘息患者で鼻茸、慢 性副鼻腔炎の合併があり、嗅覚低下を認める患 者等においてはAIA が強く疑われる。

発作の典型的経過は、服用1 時間以内にまず 鼻閉、鼻汁が生じ、次いで喘息発作が出現して くる。発作の程度は意識消失を伴う急性喘息重 積発作まであり、しばしば重症となるため十分 な注意が必要となる。

AIA 発作時の治療としては、一般喘息とは異 なる救急対応が重要で、エピネフリン0.1 〜 0.3mg の筋注、もしくは皮下注が極めて有効で ある。

AIA で最も注意すべき点は、各種静注薬、特 に静注用ステロイドの急速静注で発作が悪化し やすいことであり、静注用ステロイドにはコハ ク酸エステル型(サクシゾン、ソルコーテフ、 水溶性プレドニン、ソルメドロール)とリン酸 エステル型(水溶性ハイドロコートン、コーデ ルゾールなど)があるが、AIA では特にコハク 酸エステル構造に潜在的に非常に過敏であり、 コハク酸エステル型ステロイドの静注は十分な 注意が必要となる。

内服薬は非エステル構造なので本症でも安全 に使用できる。

成人喘息患者の急性発作時にステロイドの静 注を考慮する際には既往歴および慢性副鼻腔 炎、鼻茸の有無からAIA かどうかを的確に判 断する事が重要で、本症が疑われる場合にはリ ン酸エステル型ステロイドを使用する事が推奨 されている。

2.AIA の診断と病態

AIA の診断は上記の特徴ある臨床像を手掛 かりとして詳細に問診しNSAIDs で喘息発作 が誘発されたエピソ−ドを確認することが重要 である。しかし、NSAIDs により発作の誘発歴 を持つ患者は60 %程度であり、残りの40 %は NSAIDs を用いた負荷試験により初めてAIA と診断される例が報告されている。

負荷試験に関しては危険を伴うため、十分な 説明と同意を得たうえで発作時の対策を十分に 準備して実地するが、実地医家には適さないと 考える。

AIAではシステイニルロイコトリエン (LTC4, LTD4, LTE4; CysLTs)の産生がも ともと亢進しており3)、NSAIDs のもつ共通の 薬理作用によりアラキドン酸カスケ−ドのシク ロオキシゲナーゼ阻害作用(COX、特に COX1 阻害作用=プロスタグランジン生合成阻 害作用)が発症の引き金になるものと考えられ ている。シクロオキシゲナーゼ活性を阻害する 結果、アラキドン酸からのプロスタグランジン (PG)の産生が抑制され、気管支拡張性の PGE1・PGE2などが減少し、リポキシゲナー ゼ経路へ流れる結果、CysLTs の産生が亢進 し、気管支収縮が起こると考えられる。

3.AIA の長期管理

AIA 患者の日常生活上の注意、安全に用い ることのできる鎮痛・解熱薬については喘息予 防・管理ガイドラインに記載されており、参照 されることをお勧めする。

AIA 患者は食用黄色4 号(タ−トラジン)、 安息香酸ナトリウム、バラペン、サルファイト (亜硫酸塩)などの食品・医薬添加物に対する 過敏性をもつことがあり、長期管理には NSIDs はもちろん、これらの物質を摂取しな いように除外する事が勧められている。

4.まとめ

成人の気管支喘息患者に対して詳しく問診を 行い、出来るだけ早くAIA を診断し、AIA が 疑われた場合は、誘因物質、使用禁忌薬剤など を十分に説明し、患者がステロイド依存症に陥 らないように、また難治化しないようにするこ とが大切である。

また、発作時の治療では一般の喘息治療とは 異なりコハク酸エステル型ステロイド剤の静注 は充分な注意が必要となる。

AIA がアスピリンのみで発作が誘発されるの ではないことを銘記しなければならない。

文献
1)末次 勸.アスピリン過敏症.臨床アレルギ−学.:南江堂; 382-384,1992
2)Jenkins C: Systematic review of prevalence of aspirin induced asthma and its implication for clinical practice. BMJ 328: 434-439, 2004
3)Christie PE:Urinary leukotriene E4 after lysineaspirin inhalation in asthmatic subjects. Am Rev Respir Dis 146:1531-1534,1992