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国民医療を守る沖縄県民集会

真栄田篤彦

常任理事 真栄田 篤彦

沖縄県医療推進協議会(加盟28 団体)主催の 標記県民集会が去る12 月20 日(火)午後7 時 より、パシフィックホテル沖縄において、加盟各 団体より約500 名が参加して盛会に開催された。

当県民集会は、来年度の予算編成前に医療崩 壊の阻止を望む国民の声を政府に届けることを 目的に、全国医療推進協議会(会長:唐澤人 日本医師会長)の活動と連動して開催されたも のである。

当日は、当医療推進協議会の神村武之副会長 (沖縄県薬剤師会長)より開会の挨拶が述べら れた後、主催者を代表して挨拶に立った当医療 推進協議会の宮城信雄会長(沖縄県医師会長) は概ね以下の通り挨拶を述べた。

挨拶:宮城信雄会長

宮城信雄会長

わが国は、急速な高齢 社会の進行にもかかわら ず、政府が長年にわたり 財政優先の政策を断行 し、医療費の削減を強行 し続けたことにより、日 本の医療は崩壊の兆しを 見せ始めている。医師・看護師不足による過重 労働は、産科や小児科医療、救急医療をはじめ とする地域の医療に深刻な影響を及ぼし、高齢 者のための長期入院施設の削減は大量の医療難 民、介護難民を生み、孤独死も急増することが 懸念されている。また、患者一部負担の引き上 げは国民から医療を受ける機会を奪ってしまう。

現在、本県でも療養病床の削減のための作業が進められているが、沖縄県福祉保健部は既存のベ ッド数の3 分の1 に当たる約1,100 床程度を削減 するとの意向を示しており、本県でも医療・介護 難民が現実のものになるのではと憂慮している。

ご高承のとおり、日本の医療は、諸外国に比 べ低い医療費で高水準の医療が施されていると してWHO からも高く評価されている。一方、 わが国の経済はここ数年、回復しつつあるの に、なぜ政府は国民に負担を強いる政策を進め るのか。

国民ひとり一人こそ国の財産であり、国家の 礎である。それ故、憲法25 条では国民の生存 権とその保障を国の社会的使命として崇高に謳 っており、我々国民は、安全で安心な医療を受 けられる充実した医療提供体制の確保を強く求 める必要がある。

かかる状況に鑑み、私どもの生活基盤である 医療を守るべく、沖縄県医療推進協議会として も行動を展開したいと考えているので、ご協力 をお願いしたい。

その後、那覇市立病院外科部長の久高学先生 から、ご自身が救急医療の現場で経験した事例 に基づいた「今日の医療制度の矛盾点」につい て講話を頂いた。

続いて、小渡敬本会副会長から当県民集会開 催の趣旨説明が行われ、「医療コストの日本と 諸外国との比較、今般の診療報酬改定に対する 財務省と日医の主張の相違点、本県における療 養病床削減の影響」等について詳細な説明があ り、医療崩壊を阻止するためには医療費の増額 が必要と訴えた。

意見表明では、参加団体を代表して沖縄県老 人クラブ連合会副会長の山田君子氏、沖縄県療 養病床協会長の松岡政紀氏のお二人が以下のと おり意見を述べられた。

意見発表:山田君子氏 (沖縄県老人クラブ連合会副会長)

山田君子氏

21世紀を色々な角度 から見ても高齢社会で す。殆どが元気高齢者 といえども、加齢と共 に一つや二つの疾病を 抱えながら地域の中核 として地域づくりに頑 張っています。

政府の改革のもとに、大きいツケが今、高齢 者を取り巻く医療、福祉、年金に大きくしわ寄 せされ、不安と政府に対して不信感を抱いてい ます。収賄事件が政府内で多発しています。そ れは私達の納めた税金でしょう。適正な運営を 願っています。そして、医療、福祉面に充実さ せてこの高齢者に生きる活力を与えてくださ い。また、医療費の支出削減で、医療型、療養 型の病床を減らし、地域に入院者を戻す政策を 進めていますが、国のプランや数字のみ先行 し、危機感をあおっています。地域の受け皿づ くりの構想は全く不透明です。「どうなってい るの」と言いたいです。「医療難民、介護難民 が増える、どこに行けばよいの」とマスコミが 取り上げて報道しています。まさしくそのとお りです。国の施策には不安が増幅されます。高 齢者に対して“オドシ”ではないでしょうか。 受け皿づくりを並行して、政策をたて、執行す るのが当然の事と思いますが、いかがですか。 「地域に於いて、高齢者は尊厳を持っていきい きと生活する施策を」とよく見かけ、耳にしま す。高齢者の尊厳とは“オドシ”ですか。“イ ジメ”ですか。このような状況では持っている 病気も悪くなり、医療費もかさんで、年金生活 者は生活が苦しくなります。高齢者の医療と福祉にもっと配慮していただき安心と信頼の環境 をつくって下さい。お願いします。これが高齢 者に尊厳を与える事でしょう。高齢者は多様で あり、社会の資本でもあります。あなた方 も・・・皆、年を重ねていくでしょう。

「今まで生きてきてよかった」と思う世の中を 構築してください。忘れかけている「高齢者を大 事にする」親孝行の精神を率先して実行して下さ い。辛くなるような思いはさせないで下さい。

意見発表:松岡政紀氏 (沖縄県療養病床協会長)

松岡政紀氏

今後高齢者人口が増 加しそれに伴って、高 齢者の一人暮らし世帯、 および高齢夫婦のみの 世帯の占める割合は、 高くなることが見込ま れています。高齢者の 状態に即した適切なサービスすなわち介護サー ビスと医療サービスの需要は、年々増えると考 えられています。

医療費適正化計画の実施が平成20 年4 月に 迫る中で、全国にある療養病床の38 万床を15 万床に削減することを骨子とする再編計画が発 表されましたが、これがそのまま実行されます と、慢性期医療はなりたたなくなります。

現在療養養病床は、医療必要度に応じて軽 症、中等症、重症の医療区分1、2、3 に分けら れています。厚労省は医療区分1 全部と区分2 の3 割は、老人保健施設や特別養護老人ホーム へ移ってもらうかあるいは在宅へ移す方針です。 これらの医療必要度が低いと考えられている患 者さんは、医療療養のベッド25 万床の内、約 4 割(10 万人)が該当します。

しかし医療区分1 の実態調査では20 %が経 管栄養、気管切開、喀痰吸引、膀胱留置など何 らかの医療処置が日常的に行われています。決 して医療必要度が低い訳ではありません。また 多くの高齢者は一人で複数の病気をかかえてい ますので状態が不安定になりやすく、退院でき ない患者さんであります。

ベッドが減らされ、療養病床を出される患者 さんは、行き場所が無くなりますと医療難民と なります。そのような患者さんが全国で凡そ2 万人想定されています。

また状態は安定していますが、老人保健施設 や、特別養護老人ホームに空きがない、在宅で 介護するひとがいないなどの理由で行き場がな い人はいわゆる介護難民で4 割(4 万人)発生 すると想定されています。

現在要介護者の高齢者を取り巻く環境は厳し く、老人保健施設や、特別養護老人ホームへ入 所を希望している人は沖縄では3,300 人おり、 凡そ3 年以上待たないと入所できないのが実情 であります。ベッドが削減されますと更に入所 を待つ期間は長くなります。介護を必要として いる高齢者をこれ以上長く待たせるわけにはい かないのであります。

一方これまで療養病床を退院した医療区分1 の患者さんは、介護施設や在宅へ移っておりま すが、再び病気が悪化して救急車で救急病院へ 頻繁に搬入されています。療養病床では、充分 な医療スタッフと24 時間体制で患者を看てい ますので急変時や再燃時、直ぐに対応し治療で きますが、介護施設へ移った患者が再燃した時 は、急性期病院へ搬送されます。その数が多く なれば、多くのベッドを高齢の慢性期の患者が 占めるようになりますので、療養病床の削減 は、急性期病院まで必ず影響が及びます。

療養病床の削減は、わが国の医療システム全 体に悪い影響をもたらすのは明らかであり、強 く病床削減の見直しを要望します。

その後、決議に移り、当医療推進協議会高嶺 朝彦副会長(沖縄県歯科医師会長)から国や関 係機関に対し「国民のための医療提供体制の確 保」を求める決議について提案があり、満場一 致で決議案が採択された。

最後に、当医療推進協議会大嶺千枝子(沖縄 県看護協会長)より閉会の挨拶が述べられ、会 の幕を閉じた。



会場を埋めつくす県民集会参加者

会場を埋めつくす県民集会参加者

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