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子年に因んで

田仲秀明

医療法人秀明会田仲医院
田仲 秀明

今年48 歳の私は、順調に行けば次の庚子 (2020年)で還暦となります。48歳の年を桑年 (そうねん)というそうです。桑の古字であ るを分解すると、十十十十八の5つの字体か ら成っているからという訳です。同じ様に分解 すれば、子という字は了と一から出来ているか ら終わりと始まりを表す。だから十二支は子年 から始まるのだとか?これはちょっと怪しい。 漢書律暦志によれば子は孳(し:「ふえる」の 意味)で、新しい生命が種子の中に萌し始める 状態を表す。成程これなら十二支の始まりに相 応しい気がします。後に中国で覚え易くするた めに動物が十二支に割り当てられ、子は鼠とな ったようです。

お昼の12時を正午というのに対し、深夜12 時を正子(しょうし)というのをご存知でしょ うか?その深夜に人間の食料などを食べたりす るので、寝盗み(寝ている間にこっそりと人間 の食料を盗む)が転じて、日本語のネズミとい う名がついたといわれています。子とネズミの 不思議な関係だなあと1人で感心しています。

子年生まれは家系の衰えを盛りたてるという 宿命を持っているそうです。鼠は一度の出産で 6〜8匹生むことが出来、わずか3〜4週間程度 で性成熟し子供が産めるようになる。かように 繁殖力が旺盛であり、世界中の殆どあらゆる場 所に生息していることから派生したイメージだ と思います。私も男子二人を設けましたので衰えた(?)家系を少しは盛りたてたのかもしれ ません。その長男が生まれた頃のこと、私は無 給の大学院生で毎晩々々ラットの実験に明け暮 れておりました。ある日実験を終えて夜中にア パートに帰り、疲れ果てて寝ていると目から火 が出るほどの痛みで飛び起きました。歯の生え かけた長男に急所を力いっぱい噛まれたのでし た。あれが鼠の祟りだったのか、お金が無くて 困っていた家内が仕組んだ罠だったのかは今と なっては分かりません。

「ただの鼠ではない」という諺があります が、本当にただの鼠ではないスーパーマウスを 米国の大学が遺伝子組み換え技術で作ったとい うニュースがありました。普通のマウスが200 メートルで脱落した後も走行装置の上を、分速 20メートル(時速1.2キロ)ほどで5〜6キロも 走り通したそうです。エネルギー代謝に関連す る酵素が活性化しているため、運動の際筋肉に たまる乳酸が非常に少なく、激しい運動に耐え られるそうです。どうせ酸素の吸い過ぎで早死 にだろうと思いきや、普通のマウスと外見は変 わらず、1.6倍ものエサを食べ、行動的で、寿 命ばかりか生殖期間も長い(!)とのこと。な んとも羨ましい話です。

さきおととし豊見城中央病院のすぐそばに開 業させて頂きました。十二支の順番を決める昔 話の鼠宜しく、ちゃっかり牛の頭の上から飛び 出した等と言われないように粛々と医院を営ん でおります。経営者の立場になって、不安や雑 用に苛まれながらふと気付いたことがありま す。それは自分は患者を診ている時、実は一番 気が落ち着けるということです。鼠は一生延び 続ける門歯をもつため、常に何か硬いものをか じって前歯をすり減らす習性があります。も し、硬いものをかじらないままだと、前歯が口 を塞ぎ、食べ物が入らなくなってしまい、餓死 してしまうそうです。やはり私は齧歯類という ことでしょうか。

新年早々取り留めの無い話で大変失礼致しま した。

今年も何卒宜しくお願い申し上げます。