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第38回全国学校保健・学校医大会

理事 野原 薫

去る11月10日(土)香川県全日空ホテルク レメントにて標記大会が開催され、本県から、 宮城会長、野原理事、事務局が参加した。

当大会では午前に「からだ・こころ(1)」、 「からだ・こころ(2)」、「耳鼻咽喉科」、「眼 科」、の計4つの分科会が開催され、昼食をはさ み、午後から第38回全国学校保健、学校医大 会の開会式並びに表彰式、特別講演が行われた ので、その概要を報告する。

○第1分科会『からだ・こころ(1)』(10:00〜12:00)

1.佐賀県下全中学校1年生を対象とした防煙教育の試み
−医師会及び学校医の役割−
佐賀県医師会理事(学校保健副担当)
徳永 剛

佐賀県が、平成18年度に佐賀県下全中学校(100校)の1年生を対象に行った防煙教育につ いて報告があった。

防煙教育の際にアンケート調査を行ったとこ ろ、中学校1年生で喫煙経験のある生徒が154 人(男122人、女32人)、全体の6.1%となって おり、このことから中学校での防煙教育は既に 遅く小学校の段階で防煙教育が必要であると説 明があった。また、家族の喫煙者の有無につい ては、有が63.4%となっており、生徒に対する 防煙教育のみならず父兄への禁煙指導、職場で の禁煙運動の必要性が述べられた。

2.学校医から見た学校保健委員会
名古屋市学校医会 高田秀夫

学校保健委員会は、学校と地域が連携して子 供達の成長を見守る重要な組織となっているが、 協議事項の選択や時間配分等、検討すべき課題 が多く必ずしも活性化していないのが現実であると述べられ、今後、学校保健委員会を活性化 させるためには、学校保健・安全活動の主体で ある学校側の熱意が重要であり、学校医はあく まで活動の支援者・助言者という立場から活性 化に協力していく必要があると説明された。

3.愛知県の高等学校心臓検診からの研究報 告〜思春期肥満と血行動態異常の関係に ついて〜
愛知県医師会学校保健部会学校健診委員会
纐纈雅明

愛知県では、昭和58年に心臓検診委員会を、 昭和59年に愛知県心電図検診協議会を発足させ、 昨年度より両会を、“学校保健部会学校保健健診 委員会”並びに“愛知県学校保健健診協議会” と改称し、両者を活用することで学校健診業務 の様々な課題に取り組んでいると報告があった。

当事業の重要な業務の一つに、検査データの 精度管理・集積・解析があり、これにより、思 春期肥満が収縮期および拡張期の血圧上昇と頻 脈をもたらしていることが示され、生徒の将来 への循環器疾患への重大な警鐘となるとの考え が示された。

4.小中高校生の循環器疾患危険因子の縦断 研究
和歌山県日高医師会学校医部会 中井寛明

和歌山県日高地区では、1992年より小学校4 年生と中学1年生を対象に生活習慣病予防検診 を実施し、また中学生以降の循環器疾患危険因 子の動向を明らかにする目的で、2003年には同 一地区で高校1年生及び2年生を対象に、2004 年には高校1年生のみを対象に生活習慣病予防 検診を実施したと報告があった。

その結果として、小4時や中学児で認められ た様々な要因が、高校生の収縮期血圧の上昇や 拡張期血圧に有意に寄与していることが明確と なり、小児期からの肥満の予防と血糖上昇の予 防等が重要であることが示された。

5.徳島県における生活習慣病予防対策委員 会の試み7
徳島県医師会生活習慣病予防対策委員会
副委員長 中堀 豊

徳島県医師会生活習慣病予防対策委員会で は、平成12年度より行政、医療、学術、保健、 教育現場の各関係者が連携し活動を行ってお り、その基礎調査として、委員会設立時より県 下の全小中学生(毎年約7万人)の体格調査を 実施していると報告があった。

当調査結果より、+ 20 %以上の肥満傾向 児、+50%以上の高度肥満児が平成13年、14 年をピークに少しずつ減少傾向にあるが、肥満 のために受診する児童生徒の数は減っていない と報告があり、今後、各学校における活動的な 時間や食育の推進、全年齢層を対象にした糖尿 病予防対策の推進等の必要性が述べられた。

6.20年間にわたる中学生に対する生活習慣 病予防検診の総括:三木中学校サマリー
香川県木田郡医師会 柴崎三郎

香川県木田郡三木町立三木中学校では、学校 保健の立場から、肥満や高脂血症等の予防活動 を目的に、1987年より地域中学校生徒を対象 とした生活習慣病予防検診を実施していると報 告があり、当事業より、中学生に対する生活習 慣病予防検診でもっとも問題となる検診後のフ ォロー方法、並びに、生活習慣病が、遺伝素 因、生活習慣、環境要因により発症する疾患で あることから、生徒本人のみならず、生徒本人 を中心とした家族全体の健康の見直しが重要で あり、今後、生徒の生活習慣における家族との 関わり等について、さらに検討を進めることが 重要であると説明された。

7.生活習慣病検診とその保護者の意識調査 について−平成14年度よりの賞に生活習 慣病検診結果のもとに−
高松市小児生活習慣病予防委員会 眞鍋正博

高松市では、平成14年度より市内の小学校4 年生を対象とした小児生活習慣病検診を行っており、平成18年度には、この検診が児童だけで なく保護者にとってどの程度有意義であるかを 検討するためにアンケート調査を行ったと報告 があった。

アンケート調査の結果より、本検診が、軽 度、中等度肥満、高血圧等の有所見頻度が減少 する等一応の成果が認められ、また検診施行に より、家庭での食事面等に良い影響が現れてい ると説明があり、今後、小学校から中学校への 検診結果の引き渡し等のフォローアップが検討 すべき課題であると説明された。

8.堺市学童集団下痢症後遺症フォローアッ プについて− 10 年間の追跡調査のまと め−
堺市医師会O157学童集団下痢症後遺症
フォローアップ委員会 岡原 猛

堺市では、平成8 年に腸管出血性大腸菌 O157:平成7を原因とする集団下痢症が発生 し、堺市の小学校92校中47校において、児童 と教職員を合わせた感染者が7,936名、2次感染 と考えられる多発校の児童・教職員の家族等の 感染者が1,180名、一般市民感染者が376名と、 学校給食に関わる総数が9,492名にのぼったと 報告があった。

堺市医師会では、後遺症のフォローアップの 問題に対応するため、後遺症フォローアップ委 員会を発足させ、学校再開後から現在までの10 年間に亘り、フォローアップ検診を兼ねた学校 腎検診を実施し、現在までに、2例の高血圧症 発症例、10数例の腎機能障害及び経過観察必 要例を認知している旨が説明された。

9.京都市における小学校就学前の児童の MRワクチンと麻疹及び風疹ワクチンの接 種状況
京都市学校医会 竹内宏一

京都市学校医会では、平成18年度より就学 前の1年間にMRワクチンを接種するよう法改 正されたことに伴い、その接種率について調査 を行ったところ、平成18年4月から12月までの 9ヶ月間については接種率が低かったものの、 平成19年3月には毎月の接種者の約4倍の接種 率があり、結果として67.8%の接種率となった ことが報告された。3月の接種率が急増した原 因としては、入学後の予防接種が任意接種で有 料化になるためと考えられると説明された。し かし、結果的には平成17年度の麻疹接種率が 90.6%に比べると低い接種率となっており、今 後の対策として、接種漏れや2回目の接種機会 が無い、小、中、高校生に対して予防接種の機 会を設定すること、また大学生以上の免疫の無 い人にも接種を勧奨すること等が挙げられた。

10.スリッパの効用−園医・学校医を通し て地域の子どもたちとの関わり−♪もっ たいないよネ!
みうら小児科医院院長 三浦義孝

みうら小児科医院では、院内のスリッパに「あ いさつをしよう」、「てつだいをしよう」、「早寝・ 早起き・朝ごはん、テレビを消して外あそび」等 の社会の基本的なルールや親への啓発の文言を入 れ、道徳教育の一貫として活用していると説明が あり、子ども達に健全な倫理観を実らせるよう、 学校医としていかにして地域の子ども達と関わっ ていくべきか等の考え方が提示された。

11.「学校における運動器検診体制の整備・ 充実モデル事業」第2報
島根県医師会常任理事・同学校医部会
副部会長 葛尾信弘

島根県医師会学校医部会では、平成17年度 より「普通学校における運動器検診の実態」に ついて、啓発、調査、研究が取り組まれ、昨年 度及び本年度の2カ年に亘る検診結果から、普 通学校における児童・生徒の各種運動器疾患の 罹患者は少なくとも10〜20%存在することが 分かってきたが、スポーツ障害や腰痛症等に対 する児童生徒や保護者、教育者等への啓発は未 だ十分とは言えず、これらの運動器疾患の早期 発見、早期治療の体制を早急に確立するととも に、学校医による検診と整形外科医による検診結果を比較検討し、より効率的な検診方法等を 模索する必要があると述べられた。

12.子ども達を受動喫煙から守るための受 動喫煙検診−本邦ではじめての試み−
熊谷市医師会理事 井埜利博

熊谷市医師会では、2002年度より、小学校4 年生の生活習慣病検診時に尿中ニコチンを測定 し、児童の受動喫煙状況の調査を行っていると 報告があり、当調査から得られた重要点は、(1) 子どもの受動喫煙は母親の喫煙状況に最も左右 される。(2)両親が屋外で喫煙しても受動喫煙 を受ける。(3)子どもの生活習慣病によっても 受動喫煙を受ける程度が異なる。(4)児の尿中 ニコチン値を知らされた両親は喫煙・節煙・禁 煙様式に変化等が見られる。と説明され、児童 の受動喫煙の状態を科学的に証明することは、 児童の禁煙指導だけでなく両親への禁煙動機付 けにも有用であり、また尿中ニコチンが高値で ある児童は、将来早期に喫煙を開始する可能性 があり、集中的に防煙指導することが望ましい と述べられた。

※第2分科会『からだ・こころ(2)』、第3分科 会『耳鼻咽喉科』、第4分科会『眼科』につ いては、詳細を省略致します。

○都道府県医師会連絡会議(12:00〜13:00)

森下立昭香川県医師会長の挨拶の後、本大会 の運営及び次期担当都道府県医師会について協 議が行われた結果、次期担当県に新潟県医師会 が決定した。

○開会式・表彰式(13:00〜14:00)

永尾隆香川県医師会副会長より開会が宣言さ れ、森下立昭香川県医師会長並びに唐澤祥人日 本医師会長より挨拶が述べられた。

引き続き、日本医師会の唐澤人会長より、 学校医9名、養護教諭9名、学校栄養士9名に対し 学校保健活動の功績を称え表彰状が授与された。

○特別講演T(14:00〜15:30)

『子どもの生活習慣病・メタボリックシンド ローム』
浜松医科大学小児科学教授 大関武彦

大関先生より、始めに、子ども達にとってメ タボリックシンドロームは、「(1)メタボリッ クシンドロームと考えられる病変が小児におい ても認められる。(2)成人のメタボリックシン ドロームのかなりの部分が小児期の肥満ないし メタボリックシンドローム予備軍から生ずる。 (3)一部の発展途上国を除き世界的に小児肥満 の頻度は近年も増加傾向が続いている。(4)生 活習慣の確立は小児期にスタートする。(5)心 筋梗塞、脳梗塞などは成人期に発症するが、小 児においてもメタボリックシンドロームを有す ると無症状ではあるが徐々に血管の病変が進行 する。」等がその意義としてあげられると説明 があり、小児の肥満は広く全国的に増加してお り、かつ、この傾向は我が国のみならず発展途 上国の一部を除き世界的にも見られ、現代世界 の子ども達にとって重要な健康上の問題となっ ていると警鐘された。厚生労働省においても、 早期からの生活習慣病対策が重視され『小児期 メタボリックシンドロームの概念・病態・診断 基準の確立及び効果的介入に関するコホート研 究』が平成17年度より開始され、小児期では、 特に中学生で腹囲が80cm(小学生75 cm)を 超えると糖脂質代謝や血圧の異常が増加するこ とが明らかになったとともに、腹囲の増加があ る場合は、中性脂肪(基準値:120mg/dl)、 HDL −コレステロール(40mg / dl)、血圧 (125/70)、空腹時血糖(100mg/dl)を確認 することでメタボリックシンドロームを診断す る旨の基準が示されていると説明があった。

メタボリックシンドロームへの介入として、 肥満並びにメタボリックシンドロームは、原則 として薬物療法ではなく、食事療法・運動療法 などのライフスタイルの見直しが基本になると 述べられ、食事療法については、「効果的であ るが成長期にある小児では注意を払う必要があ り、家庭や学校では必ずしも容易ではなく、誤った食習慣の見直しを行い標準的な食事とは何 かを再確認しそれに戻すことが食事に対するア プローチの第一歩である。」と説明され、運動 療法については、「栄養の詳細な算出などに比 べ実施し易く、自宅や学校等がその実施の主体 となり、通学や体育等を活用することで1日20 〜30分程度の歩行が持続できれば効果が期待 できる。しかし、体重増加の著しい児では、足 首や膝の関節に負担がかかる場合もあり注意す る必要がある。」と説明された。

これらのことから、メタボリックシンドロー ムが医療機関での診断・治療とともに、家庭、 検診、学校、職場等で評価及び予防・介入が可 能であると述べられ、学校における適切な対応 がこの中でキーとなるであろうと提議された。

○特別講演U(15:30〜17:00)

『四国で蘇る心と体』
種智院大学学長 頼富本宏

頼富先生より、四国遍路の歴史や文化的特 徴、また現在における四国遍路の意義等につい て講演があった。

四国は豊かな自然と多くの歴史的、文化的遺 産に恵まれた地であり、現代社会の感覚的価値 体系である“快・速・便・利”とは少し異なる 点が多いと述べられ、そのような文化的背景の 中に四国遍路があることが紹介された。

四国遍路は、平安時代初期にその原型がで き、中世後期から一般庶民にも遍路が開放さ れ、江戸時代には現在の八十八カ所の内容と順 路が確定されたことで、種々の目的を持った遍 路者が四国に入るようになり、現在、年間13〜 15万人の方が訪れていると説明があった。

四国遍路には、点(札所)重視の遍路として バスや車を移動手段としたもの、線(巡路・過 程)重視の遍路として徒歩によるもの、という 2種の遍路方法があることが説明され、近年は、 特定の祈願を持たず自分探し等を行う目的から 「歩き遍路」が再注目されていると説明された。

また、現在では遍路の目的が多様化している ことにもふれ、遍路による“自己変化なし”と する観光・異文化体験をその目的とする遍路、 “自己変化あり”とする自己の修練・鍛錬をそ の目的とする遍路(現在の主流で歩き遍路が圧 倒的多数)、“対象変化あり”とする滅罪や生 善・現世利益をその目的とする遍路(伝統的遍 路の4割程度を占める)など、大きく分けて3 つのタイプがあることが示された。

最後に、「遍路は、日常性の延長上にありな がらも非日常の要素もあり、新しい見方・考え 方を見出す契機となる。前進的努力とともに、 豊かな大自然等に触れることで次第に安らぎを 得ることがその意義である。」と話され、講演 が終了した。

印象記

野原薫

理事 野原 薫

第38回全国学校保健・学校医大会が11月10日(土)に香川県高松市で開催されましたので、宮城 会長、私と事務局の山城局長、平良さんの4人で出席しました。主催は日本医師会、担当は香川県医 師会で、メインテーマは「やさしいこころ、元気なからだ−子どもの瞳に輝きを−」でした。

午前の分科会は「からだ・こころ(1)」、「(2)」、「耳鼻咽喉科」、「眼科」の4分科会に分かれて おり、「からだ・こころ」の分科会に出席しました。ここでは小児生活習慣病関連の演題が5題、 発達障害・こころ関連が9題で、以前の心臓病、腎臓病関連の演題は激減しており、今後の学校 保健のあり方を変える必要があると痛感しました。

午後は開会式・表彰式、そして特別講演2題がありました。特別講演Tの演題は「子どもの生 活習慣病・メタボリックシンドローム」で、講師は浜松医科大学小児科学教授の大関武彦先生で した。小児のメタボリックシンドロームにおいても徐々に血管の病変が進行することが解ってい る。脂肪細胞の主な働きはエネルギーを貯蔵することで、エネルギー過剰な現代社会においては 肥満を起こしやすくなる。近年、脂肪細胞からレプチンを始め、アディポサイトカインを分泌さ せることが解ってきており、内臓脂肪が増えると悪玉アディポサイトカインが増え、動脈硬化が 進行するとされている。小児期のメタボリックシンドロームの診断基準は腹囲が小学生で75cm以 上、中学生で80cm以上、または腹囲/身長比が0. 5 以上に加え、中性脂肪120mg/dl以上、HDL コレステロール40mg/dl以下、血圧125/70以上、空腹時血統100mg/dl以下となっている。メタ ボリックシンドロームへの治療は食事療法や運動療法などのライフスタイルの見直しが基本であ る。メタボリックシンドロームは腹囲の評価により判定され、簡便であり、生活習慣へのアプロ ーチが本質的な役割をはたすことから学校、家庭、職場などで予防・介入ができると講演されま した。

特別講演Uの演題は「四国で甦る心と体」で、講師は種智院大学学長の頼富本宏先生でした。四 国遍路の意義は1)誰でも参加できる、2)伝統的な型は一応あるものの、自ら選択することや定型でな いものも可能、3)日常性の延長上にあるが、非日常の要素もあり、新しい見方・考え方を見出す契機 にもなる、4)前進的努力(遍路行)とともに、豊かな大自然や暖かいお接待に触れ、次第に安らぎを 得るようになるということでした。簡単に言うと旅による心のリフレッシュと歩くことによる体のリ ハビリ、鍛錬ということで、宗教的な意義を期待していただけに、残念でした。

夜は懇親会があり、皆で瀬戸内海の海の幸と讃岐うどんを堪能しました。特に冷たいぶっ掛け うどんは歯ごたえといい、のど越しといい、絶品でした。

翌朝は早めに起床し、一人で栗林公園に行ってきました。栗林公園は特別名勝の指定を受けた 回遊式大名庭園で、総面積23万坪の日本最大の庭園です。個人的には金沢の兼六園、熊本の水前 寺公園よりも感動しました。栗林公園は1620年頃、讃岐藩主の生駒高俊公が造園、その後松平頼 重公に引き継がれ、1745 年完成となっています。この公園の1画に薩摩藩の島津公より寄贈され た琉球からのソテツがあり、樹齢300年ということで、香川県と沖縄県の接点を見つけ、感慨深 く思いました。