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頭蓋骨縫合早期癒合症の診断について

下地武義

沖縄県立南部医療センター・こども医療センター
下地 武義

軽度三角頭蓋で話題になり、現在も本土から 多くの患児が受診している。その中に典型的な 頭蓋骨縫合早期癒合症が含まれて受診してお り、残念ながら適当な手術時期を逃しているた めかなりの頭部の変形を残す結果となる症例が 存在する。ご両親によれば、何箇所も施設を受 診し頭部変形について質問したが答えは一様に して“経過を見ましょう”とのことだそうであ る。そうこうしているうちに乳児期を過ぎ強い 変形を残したままになったとのことである。そ こで主に乳児健診をなさる先生方に、種々の典 型的な頭蓋骨縫合早期癒合症で起きる頭部変形 を示し、診断のポイントをご紹介したい。

一般的に頭蓋骨の縫合線の機能についてよく 知られているのは、分娩時に児の頭蓋骨が重な って産道を通り易くするために存在するという ことであろう。頭蓋が成長するには、内部の脳 の成長によるのであるが、その方向を決定する のは頭蓋縫合線が重要な役割を果たすのであ る。すなわち、頭蓋骨は縫合線に垂直な方向に 成長するということである。これが縫合線の本 来の役割である。

まず単一の縫合線が先天的に癒合した場合の 変形を紹介する。

矢状縫合が癒合するとその垂直方向すなわち 左右への伸びが制限され、前後方向への伸びが 著明になり舟状頭と呼ばれる変形を生み出す (図1)。それのみならず、額までも丸く突出す る。マンガ“わたるがぴゅん”の宮城君である。

冠状縫合の片側が閉じると前後方向への頭蓋 の成長の制限により、患側の額はこめかみに向 かい平たく斜めに変形するので斜頭と呼ばれる (図2)。眼窩外側は後上方に引き上げられる。 健側の額は逆に丸く突出する。

前頭縫合が閉じると額の左右への伸びの制限に より、両側の額は扁平化し前頭縫合を頂点に船首 状変形を来たす。それで三角頭蓋と呼ばれる。文 字通り額が三角形になるので診断は比較的容易で あるが、典型例は極わずかである(図3)

複数の縫合線の癒合の代表例は両側冠状縫合 の癒合である。頭蓋の前後方向への成長が制限 され、横から見ると前後から押しつぶされたよ うな変形を見る。眼窩は外上方に偏移する(図 4)。矢状縫合、冠状縫合や人字縫合などが全て 癒合すると、頭頂部が突き出す変形を起こし、 尖頭と呼ばれる状態になる(図5)。

以上が代表的な変形を伴う病態であるが、そ の他、未だ教科書にも掲載されていないような 病態も発見されている。このような種々の頭蓋 骨縫合早期癒合症の診断は、まず、第一に視診 である。頭部の形がおかしいと感じたら、次に 触診をして、縫合線の部分を触れることであ る。縫合線の部分に沿って骨の盛り上がりを触 れたら(Ridgeと呼んでいる)頭蓋骨縫合早期 癒合症ではと十分に疑うことのできる生理学的 所見である。この時点で、我々のところへ紹介 されても結構であるが、単純写真が撮れるので あれば、頭蓋単純写を撮り縫合線の癒合の所見 をもって診断し、確定診断を持って紹介状を書 くことができる。その後は、3D-CTで頭蓋骨を 組み立てて、縫合線の状態を詳細に見ることが 出来るし、頭蓋底の状態をも分析することが出 来る。多くの症例で前頭蓋窩の狭小化を見る。我々は、全例にMRIを施行し脳の異常所見が 無いかを見ている、あれば手術の適応は原則無 いと判断している。手術は、舟状頭以外は前頭 蓋底の拡大を目指して(図6)、縫合部の切離を 始め、眼窩の切離、蝶形骨や側頭骨削除を行っ ている。

図1

図1;舟状頭
a;矢状縫合の早期癒合である。頭部が前後に極端に長く、額 の部分と後頭部の丸みを帯びた突出を呈する。
b;3D-CTで矢状縫合癒合とRidge(矢印)が明らかである。

図2

図2;斜頭
a;片側の冠状縫合の早期癒合である。左患側の額の扁平化と 斜状の変形をみている。健側額が丸く突出しているのも特 徴である。
b;3D-CTで左冠状縫合癒合とRidge(矢印)が明らかである。 眼窩外側は後上方に挙上される。
c;左患側の前頭蓋窩の狭小化も著明となる。

図3

図3;三角頭蓋(典型例)
a;額中央部のRidgeが明らかで肉眼で確認できる例が多く、 額は両側とも扁平化し狭小化をみる。こめかみの部分の陥 凹も著明である。頭頂部より額を見ると船首状に変形して いるのが特徴的である。
b;3D-CTで前頭縫合のRidge(矢印)が描写されている。
c;3D-CTで両側前頭蓋窩の狭小化が著明である。

図4

図4;短頭
a;両側冠状縫合の癒合症で、前後径が極端に短い。Ridge (矢印)が見えている。
b;3D-CTで両側冠状縫合の癒合しRidge(矢印)の所見が明 らかである。眼窩は外上方に偏移する。
c;この病態でも両側前頭蓋窩の狭小化が著明となる。

図5

図5;尖頭
a;矢状縫合、冠状縫合や人字縫合などが全て癒合し、頭頂部 が突き出す変形を起こしている。
b;泣くと頭に瘤ができる症例、尖頭で頭蓋内圧が著明に高く、 矢状洞よりの静脈血によるものであった。
c;頭蓋単純写でいずれの縫合線も確認されず、指圧痕が著明 である。
d;3D−CTでも全ての縫合線が確認できない。

図6

図6;頭蓋底の変化
a;軽度三角頭蓋の症例で術前3D-CT前頭蓋底の狭小化を示し ている。
b;術後明らかな前頭蓋底の拡大を見ている。

顔写真掲載については保護者あるいは本人の 了解を得ております

放置するとどうなるかを考えさせられる症例 を紹介する。

2歳時に頭部の変形を指摘していたが、症状 が無いとして6年間経過を見ていた。睡眠時無 呼吸症候群を主訴に耳鼻科を受診アデノイドの 手術を受けるという。その手術が決まった後に 相談され、この症状は頭蓋骨縫合早期癒合症 (全縫合線の癒合で尖頭の病態)から来る可能 性があるので、手術後に受診するようにアドバ イスしておいた。術後、症状は多少改善した が、完全ではなかったので当科を受診してい る。3D-CTで全縫合線の癒合と指圧痕を診断、 MRIで頭蓋内圧亢進による小脳扁桃のヘルニア を指摘し、尖頭の手術が必要であることを説明 し、手術に踏み切っている。術前、病室で睡眠 時いびきが凄く、経皮的酸素飽和度は80%台で あった。術後これらの症状は徐々に改善、経皮 的酸素飽和度は90%を切ることは無くなった。 2週後に退院するが、退院後、症状は、完全に 消失している。MRIの所見も改善した(図7)。

放置するとこのような頭蓋内圧の問題が起き る場合があるし、単一の頭蓋骨縫合早期癒合症 の場合でも約30%前後に認知障害を主とする問 題が発生するというのが最近紹介されている。 出来る限り早期(乳児期の早期段階)に手術的 な処置を行うことが重要であると主張したい。

最後に、乳児期健診をなさる先生方の視診・触 診で診断の遅れを少なくするように期待したい。

図7

図7;小脳扁桃ヘルニアを示した症例
a;3D-CTで全縫合線の癒合を呈している。
b;指圧痕も著明。
c;MRIで小脳扁桃ヘルニアを呈している所見(矢印)。
d;術後MRIで小脳扁桃ヘルニアの減退(矢印)と延髄後部に 髄液を示す所見を見る。