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「島からの眺め」

藤井弘人

ひふ科藤井医院 藤井 弘人

姓からお分かりのように、小生はウチナンチ ュではありません、内地人です。世に言う「沖 縄ブーム」にのって、移住してきた一人です。 おかげさまで今年で5年を過ぎ、何とかこちら の生活にも慣れてきました。5年の節目の決心 で八重山に骨を埋めることにし、出身地の家も 処分しました。

山に囲まれた出生の町と30kmはなれた大学 のある隣町を行ったり来たり、仕事場も結局、 産まれた町のビルの谷間で開業と故郷を離れた ことがなかった反動でしょうか?人生も先が見 えてきた50歳を過ぎたあたりから拡がりにあこ がれるようになり、海の果てない拡がりを求め てやってきました。自分で自分自身をリストラ するような状況ですから、新天地での生活も必 要最小限を心がけ、省力化、スリム化を図りま した。

で、当地に新しく診療所を開くのを機会に、 思い切って、電子カルテを取り入れることにし ました。いま小生が使っているのは、 「Dynamics」という、広島の工学博士をもつ内 科の開業医である吉原氏によって開発された電 子カルテです。なにしろ、コンピューターに明 るい方が開業医である自分自身の楽が出来るよ うに開発したわけですから、かゆい所に手が届 くような感心するような工夫に満ちていて、マ ンネリ化して、単調、機械的になりがちな日頃 の診療が、オモチャを使って遊んでいるような 楽しい仕事に変身するような面白さがあります。

例えば、薬疹歴のある患者さんの禁忌薬を一 度入力しておけば、処方薬の一覧に禁忌薬だけ 色付の警告がでるとか。カルテ開示を前提に、 求めに応じて患者さんの携帯電話に電子カルテ の内容をお渡しすることが出来るとか。極めつ けは、災害対策で、自身の携帯電話にそっく り、電子カルテのデータを入れ、災害時の停電 などは勿論、出先などでの問い合せ等で患者さ んの診療内容が知りたい時に携帯電話を覗くだ けで的確に対応できるなど、勿論、セキュリテ ィーも万全で、携帯電話の患者データはパス ワードを3回間違えると自動的に全部が消滅す るなど、ちょっと、スパイ映画的な遊び心もあ ります。

電子カルテ「Dynamics」の基本となるデー タベースの仕組みも、あのメジャーのマイクロ ソフトのアクセスの上に構築されているので、 汎用性もあり、アクセスの知識のある方なら、 自分なりに応用も出来るという具合でリソース もオープンです。当然、大手メーカーの様な意 味も解らない高額ではありません。まさに開業 医向けのソフトといえるでしょう。

なにしろ、離島僻地で近くにコンピューター の専門店がある訳でなし、トラブルに遭遇した 時、PCが壊れた時、自分で対処するしかない ので、WindowsベースのLANでOfficeに組み 込まれているデータベース=アクセスで運用で きるのはとても助かります。

サポートも、開発スタッフ、開発者の吉原先 生、ユーザー同士が混ぜん一体となったメーリ ングリストでお互いに助け合いながら、お互 いのトラブル体験を共有しあいながらのサポー トで、毎日、メーリングリストを覗くだけで自 然に知識や未経験のトラブル対処法まで身につ くという体制で、いつも隣に頼りになる人が居 るような、、、そんな気にさせてくれます。

当初パソコン(PC)はまったくの素人でし た。PC の雑誌を片手に適当に未消化のまま 「ネットワーク」なるものを院内に組み、ひと つ一つ、解らないなりに試行錯誤しながら組上 げました。

成せばなるもので「skillよりもwill」という 「Dynamics」のキャッチフレーズの如く、誰で も最初は素人。経験を重ねることで、小さな PCのトラブルにも少しは動じなくなりました。

同じ診療でも今までとは違った、なにかゲー ムでもしているような面白感覚を持ちながら仕 事が出来る。それが電子カルテ「Dynamics」 の良さかもしれません。

なんでも厚生省の号令であと2〜3年後には レセプトがオンライン化されるとか・・・・。事の良し悪しはともかく、どうもPCとの接触 は避けて通れない道のようです。

いま、当方の電子カルテ「Dynamics」も着々 とオンライン化に向けて準備を重ねています。 レセプトの受付締め切り間際に台風とか悪天で 飛行機の運行が止まってしまったり、離島僻地 にとっては、毎月レセプトの送付は大きな山で した。レセプトのオンライン化は、考え様では 離島僻地こそ確実で安全な解決への道なのかも しれません。

パソコン(PC)のトラブルも島独特でした。 特にビックリしたのは湿気と塩害でした。頭 の中では理解していたものの、3年も経たない うちにパソコンのハードディスクが損傷した り、ICチップのムカデの足の様な基板との半田 着けの部分に緑青が吹いて錆びていたり、ICチ ップの接合部に埃がたまり、その埃が塩気を含 んだ湿気でショートを起こしたり、まるで想像 もしなかった障害に何回か見まわれました。そ れもなぜか、連休明けの忙しい日に良く起こり ました。おそらく、休みで電源を落としている 間に湿気がじわじわと浸透してショートを起 こすのでしょう。聞く所に拠ると、海岸線から 8km以上離れないと塩害から免れないとか、、、。 と言う事は島のどこに行っても塩害からは逃れ られない、、、。

で、以来PCの部屋の窓は開かずの窓になっ て、エアコンの電気代がガンと跳ね上がりまし た。でも、まあ、PCの修理に掛かる損害より はましと。

時代の流れとはいえ、いろいろな場面でPC が必需品になってきたようですね。

国のレセプト・オンライン化の方針もこんな 状況で離島ではさらに負担増があるなんて考え てもいないでしょうね。しかも離島僻地は、都 市部と異なり患者もまばらな零細経営。通販で 全国送料無料と謳っても、いざ注文すると「離 島は別途送料が掛かります」とくる。おいお い、離島は「日本国」のうちに入らないのか よ!!10月から郵政も民営化が実施です。全国一 律の低廉な価格体系も今後離島はどうなること やら??

お上が、離島僻地の偏重な負担を鑑みずに、 反面「法の基の平等」などとのたまわっても、 なにかピンと来ない今日この頃です。島に住ん で内地を眺めると、そんな風景が見えて来るよ うになりました。

★リレー状況
−平成16年以前掲載省略−
29.仲間 司先生(県立那覇病院)Vol.41 No.5
30.新里 讓先生(沖縄赤十字病院)Vol.41 No.11
31.友利正行先生(ともり内科循環器科) Vol.42 No.2
32.具志一男先生(ぐしこどもクリニック) Vol.42 No.4
33.神谷鏡子先生(かみや母と子のクリニック) Vol.42 No.6
34.呉屋良信先生(わんぱくクリニック) Vol.42 No.9
35.江洲浩明先生(はえばる耳鼻咽喉科) Vol.42 No.11
36.真栄城徳秀先生(真栄城耳鼻咽喉科) Vol.43 No.2
37.野原昌亮先生(野原整形外科) Vol.43 No.4
38.平良章先生(にしはら耳鼻咽喉科) Vol.43 No.5
39.仲程一博先生(南西耳鼻咽喉医院) Vol.43 No.7
40.松尾周一先生(まつをレディースクリニック) Vol.43 No.10