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ジェネラリストを目指そう

稲福徹也

琉球大学医学部附属病院地域医療部
稲福 徹也

1)私のジェネラリストとしての経歴

私は開業医であった父の影響もあり、研修医 の頃から何でも診ることのできる医師(ジェネ ラリスト)を目指していた。初期研修を行った 大学病院は内科に所属すると1年目は全ての専 門内科をローテーションするシステムであった が、稀な疾患の患者さんしか入院しない大学病 院の専門内科を全て回ったからといってジェネ ラリストになれるとは思えなかった。通常1年 間の出向を教授にお願いして延ばしてもらい、 市中病院で2年間研修することになった。

内科医として考えかたの基礎はその市中病院 で学んだ。内科のスタッフはそれぞれの専門を 持ったジェネラリストの集団であり、質問しや すい雰囲気でのびのびと研修ができた。私と同 じような立場でさまざまな大学から研修医が来 ておりとてもよい刺激になった。

4年目に大学に戻り神経内科を目指したが、 大学にいれば特別な努力をしなくても専門医に なることは出来た。私が神経内科のチーフレジ デントの頃は神経以外の疾患についてよく勉強 するようにして、研修医からのさまざまな疑問 に答えられるように努力した。その後も市中の 研修病院で研修医とともに学ぶことで自分のジ ェネラルな臨床能力を維持してきた。

10年前に帰沖してからも研修病院で「総合内 科医」として勤務したが、プライマリ・ケア学 会、総合診療医学会、家庭医療学会などに所属 し、学会が主催するワークショップや研修会に 参加してジェネラリストとしてのスキルアップ を図ってきた。ここ3 年ほど大学でプライマ リ・ケアの「医学教育」に携わっている。今後 はさらに「家庭医」を目指して地域医療の現場 で実践を積み重ねていこうと考えている。

2)ジェネラリストとは

ある60代の女性がここ1ヶ月長く歩くと息切 れがするというので呼吸器専門医を受診した。 呼吸器専門医は肺の病気ではないと言い、循環 器専門医を紹介した。循環器専門医はあらゆる 検査をしてごく軽度の心筋虚血があると言い、 狭心症に対する治療を開始した。しかし女性は 2週間たっても一向によくならないので救急外 来を受診しHb4.8の高度の貧血が発見された。 この女性に消化管出血はなく単なる鉄欠乏性貧 血であったが、いわゆる専門医は自らの領域の 疾患を否定すると容易に他の医師を紹介する傾 向にある。また不確実な問題に対してある一つ の可能性に賭ける傾向にある。私は専門医を否 定しているのではなく、ジェネラルな視点を欠 いてあまりにも狭い領域のみを追求するとピッ トフォールに陥るということである。専門医で あっても患者の問題点ひとつひとつを丁寧に検 討すれば問題解決できたと思われる。ジェネラ リストは幅広い臨床能力は必要であるが、必ず しも全て浅いわけでなく、疾患の頻度、緊急 度、重篤度に応じて深浅にメリハリをつける能 力を身につけていることが重要である。これ以 外にもジェネラリストとしては、医療面接、コ ンサルテーションのしかた、医療倫理、EBM、 緩和医療、死生観、栄養管理、行動変容、予防 医学、教育技法、身体化障害、皮膚科、整形外 科、小児科、小外科の知識やスキルを身につけ ておくべきと考える。

3)ジェネラリストをめぐるわが国の状況

平成16年度からスタートした初期臨床研修 制度では2年間で全ての研修医が1ヶ月以上の 地域保健医療研修を行うことなり、地域の診療 所でも研修医が研修することになった。これは 多くの若い医師が地域医療を体験するという画 期的な制度で、ジェネラリストを養成する大き なチャンスである。

それを受け全国の医学部でも地域実習として 学生を診療所で実習させる大学が増えている。 2007年度は全国で19の大学が地域実習を行って いるが、琉大の地域実習は2004年度から県内の 診療所や訪問看護ステーションに学生を受け入 れてもらっている。最近文部科学省も全ての大 学医学部で地域実習をするように指針(コア・ カリキュラム)を打ち出しており、今後プライマ リ・ケア領域の医学教育がますます重要視され るようになると思われる。

初期研修を終え、本格的にジェネラリストを 目指す後期研修プログラムは日本家庭医療学会 が2007年度全国で60のプログラムを認定して いる(http://www.jafm.org/pgm/list_2007.html)。 これからはまだ始まったばかりで発展途上であ るが、沖縄では県立中部病院のプライマリ・ケ ア医コースが認定されている。

このように地域医療を担うジェネラリスト (「家庭医」)の養成について、卒前教育から初期 研修さらに後期研修へと整いつつあるが、これ らは大学や研修指定病院内のプログラムだけで は決して成り立たない。地域医療を実践してい る診療所や開業医の現場で実習や研修を行わな ければならない。そういう意味で医師会が中心 となり「家庭医」の多施設共同の後期研修プロ グラムを立ち上げてもよいのではないかと思う。

4)ジェネラリストの進路

将来ジェネラリストを目指す医師の進路につ いて考えてみたい(図1)。後期研修修了後に進 む道として、1)医学教育(大学病院) 2)大病 院の「総合内科医」3)地域の「家庭医」など がある。多くの大学病院に総合診療部(科)が 出来ているが、そのスタッフは医学教育に携わっ ていることが多い。大病院の総合内科医は病院 長の理解と支援が必要で、病院内で専門医とお 互いの立場を尊重し合える関係であることも重 要である。現時点では地域の「家庭医」は最も 安定してジェネラリストが活躍できる場であると 思われる。混沌としている部分もあるが、将来必 ず必要とされる領域であり若い医師たちにぜひと もジェネラリストを目指してもらいたい。

図1

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今回の執筆にあたってはプライマリ・ケア教 育連絡協議会のホームページ(http://www.reference.co.jp/primary-care/)を参 考にした。また、ジェネラリストについては伴 信太郎教授の「21世紀プライマリ・ケア序説」 (プリメド社)に詳しく記載されているので参 考にして頂きたい。今年プライマリ・ケア関連 3学会(日本プライマリ・ケア学会、日本家庭 医療学会、日本総合診療医学会)は日本医師会 の呼びかけにより合同して“総合医”を育成し ていくことに合意した。3学会合併の話も進ん でおり今後の動向を見守りたい。