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小児の遠視
−弱視、斜視との関連−

関口和行

豊見城中央病院眼科
関口 和行

はじめに

小児の遠視に注意が必要なのは、小児期とく に乳幼児期は視覚の発達期であり、遠視の程度 によっては発達が阻害され弱視や内斜視の原因 となるからです。弱視は感受性のある時期を過ぎ てしまえば治療が困難になりますので、早期発 見、早期治療が大切です。また弱視には外見の 異常を伴わないものがあるので、視力測定が含ま れる三歳児健診が重要ということになります。

視覚の発達

ぼんやり眺めるといった程度のものが生後1 週、両眼でものをみる両眼固視が生後6〜8週 までにみられ、ものを追う追視は生後3か月で みられます。

視力はおおよそ生後1か月で0.03、3か月で 0.1、6か月で0.2、12か月で0.3、その後1.0に なるのは3歳児で67%、5歳児で85%、6歳児 でほぼ100%となります。新生児の多くは軽度 の遠視です。生後3か月で少し増加しますが、 その後遠視は軽減していく傾向があります。そ して小学校高学年から近視の割合が増加し、以 降近視が次第に増加していきます。

視覚の感受性は、生直後2〜4週は比較的低 く、生後2か月から2歳頃までが最も高く、そ の後減衰して6歳過ぎから低くなり8歳の終わ りごろまで続くと考えられています。

遠視

眼の屈折状態は、調節休止のときに、眼に入 ってくる平行光線が結像する部位と網膜との位 置関係によって正視、近視、遠視などに分類さ れます。

正視は網膜に結像、近視は網膜の前方に結 像、遠視は網膜の後方に結像します。これを実 際の見え方に置き換えると、ぼーっと楽に外界 を見たとき、正視は遠くがよく見え、近視は近 くがよく見え、遠視は遠くも近くもぼやけて見 えることになります。

眼には毛様体筋の働きによって水晶体の厚さ を変え、屈折力を変化させる機能があり、これ を‘調節’と言います。遠視がよく見るために は、遠くも近くも常に‘調節’をして外界のイ メージを網膜に結像することが必要となります。 つまり遠視は‘調節’しないと見えません。

軽度の遠視は、調節により遠視を打ち消し裸 眼視力が良好な場合が多いです。中等度の遠視 は、片眼での裸眼視力が良好でも、両眼で見る と過度の調節に伴う輻湊(内よせ)が起こるた め内斜視になることがあり、高度の遠視では、 調節しきれず裸眼視力の低下が起こります。

弱視

小児の視覚発達の条件には、外界のイメージ が網膜に明瞭に結像することがあり(ピントが 合った物を見ること)、これがないと、小児の 視覚の発達は阻害されることになります。

前述のとおり、6歳児の多くは視力1.0になり ますが、それまでに高度な遠視などの視力の発 達を阻害する原因を放置すると視力の発達は停 止します。6歳のあとから治療しても反応が悪い ことが多く、矯正視力が不良な眼になってしま います。

弱視の分類は主に4つありますが、屈折異常 弱視と不同視弱視の2つに遠視が関係します。 屈折異常弱視は両眼の弱視で、強い遠視などの 屈折異常が両眼にあるときにおこります。不同 視弱視は片眼の弱視で、左右に屈折の差がある とき、たとえば遠視に左右差があるとき、遠視 が強い眼が弱視になります。

斜視

遠視によって、調節性内斜視が起きることが あります。‘調節’すると、輻湊(内よせ)が 誘発され、これを調節性輻湊といいます。正常 な機能ですが、中等度以上の遠視がある場合、 よく見るためには過度の調節をすることにな り、これに伴い調節性輻湊が強く起り内斜視と なります。

治療

遠視が原因で起こる弱視や斜視の治療は、遠 視の矯正です。小児の屈折矯正は、眼鏡が第1 選択です。眼鏡装用によって外界のイメージが 網膜に明瞭に結像することになり視力は発達し ますし、余計な調節をしないですむので内斜視 は改善するのです。眼鏡装用が可能な年齢は、 通常3歳以後ですが、症例によっては、3歳未 満でも装用可能です。眼鏡の度数を決定する 際、成人と異なる点は、調節による屈折力の変 動を除外することです。具体的には、塩酸シク ロペントラートや硫酸アトロピンなどの調節麻 痺薬を点眼して、屈折検査を行い眼鏡の度数を 決定します。

図1は、調節性内斜視の症例ですが、眼鏡装 用のみで内斜視は改善しています。

[図1] a 右眼固視にて左眼の内斜視がみられる

b 眼鏡装用により眼位は改善している

治療用眼鏡の保険適用

平成18年4月1日から、申請すると9歳未満 を対象に弱視・斜視・先天性白内障術後の屈折 矯正の治療に使う治療用眼鏡とコンタクトレン ズが保険適用を受けることになりました。

三歳児健診

平成2年8月から三歳児健診に視力検診が導入 されています。東京都では、視力検診の可能率 90%、要精密健診率2%、弱視発見率0.4%、斜 視、弱視のない屈折異常を含めると1%の異常が 発見されており、非常に有意義であります。

屈折異常弱視は両眼の弱視なので、眼を細め る、テレビを近くで見る、本を読みたがらな い、飽きっぽい等の徴候がありますが、不同視 弱視は片眼の弱視なので、良い方の眼がカバー してしまい行動に表れないことが多く、三歳児 健診で発見されないと、就学時健診まで放置さ れる例を多く認めます。

おわりに

遠視は遠いところがよく見える眼、小さいう ちから眼鏡をかけさせるのは可哀そうと考えて いる保護者の方がいることは事実でありますが、 治療できる期間は限られていることを理解して もらい、子供の将来を考え、早期治療開始と治 療の中断例を少なくさせることが重要です。