沖縄県医師会 > 沖縄県医師会の活動 > 医師会報 > 10月号

競馬と私

松尾周一

まつをレディースクリニック
松尾 周一

「あなたの趣味は何ですか?」と聞かれ、「ゴルフです」とか「囲碁です」と答えるのは聞こえがいいが、「競馬です」とはなかなか答えにくいものである。それは競馬という言葉そのものに余り良いイメージがないと私自身がコンプレックスを持っているからだろうか。確かに昔の競馬場は赤鉛筆を耳の上に挟み、競馬新聞を片手に握りしめた、ステテコに腹巻き姿のオヤジが集まる所というイメージもあったが、近頃では余り見かけぬ光景になったし、寧ろ、家族連れや若い女性の姿が目につく、それだけ競馬というものが一般大衆にも受け入れられ、色々な角度で楽しむ人が増えているということだろう。そう考えると、そんなに卑屈になることはないのかもしれない。

一言に「競馬が趣味」といっても様々で、競走馬そのものに魅せられる人もいるだろうし、より速い競走馬を生むために血統などを研究したり、競馬カルトのように手当たり次第にデータを漁り記憶している人もいる。私のように損得は別にして、馬券(勝馬投票券)を的中させるためにあらゆるデータを集め自分なりのレース展開を組み立て予想する人もいる。そういう人は予想を立てることに満足し、それが当たれば嬉しいが外れてもレースを回顧して妙に納得するのである。たまたま買った馬券が的中する(そういう場合は高額配当になるケースが多いが)所謂ビギナーズラックもあるだろう。

考えて予想を立てることは脳の活性化にも繋がるが、レースに興奮しすぎると脳の血管が破裂するかもしれないので注意が必要である。

さて、私は物心がついた頃より競馬と接する機会があった。それは私の生家が東京競馬場から徒歩で5分と離れていない所にあったからである。無論その頃は馬が走ることなどに何の関心もなかった。寧ろ、競馬開催の無い時の競馬場に忍び込んで、巨大な秘密基地のようなスタンドや内馬場の広大な原っぱで遊ぶことに魅力を感じていたのである。

私が本格的に競馬を研究し始めたのは中学1年の時だった。「門前の小僧習わぬ経を読む」という諺があるが正にそれであった。事の始めは、私が学校で競馬ゲームなるものを流行らせたことにある。内容は骰子を振って駒を動かすという単純なものであったが、実際のレースや状況を正確に再現するためにどうしても競馬のデータやシステム情報が必要となり、毎週駅の売店で週刊「馬」という雑誌を購入して読みふけった。馬券は一枚1円単位で発売し私が胴元になったが儲けようなどという気持ちはサラサラ無かった。しかし、賭博は賭博、職員室へのお呼びがかかった。

大学に入ってからは毎週のように競馬場に通い所持金が百円しかなくても馬券を購入した(学生は馬券の購入はできません)。そして一日の大半を競馬の研究に費やした。研究すればするほど馬券を的中させるために不足しているデータが出てくる。いくら研究しても的中率が100%になることなど無いことは分かっていてもそれがまた楽しいのである。購入分配にもよるが賭けたレースの半分が当たれば、医者なんかやっていないだろう。大きな事を言ったが元々そんなに大金を賭けている訳ではない。年の初めに二万円を競馬資金に充て、当たり馬券は換金せずに馬券のまま持っていて、その馬券を次の競馬資金に充てていた。私の財布には常に当たり馬券が数枚入っていて、それが無くなることはほとんど無かった。微々たるものではあったが年間の収支はプラスになることが多かったが、沖縄に移住してからは赤字続きである。今は便利なもので、インターネットなどを通して馬券の購入もできるし、色々なデータを入手することも簡単にでき、今までの研究を統合すれば東京にいた時と余り違いはないように思えるのだが、何が違うのだろう。

馬券が手元になく、現金で購入することもなくなり金銭感覚が薄れていることも確かにあると思われる。競馬はデータと記憶力(私の記憶力はだいぶ低下しているが)の勝負というが、それに加え直感とか閃きというものが必要なのである。その閃きというものが静かな自宅のコンピュータの前では浮かんでこないような気がする。私は競馬場に行っても実際に馬の走る所など余り見たことがない、場内のモニターテレビの方がよっぽどよく見えるからであるが、矢張り馬券は競馬場に足を運び、競馬場独特の雰囲気の中で考え購入しないと当たらないものかもしれない。到底石垣島では無理な話である。とは言いつつ今週も当たらない馬券を買い、国に献金し続けているのである。

東京競馬場スタンド

東京競馬場パドック

★リレー状況
 −平成16年以前掲載省略−
 29.仲間 司先生(県立那覇病院)Vol. 41 No.5
 30.新里 讓先生(沖縄赤十字病院)Vol. 41 No.11
 31.友利正行先生(ともり内科循環器科)Vol. 42 No.2
 32.具志一男先生(ぐしこどもクリニック) Vol. 42 No.4
 33.神谷鏡子先生(かみや母と子のクリニック) Vol. 42 No.6
 34.呉屋良信先生(わんぱくクリニック) Vol. 42 No.9
 35.江洲浩明先生(はえばる耳鼻咽喉科) Vol. 42 No.11
 36.真栄城徳秀先生(真栄城耳鼻咽喉科) Vol. 43 No.2
 37.野原昌亮先生(野原整形外科) Vol. 43 No.4
 38.平良章先生(にしはら耳鼻咽喉科) Vol. 43 No.5
 39.仲程一博先生(南西耳鼻咽喉医院)Vol. 43 No.7