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沖縄県立精和病院 院長 新垣 米子 先生

新垣米子先生
P R O F I L E
昭和47年3月
東京医科歯科大学医学部卒業
昭和47年6月 同上附属病院精神神経科研修医
昭和49年8月 財団法人郡山精神病院分院雲雀ケ丘病院勤務
昭和52年5月 茨城県立友部病院勤務
昭和55年10月
琉球大学保健学部附属病院精神科勤務
昭和59年3月 沖縄県立精和病院勤務
平成1年4月 同上 精神科医長
平成5年7月 沖縄県立宮古病院精神科医長
平成5年10月 沖縄県立精和病院精神科医長
平成7年4月 同上 神経科部長
平成11年4月 沖縄県立総合精神保健福祉センター(次長兼デイケア課長)
平成15年4月 同上 所長
平成16年4月 沖縄県立精和病院院長

全県的な視野に立ち公立病院でなければ出来ない政策医療を行っていきたいと思います。

Q1.沖縄県立精和病院の沿革について教えて下さい。

1958(昭和33)年、沖縄が極度の精神科病床不足に悩んでいたころ、精神障害者の処遇改善を図り、病床不足の解決を図ることを目的として琉球精神病院の家族会有志が立ち上がり「財団法人琉球精神障害者援護協会」(現在の沖縄県精神保健福祉協会)を設立しました。この援護協会の尽力により、お年玉つき年賀はがき募金と琉球政府からの補助金を基に1961(昭和36)年準公立の「財団法人沖縄精和病院」として100床で開設されました。ちなみに当院が設立される前年の1960年における県内の精神科病床数は、公私併せて229床人口万対2.6(平成17年現在、病床数5,632床、万対41.3)でした。本土復帰の翌年1973(昭和48)年県に移管され「沖縄県立精和病院」となりました。病床は、増床を重ね最高340床までいきましたが、1977(昭和52)年から306床に減床しています。その後、建物の老朽化に伴い1986(昭和61)年南風原町字宮平から現在地の南風原町字新川へ新築移転し、病床数は結核病床4床を加えて310床となりました。平成16年「県立病院あり方検討委員会」の提言を受け、病床数のスリム化に向け病棟再編を開始し、平成17年10月より稼働病床数255床として運用。平成18年11月、急性期病棟の改修工事を終了し、本年8月より男子開放から男女開放混合病棟への改修工事が始まりました。

Q2.沖縄県立病院長に就任されて3年が過ぎましたが、ご感想と今後の抱負をお聞かせ頂けますでしょうか。また、先生が院長として心がけていることがありましたらお聞かせ下さい。

管理職の役割とは何かがよく見えないままの就任でした。平成16年2月に県の「あり方検討委員会の提言」、平成17年3月から臨床研修医の受け入れ、7月から「医療観察法」の施行による鑑定入院及び指定通院医療機関としての役割、平成18年度からは公営企業法全部適用となり、息つく間もなく新たな業務が入ってきました。院長の主な役割は適切な医療の推進と職員統括を含む病院管理業務と心得ていましたが、病院経営に対しても院長が大きな役割を担わなければならないことになり四苦八苦しています。

今後の抱負については、当院の理念「こころ病む人を支え共に歩む」に沿って安全で良質な医療の提供、人権擁護、早期社会復帰を三大柱として精神障害者及びその家族の立場に立った活動を追求すると同時に、全県的な視野に立ち、公立でなければ出来ない政策医療を担って行くことです。

院長として心がけていることは、アメニティーの改善です。患者さんにとって心安らぐ環境であると同時に、職員にとっても働きやすい場であることが大事と考えています。病院の緑化と労働安全衛生委員会の活動に力を入れています。当院は築21年が経ち、その間に精神科医療を取り巻く環境も大きく変化し、病院はより利用者指向の治療環境が要請されるようになって来ました。当院は建物の構造そのものが古くなってきて建て替えが望ましいのですが、県の財政上困難なため改修、修繕等で対応している次第です。

Q3.2004年(平成16年)、国は精神保健医療福祉の改革ビジョンの中で、今後10年間に約7万床相当の病床数の減少を促すとしておりますが、このことについて先生はどのようにお考えでしょうか?

国は社会的入院患者の72,000人の10年後の解消を打ち出し、医療の領域をより急性期治療へと誘導してきているのは基本的には賛成です。精神科医療はこれまで幾度も変革を経て今日に至っています。昭和62年精神保健法制定により、入院患者の人権擁護と社会復帰が掲げられました。続いて平成5年の障害者基本法によって精神障害者も身体・知的障害者と同様に「障害者」として位置づけられ福祉の対象となり、それに連動して平成7年精神保健福祉法が制定され、精神障害者の自立と社会参加の促進が図られることになりました。これまでの「医療モデル」に対して「生活モデル」が提唱され、貧困な福祉施策のため医療がカバーしなければならなかった領域を、ようやく本来の福祉が担う時代になってきました。病院から施設へ、施設から地域へと、精神保健・医療・福祉の軸足が移行し、障害を持つ人が地域において当たり前の生活を享受できる「ノーマライゼーション」の理念のもとに、地域での社会復帰施設やサービスが徐々に充実してきました。人が生きるのに、如何に保護されようと社会から隔絶された状態では真に人生を生きているとは言い難いと思います。社会性は社会に出ることによってしか培われないでしょうし、人間関係の輪が広がると同時に体験も豊かになり、必要性を意識して患者さん自身の自主性が引き出され、自ら行動する人になっていくと考えられます。しかし、実際には福祉の対応は遅れています。充分な受け皿を準備しない段階で、医療費削減の目的で退院を促進するのは不適切です。社会的入院の大半を占めている統合失調症は慢性の経過を辿り、疾患(disease)と能力障害(disability)が共存し、さらに社会的不利(hadicap)を背負っており、それらが相互に影響しあっています。医療と福祉を完全に切り離すことは困難な面があります。病床削減においては医療と福祉の双方のきめ細かな配慮をしていくことが大切と考えます。

Q4.精神科救急や精神障がい者の社会復帰等について公立病院の立場で、先生のお考えをお聞かせ頂けますでしょうか。

精神科救急については、これまで輪番制のなかで当番日以外に土日祝祭日の夜間及び台風時の対応を担って来ましたが、理想を言えば24時間救急対応へのレベルアップを図りたいところです。しかしながら、現実的には予算の関係上病棟の改修工事がままならず、保護室を増やすことが出来ないため、当面はこれ以上の対応は難しいと思います。

社会復帰にについては罹病期間の短い患者さんは、急性期から退院後を見据えた治療計画を立て、密度の高い治療により早期退院を図り、デイケア、訪問看護等へ繋げて行きたいと思います。社会的入院の患者さんについては、失われた社会的機能を取り戻すためのSSTを含めた作業療法等のリハビリを行い、退院後の居場所や生活支援体制を構築するため、地域の社会資源とより密接な連携をして行きたいと思います。そのためには作業療法士や心理士、精神保健福祉士等のコメディカルスタッフの充実が必須です。しかし、県立では定数条例に阻まれてなかなか思い通りにはいきません。退院は家族の元へ帰すのが最もよいと思われますが、家族が崩壊していたり、親の高齢化や家庭が兄弟の世代に移っている場合は家庭復帰は困難です。県営の社会復帰施設や障がい者優先のアパート設立、市町村のホームヘルプサービスや権利擁護事業の充実などが望まれます。

Q5.今後の公立病院精神科病院の役割なりビジョン等についてお伺い致します。

当院は精神科医療の一端を担っている自治体病院の役割として次の点を挙げています。

  • 離島支援を中心とする県全体の精神科医療・保健・福祉への貢献
  • 民間病院では困難な分野への対応
  • 精神科救急医療システムの中核的役割
  • 教育研修病院として人材育成の役割
  • 医療観察法における鑑定入院・指定通院医療機関としての役割

また、平成16年2月に「県立病院あり方検討委員会」から今後の県立病院のあり方について提言を受け、当院に対しては次のことを求めています。

  • 本県精神科医療のセンター的機能
  • 精神科救急医療の中核的機能
  • 民間で対応困難な高度・特殊医療機能
  • 高度多機能病院の合併症治療の後方支援機能
  • 経営健全化・病院スリム化

以上の要請と当院の病床利用率の低下という現状を受けて病棟再編が必須の課題となり、平成16年度から次の目標を掲げました。

1)病床縮小 2)急性期治療病棟の設置 3)合併症病棟の設置

計画実行の端緒として平成17年度は社会的入院患者の退院促進に取り組み1病棟を休床化し、病棟再編を開始しました。それに伴い各病棟の看護体制の充実、安全な医療を確立するための「専任リスクマネージャー」の設置、「地域連携室・医療相談窓口」及び「リハビリ部門」の拡充がなされました。平成18年度は急性期病棟を整備し開設する予定でしたが、諸事情により平成19年度に試行へこぎ着ける予定です。また、平成19年4月に開設された「南部医療センター・こども医療センター」の精神科身体合併症治療の後方支援病院としての機能整備も策定する予定です。

平成17年3月から新医師研修制度に於ける協力型病院として、臨床研修医の受け入れがスタートしました。将来は南部医療センターとの連携を図りつつ、後期研修病院としての機能整備も検討しています。また、平成17年7月には心神喪失者等医療観察法が施行され、司法精神医療が開始されました。当院は鑑定入院医療機関及び指定通院医療機関となり、10月から鑑定入院を受け入れ、平成18年6月から通院患者を受け入れています。今後の公的病院としての役割として、児童思春期や薬物依存病棟を検討していく必要があると考えています。しかしながら、当院にとって現在最も大きな問題は、処遇困難患者さんの増加です。長期入院患者さんのなかには社会復帰可能な患者さん以外に病院内再燃を繰り返す患者さんや、これまでの触法患者さんで措置入院がなかなか解除できない患者さんがいます。また新たに発生した重大犯罪を犯した患者さんへの対応は医療観察法で対応されていますが、これまでの患者さんは対象外です。民間病院から処遇困難患者さんの紹介も続いています。処遇困難な患者さんへの対応は、ハード面における設備の充実や人的配置が必要になります。これは当院だけで解決できる問題ではなく、精神科医療全体の課題と考えられます。

Q6.県医師会に対するご要望がございましたらお聞かせ下さい。

現在、精神科は医療法上、設置基準が医師数が他科の16:1に比し48:1となっており、また診療報酬上病床単価が他科より低く抑えられています。現今の精神科医療は「医療は医療へ、福祉は福祉へ」と分化する方向にあり、急性期と治療抵抗性の患者さんには濃厚な医療的関わりが必要であり、急性期は診療報酬が見直されてきていますが、慢性の治療抵抗性の場合はそれに見合うだけの診療報酬上の算定がなされていません。またこのような精神科特例があること自体が精神科への偏見を作り出すと考えます。このような医療法上の不平等を改革するのに力を貸して頂きたいと思います。

Q7.先生の趣味や座右の銘などはございますでしょうか。また、ストレス解消はどのようになさっておられますか。

趣味は園芸ですが、庭を顧みる時間がなかなか取れません。雑草たちが花を咲かせてくれるのを楽しんでいます。バナナの葉がゆったりゆったり風に揺られている様はそれだけでストレス解消になります。

座右の銘は「春来草自生」(春来たりて草おのずから生ず)です。自然体で生きられるといいなと思っています。

インタビューアー:理事 稲田 隆司



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