糖尿病週間
琉球大学医学部 内分泌代謝内科（第二内科）
髙須 信行
・沖縄の糖尿病は増加
・「対策推進会議」・「登録医・療養指導医」
・糖尿病は早期発見・早期治療
・肥満-BMI-メタボ
1．糖尿病週間
「糖尿病週間」は「糖尿病を予防、糖尿病の正しい知識を普及する」ために1965年に作られた。（社）日本糖尿病協会は「糖尿病を予防、糖尿病の正しい知識を普及する」ために「糖尿病週間」を作った。毎年11月第2週を糖尿病週間と決めた。1965年に第1回が開催された。以後、毎年、糖尿病週間が行われている。糖尿病週間には全国各地でさまざまなセミナー、シンポジウム、そして健康相談が行われる。平成19年（西暦2007年）には「第43回糖尿病週間」が全国で行われる。
沖縄では平成19年（2007年）は10月26日（金曜日）と27日（土曜日）に糖尿病週間行事が行われる。市民公開講座は10月27日午前10時から12時までホテル・ロイヤル・オリオンで行う。北海道大学吉岡先生が「糖尿病と動脈硬化」について講演し、そして琉球大学高須が「長寿県沖縄の糖尿病」について話しをする。健康相談、栄養相談は10月27日（土曜日）午前10時から午後8時までサンエー・メインプレイス1Fで行う。また10月26日（金曜日）には午後7時から医療従事者のための医学講演会をラグナ・ガーデン・ホテルで行う。北海道大学吉岡先生が「インスリン治療の
現在までの市民公開講座、医療従事者のための医学講演会そして糖尿病週間行事を沖縄医報2006年10月号にまとめた1）。
2．糖尿病は増加
2型糖尿病は増加している（図1）。1997年の厚生省の調査では日本全国で690万人が糖尿病であった。日本人人口の5.3％、20人に1人が糖尿病であった。糖尿病の疑いのある（境界型）人はほぼ同数であり、「糖尿病と糖尿病の疑い」を合わせると1,400万人であった。日本国民の1割、10人に1人が糖尿病の疑いがある。2002年度の厚生労働省の調査では日本全国で740万人（総人口の5.7％）が糖尿病だという。糖尿病の疑いのある人（境界型）は1,620万人であり、「糖尿病と糖尿病の疑い」を合わせると2,360万人であった。
3．沖縄でも糖尿病は増加
1）沖縄は糖尿病が多い。肥満が多い。高脂血症が多い。
日本人の糖尿病は増加している。そして、沖縄でも糖尿病患者数は増加している。1991年に調査を始めたころは沖縄の糖尿病は4％だった。しかし、糖尿病は増加し、8.4％が糖尿病だ。沖縄では糖尿病患者が増加している。14年間で2倍に増加した。特に成人男性で2型糖尿病が増加している。
沖縄では2人に一台の割合で自家用車を持っている。沖縄は車社会だ。沖縄では糖尿病患者は増加している。日本国民の5.6％、沖縄県民の8.4％が糖尿病である。沖縄で糖尿病患者が増加したのはなぜか。
沖縄では肥満が多い。BMI（body mass index：体重（kg）/身長（m）2）平均値が高い。BMI25以上の人の割合が多い。40、50、60代男性では半分以上がBMI25以上だ。高脂血症が多い。コレステロール240 mg/dl以上の人の割合が多い。中性脂肪も高値である。中性脂肪150 mg/dl以上の人は男性でも女性でも多い。この肥満と高脂血症が糖尿病の増加に関係している。全国平均に比べて、沖縄県人は各年齢で肥満が多い。高脂血症が多い。沖縄の肥満、高脂血症は糖尿病患者増加と関係がある。
世代別にみると、20、30、40、50代どの世代をとっても、沖縄では肥満が多く、高脂血症が多い。このことは沖縄が長寿県であるのも時間の問題であることを示す。「沖縄は長寿」と言われるが、コホートで考えると、「沖縄の1920年以前に生まれた人は長寿」ということができる。現在20、30、40、50代の沖縄県人が長寿かどうかは分からない。特に男性は危ない。
2）沖縄県では肥満、高脂血症が多いのはなぜか？
沖縄の肥満、高脂血症は沖縄県人のlifestyle（生活と習慣）からくる。沖縄県人は脂肪の多いものを好んで食べる。沖縄は車社会である。沖縄県人のlifestyle（生活と習慣）の変化は糖尿病増加、肥満、高脂血症が多いことと関係がある。
昔は、生きるために田、畑、山、海に行き、農作物をとり、山の幸、海の幸を手に入れた。歩き回って食物を手に入れた。しかし、現在では人は生きて行くために買い物をする。買い物は生活の一部である。人は買い物をする動物である。
糖尿病、肥満、高脂血症はlifestyleと関係がある。Lifestyleの変化が糖尿病の増加をひきおこしている。Lifestyle・生活習慣の変化の目安として、買い物と食生活の変化について調べた。
A．買い物先と買い物の交通手段（図2A,B）
買い物先は1991年では大型店が20％であったが、1999年では42％、2000年では44％に倍増した。2001年では50％、2004年では83％と増加した（図2A）。現在ではほとんどの人はスーパー、大型店舗で買い物をする。1991年では近くのお店が24％であったが、1999～2000年では7.1～7.0％、2004年では3.1％に減った。
買い物の交通手段としては1991年では車が38％であったが、1999年では52％、2000年では61％、2001年では75％、2004年では76％になった（図2B）。1991年では徒歩は55％であったが、1999年では30％、2001年では16％、2004年では14％に著減した。
運動量は確実に減少している。また自家用車の保有率も増加している。現在沖縄県の人口2人に一台の割合である。成人のほとんどが車を一台もっている。沖縄は車社会である。人は車にのる動物である。
B．食生活---外食
食生活を調べた。本土に比べ沖縄では外食することが多い。
外食をどこでするかを調べた。マクドナルド、ケンタッキー・フライドチキン、モスバーガーなどの洋風ファーストフードを利用する人が多い。琉球大学医学部学生を対象にアンケート調査をした。琉球大学医学部学生の半分は沖縄県出身で残りの半分は本土出身である。沖縄県出身者は洋風ファーストフードを利用することが本土出身者に比べて有意に多いことが分かった。またこの原因は「沖縄県出身者は子供のころから洋風ファーストフードに馴染んできたため」である。マクドナルド、ケンタッキー・フライドチキン、モスバーガー、シェイキーズの都道府県別の人口1万人あたりの店鋪数をみると沖縄が1位である。2位以下の東京、神奈川、千葉などの大都市を大きく引き離している。またハンバーガー店の人口当たりの割合をみると沖縄は全国一である。沖縄ではハンバーガー店が多い。沖縄県人はハンバーガー好きである。
ファーストフード店を利用する人は高脂血症になると考えられる。調査してみるとファーストフード店を利用する人はコレステロールと中性脂肪が高値である。
また、沖縄の食事はもともと脂肪が多い。沖縄県人の栄養素別摂取構成比をみると脂肪は31％である。脂肪摂取の全国平均は26％である。厚生労働省は20～25％を推薦している。1960年代の終わりから沖縄県は25％を超えている。全国平均を10年以上先取りしている。
3）沖縄で糖尿病が増加
沖縄では糖尿病が増加している。肥満、高脂血症が多い。1999年、2000年、2001、2004年ではコレステロール、中性脂肪、BMIは全国平均に比べ、高値であった。沖縄県では運動量が少ないこと、肥満が多いことが明らかになった。脂質摂取量が多く、高脂血症が多い。これらは沖縄の糖尿病増加の背景になる。
4．沖縄の糖尿病増加の背景
「沖縄の糖尿病有病率増加」は「沖縄県人特有の遺伝的基盤のうえに、運動量が少ない、脂肪摂取量が多い、肥満が多いなどの環境因子が加わったため」である。運動量が少ないのは沖縄が車社会であることによる。また脂肪摂取量が多いのは沖縄の食事がアメリカ化したためである。10年以上前から毎年住民検診を行い、糖尿病・耐糖能異常を調べてきた。1991年と比べると、2004年では明らかに糖尿病は増加している。これはlifestyle・生活習慣の変化による。沖縄の糖尿病を予防するには運動量を増加し、脂肪摂取量を少なくする。歩くようにし、脂肪の多いものを食べないようにする。沖縄では糖尿病が多い。その背景の一部を明らかにした。
5．「運動と栄養から健康づくり」から「沖縄長寿県の未来」を明るく
沖縄の現状をみると介入することが必要である。「Lifestyleを改善」・「運動と栄養から健康づくり」から「沖縄長寿県の未来」を明るくしよう。運動と栄養から健康づくりをしよう。
食事と運動から沖縄の2型糖尿病（NIDDM）発症・進展に介入する2）。
6．糖尿病を理解し、糖尿病を予防し、治療する---「沖縄県糖尿病対策推進会議」・日本糖尿病協会「登録医・療養指導医」
糖尿病を理解し、糖尿病を予防し、治療するために「沖縄県糖尿病対策推進会議」が沖縄県でも立ち上がった。日本医師会、日本糖尿病学会、日本糖尿病協会、沖縄県医師会、沖縄県が協力し、糖尿病対策を推進する。事務局は琉球大学医学部第二内科。
日本糖尿病協会「登録医・療養指導医」が発足した。糖尿病に関心をもつ医師が「日本糖尿病協会登録医」として糖尿病治療の標準化を目指し、治療の中断を防ぐとともに、療養指導支援など日糖協活動推進の重要な役割を担う。詳細は略。
7．糖尿病は早期発見・早期治療-BMI？メタボリック症候群？
「ウエスト周囲径が長い。そして高脂血症、高血圧、糖尿病のうち2つがある」とき、これをメタボリック症候群という。高脂血症、高血圧、糖尿病3つのうち、いずれか2つという定義はあいまいである。「高脂血症は高脂血症を、高血圧は高血圧を、糖尿病は糖尿病を診断し、治療をする」といった方がはっきりする。明解である。肥満の指標としてはBMIが優れている（図3）3～5）。それにも関わらず、ウエスト周囲径にこだわる理由が分からない。ウエスト周囲径とメタボリック症候群の有無をROC解析した。ウエスト周囲径があてにならないことが分かった。ウエスト周囲径は身長により異なる。
BMIが大切。BMIを20～25にする。BMI 24の人が最も長生きした（図3）。運動と食事でBMIを20～25にする。少し太めで大丈夫。BMI 24～25で大丈夫。空腹時血糖を110 mg/dl未満にする。HDL-cholを40 mg/dl以上に、LDL-cholを140 mg/dl未満、中性脂肪を150 mg/dl未満にする。収縮期血圧を130 mmHg未満にする。
糖尿病は早期発見が大切である。糖尿病には糖尿病の治療をする。
8．平成19年（2007年）の沖縄の糖尿病週間；お集まりください
平成19年（西暦2007年）には「第43回糖尿病週間」が全国で行われる。沖縄では平成17年（2007年）は10月26日（金曜日）と27日（土曜日）が糖尿病週間です。
○医学講演会
日時：平成19年10月26日（金）午後7時～
場所：ラグナガーデンホテル
演題：「インスリン治療の
講師：北海道大学 吉岡先生
○市民公開講座
日時：平成19年10月27日（土） 午前10時～12時
場所：ホテルロイヤルオリオン
演題：「糖尿病と動脈硬化」
講師：北海道大学 吉岡先生
演題：「長寿県沖縄の糖尿病」
講師：琉球大学 高須信行
○健康相談・栄養相談
日時：平成19年10月27日（土） 午前10時～午後8時
場所：サンエー・メインプレイス（1F）
文献
1）高須信行 糖尿病週間 沖縄医報 42（10）: 1174-1179, 2006
2）Takasu N, et al.: The influence of motorization and supermarket-proliferation on the prevalence of type 2 diabetes mellitus in the inhabitants of a small town in Okinawa, Japan. Internal Medicine （in press, 2007）
3）Adams KF, Schatzkin A, Harris TB, Kipnis V, Mouw T, Ballard-Barbash R, Hollenbeck A, Leitzmann MF. Overweight, obesity, and mortality in a large prospective cohort of persons 50 to 71 years old. N Engl J Med 355: 763-778, 2006
4）Jee SH, Sull JW, Park J, Lee SY, Ohrr H, Guallar E, Samet JM. Body-mass index and mortality in Korean men and women. N Engl J Med 355: 779-787, 2006.
5）岡田正彦 人はなぜ太るのか 岩波新書, 2006