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「大腸癌」と「大腸がん検診」について

金城福則1)、金城 渚1)、仲本 学1)、岸本一人1)、知念 寛1)
井濱 康1)、座覇 修1)、豊見山良作2)、前田企能1)、宮城 聡1)、城間丈二1)
小橋川ちはる2)、前城達次2)、平田哲生2)、外間 昭2)、藤田次郎2)
1)琉球大学医学部附属病院光学医療診療部
2)同 第一内科

【要 旨】

大腸癌は、近年、わが国において死亡率が著しく増加している疾患の一つであり、 その大きな要因として高脂肪食や高蛋白食、低線維成分食など食生活の西洋化が推 測されている。

大腸癌は比較的予後のよい癌の一つとして挙げてもよいが、進行してしまえば、 致命的となることはすべての癌に共通することであり、特に、大腸癌では早期発 見・早期治療が強く望まれる所以である。

その様な情勢の中で、大腸癌は進行癌であっても無症状で発見できれば、予後が 期待できる疾患であり、わが国における二次予防としての大腸がん検診は精度管理 がしっかりしていれば、その効果が十分に期待できる事業である。

本稿では、まず、わが国における大腸癌診療の現況を、診断、治療、治療後の指 導の面から概説した。また、大腸がん検診の現況を、受診率、要精検率、精検受診 率、がん発見率、および陽性適中度について述べた。

大腸がん検診の効率よい実施のためには国民を含めた行政、医療機関による精度 管理の向上が重要課題である。

はじめに

大腸癌は大腸すなわち直腸、結腸および盲腸 の上皮性悪性腫瘍であり、原発性と続発性に分 けられる。原発性大腸癌は組織学的に は比較的予後のよい高分化型腺癌が多 いのが特徴的である。続発性大腸癌は 他臓器の癌が浸潤・転移したものであ り終末期癌のことが多く、がん検診に おいては馴染みのない疾患である。そ こで、本稿では原発性大腸癌について、 特にがん検診の面から記述したい。

Tわが国における大腸癌診療の現況

大腸癌は、近年、わが国において死 亡率が著しく増加している疾患の一つ であり(図1)、その大きな要因として高脂肪食や高蛋白食、低線維成分食など食生活 の西洋化が推測されている。

大腸癌は比較的予後のよい癌の一つとして挙げてもよいが、進行してしまえば、致命的とな ることはすべての癌に共通することであり、特 に、大腸癌では早期発見・早期治療が強く望ま れる所以である。

図1

a)診断

わが国における大腸癌による死亡率の増加 は、当然のことながら、早期発見・早期治療を 目的とした「がん検診」の対象とすることが強 く望まれていた。平成4年度より、免疫法便潜 血検査2日法を用いた「大腸がん検診」が老人 保健事業の一環として全国的に実施されるよう になった。大腸がん検診は、今日の大腸癌の早 期発見・早期治療に貢献していることは疑いの 余地がないが、その一次スクリーニングの受診 率や精検受診率の低迷が大きな問題となってい る1)。無症状者を対象とした住民大腸がん検診 は、農村などの医療過疎地域では「集団検診」 として、また、都市地区においては「個別検 診」としての受診率の向上が望まれる。有症状 者においては、当然のことながら医療機関での 診療が原則である。直腸指診は大腸疾患診療の 基本的手技の一つであり、直腸癌の比率が決し て少なくない大腸癌患者の診断においても重要 な診断手技である。近年、わが国における大腸 内視鏡の普及は目覚しく、診断のみでなく治療 においても重要な手段となっている。内視鏡機 器の開発・進歩も目覚しく拡大内視鏡検査や内 視鏡的超音波検査は病変の深達度診断に有効な 手段となっている2)。また、Narrow Band Imaging(NBI)などの特殊照明光を用いた機 種の開発・応用もその領域で期待されている。 内視鏡検査時に行われる生検組織や内視鏡的治 療摘出標本の病理診断はその後の治療方針に大 きく影響するので、内視鏡医と病理医の連携が 非常に重要である。追加切除術の有無は患者の QOLに大いに影響する。一方、従来、大腸疾 患診断において重要な役割を果たしてきた注腸 X線検査は最近低く評価されがちであるが、現 在も精密検査の一つとして活用すべき重要な検 査法である。血清中CEAやCA19-9などの腫瘍 マーカーはスクリーニングというよりは、転移 や再発のチェックに用いられるべきものであ る。体外式の腹部超音波検査やCT検査も進行 癌の診断や肝転移など転移性病変の存在診断に 役立つ。最近、癌診断法として話題となってい るPET検査は大腸癌のスクリーニング法として はまだまだ検討の余地がある。

b)治療

大腸癌の治療法は深達度や進行度によって大 きく異なる。多くの早期癌は内視鏡的切除術 (ポリペクトミー、粘膜切除術;EMR、粘膜下 層剥離術;ESDなど)、深達度の深い早期癌や 進行癌は外科的切除(腹腔鏡補助下手術や開腹 手術)を原則とする3)。直腸癌の外科的治療に おいては病変部位により人工肛門造設術を余儀 なくされることもある。切除不能症例に関して は化学療法や放射線療法、温熱療法、免疫療法 などが集学的に行われる。大腸癌の化学療法に おいては近年目覚しい進歩が感じられる4)。大 腸癌の発生に極めて関連性の高い疾患に家族性 大腸腺腫症があり、診断が確定した場合には癌 発生が認められなくても予防的全大腸切除術を 遅くとも30歳までには行うことを勧めるべきで ある。

c)治療後の指導

大腸癌の原因は不明であるが、わが国におけ る増加要因の一つに食生活の欧米化が挙げら れ、異時性発生予防のためにも生活習慣の改善 が必要と思われる。大腸癌は多発することもま れではなく、また、異時性多発もあり、内視鏡 的・外科的治療後の定期的サーベイランスも必 要である。家族性腺腫症患者は全大腸切除後も 上部消化管、特に十二指腸癌の異時性発生に注 意して経過観察する必要がある。

Uわが国の大腸がん検診の現況

毎年約30万人が悪性新生物で死亡している わが国の現状の中で、国は平成15年に「第3次 対がん10か年総合戦略」を策定し、平成17年 には「がん対策推進アクションプラン2005」ま で策定して、がんの罹患率と死亡率の激減を戦 略目標としている。

その様な情勢の中で、大腸癌は進行癌であっても無症状で発見できれば、予後が期待できる 疾患であり、わが国における二次予防としての 大腸がん検診は精度管理がしっかりしていれ ば、その効果が十分に期待できる事業である。

以下にわが国の地域大腸がん検診 の現状について述べる。

a)検診受診率(図2)

老人保健事業にもとづいて平成4年 度から大腸がん検診が実施されている が、平成16 年度の全国の受診率は 18.1 %であり、沖縄県においては 15.0%と国が目標とした30%には程遠 い数値である。また、沖縄県の平成 16年度の受診率は男性11.9%、女性 17.6%と女性に高いのが特徴である。

図2

b)要精検率(図3)

わが国の大腸がん検診においては 免疫法便潜検査2日法が推奨されてお り、1日でも陽性となれば、要精検者 となる。全国的にも沖縄県において も7%前後で推移している。沖縄県に おける平成16年度の要精検率は男性 で9.3%であり、女性の5.7%に比し て高いのが特徴である。性別では男 性が大腸がんのハイリスク群である ことが推測できる。

図3

c)精検受診率(図4)

精検受診率は全国で54.1〜61.8%、 沖縄県で64.5〜71.9%であり、精検 受診率の低さは大腸がん検診におけ る大きな問題点となっている。免疫 法便潜血検査は一般住民に受け入れ られ易いスクリーニング法ではある が、精検法として推奨されている大 腸内視鏡検査はまだまだ苦しい恥ず かしい検査として敬遠されているよ うである。平成16年度の沖縄県にお けるがん検診受診率は、大腸が 14.9%であり胃の10.9%より高いに もかかわらず、精検受診率は大腸 65.5%と胃79.7%よりもかなり低率 となっている。また、性別では男性の精検受診 率が64.1%と女性の66.9%より低いこともハイ リスク群の面からみると問題である。

図4

d)がん発見率(図5)

がん発見率は全国的には0.15〜0.17%でほぼ 定率であるが、沖縄県においては0.13〜0.31% と変動がみられる。その大きな要因は初回受診 者の比率によるものと推定している。また、性 別に平成16年度の大腸がん発見率をみてみる と、男性0.31%、女性0.14%と明らかに男性に 高率であり、ハイリスク群である男性の受診勧 奨が効率的な検診にがることが推測できる。

e)陽性反応適中度(図6)

平成16年度の沖縄県におけるがん検診の陽 性反応適中度は大腸がん検診が2.8%であり、 胃がん検診の0.7%より高く、より効率のよい 検診が行われていると云える。全国的にも同様 な傾向である。

図5
図6
おわりに

大腸癌は進行癌であっても無症状 で発見できれば、予後が期待できる疾 患である。わが国における大腸がん検 診は精度管理がしっかりしていれば、 その効果が十分に期待できる事業で ある。しかし、一次検診の受診率は伸 び悩み、特に精検受診率は低下の傾 向さえある。精検受診勧奨を行政・ 医療機関で精力的に取り組んで頂き たいものである。

また、糖尿病や高血圧症で長年通 院治療している患者に血便などの自 覚症状が出現して、大腸内視鏡検査 の依頼を受けることがある。その結 果、進行大腸癌と診断されることも 決してまれではない。一般内科を慢 性疾患で通院治療している患者は、 すべての病気のチェックも行っても らっているとの錯覚がないわけでも ない。わが国で検診の対象となって いる癌、すなわち、胃癌、肺癌、大 腸癌、子宮癌、乳癌については検診 受診歴の確認とその受診勧奨を行う べきであろう。著者らは消化器外来 診療を担当している者の一人として肺癌の見逃 しがないように常に注意を払っている。



文献
1)祖父江友孝・他:有効性評価に基づく大腸がん検診ガ イドライン(普及版).癌と化学療法32:901−915, 2005
2)河野弘志、鶴田 修、豊永 純:早期大腸癌の深達度 診断,飯田三雄 編集,大腸癌、大腸ポリープ, 46−57,メジカルビュー社,東京,2001
3)為我井芳郎・他:大腸腫瘍に対するESDはどのような 時に必要か−治療体系における位置づけについて−. 消化器内視鏡17:1279−1288,2005
4)仁科智裕、兵頭一之介:大腸癌に対する化学療法,市 倉 隆 編集,消化器がん化学療法,205−218,日 本メディカルセンター,東京,2006

著 者 紹 介

金城福則

琉球大学医学部附属病院
光学医療診療部
金城 福則

生年月日:昭和24年1月23日

出身地:沖縄県 名護市(旧屋我地村)

出身大学:弘前大学医学部 昭和48年卒

略歴
 昭和42年3 月琉球政府立首里高等学校卒業
 昭和48年3 月弘前大学医学部専門課程卒業
 昭和52年3 月弘前大学大学院医学研究科博士課程 修了
 昭和55年4 月弘前大学医学部助手
 昭和56年4 月琉球大学医学部助手
 昭和59年4 月琉球大学医学部附属病院講師
 昭和63年4 月琉球大学医学部助教授
 平成14年1 月琉球大学医学部附属病院光学医療診療部部長併任
 平成17年10月琉球大学医学部診療教授併任

専攻・診療領域
 消化器内科

その他・趣味等
 体を動かすこと(ボウリング、ゴルフ、野球、水泳など)



Q U E S T I O N !

問題:大腸癌について誤りはどれか、一つ選べ。

  • a.わが国では死亡率が増加している癌である
  • b.高分化型腺癌が最も多い
  • c.がん検診には生化学法便潜血検査が用いら れている
  • d.内視鏡的治療の適応となる早期癌が多い
  • e.平成16年度のわが国の女性の死亡率の第一 位である

CORRECT ANSWER! 5月号(vol.43)の正解

問題:動脈硬化について正しいのはどれか。

  • 1)血管内エコーによる石灰化の評価は困難で ある。
  • 2)冠動脈プラークの組織性状評価はエコー輝 度分類により確立されている。
  • 3)易破綻性プラークの組織学的特長は厚い線 維性被膜(fibrous cap)である。
  • 4)急性心筋梗塞や不安定狭心症はプラークの 破裂により生じた血栓によって起こる急性冠 症候群と言われる同一病態である。

a(1, 3, 4), b(1, 2), c(2, 3), d(4の み), e(1〜4のすべて)

正解 d