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第30回日本プライマリ・ケア学会
学術会議in宮崎 発表報告

田名毅

沖縄県医師会地域医療臨床研修小委員会
田名 毅(首里城下町クリニック第一)

平成19年3月21日に開催した沖縄県医師会第 一回「指導医のためのステップアップ講習会」 の内容について、宮崎で開催された第30回プラ イマリ・ケア学会学術会議で発表してきました ので今回その内容と学会の様子についてご報告 します。

(1)学会発表

二日目のポスター発表の中の「研修医教育」 のセッションで発表しました。以下にその内容 についてご紹介します(すでに県医師会報6月 号に安里哲好先生が講習会の詳細についてご報 告されていますので、今回は発表内容を中心に 記載します)。

※尚、座長は当小委員会の涌波満先生(ファミ リークリニックきたなかぐすく)が務めて下 さいましたので、緊張せずに発表にのぞむこ とができました。

(演題)

沖縄県医師会第一回「指導医のためのステップアップ講習会」について

(目的)

新臨床研修制度も3年目を迎え新たな講習会の あり方を模索して、今回第一回「指導医のため のステップアップ講習会」を開催した。面接技 法のスキルアップに加えて、地域医療研修協力 施設医師・管理型病院医師・研修医の三者が一 同に会することで地域医療研修の現状と課題に ついての意見交換を行うことを目標とした。今 回は本講習会について報告したい。

(開催要項)

参加者1)地域医療研修協力施設医師 2)管 理型臨床研修病院医師 3)研修医

日時 平成19年3月21日(水) 13:00〜18:45

方法 半日コースのワークショップ

参加費用 懇親会費を含む3,500円。 ※研修医は無料

テーマ 1.日常診療に役立つコミュニケーションスキル

     2.行動変容モデルを考えた患者教育

     3.「地域保健・医療」研修の問題点を探る

(参加者)

ディレクター(2名)

  • 安里 哲好 沖縄県医師会常任理事 (ハートライフ病院院長)
  • 瀧下 修一 沖縄県医師会理事 (琉球大学医学部附属病院院長)

チーフタスクフォース(2名)

  • 箕輪 良行 聖マリアンナ医科大学救急医学教授
  • 武田 裕子 東京大学医学教育国際協力研究 センター助教授

タスクフォース(5名)

  • 涌波 満  ファミリークリニックきたなかぐすく院長
  • 仲本 昌一 仲本内科院長
  • 稲福 徹也 琉球大学医学部附属病院地域医療部
  • 安谷  正 県立中部病院放射線科医長
  • 田名  毅 首里城下町クリニック第一院長

参加者(公募による)

  • 1)地域保健医療協力施設医師 15名
  • 2)管理型臨床研修病院医師  4名
  • 3)研修医  9名

(プログラムの概要)

プログラム1:担当 武田裕子先生

  • 1)グループワーク「“聴く”ということ」
  • 2)『行動変容モデルを考えた患者教育のコツ』
  • 3)模擬患者の参加によるロールプレイ

プログラム2:担当 箕輪良行先生

  • 1)『日常診療に役立つコミュニケーションスキル』
  • 2)医療面接の悪いデモ 
  • 3)2)に関するグループ討議
  • 4)医療面接の良いデモ
  • 5)良いデモに関するフィードバック

プログラム3:担当 タスクフォース全員

『この2年を振り返り地域保健・医療研修の問 題点を探る』

 プレアンケート報告

 全体討議

(各プログラム報告)

プログラム1

(1)グループワーク「“聴く”ということ」

参加者が3人一組になり、ひとりが「最近心 に残ったこと」を話し、残りの二人がそれを要 約して話すという流れでそれぞれの役回りを交 代で行った。アイスブレーキングの目的があっ たが、参加者からは傾聴の重要性について学べ たとの意見があった。

(2)『行動変容モデルを考えた患者教育のコツ』

行動変容のステージのプロチェスカモデルを 武田先生にご講演頂いた。参加者からは患者が どのステージにいるかを把握することの大切さと 患者を指導する上で患者の自己効用感を高める ことの重要性が理解できたとの意見があった。

(3)模擬患者の参加によるロールプレイ

6〜7人のグループに分かれて医師役の人が 模擬患者と面談後、意見交換する方法をとっ た。患者の訴えに対する傾聴、及び行動変容の ステージを考慮したアプローチのあり方につい て武田先生のご講演を踏まえた上でグループで 討議することができたことは大変有意義であっ たとの参加者の意見が多かった。

プログラム2

(1)『日常診療に役立つコミュニケーションス キル』

箕輪先生に「患者満足度とコミュニケーショ ンスキル」と題してご講演頂いた。患者満足度 が医療経営の質の評価に関わっていることを再 認識できたという意見があった。引き続き「基 本的コミュニケーションスキル」のご講演を頂 き、促し・催促、確認、共感解釈モデルなどの 面接における重要なスキルが参加者には参考に なったとの意見があった。

(2)医療面接の悪いデモ、それに関するグルー プ討議

箕輪先生ご自身による悪いデモの実演に続い て、どこが悪かったのかをグループに分かれて 討議した。研修医、指導医それぞれの視点から 気付いた悪い点について意見交換することがで きたのは大変参考になったとの参加者の意見が 多かった。

(3)医療面接の良いデモ、それに関するフィー ドバック

悪いデモの実演を見た上での良いデモの実演 は対照的で理解しやすく、研修医のみならず指 導医からも日頃の診療において反省すべき点が あることに気付いたという意見があった。

プログラム3

全体討議において出た問題点を項目別に要約 し、それぞれの今後の課題を加えて紹介する。

(1)地域医療研修の到達目標について

「研修医が診療所での研修に何を望んでいるの か知りたい」(協力施設・診療所医師)

「施設ごとの地域医療研修のしっかりとした目 標を掲げる」(管理型病院医師)

(課題)沖縄には幾つかの研修プログラムがあるが初期研修プログラムのカリキュラム、 また地域医療研修の本来の目的・到達目 標についての理解度が個々の協力施設医 師間にも違いがあることがわかった。協 力施設側と管理型病院側との意見交換の 機会を増やし意識の共有化をはかる必要 があると考えられた

(2)研修医に対し、どこまで実践してもらうか?

「患者は研修医の診察を求めていないのが現状 である。見学重視になっている。」 (協力施設・診療所医師)

「コメディカルの仕事をする機会があり、大変 貴重だった。」(研修医)

「最初の1〜2週間は見学してもらい、その後実 際に診察をしてもらう。診察後はディスカッシ ョンを行い、能力のある研修医は説明まで行っ てもらう。」(協力施設・診療所医師/タスクフ ォース)

(課題)管理型病院から「実践」を求められる と、「臨床的な手技」、「実際の診療」を行 わせることを考える参加者が多かったが、 研修医の到達度に応じた診療への参加は 勿論、総合病院ではできないコメディカ ルの仕事への参加など研修医の満足度を あげる方法は他にもあり、研修カリキュ ラムについての議論が今後も必要と考え られた。

(3)フィードバック(振り返り)のあり方に ついて

「ある離島の診療所へ研修に行った。その時は、 フィードバックがなかった。」(研修医)

「毎日フィードバックがあった。午前は診察、 午後は経験した症例をまとめたものを指導医と 一緒にフィードバックしていた。指導医が患者 背景などを把握していたことが印象的であっ た。」(研修医)

(課題)研修医の到達度や個人の医師としての 知識やスキルに対する評価、改善点につ いて話し合い、また研修医の要望を研修 医から聞く双方向性のフィードバックが どこまでできているかという議論をタスクフォースは考えていたが、参加者は 個々の臨床指導と混同した意見が多かっ た。短期間の研修において目標を達する ためにはフィードバックが重要であり、 協力施設医師へこの点の伝達が必要と考 えられた。

(4)研修期間はどのくらいが適当か?

「(離島診療所における)1週間の研修は短い。 さらに自由枠で希望する研修医もいる」 (管理型病院医師)

「(離島診療における)2週間の研修は丁度よい。 1週目に指導医との関係を構築し、2週目から 自分のスタンスで動いている」 (協力施設・離島診療所医師)

「1ヶ月は必要」 (協力施設・診療所/タスクフォース)

「1ヶ月は短い、慢性疾患の経過が追えないた め」(協力施設・診療所)※透析施設

(課題)協力施設の地域性・専門性などの特徴 によって、地域医療研修の期間をそれぞ れの施設で考慮した方が研修医・協力施 設いずれにとっても満足のいくカリキュ ラムが組めるのではと考えられる。管理 型施設の事情も考慮した上で管理型施設、 協力型施設間で話し合う場をつくる必要 があると考えられた。

(5)研修医のモチベーションをあげるには?

「地域保健・医療研修が研修医のバケーション となっている部分(解放感)がある。」 (管理型病院医師)

「研修医によっても地域医療に興味のある人、 ない人様々である。地域医療に興味のない人は スタッフや住民にも意識の低さが伝わる。」 (協力施設・離島診療所医師)

「研修医がどのようなニーズを持っているかを 指導医側にも理解しようとする姿勢が必要。そ れぞれの研修医のニーズにあったプランを立て ると良いのでは。」(研修医)

(課題)初期研修に対する社会のニーズ・期待 があることを考え研修医が魅力を感じる ように研修環境を整えることは重要であるが、どう指導しても研修医が医師とし て責任を果たす意思がない場合は、管理 型病院への厳しい評価を伝えることも必 要と考えられた。

(地域医療研修を充実させるための提言)

(1)地域医療研修の本来の目的、研修医の到達 目標を管理型施設、協力施設間で明確にする。

(2)医師として実際の診療への参加以外にどの ようなカリキュラムが研修医のやる気を引き 出せるかを検討する。

(3)個々の症例の臨床指導以外に研修全体を振 り返る双方向性のフィードバックを協力施設 で意識する。

(4)研修期間は管理型病院の都合だけで決めるの ではなく協力施設の特徴も考慮して検討する。

(5)研修医のモチベーションを維持する指導医 の努力も重要だが、やる気のない研修医には 厳しい評価を管理型施設に伝える。

(終わりに)

今回の講習会は指導医のティーチングスキル のレベルを向上させるプログラム及び地域医療 研修に対する意見交換を、地域医療研修協力施 設医師・管理型病院医師・研修医の三者が一同 に会して行った。参加者にはそれぞれの立場の 医師の考え方が理解できたことが有意義と受け とめられた。

今後も指導医の技術向上に加えて、地域保健 医療研修がその本来の目的を果たすことができ るように、研修に関わる医師間の意見交換の場 を沖縄県医師会が提供できるように取り組んで 行きたい。

(2)フロアからの意見、感想をふまえて

医師会が主導して地域医療研修協力施設側医 師との情報交換、また地域医療研修協力施設側 医師を対象とした継続的な講習会の取り組みを 行っていることを評価する声がフロアからでてい ました。他のポスターでもでていましたが、地域 医療研修が3年目を迎える中で今回話し合った問 題点は他の地域でも挙がってきており、今後の 地域保健医療研修をより意義深く、充実したも のにするためには地域医療研修協力施設医師・ 管理型病院医師・研修医と立場の異なる医師ど うしの情報交換、意見交換が継続してできるよ うな環境作りが大切であると感じました。今後 のステップアップ講習会のあり方についてはまだ 話し合っていませんが、今回発表しました「地 域医療研修を充実させるための提言」を参考に 再び意見交換や討論ができるような取り組みが 次回以降もできればと考えています。

終わりに:今回の発表にあたり、多くのアドバ イスを頂きました沖縄県医師会地域医療臨床研 修小委員会の先生方、並びに武田裕子先生に感 謝申し上げます。