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国民医療を守る沖縄県民集会〜“救え”地域医療崩壊の危機〜

常任理事 真栄田 篤彦

沖縄県医療推進協議会(加盟28団体)主催の 標記県民集会が去る5月30日(水)午後7時よ り、ロワジールホテル那覇において、加盟各団 体より約600人が参加して盛会に開催された。

当県民集会は、財政制度審議会の建議書およ び経済財政諮問会議の「骨太方針2007」の公 表に先立って、医療を取り巻く厳しい現況を国 民の声と共に政府や厚生労働省、国会議員など に届けることを目的に、全国医療推進協議会 (会長:唐澤人日本医師会長)の活動と連動 して開催されたものである。

当日は、当医療推進協議会の神村武之副会長 (沖縄県薬剤師会長)より開会の挨拶が述べら れた後、主催者を代表して挨拶に立った当医療 推進協議会の宮城信雄会長(沖縄県医師会長) は概ね以下の通り挨拶を述べた。

挨拶:宮城信雄会長

宮城信雄会長

我が国は、保険証 1枚で、誰でも、い つでも、どこでも、 平等にしかも安価な 費用で医療が受けら れる「国民皆保険制 度」となっており、 世界でも最も優れた 制度と評価されている。しかしながら、昨年6月 に医療制度関連改革法案が成立し、医療費抑制 策の一環として昨年10月からの高齢者の窓口負 担増や、長期療養病床に入院する高齢者の食費 と居住費の自己負担が実施されている。また、 平成24年には38万床あるこれらの病床が15万床 に削減されようとしており、行き場を失う多く の医療、或いは介護難民が出ることが危惧されている。加えて、現在全国各地で産婦人科医を はじめとする医師不足や看護師不足は、病院閉 鎖や診療科の縮小に追い込まれ、地域医療の崩 壊ともいうべき危機的状況を招いている。

沖縄でもこれから数年、毎年750人の看護師 不足が見込まれており、そのような中で、県は 唯一の県立看護師養成施設である県立浦添看護 学校を民間に移行しようと計画している。かか る状況の中で県行政が看護師養成から手を引く ことは県民福祉の後退を招く結果となるのでは ないかと懸念している。

かかる状況に鑑み、これ以上患者負担が増え ないよう、国における適正な医療費の確保と、 地域住民が安心できる医療提供体制の再構築並 びに国民皆保険制度の堅持を県民と共に強く求 めていく国民的な運動の展開が是非とも必要で あり、ここ沖縄でも大きなうねりを起こし、国 民の声として政府や関係機関に届くよう皆様方 の絶大なるご支援ご協力をお願い申しあげる。

ゆうりきやー

ゆうりきやー

その後、地元の人気お笑いコンビ「ゆーりき やー」のコントによる、今日の医療制度の矛盾 点を指摘した寸劇が行われ会場を沸かせた。続 いて、ビデオ「べッド難民は何処へ行く」の放 映、宮城会長によるパワーポイントを用いた当 県民集会開催の趣旨説明が行われた。

意見表明では、沖縄県老人クラブ連合会理事 の上原苗子氏、沖縄県療養病床協会長の松岡政 紀氏のお二人が以下のとおり意見表明を行った。

意見発表:上原苗子氏 (沖縄県老人クラブ連合会理事)

上原苗子氏

現在、医療制度 が改悪されようとし ています。我々高齢 者は大きい不安と不 信を抱いています。 高齢者は加齢と共に 2 つや3 つ病気を抱 えながら生活してい ます。受け取る年金は目減りしています。淋し い空しい思いです。

その現実とは裏腹に健康保険料や介護保険料 は、いやおうなしに増額され、ため息が出てき ます。病院で受診すると一部負担金も増え、財 布から引き出す時の心境を察してください。明 日からは食べ物を節約しなければと瞬時に思い ます。又、年金受給日前にはお金が足りなく て、病院受診を我慢して、苦しい日々を送って いる人も現実にいます。病院に行き、医師より 「なぜ薬を切らしたの。命に関わりますよ。」と 言われ、診療室を出る時に思わず涙が出て仕方 がなかったと訴える人もいます。

戦中、戦後と苦労し、社会貢献もしてきたの に、年老いてこんなみすぼらしい思いを強いら れている。これで尊厳をもって生きていけるで しょうか。

現在、老人福祉、安心して暮らせる社会、美 しい日本等の言葉の流布は一人歩きしています が、空しく聞こえます。また、核家族化で地域で は一人暮らし、老夫婦のみの世帯が多く、介護 力の低下は顕著な事実です。療養型病床や老健 施設、老人ホームからも地域に戻るような施策 がすすめられていますが、行き場のない人、家は あっても介護してくれる人のいない現実も多々あ ります。不安を抱きながら涙を流す方もいます。

この現実を見据えて受け皿づくりを十分政治 の力で整備してください。老いた高齢者ではど うしようもない現実です。

高齢者の偉大なる支えとなる医師、看護師が 不足して大変な混乱を現場にきたしているよう ですが、2〜3年前は医師は充足している、むろん看護師も充足しているというマスコミの情 報は私の脳裏に残っています。現在もマスコミ で大騒ぎしていますが、正に政治力の医療制度 に対する貧困さの現れだと思います。「一体ど うなっているの。厚生労働大臣殿」と声を張り 上げて叫びたくなります。

昨今、地域で保健師さん、看護師さんの姿が 見受けられなくなりました。平素、住民や高齢 者の健康相談は打ち切られた感があります。こ れで地域住民の健康は守られるのでしょうか。 心配です。医師、保健師、看護者や医療従事者 の養成を強力に推し進めてください。

一、病気になっても安心して暮らせる医療制度 を構築して下さい。

一、医療従事者の養成を強力に推し進めて下さい。

一、衰えていく高齢者が地域で安心して暮らせ る施策を確立して下さい。

意見発表:松岡政紀氏(沖縄県療養病床協会長)

松岡政紀氏

今回の医療療養 病床の診療報酬改 定では、難病患者、 特定の重症患者な らびに重度障害患者 だけを医療区分2・ 3とし、それ以外の 医療療養病床を活 用してきた高齢者の約5割を、一括して医療区 分1とした。さらに医療区分1の診療報酬を低 額にし、患者に必要な医療も充分提供できない ようになった為、退院を迫られて、結果的に医 療難民を生む原因になろうとしている。

医療療養病床は急性期病院からの継続医療入 院のほか、在宅や介護施設などからの、急性期 病院でなくても対応できる程度の初期入院医療 が必要な患者さんを受け入れて、在宅支援機能 を果たしてきた。しかし今回の診療報酬では難 病や重症患者のみが、医療区分2 ・3 とされ、 それ以外はすべて医療区分1とされたため、医 療療養病床が地域で果たしてきた全般的な初期 入院医療機能が出来なくなった。

そこで、医療療養病床が果たしてきた高齢者 などの在宅支援機能としての初期入院を、医療 区分2の範疇に入れて評価し、医療保険財源の 効率化を図るべきである。

療養病床の機能の特徴は、休日や夜間を含め 365日24時間体制で医師と看護師が配置され、 手厚い看護、介護を医療が常時提供でき、急性 期病院からの受け入れから、在宅復帰支援や終 末期医療ケアまで、対象患者のさまざまな複合 的なニーズに適切に対応してきた。

療養病床は、長期療養から終末期医療ケアま で対応することで、高齢社会の効率的な医療介 護制度を担ってきた。

介護療養病床の退院に占める死亡の割合は、 25.7%あり、老健施設では2.2%である。医師、 看護師の配置基準が反映されている。このまま 介護療養を、老健施設に移行すれば、終末期医 療ケアが出来なくなる。現在の老健施設をAと すれば、人員体制を整えたより高度な老健施設 Bとして、介護療養病床からの転換を考慮すべ きである。

今後、急速に増加することが予想される高齢 者の医療ができる療養施設として、介護療養の 施設基準を継承し、引き続き活用すべきである。

最後に実態調査とその推計から、医療療養病 床は2005年度には、25万床であった。今後、 一部在宅復帰を実現しても、高齢者の増加に伴 い2015年度には27万床が必要となる。介護難 民、医療難民を発生させないために医療療養病 床の削減はすべきでない。

その後、決議に移り、国や関係機関に対し 「国民のための医療政策実現」を求める決議1 (案)について当医療推進協議会高嶺朝彦副会長 (沖縄県歯科医師会長)から、沖縄県知事等に対 し「県立浦添看護学校の県立としての存続と助 産師養成課程設置」を求める決議2(案)につい て沖縄県医師会小渡敬副会長からそれぞれ提案 があり、満場一致で二つの決議案が採択された。

最後に、沖縄県看護協会仲宗根幸子副会長 (代理)より閉会の挨拶が述べられ、会の幕を 閉じた。

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