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琉大病院における医療安全の文化が変わってきた

久田友治

琉球大学医学部附属病院安全管理対策室
ジェネラルリスクマネジャー 久田 友治

国民が望む安全な医療への取り組みが、多く の施設でなされています。ここでは、先ず琉大 病院における医療安全管理システムの概略につ いて述べ、次いで医療安全の文化が変わってき たことをお話します。そして、最も頻度の多い 転倒・転落と最もリスクの高い手術関連のイン シデントに対する対策の効果について述べ、更 に当院独自の活動についても紹介します。

医療安全の文化が変わってきた

当院における医療安全管理システムは図1に 示すとおりで、職員一丸となって取り組んでいます。ジェネラルリスクマネジャー(GRMと 略)はインシデントレポートから発生原因の調 査と分析を行い、関係部署への指導と助言を行 います。インシデントの定義を表1に示します。 当院では職員は無記名でレポートをオンライン にて入力し、GRMはその報告から情報を把握 します。以前はインシデントが報告されにくい 状況にありましたが、最近はその報告数が増加 しています(図2)。これは、インシデントの発 生が増えたというより、その報告が増加したと 考えています。また、インシデントの原因を個 人ではなく、組織として何処に問題があるか、また、誰がではなく、何故その問題が引き起こ されたかを考える視点が定着してきているから と考えています。インシデントの報告数が増加 している一方で、医療事故(表2と図3)はむ しろ減少しています。琉大病院における医療安 全の文化が変わってきたと思われます。

図1

図1.当院における医療安全管理システム

表1
図2

図2.年度別のインシデント報告件数

表2
図3

図3

転倒・転落

最も頻度の多い転倒・転落に対しては、看護 部が数々の対策を進めてきました。対策には、 アセスメントによる患者および家族への指導と 医療者の情報共有、環境整備や離床センサー (図4)の使用等があります。転倒・転落の報告 数は増加していますが、これも発生が増加した というより、報告が増えたと考えています。転 倒・転落の対策により効果があったかを見るた め、インシデントによる影響レベルを検討しま した。影響レベルとは、インシデントを傷害の 程度と持続性から0、1、2、3a、3b、4a、4b、 5、その他に分類した基準であり、数字が大き くなるほど患者への影響は大きくなります。例 えば、影響レベル0は、「エラーや医薬品・医療 用具の不具合が見られたが、患者には実施され なかった」であり、影響レベル3bは「濃厚な処 置や治療を要した(バイタルサインの高度変 化、人工呼吸器の装着、手術、入院日数の延 長、外来患者の入院、骨折など)」です。当院 における影響レベルの高い転倒・転落は減る傾 向にあり、対策の効果が出ていると考えられま す。しかし、転倒・転落の件数がいまだゼロに はならず、課題は残っています。

図4

図4.離床センサー

手術関連のインシデント

手術関連のインシデントはリスクが最も高 く、より厳格な取組みが要求されます。当院で 2年間に報告された手術関連のインシデントに 対する対策の達成度を評価し、その課題を検討 しました(日本手術医学会誌、2007;28:79- 82.)。事例を表3に示すように分類しました。 A1すなわち、インシデント報告がシステム改善 等に繋がる事例が24例あり、報告の意義が認 められました。A2すなわち、対策が不十分または未実施の事例は5例で、その分析より課題 として人員を含む体制の見直しや関係部門との 粘り強い調整、更に新しい手段の開発が必要で あると考えられました。また、Bの事例が39例 と最も多くを占めたことから、卒前卒後におけ る医療安全教育の重要性が示唆されました。

独自の院内活動

保健学科に於ける医療安全の講義は以前から 行われており、医学科学生に対するGRMによ る講義が今年度から始まります。また、卒後の 医師・看護師等に対する医療安全の研修には 様々な形で取り組んでおり、独自な試みとして 医療安全教育のeラーニング教材を開発しまし た。当院は604床で、17の診療科から成る県内 最大の施設です。病院環境の整備について、病 院長等管理者の組織的な巡視を定期的に行い、 安全管理の充実と患者療養環境に関する職員の 意識向上を図ることを目的として、“院内巡視” をおこなっています(図5)。

表3
図5

図5.院内巡視