常任理事 真栄田 篤彦
去る平成19年4月13日(金)、日本医師会館 にて開催された上記講演会に参加してきたので 報告する。
開催にあたって、主催者を代表して唐澤会長 から概ね次のとおり挨拶があった。
「600名余参加いただき感謝申し上げます。 また、コーディネーター役を引き受けて頂いた 順天堂大学医学部の丸井教授にはひとかたなら ぬご協力を賜り御礼申し上げます。
本日は、ゲストとして、ハーバード大学公衆衛 生大学院のマイケル・R・ライシュ教授と日本側 から武見敬三厚生労働副大臣に来ていただいた。 東西の医療政策分野において最も実力のあるお二 人に、それぞれの立場から、20分間講演を頂く。
さて、わが国には270機関に及ぶ多様なシン クタンクがあるという。シンクタンクの広義の 意味は、政策に関する調査研究を行う。日医総 研は、「日本医師会総合政策研究機構」の略で 組織的には未だ発展途上である。医療政策に関 する平成9年から10年間の日医総研の活動と成 果を1つ挙げるとするならば、政策決定過程に おいて「医療政策形成論議を活性化させる原動 力になったこと」であろう。
医療政策に関しては日医と密接に連携して政 策立案に貢献することを念願する」旨の挨拶が あった。
講演1
ハーバード大学 院の4名の教授によ って開発された医 療制度のパフォー マンス評価の分析 方式を用いて日本 の医療制度の分析 を行った。
医療制度のパフォーマンスの向上に必要な、 技術的分析、倫理的分析、政治的分析と三種類 の分析が含まれている。この方式では健康指 標、満足度、財政保障と三種類の最終目標で測 定される医療制度のパフォーマンス向上を目指 している。このため、ハーバード式医療制度分 析では、財政、支払、組織、規制、行動と五つ の「コントローラー」の使用を提案している。
本発表では、三種類の最終目標に従って、日本 の医療制度のパフォーマンスを簡単に評価し、日 本が素晴らしい健康指標と優れた財政保障を達成 したものの、満足度にやや問題があることを指摘 している。更に日本の医療制度の二つの課題であ る満足度と生活習慣病について何がなされるべき か分析する。これらにより、パフォーマンスの問 題をいかに診断し、いかにコントローラーを用い て改善し得るかを示す。本発表により医療改革が 技術的、倫理的、政治的決断を要する複雑な過程 であることを確認する。ハーバード方式医療制度 分析の五つのコントローラーは日本の医療改革の 政策選択に役立つと思われる。国レベルでも、個 人レベルでも、医療改革は容易ではないが、ある 条件下では公平性とパフォーマンスを著明に改善 することが可能である。
医療制度とは
○医療制度は目的のための手段
○医療制度は複雑で、多くの関係者を含む:
パフォーマンスをどう測定するか?
医療制度改革の決断のために3種類の分析が必要
1.技術的分析、2.倫理的分析、3.政治的分析
ハーバード方式で日本を分析する
目標2:財政保障:とてもよい、Very Good
国民皆保険、フリーアクセス、広範囲の公的保険、高額療養費制度
将来の持続可能性は不確か、なぜなら高齢 化・国民医療費の増加、国民所得比%上昇…
目標3:満足度:ちょっと問題、Fair to Poor
どうすべきか?
医療改革にはパフォーマンス向上のためにコ ントローラーの調整が必要
ハーバード方式では問題からコントローラー を導くため診断樹を使う
1)まず「低い満足度」の診断樹を作る
コントローラーを考えると、上記表では、財政 コントローラーを改善すればよいことになる。
財政コントローラーの使用例
2)まず生活習慣病の診断樹を作る
上記コントローラーを考えると、行動コント ローラーを改善すればよい。
行動コントローラーの使用例
結論1
・医療改革は技術的、倫理的、政治的決断を要 する複雑なプロセス
結論2
・ハーバード方式における5つのコントローラ ーは日本の医療改革の政策選択に役立つ
結論3
・医療改革も個人の体型改革も容易ではない が、不可能ではない。
講演2
先ずはじめに先 ほどの報告に関し て、ハーバード式医 療制度分析の武見 の見解は、中間指 標として、順番が 先ず1)予防、2)ア クセス、3)質、4) 効率とした方がよ い。アクセスが順番としては上に位置すると考 えている。
1.医療制度の中間指標について
1)予防→健康増進・特定疾患予防
今回の医療制度改革の柱のひとつ「生 活習慣病対策」等。
メタボ退治もここに含まれる。
2)アクセス→地域医療・かかりつけ医機能の充実 医師の地域・診療科偏在の是正
日本の医療制度で最も優れた部分はア クセスにあり、これが国民に安心感を与 えている。先進医療へのアクセスは課題。
3)質→急性期医療・先進高度医療の水準 終末期医療・緩和ケアの普及・充実
欧州諸国にてコスト管理主導の医療制 度改革により急性期医療の質が低下。日 本でも「勤務医の離脱現象」により同様 の傾向が懸念される。
4)効率→地域医療の連携促進
患者を中心にしたかかりつけ医機能、 急性期病院、回復期病院の連携による切れ目のない医療のサービスの提供。
登録医制度は行き過ぎ。
2.人口構造の急激な変化
死亡数の将来推計(平成18年推計)
将来推計人口(平成18年中位推計)による と、わが国の死亡数は、団塊世代の高齢化とと もに増加し、2040年には最大となり、166万3 千人となる見通し。
2005年現在の死亡数 108万4千人
2040年の死亡数 166万3千人(団塊世代:91〜93歳)
以上から、後期高齢者医療制度の導入が必要となる。
3.後期高齢者医療制度の導入
国が負担していかないと、国の保険制度その ものの持続可能性が崩壊する危険性。平成20 年導入。
財源:患者負担:1割(現役並みの有所得者の高齢者3割)
公費負担:約5割(約46%)
後期高齢者支援金(現役世代からの支援)
保険料:1割
4.国民医療費、医療給付費、老人医療費の将 来の見通し
5.国づくりの単位と役割
個人・家族・地域・職域・国家のかかわり 機能低下と流動化する各社会単位の現況
・家庭の絆と核家族化、家庭教育・子育て機能の動揺
・自由と責任の共存
・地域社会においては助け合いの絆の希薄化
・職域では終身雇用制の弱体化
医療を通じて再構築
1.国家:国民皆保険制度に基づく人間の安全保障
2.職域:産業保健を通じた健康保障
3.地域:地域医療・患者の立場に立った地域医療連携の推進
4.家族:食育・健康づくりの拠点機能・在宅医療
5.個人:生活習慣病予防
自分の健康は自分で守る責任と自覚
以上両名の講演を紹介した。