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一開業医が考えたこれからの医療テーマ

田名毅

首里城下町クリニック第一 田名 毅

平成13年に開業して早6年目に入りました。 当初は1日30名の外来患者さんを診療し、最大 で80名の透析患者さんと長くお付き合いができ れば自分らしい医療ができるのではと考えて開 業しました。現実は、高血圧、糖尿病をはじめ とする生活習慣病の患者さんが多いこと、ま た、それらに伴い透析にいたる患者さんが予想 以上に早く増加し、当初の施設では地域のニー ズに十分応えられなくなり第2クリニックをオ ープンしました。私一人でこれだけ多くの方々 の“命”を預かることは困難だと考え、同級生 の比嘉啓先生に加わってもらい、現在は一人で 感じていたプレッシャーを分かち合ってもらい 助けられています。そして、私達は一緒に飛行 機には乗らないようにしています。これはリス ク分散と考えています。一旦、地域で医療をは じめた以上、誰かがこのクリニックを継続し続 けることで当院を信頼し通院している人々を路 頭に迷わすような事態を作りたくないと考えて いるからです。比嘉先生は本当の意味でのビジ ネスパートナーです。

さて本題に入りますが、私はこれからの医療 を考えたときに取り組まなければならない2つ の大きなテーマがあると思います。第一はメタ ボリック症候群に象徴される男性の健康状態の 悪化です。女性も太っているとはいえ今、照準 をあてるべきは若年〜中年男性だと思います。 健康に自信過剰な男性の健康意識の低さには目 に余るものがあり、これが虚血性心疾患や脳卒 中、腎不全に至る人を増やし、医療費高騰につ ながっていると思います。“男性”にもっと力 を入れた保健指導が必要であり、私は現在、そ の一貫として医師会活動、クリニックの活動と して産業保健活動に力を入れて取り組んでいま す。平成20年度から導入される新健診制度は 受診者の増加、それに伴う保健指導の強化によ り医療現場にも混乱が生じる可能性があります が、これを好機ととらえ医療と保健が一体とな った活動が社会全体で可能になればと考えてい ます。その中でわれわれ個人医療機関にしかで きない役割は何であるかを常に考えていきたい と考えています。

第二がベビーブームの人たちが60歳を過ぎ、 すでに始まっている高齢人口の増加です。現在 すでに医療費が最もかかっている年代は70歳以 上の世代でありますが、この人口が多くなるこ とはそのまま高血圧、糖尿病などで医療機関に かかる人口のさらなる増加につながることは予 想に硬くありません。私たち開業医はこれらの 『新老人』の方々と診療の現場で向き合いなが ら、その方々が現代社会の中で気持ちよく生活 できるように応援していく立場にあると思いま す。核家族化の進行による独居老人、退職に伴 ううつ状態、伴侶の病気や死などよる喪失体験 からくるうつ状態の方々と開業医として日々接 していますので、その必要性、重要性を強く感 じています。これまでの医療機関は来院する 方々の診療が中心でしたが、もっと自治体をは じめとする社会に積極的に参加し地域の健康増 進に何ができるのかを考えてく必要があると思 います。

当院の診療体制としましては首里城下町クリ ニック第一が高血圧を中心とした生活習慣病、 慢性腎不全の進行予防、リウマチ膠原病などの外来診療、首里城下町クリニック第二が残念な がら透析に至った方々の日々の管理を行う透析 診療、というように機能を分化して取り組んで おります。前述した医療テーマを念頭において 首里城下町クリニック第一では、働く世代の健 康管理を意識した「働く人健康支援室」を保健 師と一緒に立ち上げました。今後は退職後の 方々の健康支援もできるような「町の保健室」 的な活動も検討したいと考えております。

社会の中で私たち医師にできること、やらな ければならないことはたくさんあると思いま す。来るべき次の時代が、人に優しく温かい時 代になるよう、私たち医師にできることは何か を常に考えながら日々の診療に携わっていきた いと考えています。

比嘉啓先生

比嘉啓先生

首里城下町クリニック第一

首里城下町クリニック第一

首里城下町クリニック第二

首里城下町クリニック第二