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「緊急避妊法について」

伊是名博之

那覇市立病院 産婦人科
伊是名 博之

日本で経口避妊薬としての低容量ピルは 1990年に申請がされ、1999年よりやっと認可 されました。しかし、日本女性はピル、すなわ ちホルモン剤に対しかなりアレルギーがあるよ うで、外来で処方を希望する患者はとても少な い感じがします。

今回は連日服用する経口避妊薬ではなく、うっ かり避妊をしなかった、コンドームが破れた、膣 の中で抜けてしまった等の場合、妊娠を避ける最 終手段としての緊急避妊法について説明します。

当院の場合は夜間の救急室を受診する方が大 部分で、昼間受診する方はほとんどいません。 以前は風俗の方がほとんどでした。コンドーム が破れた、客に強引に中だしされたとの訴えで 妊娠しないようにしてくれと受診します。患者 自身が緊急避妊法を知っているケースは少な く、店長が知っていて彼に指示されて来院する わけです。最近は風俗ではない若い女性もポツ ポツ受診するようになりました。つまり若い女 性は雑誌等で知識を得ているようで、一般にも 広まりつつある感じです。

病院に産婦人科医がいれば問題ないでしょう が、産婦人科医の勤務していない病院で、もし患 者が受診した場合、断るのも気の毒です。第一、 素人の患者が知っているのに医者が知らないとい うのもまずいと思われます。その際はどの科の医 師でも処方すべきだと思います。具体的には

1)中容量ピル(商品名はドオルトン、プラノバー ル)のいずれかを性交後72時間以内に2錠服用。

2)さらにその12時間後に2錠服用する。

それだけです。それにより妊娠率を75%減ら すようです。別の統計によると妊娠率は100人 中2人で相当有効です。この方法は1970年代に カナダ人医師アルバート・ヤツペ氏が開発した 方法で、emergency contraception(Yuzpe法) として世界中に広まっている避妊法ですが、日 本では現在でも厚労省より認可されていませ ん。私は学生時代に産婦人科の講義で聞いたこ とはありませんでしたし、1974年に卒後研修を 始めた頃に指導されたこともありませんでし た。最もその頃は日本では高容量ピルしかあり ませんでした。わたしが緊急避妊法としてこの 薬の使用を始めたのは10年ほど前からです。

さて、どの科の医師も処方すべきとしました が、実際問題として産婦人科以外にはなじみの 少ない薬剤であること。厚労省認可されていな い適応外処方のため他科の医師が処方するのは 抵抗感があると思います。一般にピルが禁忌と されるのは35歳以上の喫煙者、血栓症、虚血性 心疾患、重度の片頭痛、高血圧、肝疾患等で す。しかし、これらはピルとして長期投与を行 う場合が危険なわけです。避妊を失敗したと受 診する若い女性でこれらの疾患をもっている方 は非常に少ないと思います。緊急避妊法は2回 の投与で終了ですので、わたしは実際にはほと んど気にしないで処方しています。ただ問題は 副作用として悪心・嘔吐が約60%に出ます。そ の程度は個人差が大きいのですが、処方する際 は吐き気が出ることがあるが心配ないので2回 目の服用はしっかり守ってくださいと必ず説明 しています。患者は多少悪心が出ても妊娠した ら大変ですので頑張って服用するようです。

認可されていない適応外処方ですが、世界中 で使用されている関係か、厚労省からもいまの ところ否定的な声はでていません。行政として はおかしなことですが、性被害者の救済対策と して2005年に閣議決定された犯罪被害者等基本 計画をうけて、現在までに28都道府県警察が緊 急避妊の費用を公費で支給するようになってお ります。沖縄県でも県警本部は公費負担すると しております。レイプ被害者を産婦人科以外の ドクターが診察することはないでしょうが、緊急 避妊を求めて受診した患者にはどの科の医師で も処方するようになって欲しいと思います。特 に救急室へ勤務する機会のある若いドクターは 緊急避妊法を知っておいた方が良いでしょう。