北部地区医師会病院循環器科
村重 明宏
【要 旨】
動脈硬化の画像診断は以前の狭窄度による評価から動脈硬化そのものの形態や構 造の評価へと進み、さらには組織性状の評価や生理活性の評価へと発展している。 すなわち形態評価から質的評価へと変化してきている。現在、血管内エコーにより オフラインではfibrous capの厚みが測定でき、脂肪性プラークと線維性プラークの 鑑別もある程度可能となった。またCT、MRIがプラークの組織性状診断にも応用 されつつある。
近年、動脈硬化は単なる加齢上の変化ではな く血管壁の内皮障害により惹起される局所の炎 症性変化であるとの概念が浸透してきた。また 冠動脈疾患における急性心筋梗塞、不安定狭心 症、突然死の基本病態はプラークと呼ばれる内 膜の肥厚性病変の破裂による血栓形成が原因と 考えられるようになった。この発症メカニズムや 病態の解明により動脈硬化の評価法そして治療 法は大きく変化してきている。その中でも現在 特にプラークの易破綻性に関する評価が注目さ れており、本稿では血管内エコー法を中心にプ ラークの易破綻性の診断に関 して概説したい。
血管内エコー法(IVUS)は 1988年より臨床応用され、直 径約3Fのカテーテルを直接動 脈内に挿入し血管壁の短軸断 面の構造を描出する方法であ る。カテーテルの細径化によ り、現在5Fのガイディングカ テーテルに対応したものまで製 品化され、血管造影検査の延長として低侵襲に 行うことが出来るようになった。探触子も 40MHzまで高周波化し画質の向上も進んでい る。
(1)プラーク形態の評価
IVUSによる短軸断面像を解釈する上で、ま ず血管構造の理解が重要である。図1に正常冠 動脈のIVUS像を示す。これは16歳の女子の冠 動脈エコー像であり内側から高、低、高輝度の 順番で3層からなる血管壁画像が描出されてい る。組織像との比較でこの3層は、基本的には 血管壁の内膜と内弾性板、中膜と外弾性板、外 膜にそれぞれ一致している。しかし、必ずしも エコー画像が正確に組織像を反映しているわけ ではない。この症例において、内膜は内皮細胞 の薄い一層より構成されているにもかかわら ず、IVUS像では内側の高輝度層が実際の組織 より厚く描出されている。これは内膜と中膜を 境とする内弾性板からのエコーが強いために画 像上のにじみ(blooming)が出現し、それが 内側の高輝度帯として描出された結果である。
図1 正常冠動脈のIVUS像とその組織像
動脈硬化は、10〜20歳代から始まるといわ れており、粥状硬化により内膜が局所的に肥厚 し、次第に粥腫を形成していく。まず動脈硬化 の進行とともに内膜の肥厚が進み内弾性板の断 裂が生じ、内弾性板の反射エコ−が消失する。 その結果、エコー画像の最内側層は先に述べた bloomingによるにじみとは 異なり、中〜低輝度層とし て肥厚した内膜を反映する (図2a)。
また動脈硬化がさらに進 行すると中膜の線維化がお こりその部位が高輝度領域 になるとともに、その内側 の内弾性板の消失により内 膜と中膜との境界が不明瞭 となる。結果、エコー画像 は肥厚した内膜と中膜によ り中〜低輝度の内側層を形 成し、外膜の高輝度層との2 層エコーとなる(図2b)。
図2 動脈硬化のIVUS像
以上のようにIVUSにより 冠動脈の壁構造が詳細に同 定できるようになり、血管 あるいは粥腫の定量的評価 が可能となった。しかし上 記のように動脈硬化が進む と中膜の同定は困難である ことより中膜と外膜の境界 線をトレースしたものを血 管総断面積として、それか ら内腔面積を引いたものを Intima−Media Complex(内膜中膜複合体) の面積として血管評価の指標に用いている。そ してこのIntima−Media Complexは実際のプ ラーク断面積よりも過大評価となるが、一般的 にはプラーク断面積と呼ばれ粥腫の大きさの評 価に利用されている。また、IVUSによる短軸 断面を3次元再構築することで長軸方向の動脈 硬化の分布も観察できる(図3)。
図3 IVUSの長軸再構築像(3D-IVUS)
CAG上は明らかな狭窄病変は認められないが、IVUSにてプラークを認めIVUS長軸再構築像によりプラークの長軸方向の分布が確認できる。
(LMT:左冠動脈主幹部、LAD:左前下行枝、Cx:回旋枝、D1:第1対角枝、D2:第2対角枝)
(2)プラーク組織性状の評価
近年、急性心筋梗塞や不安定狭心症は血管内 腔の狭窄度とは関係なくプラークの破裂により 生じた血栓によって起こる同一病態(急性冠症 候群)であると考えられるようになった。その ため動脈硬化病変は血管の内腔狭窄を生じるだ けの病変ではなく、「血管壁」の病変であるとの病態理解が広まり、血管壁の組織性状診断の 重要性が強調されるようになった。将来、急性 冠症候群の責任病変になることが予測されるプ ラーク(vulnerable plaque)をいかに診断す るか、すなわちプラークの易破綻性の診断が注 目されるようになった。
IVUSによる組織性状評価において最も信頼 できるのは石灰化病変の同定である。外膜より 輝度が高く後方にacoustic shadowを引く領域 を有するものをcalcified plaque と呼ぶ(図 2c)。IVUSによる石灰化プラークの検出率は microcalcificationを除くと90%以上ありCAG による検出率の2倍以上の感度であり石灰化の 分布の把握にはIVUS は有用である。しかし acoustic shadowによって隠れた部位は情報が なくなるため石灰化の定量的測定には限界があ り、エコーに共通した欠点である。
また従来より、脂肪性プラークと線維性プラ ークの鑑別もエコー輝度により行われてきた。 外膜のエコー輝度を基準として、輝度は高いが acoustic shadowを引かないものを線維性プラ ーク、外膜より輝度の低いものを脂肪性プラー クとして分類されている。しかしこの輝度分類 はIVUSの画像の印象から分類されたにすぎず、 IVUS像とその同一断面組織像を比較した著者 らの検討では、高輝度プラークと線維性プラー ク、および低輝度プラークと脂肪性プラークが 対応するsensitivityはそれぞれ50%程度にすぎ ないことが判明している1)。
易破綻性プラークの診断において、その組織 学的特徴は脂質コアが大きく(プラークの40% 以上を占めるもの)それを覆う線維性被膜 (fibrous cap)が薄く、また炎症細胞浸潤の著 明なことである。そこで、菲薄化したfibrous capと発達した脂質コアを有するプラークの同 定が必要となる。プラーク組織性状は先に述べ たようにエコー輝度からの鑑別には限界があ り、現在IVUSを用いた様々な定量的組織性状 同定法が提唱されている。特に画像処理される 前の未処理の生エコー信号(高周波反射信号) を解析する試みが多くなされている。以下に IVUSを用いた代表的解析法を示す。
Angle−dependent echo−intensity analysis
著者らは、プラークのエコー輝度は超音波入 射角度によって変化し、その変化率が組織性状 によって異なることに着目して組織性状評価を 試みた2)。結果、fibro−acellular areaである fibrous capは他のプラーク組織と比べ明らか に角度依存性の値が異なっていた。そしてプラ ークエコー輝度の超音波入射角度依存性をカラ ーマッピングすることでfibrous capをカラー 表示する方法を開発した。これにより0.1mm のオーダーでfibrous capの厚さが測定できる ため、プラークの不安定性の評価に役立つので はないかと期待される。
Wavelet analysis
最近注目されている信号解析方法の一つに wavelet解析がある。解析エコー信号のなかに 含まれている特殊な信号パターンを抽出する方 法である。waveletとはある数学的条件を満た した小さな波の形のことで、色々なwavelet (波の形)が提唱されている。wavelet解析とは 解析する信号にwaveletと同じ波の形がどれく らい含まれているかを調べる方法といっても良 い。そしてこのwavelet解析はフーリエ変換な どと異なり時間情報が消えないため場所の特定 が可能で、waveletのスケールを変えることで 低周波数領域も対象となり、従来不可能とされ ていた周波数分解能と空間分解能の両立を可能 とする解析方法なのである。
著者らは剖検により得られた動脈硬化性プラ ークから血管エコー画像と、そのRF信号を取 り出しこのwavelet解析を行った。その結果、 Daubechies−2 waveletが脂質性プラークの検 出に関して最も有用なwaveletであることが示 された。図4に脂質性プラークと線維性プラー クからのIVUS RF信号のwavelet解析結果の代 表例を示す。そして脂質性プラークに対して Daubechies−2 wavelet関数を用いたwavelet 解析を行うと、明らかに特異的なパターンが認 められた。それによる脂質性プラークの検出感 は83 %、特異度は82 %であった。次にこの wavelet解析を臨床でIVUSを行った生体の冠動 脈プラークに対して試みた。そして、この冠動 脈プラークは経皮的アテレクトミー(DCA)に より切除し組織学的にも検討した。その結果、 in vitroと同様の81%の感度および85%の特異 度で実際に生体の脂質性プラークを同定可能で あった3)。今後、新たなwaveletが作られれば、 感度・特異度はさらに改善するかもしれない。
さらに、fibrous capに特異的なwaveletを用 いることでfibrous capを描出し、厚さを計測 することも可能となりつつある4)。
Integrated backscatter analysis
この方法は組織を50−100μmの小さな領域 に分け、その領域ごとにエコー信号の総パワー エネルギー値(IB値)を求める方法である。か つて心筋の組織性状評価に対して試みられた解 析方法として知られている。Kawasakiらはプ ラークの各部分のIB値を測定し、カラーマッピ ングすることにより、プラーク内の線維成分と 脂肪成分を色分けして表示することを可能にし た5)。現在、IB−IVUSとしてシステムが統合 された装置として存在する。
Attenuation−slope mapping
プラーク各部位の超音波減衰に関する指標を 算出し、カラーマッピングする方法である。 Komiyamaらは組織からのRFエコー信号のスペクトログラムの形が正規分布 からどう歪み、また尖度がどう 変化するかによって、90%以上 のsensitivityをもってlipid − rich areaを同定することができ ると報告している6)。
Autoregressive spectral analysis
NairらはRF信号の区間ごと の周波数スペクトルにおける 種々の特性値をマッピングする 方法を開発した。現在、Virtual Histology TM (Volcano Therapeutic社製)として存在する。現在、臨 床現場で信頼性の評価が行われている7)。
IVUS elastography
これは脂肪に富んだ組織は柔らかく繊維性組 織は硬いことより、血管内圧を変化させた時の 組織の歪み度(ストレイン)をIVUS像から算 出し組織同定を行おうというものである。
図4 in vitroでのプラークRF信号のwavelet解析
Wavelet解析の結果、脂質性プラークからのRF信号に特徴的なパターンが認められた。
(文献3より改変)
IVUS以外でCT、MRIはプラークの組織性状診 断にも応用されつつあり、将来の不安定プラーク の診断において重要なmodalityに発展する可能性 がある。また血管内視鏡により血管壁表面が直接 観察できるようになり視覚的にもプラークの評価 が可能となった。超音波の代わりに赤外線光を用 いたOptical Coherence Tomography(OCT)は 分解能が10−30μmであり、詳細なプラーク表面 の構造評価が行へ実用化が期待されている。
プラークの破綻には、プラーク内での局所ス トレス集中が関与していることが示されてい る。そこで筆者は有限要素法を用いたプラーク 長軸断面のストレス分布解析によりプラーク表 面のストレス集中に影響を及ぼす局所因子(プ ラークの形態、大きさ、リモデリングならびに 組織性状)について検討した。シミュレーションの結果、均一な丘状の線維性プラークでは、 ストレスはプラークの頂上部と両肩部に集中し ていた。また、プラーク内の深在性の石灰化は ストレスへの影響を及ぼさず、プラークの表在 性石灰化の存在は近傍のfibrous capにかかる ストレスを軽減させることが判明した。さらに は、fibrous cap厚が一定であれば、脂質コア の大きさはストレスには影響を与えず、fibrous capが菲薄化すると、ある厚さ以下から劇的に ストレスは大きくなり、fibrous capが破綻に 至る臨界点は粥腫の形態や表在性石灰化の存在 により様々に変化した。すなわち、fibrous cap が同じであっても、プラークの易破綻性はプラ ークごとに異なることが示されたのである8)。
以上のように動脈硬化の診断は、以前の狭窄 度による評価から動脈硬化そのものの形態、そ して本稿で述べた組織性状の評価へと進み、さ らには血管内皮機能や炎症マーカーなど生理活 性の評価へと発展している。すなわちプラーク の形態評価から質的評価へと変化してきている。
冠動脈イベントの多くはACSによるものであ り、その多くが狭窄度50%未満の病変における プラークの不安定化が原因で生じるのであれ ば、心血管イベントの予防という面からみると現在の狭心症に対するPCIの適応では十分な成 果は望めないと考えられる。事実、軽度から中 程度の安定狭心症患者を対象にアトロバスタチ ンによる強力なコレステロール低下療法とPCI による治療を比較したAtorvastatin Versus Revascularization Treatment study (AVERT) では、虚血イベント発生率がアトロバスタチン 群でPCI 群より有意に少ないことが示された (図5)9)。
図5 コレステロール低下療法とPCIの心血管イベント発生率
(文献9より改変)
今後、プラークの組織性状や、プラーク安定 化に関与する血管内皮機能などプラークそのも のの評価が行われ、ACSを起こすリスクの高い 易破綻性プラークをターゲットにした新たな治 療戦略が必要となる。そして、その治療法の一 つとして、不安定であると判断されたプラーク に対してのPCIやコレステロール低下療法が重 要な役割を果たすことが期待される。
参考文献
1)Hiro T, Leung CY, Russo RJ, et al: Variability in tissue
characterization of atherosclerotic plaque by
intravascular ultrasound: a comparison of four
intravascular ultrasound systems. Am J Card Imaging.
10:209−218, 1996
2)Hiro T, Fujii T, Matsuzaki M, et al: Detection of fibrous
cap in atherosclerotic plaque by intravascular
ultrasound by use of color mapping of angle −
dependent echo−intensity variation. Circulation
103:1206−1211, 2001
3)Murashige A, Hiro T, Fujii T, et al:
Detection of lipid − laden
atherosclerotic plaque by wavelet
analysis of radio − frequency
intravascular ultrasound signals: In
vitro validation and preliminary in vivo
application. J Am Coll Cardiol 45:
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4)Hiro T, Murashige A, Fujii T, et al:
Cross − sectional visualization of
fibrus cap in atherosclerotic by use of
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ultrasound signals. Circulation 108:
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5)Kawasaki M, Takatsu H, Noda T, et al:
In vivo quantitative tissue characterization
of human coronary arterial plaques by use of integrated backscatter intravascular ultrasound
and comparison with angioscopic findings. Circulation
105: 2487−2492, 2002
6)Komiyama N, Berry GJ, Kolz ML, et al: Tissue
characterization of atherosclerotic plaques by
intravascular ultrasound radiofrequency signal analysis:
an in vitro study of human coronary arteries.
Am Heart J 140: 565−74, 2000
7)Nair A, Kuban BD, Tuzcu EM, et al: Coronary plaque
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data analysis. Circulation 106: 2200−2206,
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8)Imoto K, Hiro T, Murashige A, et al: Longitudinal
structural determinants of atherosclerotic plaque
vulnerability: A computational analysis of stress
distribution using vessel models and three −
dimensional intravascular ultrasound imaging. J Am
Coll Cardiol 46: 1507−1515, 2005
9)Pitt B, Waters D, Brown WV, et al: Aggressive lipidlowering
therapy compared with angioplasty in stable
coronary artery disease. N Engl J Med 341: 70−76,
1999
著 者 紹 介
沖縄北部地区医師会病院 循環器科
村重明宏生年月日:昭和45年3月12日
出身地:山口県
出身大学:鳥取大学医学部 平成8年卒
専攻・診療領域
循環器内科
心血管インターベンション
IVUSによる組織性状評価その他・趣味等
車、読書
問題:動脈硬化について正しいのはどれか。
a(1, 3, 4), b(1, 2), c(2, 3), d(4のみ), e(1〜4のすべて)
問題:今回、リハビリ入院期間中の変形性膝 関節症に対し、有効と考えられ呈示し た装具を2つ選んで下さい。
正解 1)と4)