みやぎ小児科クリニック 宮城 仲健
タバコをたしなむのは大人になってからとさ れていた。タバコは害のない嗜好品として、わ が国では国有の専売公社から、国策として煙草 を製造・販売していた。しかし、近年タバコが 体に及ぼす健康被害について明らかになり、ま たそれは能動喫煙だけではなく、受動喫煙によ ってタバコを吸わない人にも健康被害を及ぼす こともわかってきた。受動喫煙による健康被害 が明らかになり、健康増進法が制定され、先進 国の中で遅れているといわれていたわが国のタ バコ対策も取り組みが始まった。
健康増進法の意義として、妊婦の受動喫煙の 予防を銘記しているが、妊婦のみでなく、子ど もたちも受動喫煙にさらされている。そして、 子どもたちの喫煙開始の早期化も問題となって いる。
タバコによる健康被害を広く多くの人に知ら せ、禁煙に導くことはもちろんではあるが、子 どもたちに喫煙させないための教育も大事なこ とである。
小児科医としてできることとして、下記のも のが考えられる。
(1)子どものためのタバコ外来の開設
(2)院内にタバコに関する資料の準備
(3)小中学生に対するタバコの害に対する啓蒙
(4)その他
タバコ外来に関しては、まずクリニックで普 段の外来に組み込むことは無理がある。大体一 人につき最低1時間はかかる。本クリニックで は、一般診療の終了後に電話予約で相談外来の 形で対応している。まず、付き添いの家族も含 めてパワーポイントを用いてタバコの健康被害 について説明をする。そのあと、本人一人を診 察室に残し、1対1で話を聞く。禁煙の強い意 思を確認できたら、一緒に頑張ろうと励ましな がら、それからの治療方針について説明する。 必要に応じてニコチンパッチを処方する。
タバコに関する資料は、わかりやすい説明な どを見つけたら、コピーを外来待合室に展示し ている。大人用の啓蒙のための資料は結構ある が、小児用のわかりやすいものは少ないので、 手作りのものも準備する必要がある。問診表に 家族の喫煙歴を加え、必要に応じ受動喫煙と子 どもの病気との関連を説明することも大事なこ とである。
啓蒙活動の一環として、学校医をしている小 学校でタバコの健康被害を特別講義のする時間 をもらっている。そのときは、1)もし吸ってい る子どもがいたらぜひやめてほしい2)吸った ことのない子どもたちはぜひこのまま吸わない でほしい3)もし、家にタバコを吸う人がいた ら、タバコの害について家族で話し合ってほし い、そしてお父さん・お母さんのタバコをやめ てほしいとあなたたちの口から言って欲しい、 そういう気持ちをこめて話している。
子どもたちへの講義の内容は下記のものを準 備している。
(1)タバコによる健康被害
(2)能動喫煙と受動喫煙
(3)子どもに対する受動喫煙の影響
(4)早期の喫煙開始による影響
(5)妊婦の喫煙に伴う胎児への影響
(6)もし、タバコを吸うよう誘惑されたときの断り方
健康被害の写真はできるだけ子どもたちへの インパクトの強いものを準備する。肺がんやバージャー病の足指の壊死の写真はもちろんイン パクトはあるものの、それよりも顔の老化の写 真や口腔内の写真の方がより強烈な印象を与え る。これらは、本人へ訴えるというよりは喫煙 をする家族へ話してほしいためのものである。
本人たちのためには、小学生対象では身長の 伸びが悪くなるということのほうがより切実に 感ずるようである。中高生にはインポになると いう説明がいい。年齢によって説明の仕方を変 える事はより効果的な指導法を伝えるのに重要 である。
今、喫煙はニコチン依存症という病気であ り、小児に対しては非行に対する停学という措 置ではなく、病気ととらえて病院受診をすすめ てほしい。
今までにタバコ外来を受診してきたのは10名 に満たないが、みんなごくごく普通の中学生で ある。中にはちょっと突っ張っているような子 も含まれているが、決して非行少年・少女では ない。受診してこない子どもたちが心配ではあ るが、受診してくる子どもたちは禁煙したいと いう意思を持ってやってくる。
今取り組むべきは、タバコが子どもたちに容 易に手に入れにくい環境づくりである。
子どもたちのタバコの入手方法は、1位)家 庭内で、2位)自動販売機で、3位)友人から もらう、である。
家庭では、子どもの前ではタバコを吸わな い、子どもの目の届く範囲にタバコを置かない などの家庭内敷地内禁煙の実行。そして、社会 全体では自動販売機の撤去が必要である。自動 販売機は日本のみにある入手方法であり、日本 全国に自動販売機の台数は約65万台と報告さ れている。沖縄には約1万8千台あり、人口比 で計算すると全国の約3倍であり、また違法設 置も問題である。無届け設置が37%、深夜稼 働率が35%と報告されている。
受動喫煙による健康被害予防のために制定さ れた健康増進法により公共施設内の禁煙の場所 も増えてきた。19年4月から沖縄県内の公立学 校も敷地内禁煙になる。学校の先生方も分煙で はなく禁煙となる。
子どもたちは親を含め大人の言うことは聞か ないが、大人の真似はするといわれる。今こ そ、喫煙をする親も先生方もこの機会に禁煙を してほしい。それが、子どもたちへの一番の見 本となる。