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個別指導について

今山裕康

理事 今山 裕康

個別指導について、担当理事としての経験を 踏まえてご説明したいと思います。

まず、なぜ個別指導が存在するかと云うこと です。指導大網によれば、個別指導の目的は 「医療保険における診療内容及び診療報酬に関 する指導について基本的事項を定めることによ り、保険診療の質的向上及び適正化を図る」と あります。即ち、個別指導は診療が保険で認め られたとおりになされているか、正しいレセプ ト請求が行われているかをチェックすることに あります。

診療のほとんどは保険診療ですが、保険診療 は、医師法、医療法の他に、健康保険法などの 法律、さらに診療報酬が支払われる条件、禁則 事項、保険医療機関及び保険医療養担当規則 (以下療担規則)及び医科点数表の解釈に従う 必要があるなど種々の決まり事があり、これに 従わなければなりません。

以上のような大原則があるので、これを確認 する作業を行うことが個別指導の目的であり、 違法性が認められれば監査となります。

選定委員会

個別指導の対象となる医療機関を選定する会 議です。

委員構成は不明です。(平成18年は4月に開 催されました。)個別指導の選定基準は、指導 大網により決まっております。指導大網(要 約)は文末に参考として掲載しておりますので 参照下さい。

沖縄県においては

1)高点数→各グループで上位4%(医療機関を診療科及び透析の有無等にて11のグループに分け、各グループで上位4%の医療機関)

2)前回の個別指導で再指導となったもの

3)集団的個別指導を行った医療機関で、次年度も高点数であった医療機関

4)前年度に選定されたが、事情により個別指導が出来なかった医療機関

5)その他情報によるもの(今年度の場合、眼科学会の情報提供による指導が追加された)

対象医療機関名を知らされるのは3週間前で、それまでは全く分かりません。

T.個別指導

1.個別指導当日のスケジュール

水曜日か木曜日の午後が多い。離島では時間 帯が異なることもある。

  • (イ)集団的個別指導
       集団:30〜40分程度
       個別:30〜40分程度・・合計約90分
  • (ロ)個別指導
       新規:90分程度
       新規以外:2〜3時間程度

2.個別指導の出席者

  • (1)社会保険事務局
       a.医療指導官(医師)
       b.事務指導官
  • (2)県福祉保健部 医務国保課
       a.医療監査専門医(医師)
       b.主任
  • (3)立ち合い県、地区医師会理事(医療保険担当)
  • (4)対象医療機関
       a.管理者(必須)
       b.事務担当者
       c.看護担当者

3.個別指導の実際

(イ)事務関係

1)届出事項の確認、職員数の変更、診療科、診療日、時間等

2)保険加入状況

3)勤務状況の確認(施設基準にかかる場合は特に)

 ex)看護師、リハビリテーション要員等

 etc...

4)入院施設がある場合

 医療安全、院内感染対策、褥瘡の各委員会の有無(無いと入院基本料の算定が出来ない)

 ・有無とは→各委員会の設置要綱、委員会規約、委員会開催の記録(議事録)

5)電子カルテの場合

 a.院内管理規定

 b.ID、Pass Wordの管理状況

 c.真正生、保存性、見読性の確認

6)医事関係

 1)内容の解る領収書の確認

 2)日計表

 個人の請求点数(自己負担分、未収金の記録)

 職員の出勤状況など

(ロ)医師側

1)請求(レセプト)と診療録突合

 1)診療録

 a.1号、2号、3号様式がそろっているかの確認

 b.傷病名の開始日、終了日、転帰の確認

 c.レセプトの傷病名と診療録の傷病名の確認(1号様式)

 傷病名、開始日が一致しているか

 d.実日数と診療録の確認

2)診療内容とレセプトの突合

 各請求項目ごとにその根拠が診療録に記載されているかの確認。特に注意が必要なのは…

 a.時間が算定要件になっている場合(リハビリテーション、栄養指導、精神療法、etc...)時間の記載を出来れば開始時刻と終了時刻を記入した方が良い

 b.特定疾患療養管理料のようなものでは、要点の記載を

 ex)・減塩○グラム以下に

   ・散歩を30分以上(毎日or1日おき)など、簡単なことでよいので記入する

 c.検査、処方など、指示事項がきちんと書かれているか

3)特に指摘の多いもの

 a.悪性腫瘍管理料腫瘍マーカーの値

 b.薬剤管理料

 薬剤血中濃度の値、診療計画→(内服用 ex)1T→2Tへ、2T継続)など

 c.検査の指示は2号様式に書くこと

 d.所見を記入(画像診断、生科学検査)

 所見用紙が別紙になっていても肝占拠性病変(+)、脂肪肝、胆のう(+)etc... 簡単な要点だけで良いので

(ハ)新規の個別指導

1)届出事項の確認

 →これが誤っていれば保険診療そのものが 出来なくなる。ここでは誤りを指摘され るので、以後の過誤請求を防げる。(場 合によっては不正請求と見なされる恐れもあるので、ここで確認しておくことは、 非常に重要である。)

2)請求(レセプト)と診療録の突合

 ex)特定疾患管理料.etcの特掲診療料など...

以上が個別指導の大体の流れです。個別指導 においてはそこで指摘されたことは、適正に対 応すれば罰則は受けないのであって、罰則のあ る監査と大きく異なります。監査は、不正もし くは明かな違法行為が疑われる場合であって、 行政処分などの罰則の適応を受けます。但し、 本県の一般会員が対象になることはないと思っ ています。

診療録に書かれていないことは実行されてい ないと判断されます。どんなに云っても、記録 のないものは行為が存在しないのです。これは 非常に大切な考え方で、万が一、私達が医事紛 争に巻き込まれたとき、私達を守ってくれるの は診療録等の記録物のみです。その記録に記載 のないものは、その行為自体がなかったと判断 されます。医事紛争はいつ起こるとも限りませ ん。日頃から記録をするようにして下さい。

極端な場合は、無診療診療と判断される場合 があるとのことです。(今のところ沖縄ではない)

個人的見解

この3年間、多くの指導に立ち合ってきました が、そこで気がついたことを1つ2つ述べます。

個別指導はあくまで指導であり、誤りを見つ けて罪に問おうというものではなく、ルールを みんなで守るようにという、警察が行う検問の ようなものと理解しています。ルールを守って いれば何も恐いことはないと思います。

私は、医師が不正をするはずがないという “性善説”の立場ですが、行政側は異なります。 それならば“性悪説”の立場できっと悪いこと をしているに違いないという目で見ているのか と聞くと、彼ら曰く“公正な立場”で指導して いるといいます。しかし個別指導の実際は、厚生労働省との共同指導の場合は別ですが、概ね 友好的で、何か“アラ”を探されるものでもな いので恐がる必要はないと思います。

個別指導を受けるときに、これだけはして欲 しくないことがあります。それは、制度に対す る意見や不満等を議論することは絶対にしない ということです。指導の場は、決まったことが 適正に実行されているかを確認する場なので、 ここで議論しても何も解決しません。また、議 論が白熱すると、指導官も人の子です、感情的 になりかねません。指導において百害あって一 利無しです。そのような意見、議論は医師会ま たは各学会になどに意見を出す場が用意されて いるので、そこにお願いしたいと思います。但 し、制度の解釈については多いに議論して下さ い。(いわゆる青本の解釈で不明な点はお示し 下さい。)

第3者機能評価や、peer review(同僚による 評価)などと異なり、治療方針、診療結果につ いて議論する場ではないことを知っていただき たい。治療法が禁忌とか、傷病より全く考えら れないようなもの意外、問題になることはあり ません。

何回も同じようなことを書きますが、指導は あくまで指導であり、医療行為そのものを問わ れることはありません。

又、我々は保険診療を行ううえでは、保険の ルールに則って診療することが求められます。 そういう意味で、指導を受けることは決してマ イナスにはならないと考えます。

我々はpeer reviewに慣れていません。従っ て、のぞかれるとか、他人の家に土足で上がる といった悪い印象があるかも知れませんが、こ れからの時代は情報公開の時代です。我々は医 療のプロとして、これらのニーズに応えていか なければなりません。又、指導する側も完璧で はありません。大いに議論をして、日頃の疑問 や不確かな事項について、明らかにしていただ くと良いかと考えます。

行政手続法(平成5年11月12日 法律第88号)

処分、行政指導及び届出に関する手続に関し、共通する事項を定めることによって、行政運営にお ける公正の確保と透明性の向上を図り、もって国民の権利利益の保護に資することを目的とする。

透明性・・・行政上の意思決定について、その内容及び過程が国民にとって明らかであること

指導及び審査の法的根拠

○大正11年4月22日法律第70号健康保険法(平成14年10月改正)

第73条(厚生労働大臣の指導)

第78条(保険医療機関又は保険薬局の報告等)

○平成7年12月22日 保発第117号 保険局長

保険医療機関及び保険医等の指導及び監査について

指導大網 改正:平成8年4月1日
        改正:平成12年4月1日

監査要綱 改正:平成14年10月1日

○平成10年3月18日 保険発第36号 医療課長

保険医療機関等に対する指導及び監査の取り扱いについて

指導大網(要約)

目的 医療保険における診療内容及び診療報酬の請求に関する指導についての基本的事項を定めることにより、保険診療の質的向上及び適正化を図る

指導方針 保険診療の取り扱い及び診療報酬の請求等に関する事項について周知徹底させる

指導形態

1.集団指導
   イ.診療報酬の改訂時等
   ロ.保険医療機関の指定(又は更新)時
   ハ.保険医の新規登録時
   ニ.共同指導(特定共同指導)時

2.集団的個別指導

3.個別指導
   イ.都道府県個別指導・・地方社会保険事務局、都道府県
   ロ.共同指導・・厚生労働省、地方社会保険事務局、都道府県
   ハ.特定共同指導・・厚生労働省、地方社会保険事務局、都道府県

対象の選定:集団的個別指導及び個別指導については選定委員会において選定

集団的個別指導

(1)集団部門と個別部門との両部門で実施

(2)一件当たりの請求点数が高い順位で選定(高点数医療機関)

(3)一件当たりの請求点数が県平均値の一定倍率以上の期間が対象

(4)集団的個別指導又は個別指導を受けた機関は、翌年度及び翌々年度は対象外となる

(5)趣旨:集団部門では医療保険のルールを熟知してもらうこと、個別部門では一件当たりの請求点数の順位を認識してもらい診療内容の検討及び診療報酬請求の自主点検強化を促すこと

都道府県個別指導〔保険発36号 H10・3・18〕

1.支払基金等、保険者、被保険者等から診療内容又は診療報酬の請求に関する情報の提供があり、都道府県個別指導が必要と認められた保険医療機関等

2.個別指導の結果、指導大網第7の1の(2)に掲げる措置が「再指導」であった保険医療機関等又は「経過観察」であって、改善が認められない保険医療機関等

3.検査の結果、戒告又は注意を受けた保険医療機関等

4.医療監視の結果、問題があった保険医療機関等

5.検察又は警察からの情報により、指導の必要が生じた保険医療機関等

6.他の保険医療機関等の個別指導又は監査に関連して、指導の必要性が生じた保険医療機関等

7.会計検査院の実地検査の結果、指導の必要性が生じた保険医療機関等

8.一件当たりの点数が高い保険医療機関等

9.新規指定保険医療機関等

共同指導

(1)過去における個別指導にもかかわらず、改善が見られない機関

(2)支払基金等から診療内容又は診療報酬の請求に関する連絡があり、共同指導の必要が認められる機関

(3)集団的個別指導を受けた機関で、翌年度においても高点数機関に該当するもの

(4)その他特に共同指導が必要と認められる機関

特定共同指導

(1)臨床研修指定病院、大学付属病院、特定機能病院等

(2)同一開設者に係わる複数の都道府県に所在する機関

(3)その他緊急性を要する場合等であって、特に特定共同指導が必要と認められる機関

指導拒否への対応

1.正当な理由がなく集団的個別指導を拒否した場合は、個別指導を行う

2.正当な理由が無く個別指導を拒否した場合は、監査を行う