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平成18年度母子保健講習会報告及び印象記

理事 野原 薫

平成18 年度母子保健講習会が、2 月25 日 (日)に日本医師会会館で開催されました。今 年度から従来の乳幼児保健講習会から母子保健 講習会へと変更になりました。本講習会の詳細 は日本医師会雑誌に掲載されますので、ここで は簡単に報告いたします。プログラムは下記の 通りです。

今村定臣常任理事の開会宣言の後、唐澤人 会長の挨拶、伊吹文明文部科学大臣(代読)、 柳澤伯夫厚生労働大臣(代読)の来賓挨拶があ りました。その後、午前は2題の講演がありま した。

講演1は北里大学産婦人科教授の海野信也先生 が「産科医療の現状と改革への提言」と題して 講演されました。産婦人科医や分娩取扱施設の 減少は以前からあり、診療所産科医の高齢化、 女性医師の増加、産科から婦人科領域へのシフ トなどが加わり、更にハイリスクの高年齢出産 が増加している。特に常時24時間対応の問題 と産科医療紛争の問題が本質的問題であり、医 療事故の合理的な原因究明・紛争解決、勤務医 の勤務・雇用条件の改善、更には当面は看護師 内診の許容など、制度改革を求めていると述べ られました。

講演2は日本小児科学会会長の別所文雄先生 が「小児医療の現状と改革への提言」と題して 講演されました。1日24時間、365日、小児科 専門医に診てもらいたいという患者の要求に基 づいて、夜間・休日については病院小児科を中 心に供給を行っている現状で、このことが病院 小児科勤務医の疲弊の原因となっていると報 告。今後、安全で質の高い小児医療を提供する ためには、集約化・重点化などによる勤務体制 の見直しや役割の明確化、適正な小児科医師数 の算定など、小児科医が適切な労働環境に置か れる必要があると述べられました。

午後は6題のシンポジウムがありました。

シンポジウム1は常任理事、元順天堂大学産 婦人科教授の木下勝之先生で、テーマは「新医 師確保総合対策等を通しての産科医療支援の具 体的施策」でした。産科診療所の20%は今後、 分娩を取り止める予定で、卒後5年の産科若手 医師の25%は産科診療を続けたくないと回答 していると報告し、ゆとりの勤務態勢、待遇改 善、産科医師及び助産師、看護師の確保の必要 性を述べられました。日医としては現在、看護 師の内診問題では厚生労働省と交渉中であるこ と、産科医療による訴訟の増加に対しては脳性 麻痺における無過失補償制度の立ち上げ、医療 事故への刑事司法の介入に対しては異常死の届 け先を公の第三者審査機関(設立)へ行うこと など、取り組んでいることを報告されました。

シンポジウム2は茨城県医師会常任理事の石 渡勇先生で、テーマは「産科医不足に対応した 周産期医療確保のための地域の取組」でした。 茨城県医師会及び産婦人科医会の取組を報告し ました。分娩医療機関を減らさないこと、産科 医・助産師バンクの設立、行政との連携、県民 への啓発などです。

シンポジウム3は横浜市立大学小児科教授の 横田俊平先生で、テーマは「より良い予防接種 体制をめざして〜日本版ACIP設立の必要性」 でした。現状の日本の予防接種行政には多くの 問題点があり、改善策として日本版A C I P ( Advisory Committee on Immunization Practices;予防接種の実施に関する諮問委員 会)を設立し、専門家、接種医、国民の意見を 反映させ、予防接種事業を行うことを提案しま した。

シンポジウム4は福島県医師会副会長の菊池 辰夫先生で、テーマは「乳幼児健康支援一時預 かり事業の現状と発展のために」でした。乳幼 児健康支援一時預かり事業を必要としている親 子は今後増加すると予想されているが、施設内 感染防止対策、当日キャンセルの対応などで経 営的に厳しい問題があり、更なる行政の財政支 援の必要があると報告されました。

シンポジウム5は東京都小石川医師会理事で 小児科医の内海裕美先生で、テーマは「地域に おける子育て支援の実践〜小石川医師会子育て 支援セミナー」でした。小石川医師会主催の子 育て支援セミナーを紹介し、その有用性を報告 すると共に、全国の各地区医師会がこのような 子育て支援事業を展開していくことを呼びかけ ました。

シンポジウム6は大分県医師会常任理事で大 分こども病院院長の藤本保先生で、テーマは 「ペリネイタル・ビジット事業について〜大分県 の取組」でした。行政から委託を受けて、「おな かの中にいるときからの育児支援」ということ で産科医、小児科医、保健師がタイアップし、 妊産婦の育児不安を解消し、子どものかかりつ け医を確保することを目的とした事業で、その 事業が成功していることを報告しました。

その後、シンポジストとフロア間で活発な意 見交換が行われ、最後に今村定臣常任理事の閉 会の挨拶で終了となりました。

今回から乳幼児保健講習会から母子保健講習 会へと変わり、産婦人科の先生も参加するよう になりました。産科領域では産科医不足の問 題、警察の介入問題、助産師不足及び看護師の 内診問題などと山積みですが、元大学産婦人科 教授の木下勝之常任理事を中心に、医師会が先 頭に立ってこれらの諸問題を解決することが期 待できるように思われました。小児科領域でも 小児科学会、小児科医会、医師会が力を合わせ ればより良い小児医療の構築が可能と思われま した。

次回からは県内からも産婦人科医の参加を期 待しております。

 平成18年度母子保健講習会プログラム
メインテーマ「子ども支援日本医師会宣言の実現を目指して」

開催日:平成19年2月25日(日)

時 間
内  容
10:00





10:15〜11:55


(50分)

(50分)

開会
東郷司会:今村 定臣(日本医師会常任理事)
1.挨  拶 唐澤  人(日本医師会会長)
2.来賓挨拶 伊吹 文明(文部科学大臣)
       柳澤 伯夫(厚生労働大臣)

3.講演
       座長:和氣  夫(九州大学医学部産婦人科教授・日医母子保健検討委員会委員)
           保科  清(日本小児科医会会長・日医母子保健検討委員会委員)
1)産科医療の現状と改革への提言
   海野 信也(北里大学産婦人科学教授)
2)小児医療の現状と改革への提言
   別所 文雄(日本小児科学会会長・杏林大学医学部小児科教授)
11:55〜12:55 昼食・休憩
12:55〜16:00



(各25分)











(35分)

16:00
4.シンポジウム
       座長:池田 琢哉(鹿児島県医師会副会長・日医母子保健検 討委員会委員)
          樋口 正俊(元東京都医師会理事・日医母子保健検討 委員会委員)
テーマ「親子が育つ医師会の地域づくり」
1)新医師確保総合対策等を通しての産科医療支援の具体的施策
   木下 勝之(日本医師会常任理事)
2)産科医不足に対応した周産期医療確保のための地域の取組
   石渡  勇(茨城県医師会常任理事・日医母子保健検討委員会委員)
3)より良い予防接種体制をめざして〜日本版ACIP設立の必要性
   横田 俊平(横浜市立大学大学院医学研究科発生成育小児医療学教授)
4)乳幼児健康支援一時預かり事業の現状と発展のために
   菊地 辰夫(福島県医師会副会長)
5)地域における子育て支援の実践〜小石川医師会子育てセミナー
   内海 裕美(東京都小石川医師会理事・日医母子保健検討委員会委員)
6)ペリネイタル・ビジット事業について〜大分県の取組
   藤本  保(大分県医師会常任理事)
討  議

閉  会

印象記

具志一男

ぐしこどもクリニック 具志 一男

平成19年2月25日、日本医師会主催の平成18年度母子保健講習会に参加した。メインテーマは 「子ども支援日本医師会宣言の実現を目指して」だが、午前の産科と小児科の講演はともに医療現 場の困窮を訴える内容であった。産科のほうが問題はより切実で、勤務時間もさることながら訴 訟にも備えなければならない。午後のシンポジウムでも産科医療支援、産科医師確保の演題であ った。

小児科では、勤務時間と集約化の問題が取り上げられていた。沖縄では集約化はほぼ出来上が っており、小児科医による救急の医療提供も全国的なレベルからすれば充実していると考えられ る。しかし、診療報酬の低さから働いただけの収益が上がらず、また、公立病院においては定員 の問題から受診に見合うだけの人数配置ができていない。より重症な患者さんに対応できるよう な体制を作るには、内容に見合うだけの報酬、人員を確保できなくてはならないだろう。それが 実現できないなら、時間外のプライマリ・ケアや救急は、諸外国のように救急医や研修医、総合 開業医に委ねるしかないのではないだろうか。

午後のシンポジウムでは、小児科からは予防接種のシステムも取り上げられていた。現在の日 本の予防接種体制は、本来の病気を予防するという立場ではなく、副反応のない接種、受ける側 が納得した接種に重きが置かれ、国内の病気の蔓延を十分防げていない。米国のように予防接種 により予防可能な感染症は、徹底して予防接種を行い、子どもを守ることが近代社会の指名であ るという認識を持つ必要がある。

乳幼児健康支援一時預かり事業、いわゆる病児保育については、当院でも実施している観点か ら非常に参考になった。利用者の季節による変動が激しく、感染症による少人数の隔離、予約者 の当日のキャンセルが多く利用数が安定しないなどの問題点が挙げられていた。

地区医師会による子育て支援セミナーの紹介があった。月1回、休診日の午後を利用した、参 加費無料のセミナーである。さまざまなテーマ(「子どもの事故防止」「こどもの病気」「予防接 種」「離乳食」「幼児の食事」「おむつはずし」「睡眠」「子どもとメディア」など)を取り上げ30 分くらいの講演を行う。子育て相談や絵本の読み聞かせもあるという盛りだくさんの内容だ。

ペリネイタル・ビジットに対する大分県の取り組みの紹介があった。初妊婦や要育児支援の経 産婦を対象とした事業で、産科から小児科の紹介による育児支援である。保健師のかかわりもあ る。本事業は、遠隔地に里帰りする妊婦さんや里帰りしない妊婦、ハイリスク妊婦、育児困難を 訴える母などに有用であったとのことである。実施に当たっては、予算や時間など診療の現場で はクリアしなければならない問題がいくつかあるが必要とする妊婦さんもおり、本県での導入も 検討に値すると思われる。

今回が、初めての参加であったが子育て支援に対する各地での取り組みを具体的に聞くことが できた、充実した時間であった。

印象記

まちだ小児科 町田 孝

2月25日、日本医師会の主催する母子保健講習会に参加しました。

予防接種についての横浜市立大学小児科の横田俊平先生の話は特に共感できるものでした。近 年、予防接種の現場の状況や接種を受ける子どもたちの利益を無視しているとしか思えない一方 的な制度改悪がくりかえされていて、そのために大きな混乱が起きていますが、このようなこと がないように予防接種に関するさまざまな方針をきちんと話し合うための、米国のACIPのような 組織を日本にも作るべきであると言うお話でした。

東京都小石川医師会の内海裕美先生は医師会主催の子育て支援セミナーの紹介をして下さいま した。子育て支援の原則として、1)子育てする人を幸せにすること、2)支援する気持ちがあれば、 誰でも、いつでも、どこでも、どんな形でも、と強調されていたのが心に残りました。

大分県医師会の藤本保先生は大分県のぺリネイタル・ビジット事業を紹介されました。この事 業の成功の鍵は「産婦人科の熱意とそれにこたえる小児科医の力量が問われる」との事でした。 大分県においては産婦人科と小児科の協力体制が充実している事が話の中からよくうかがわれ、 那覇市において予防接種の指導に関して、産科側と小児科側の連携がうまく機能している事を思 い出しました。形は違っていても連携が力を発揮するという点は同じだと感じました。