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平成18年度日本医師会医療情報システム協議会

常任理事 大山 朝賢
理事 今山 裕康

去る2月17日(土)、18日(日)日本医師会館にて、標記協議会が開催さ れたので、その概要について報告する。

第1日目 2月17日(土)

1日目

1日目

挨拶

唐澤人日本医師会長

ご承知のように昨今の医療を取り巻く状況は 大変厳しく、政府または行政官庁が打ち出す医 療政策、社会保障全体に亘って財政的な要素が 非常に強い政策が提示されている。このような 状況の中で、政府IT戦略本部では、医療を先 導的7分野の内の一つに位置づけ、重点計画に おけるITによる医療構造改革の下、医療・健康 情報の全国規模での分析活用やレセプトオンラ イン化等の政策を打ち出している。しかし、こ れらの施策は医療本来の目的から乖離した医療 費抑制策や産業振興策に通じるもので、その実 現の前には前程条件や解決されなければならな い問題が山積している。一方本会では、国民の 健康を預かる医療提供者の立場から、医師会情 報化推進策として医師会総合情報ネットワーク 構想を掲げORCAプロジェクトをはじめとする 医療と患者に貢献するIT化を推進してきた。日 医が今後医療分野のIT化のイニシアティブを取 るために、そして、情報化の核として活動を強 力に推し進める体制を整えるためにも「理論構 築から実践へ」を念頭にこの協議会を契機とし て情報と知識を共有し16万医師会員の総意と 連携に基づいたIT化がさらに推進され政策的に も有効な活動を行っていきたい。改めてこの協 議会が実り多い成果を挙げられることを祈念す ると共に、本日ご参集の皆様のご健勝ご活躍を 祈念して挨拶に代えさせていただく。

鈴木委員長(東京都医師会長)

ご存知のように全国医師会医療情報連絡協議 会とコミネスが昨年一つになり日本医師会に移 管されこのような会を開くことになった。私ど もとしては、この二つの会の特徴をなるべく生 かしていきたいということと、有意義な会にす るためにもフロアからのディスカッションの時 間を十分とり、なるべく多くの方からご意見を いただき、実り多い会になるよう心がけた。

今回取り上げたテーマは「EHR」であるが、既に 諸外国においては国家的なプロジェクトとしてか なり進んだ状況である。日本がこれからこれを取り 上げていくために、特に医療情報に関しては我々 が率先してイニシアティブをとらなければ、デメ リットだけのものになっていくのではないかと恐 れている。従って、このような会を通して、本当 に国民のための医療を確立するためにどのような ITを進めていけば良いのかご議論いただきたい。

1.基調講演「先進諸国のEHR“Electronic Health Record”」
土田康彦氏(accenture株式会社)
座長:吉原博幸(京都大学)

講演概要

EHR”Electronic Health Record"とは

海外において進展している医療情報共有・ ネットワーク化のためのツール。

患者の医療情報レコード(診断・検査・健 診結果、処方、アレルギー、レントゲン画像 etc)を一元管理し、地域レベル、国レベル で共有するシステム。

電子カルテについては各医療機関や施設が 個別で対応すべきとの認識。
(電子カルテ=EMR:Electronic Medical Record)

導入による効果

患者の情報が一元的に累積管理されていく ことから、地域医療連携の向上に繋がると共 に、検査・処方の重複の防止、地域、国レベ ルでの統計や分析、サーベイランスが可能。

患者は自宅等から自分の情報が閲覧可能と なり自己の健康管理に繋がる。

各国におけるEHRの進展状況としては、カ ナダ、イギリスが進んでおり、アメリカ、中国 も取り組み始めているところであるが日本は全 くこれからの状態。

講演では政府が積極的に支援しているイギリスの状況について主に下記のとおり説明があった。

イギリスでは国レベルでの4つの診療システ ムアプリケーション(下記参照)の開発・提供 を行うと共にセキュリティーを確保しており、 そのアプリケーションも浸透しつつある。

1)Choose&Book

(かかりつけ医/連携病院選択、電子予約、 スマートカード認証)

2)Electric Trancemission of Prescription

(処方箋電子化、薬局転送/連携、スマートカード認証)

3)NHS Core Records Service

(最新患者情報参照、診断・処方・アレルギ ー等情報共有、スマートカード認証)

4)PACS

(Picture Archiving and Communication System)

(放射線等イメージ情報管理、遠隔地転送共有、CRSとの連携)

電子処方箋システムでは、かかりつけ医から 患者の処方箋を電子的に薬局へ送信し、患者は 希望の薬局で薬を受け取ることが可能。

電子化により、紙資源の有効利用に繋がると 共に、患者は処方箋をもらうためだけにかかり つけ医を訪問することが不要になる。かかりつ け医と調剤士による2度入力が不要になり、正 確性・安全性が向上する。

かかりつけ医と調剤士には国レベルの認証シス テムによるスマートカードが発行され、上記アプ リケーション全てに同カードでアクセスが可能。

最後に我が国においてEHRを導入するにあ たっての基盤イメージ例が示されると共に、そ の実現に向けた課題が述べられ、年金制度に国 が大きく関わっているのと同様に医療情報管理 も扱うべきとする意見が述べられた。

2.セッション「日本における理想のEHR ※ はどうあるべきか」

※)EHR:Electric Health Record

(1)「日本における理想のEHRはどうあるべき か−電子カルテを世界で一つにまとめる!」

京都大学医学部付属病院医療情報部、NPO京都地域連携医療推進協議会、NPO日本医療ネッ トワーク協会の吉原博幸先生より、「日本におけ る理想のEHR」と題した講演が行われた。

先ず、広域な電子カルテを実現するためには データの互換性が不可欠であると説明があり、 現在、異なるシステム間のデータ交換のための 記述言語として、XML(extensible Markup Language)を用いた医療データ交換のための 言語規格としてMML( Medical Markup Language)の構築が“MedXMLコンソーシア ム”を中心に進められていると報告があった。 “MedXMLコンソーシアム”とは、平成12年3 月3日に設立された医療情報交換規約(MML、 CLAIM)を開発・管理する団体となっている。
(http://www.medxml.net/)

MMLを利用することで、大規模医療機関、 検査センター、画像診断センター、診療所、薬 局、行政、患者さん等がカルテ情報を共有可能 となり、病診連携・病病連携、カルテ開示、安 価な電子カルテの開発・提供、薬局等との連携 等、様々な活用が望めると報告された。

次いで、MMLを活用し各地域で実際に構築 されているシステム(宮崎地域:はにわネッ ト、熊本地域:ひご・メド、東京地域:HOT プロジェクト、京都地域:まいこネット、等) の紹介があり、現在、これら地域ネットの上位 に位置する全国版医療情報センター(運営: NPO日本医療ネットワーク協会)の構築が進 められている旨が報告された。

(2)「日本のEHRの今後」

千葉大学医学部付属病院企画情報部の高林 克日己先生より、「日本のEHRの今後」と題し た講演が行われた。

始めに、EHRは国家的事業と考えられるが日 本は著しく遅れており、EHRを進めることは医 療システムの大きな改変を伴うと意見された。

各先進国におけるもEHRの構築が早急に進 められていると報告があり、「イギリスでは国 が1 兆円の予算を計上し構築が進められてい る。」、「カナダでは2010年までに全ての州のテ リトリーで50%以上のInteroperability EHRの 実現が掲げられ180億円の予算が計上されている。」、「アメリカでは2004年Bush大統領声明 として10年内にEHRの実現が掲げられ1000億 円の予算が計上されている。」と説明された。

また、「EHRで何が役に立つのか、何ができる のか」として、患者にとっては生涯カルテ、自 分の情報収集、またどこにいても自分の診療情 報を伝えることが可能となり、診療者にとって は地域医療連携、紹介状システム、e−処方箋へ の活用、研究者にとっては症例データベースの 構築、行政にとっては特定健診への活用、また 新たな産業の創設等が考えられると説明された。

最後に、我が国でEHRを構築するに際して は、何を対象共有情報とするのか、誰が統合さ れた情報を管理するのかを検討するとともに、 国民総背番号制等の導入の問題、漏洩・改ざん されないためのセキュリティの確保、財源、国 民の理解、等々、様々な課題が残されているこ とが説明された。

(3)「Net4Uをエンジンとした山形県医療情報 ネットワーク(山形RHIO)」

山形県医師会理事の三原一郎先生より、 「Net4Uをエンジンとした山形県医療情報ネット ワーク(山形RHIO)」と題した講演が行われた。

始めに、RHIOとはRegional Health Information Organizationの略称であり、その意味は、“地域 ごとに医療情報基盤を作り、地域医療の向上と医 療費の削減を狙う政策のことである。”旨が説明 された。

三原先生の所属する山形県鶴岡地区では、 Net4U、訪問看護システム、地域連携パスシス テム(大腿骨頸部骨折の地域連携パスシステ ム)、健診システム等、様々なシステムが構 築・活用されていることが紹介され、現在、各 システムの中核をなしているNet4Uエンジンを 利用した“山形RHIO”を目指した取り組みが 行われていることが報告された。

山形RHIOでは、データを各医療機関に分散共 有することで、オンデマンドでのデータ要求、提 供を実現するレジストリ型システムを想定して おり、センターサーバにてデータを管理している 現行のNet4Uエンジンに改良を加える取り組み が行われていることが説明された。レジストリ型 システムに変更することで、頻繁にデータのやり 取りが行われる基礎的なデータのみをデータセ ンターに置くことでパフォーマンスの向上が図ら れ、処方箋、健診データ、画像データ等を各医 療機関で管理することで、データの保護責任の 明確化と既存システムに対しての投資の保護が 実現可能となることが述べられた。

最後に、三原先生より、医療情報のIT化は 地域単位で考えるべきであるが、そのためには 人的ネットワークの確立が最大の課題と考える と意見された。

(4)「地域からのEHRシステム」

兵庫県医師会の足立光平先生より、「地域か らのEHRシステム」と題した講演が行われた。

始めに、EHRに対しての私見的な理解と認 識として、「患者中心の医療情報共有化ツー ル」、「閉鎖的“電子カルテ”の本末転倒を超え る」、「ITインフラの相互運用とセキュリティ確 保」、「中心は患者インデックス、サマリ等」、 「電子紹介状・処方箋や慢性疾患管理指導での 活用、救急時の必須情報提供」、「ナショナル型 か地域・NPO型かの選択」と考えると説明が あり、EHR展開に向けての基本的な視点とし ては、国家的管理医療モデルとしての国家管理 か、医師・患者主導の患者自己管理かの2つが 考えられると意見がされた。

次いで、足立先生の所属する加古川地区で構 築・運用されている“加古川地域保健情報シス テム”が紹介され、地域におけるシステムを運 用しての経験から、「各院“電子カルテ化”と の地域内データ連携」、「情報ネットワークを通 して画像を含む紹介等」、「各機関のレセ含む独 自IT環境整備サポート」、「介護保険対応・地 域包括ネットワーク対応」、「全国的・国際的標 準化への対応とDB整備」、「特定健診への“か かりつけ医”対応システム」、「患者の自己管 理・コントロール権の保証」、「EHRの動向に 対応した地域モデル提起」が取り組み課題とし て挙げられると説明された。

第2日目 2月18日(日)

2日目

2日目

1.セッション「日レセ(ORCA)をめぐっ て」

(1)「ORCAプロジェクトの現状と将来展望」

日医総研主任研究員の上野智明先生より、「ORCAプロジェクトの現状と将来展望」と題 した講演が行われた。

(2)「日レセ(ORCA)をめぐって」

尼崎医師会、メックコミュニケーションズの山本学先生より、「日レセ(ORCA)をめぐっ て」と題した講演が行われた。

(3)「当施設におけるORCA運用の経験(導入 から現在まで)」

千葉県東葉クリニックの新谷一経先生より、 「当施設におけるORCA運用の経験(導入から 現在まで)」と題した講演が行われた。

(4)「医師会としてのORCAサポート」

熊本県医師会理事の宮本大典先生より、「医 師会としてのORCAサポート」と題した講演が 行われた。

(5)「ORCA(日レセ)今までそしてこれから 何処へ〜開発STAFFとともに〜」

島根県医師会情報委員の小竹原良雄先生よ り、「ORCA(日レセ)今までそしてこれから 何処へ」と題した講演が行われた。

(6)「日レセ(いわゆるORCA)から岐阜県医 師会病診連携用ソフト(診療情報管理ソフ ト)へのデータ取得の実現報告」

岐阜県医師会副会長の川出靖彦先生より、「日 レセ(いわゆるORCA)から岐阜県医師会病診 連携用ソフト(診療情報管理ソフト)へのデー タ取得の実現報告」と題した講演が行われた。

2.事務局情報担当者セッション
−医師会事務局情報化は進んでいるか−

藤島さゆり氏(中央区医師会)の司会進行の もと会が進められ、それぞれ概ね下記のとおり 説明があった。

T.それぞれの立場から

座長:佐伯光義(運営委員)、岸本尚(松山市 医師会)

(1)日本医師会の状況報告 日本医師会情報企画課 阿部範子

1)日医のホームページの運営について

当ホームページのモニター制度を設け、当該 ページの印象等を調査するとともに、ページ別 アクセス数調査について説明。

新しい試みとして、平成18年度診療報酬改 定の影響について同ページ上で緊急アンケート 調査を行ったところ、547件の意見があったと のこと。

2)日医白クマ通信

登録者数 会員・医師会8,500件
       マスコミ400件
       その他一般1,000件

3)文書管理システム

今後は日医がサーバーを提供し、都道府県医 師会から郡市区医師会へ電子文書を通知できる よう文書管理システムの導入を目指している。 ※3月よりテスト運用開始。

※日医において、パソコン初心者(会員)に対 するパソコンセミナーを開催

(平成18年10月〜平成19年3月まで)

16都道府県医師会館において開催。会員2〜 4名に対し、インストラクター1名で対応。

(2)北海道医師会における情報ネットワークシ ステムへの取り組み

北海道医師会事業第二課 伊藤和弥

同医師会では平成10年からホームページを立 ち上げ、現在では1,400名の会員にメール情報 提供を行っているとのこと。平成16年からは、 大手プロバイダの設備を借用しインターネット 接続環境の効率化を図ると共に、災害時にもイ ンターネットが使用できるよう同プロバイダの データセンター(発電機完備)に器機一式を収 容しているとのこと。

道内では8郡市区医師会にテレビ会議システ ムを設置し、会議を行う他講演を配信している とのこと。

事務局内では、ブラウザを利用した掲示板に おいて日付ごとの行事、会長スケジュール、出 張日程等が閲覧出来るようになっている。

理事会においては役員それぞれにモニターを 設置し会議を行っているとのこと。

(3)システムは使えてナンボ 予算が取れな い!人がいない!

川西市医師会事務局 深町隆史

医師会のIT化を進めるにあたって多額の予算 を確保できない小規模医師会でも可能とされる 効果的な情報化、IT化について説明があった。

情報化とは情報の扱いが上手になることであ り、単に情報機器を導入したりシステムを構築 しそれを使いこなすことではないとして、よい ものを安く手にいれようとする関西人の観点か ら、業者任せにするのではなく事務局でできる ことは可能な限り自分達で行うことが重要であ るとの説明。

基本コンセプトから、配線、システム作り、 教育、運用、メンテナンスをすべて事務局職員 で対応する。WEB サーバーは月額2,000 〜 3,000円で借りられるレンタルサーバーを利用 すれば、ホームページや掲示板を無料で作れ、 メールアドレスも無制限で発行でき、セキュリ ティー対策やバックアップもレンタル業者が行 ってくれる。

事務局内のセキュリティーについては、どこ までが機密情報なのかという考えを持ち、仮に 漏れた場合でも重大でなければ、リスクと手間 を比べ、放っておいてもよい場合もある。

ウイルス対策もルーターとウイルスバスター だけでもある程度確保できると説明。

ペーパレス化に固執せず、紙が優位な分野に ついては紙を使いながら、紙をより少なくして いけば良い。

※医師会事務局の情報交換ホームページアドレス http://shiranui.net/

(4)平成13年度経済通産省より実施された電 子カルテ受託研究事業その後について

宗像市医師会病院企画情報管理室 小斉 勉

平成13年度より経済産業省が実施した、電 子カルテと地域医療ネットワーク構築に関する 大規模な受託研究事業に説明があった。宗像医 師会病院において患者の診療記録、退院時のサ マリ、画像データ等をカルテサーバーに保存し ておき、宗像医師会会員のクリニックにおいて アクセスが行えると共に、遠隔診療相談等が行 えるシステムとのこと。しかしながら当初この 事業に参画した26 医療機関の内、現在では、 わずかに数えるのみとなり、その主な原因とし て、稼動後の維持管理に関わる経費の捻出の問 題、実運用から乖離した無理なシステム構築が 上げられた。今後は再度協力医療機関を募集 し、多くの医療機関の参画のもと地域医療に貢 献したいとした。

(5)長崎市医師会におけるIT化の取り組み

長崎市医師会事務局 福田晋平

平成14年の会館新築に伴い、これまで取り 組んできた館内IT化について説明があった。 館内には事務局、保健福祉センター、看護専門 学校、医療センター診療部・検査部、長崎市夜 間休急患センターがあり、130台のパソコン、4 台のサーバが稼動しており、1名の管理者が館 内サーバ・パソコン、管理、ホームページ作 成、簡単なシステム構築を行っているとのこ と。事務局では保存の必要のある書類をスキャ ナで読み込み電子化するシステムを平成14年度 から稼動。理事会では各理事者にパソコンを配 置し、ペーパレス化を実現。館内には16台のネ ットワーク監視カメラを設置しており、ブラウ ザから見ることが可能。

ホームページにおいては、市民向けに長崎県 庁との協力体制により病医院地図情報検索を充 実させると共に、休日当番医情報、夜間急患セ ンター情報、介護サービス情報や各種健康情報 を掲載している。

会員専用ページには病診連携をスムーズに行 えるよう、A会員と基幹病院医師のメールアド レス、電話番号等のリストを掲載している。

講演会の抄録、パワーポイントのデータ等の 資料を掲載し、会員の自己学習に寄与している。

現在も未だにWindows98が事務局内にて稼 動しているため、セキュリティーが確保できて いない。ペーパレス化を進めているがかなりの 費用を要するとのこと。

今後はセキュリティー対策について内部統制 の確立、理事者への稟議、回覧システム電子化 等が必要とのこと。

(6)愛知県医師会地域医療情報ネットワーク

愛知県医師会医療情報部 佐伯光義

平成7年10月に発足した、同ネットワークに ついて説明があった。現在会員の約32%である927名が加入。現在は愛媛情報スーパーハイウ ェイ(全県下の基幹病院と郡市区医師会、保健 所が専用線にて接続)に県医師会地域医療情報 ネットワークもつながっているとのこと。

愛媛県医師会では下記事業を中心に活動を行 っているとのこと

 医師会情報ネットワーク
 医療機関業務用ネットワーク
 県民への情報提供
 関連団体との連携
 情報収集

U.医師会事務局の情報化は進んでいるか
医師会事務局の情報化の実態と課題に関する中間調査報告

横山淳一 名古屋工業大学

会員に最も近い郡市区医師会事務局の情報化 を調査するにあたりその中間報告が述べられた。

会員数の調査では500名未満の医師会が80% を超えている。

情報化については大半が進めていく姿勢である。

情報化に対しては半数以上の役員が意欲的で あるとの回答が6割を超える。

その他事務局の平均年齢、情報化に関する課 の有無、情報化に関する職員の人数とその関 係、会員向け文書管理システムの提供状況、会 員情報システムの導入状況、日医に望むシステ ム、都道府県医師会に対する情報化の要望事項 が報告された。

その後、フロアからの指定発言並びにフリー ディスカッションが行われ、種々の意見交換が 行われ会を終了した。

3.事例報告

(1)「あじさいネット実働2年の実績と将来展 望 かかりつけ医を介した患者中心の医療情 報共有」

大村市医師会理事の田崎賢一先生より、「あ じさいネット実働2年の実績と将来と展望」と 題した講演が行われた。

あじさいネットは、長崎県県央地域を中心とした、大村市医師会、諫早医師会、国立長崎医 療センター、大村市立病院、長崎離島医療圏組 合の計5団体により、平成16年10月に実運用が 開始されている。当システムは、医療機関に保 存される医療情報を、他医療機関が診療目的に 参照することを目的としており、当システムを 活用することで、インフォームドコンセント・ 治療の継続性、実践的最新医療の習得、医療行 為の相互監視、禁忌・アレルギー情報の共有、 重複投与防止、検査・投薬等の重複防止等が図 られている。

運用開始から2年目の現時点で、大村市内の 2中核病院が医療情報の提供を行っており、市 内約半数にあたる34件の診療所・病院をはじ めとした県内51の医療機関がデータの共有を行 っており、累計3,000名の患者情報が登録され ている。

今後、検査センターや薬局との連携や、在宅 医療(介護・福祉領域)との連携が検討されて いる。

セキュリティはハードウエアVPNが採用され ている。

(2)「加古川地域保健医療情報システムからの 展望」

加古川市加古川郡医師会理事の小武道雄先 生より、「加古川地域保健医療情報システムか らの展望」と題した講演が行われた。

加古川地域では、昭和63年に通産省のニュ ーメディア・コミュニティー構想の認可を受 け、平成3年度に10医療機関のモデルシステム として医療情報システムが構築されている。運 用開始から15年目の現時点で、加古川地域全 医療機関(202機関)の6割にあたる122医療機 関がシステムに参画しており、同意によるシス テム登録者数も約7万人となっている。

平成18年3月には、基本OSの更新、ブロー ドバンド化とセキュリティを高めたHPKI準拠 の認証システム等の最新の環境を整え、また、 大容量非接触の新カインドカード(ICカード) への切り替えが行われている。ICカードには、 個人の氏名や血液型、検査・健診データ等の健 康情報が記録されており、病診連携及びプライ マリ・ケア(一次医療)充実の支援が図られて いる。

当システムの課題と展望として、各院独自シ ステムとの地域内データ連携、画像を含む紹 介、各機関の独自IT環境整備へのサポート、介 護保険対応・地域包括ネットワークへの発展、 全国的・国際的標準化への対応等が検討されて いる。

セキュリティはハードウエアVPNと認証局 の設置、HPKIシステムが導入されている。

(3)「伊都医師会「ゆめ病院」を活用した地域 医療情報共有システムについて−第2報」

和歌山県伊都医師会副会長の松浦良和先生 より、「伊都医師会「ゆめ病院」を活用した地 域医療情報共有システムについて」と題した講 演が行われた。

伊都医師会では、平成13 年4 月に「ゆめ病 院」構想が立ち上げられ、平成14年6月に実稼 働を開始、平成17年4月にネットワークをブロ ードバンド化し中核病院からCT/MR画像配 信を開始、平成18年7月には参加医療機関によ る会費運営に運用を切り替え、平成18年10月 にはゆめ病院システム構築を評価され総務大臣 表彰を受賞されている。

平成19年1月31日時点で、4病院、22診療所 の計26医療機関が当システムに参画しており、 登録患者数59,201名、血液検査数21,363件、画 像患者数702件の共有情報が登録されている。

ゆめ病院システムでは、患者の基本情報を診療 所が登録し、中核病院がCT/MR画像を登録、 検査会社が血液検査データの登録を行っている。 当システムを活用することで、患者の重複検査の 費用と時間の軽減、在宅患者情報を中核病院と情 報共有しスムーズな入院へ繋げること等、地域全 体の医療水準の向上が図られている。

また、ゆめ病院システムでは、1患者1番号の PID情報と医療情報のみがアップロードされ、個 人情報は各医療機関の端末PCに保管されている。必要な情報は端末PC上でPIDと照合される ため、インターネット上には個人情報が流れず、 情報漏洩の危険性が回避されている。当方式を 活用することで、VPN等の機器は必要なく、コ ストパフォーマンスに優れている。

(4)「長崎医療情報維新〜45万人都市を包括す る地域医療ネットワーク実現へ向けて〜」

長崎市医師会理事の平田恵三先生より、「長 崎医療情報維新〜45万人都市を包括する地域 医療ネットワーク実現へ向けて〜」と題した講 演が行われた。

長崎市医師会では、大村市を中心とする県央 地区の“あじさいネット”、また、長崎県北部、 長崎市内、諫早市内の病院でも電子カルテ導入 に伴う独自の地域両連携ネットワークを立ち上 げる動きがあることから、独自のネットワーク 化が進む前に、地域のニーズを捉えて45万人都 市を包括するような統一規格のネットワーク構 築「長崎医療情報維新」が検討されている。

長崎市医師会が、統一規格のネットワーク構 築に関する説明会を行ったところ、長崎市内50 病院中38病院の参加があり、地域医療ネット ワークの関心の高さが窺え、また、その後行わ れたアンケート調査においても37病院が統一規 格のネットワーク構築に賛同し、24病院からは データ公開の認識も示された。

2007年度末までには45万人都市を包括する 統一規格の地域医療ネットワーク構築が、長崎 市医師会主導で進めることが検討されている。

( 5 )「大腿骨頸部骨折連携パスのI T 化と Net4U」

鶴岡地区医師会副会長の三原一郎先生より、 「大腿骨頸部骨折連携パスのIT化とNet4U」と 題した講演が行われた。

鶴岡地区医師会では、2006年6月に医療連携 を推進すべく鶴岡地区地域連携パス研究会を創 設し、中核病院と2つのリハビリテーション病 院間での大腿骨頸部骨折連携パスの運用を開始 している。

当システムは、鶴岡地区で運用実績のある “Net4U”で利用しているインターネットVPN ネットワークを通信インフラとして利用し、ク ライアントソフトにはマイクロソフトの InfoPathを採用している。

今後、当システムを“Net4U”と連動させる ことで、地域全体でのチーム医療の推進が期待 されている。

(6)「札幌市医師会入退院サポートシステム」

札幌市医師会常務理事の松家治道先生より、 「札幌市医師会入退院サポートシステム」と題 した講演が行われた。

札幌市医師会では、札幌市における限られた 医療資源を有効に活用し、急性期病床から亜急 性期・回復期、そして療養病床・介護保険施設 という流れを効果的に作ること目的に、平成18 年5月より当システムが構築、運用されている。

当システムは、札幌市医師会のホームページ 内にある会員専用ページに開設されており、転 院元医療機関と転院先医療機関が患者情報を入 力し双方向からマッチングを行うシステムとな っている。マッチング結果をもとに、双方の担 当者同士が連絡を取り合い、患者情報を共有し ながら入退院に向けての準備が図られている。 また、当システムは“医療機関情報マップシス テム”と連動したシステムとなっており、転院 先医療機関情報を瞬時に取り出して患者等に渡 すことが可能となっている。

現在、当システムはベッドを有する医療機関 のサポート機能を中心に構築されているが、将 来的には、急性期から慢性期までの医療供給体 制の構築、並びに在宅患者にも対応できるシス テムへの拡充が検討されている。

(7)「診療支援ソフト“診療工房”の紹介」

富山市医師会理事の吉山泉先生より、「診療 支援ソフト“診療工房”の紹介」と題した講演 が行われた。

富山市医師会では、診療支援ソフト“診療工 房”を開発し、平成15年11月より会員向けに配布が行われている。平成18 年11月時点で、 富山市医師会会員を中心に富山県内の95医療 機関で使用されており、また福井市医師会、宮 崎県都城医師会でもシステム採用され、計180 余の医療機関で使用されている。

当ソフトは、検査ビューアーソフトと画像フ ァイリングソフト、紹介状等の医療連携補助機 能を持っており、診療支援ソフトとして単独で も使用できるし、電子カルテの検査データ及び 画像管理部分として使用することも可能となっ ている。

富山県下では、富山市医師会検査センターを 含む6つの検査センターで当ソフトが活用され ており、各検査センターから提供された検査デ ータは医師会サーバに転送され、医師会サーバ 内のプログラムによって自動的に送信用のフォ ーマットに変換されそのままメールサーバに送 信される。医師会サーバにはデータの蓄積は無 く情報漏洩の危険性が回避されている。

今後、当ソフトにおいて、過去のデータと現 在のデータをシームレスに一元管理できるよう なシステム構成が検討されている。

(8)「岐阜市における日本医師会認証局実証実 験について」

岐阜県医師会情報処理委員会委員の越野陽介 先生より、「岐阜市における日本医師会認証局実 証実験について」と題した講演が行われた。

岐阜市医師会では、日医が、電子カルテや電 子紹介状における会員医師の署名及び認証を行 うために構築した日医認証局(HPKIに準拠) の実証実験を2006年2月から3ヶ月間行ってい る。実証実験には診療所22施設、病院6施設の 計28医療機関が参加されている。

実証実験は、日医認証局医師電子署名サーバ へ必要ファイルをアップロードすると、タイムス タンプやICカード内のHPKI証明書に基づいて 署名が行われ、署名済みファイルはダウンロー ド後、日医から提供された署名確認用プラグイ ンを組み込んだAcrobat Readerで読み込み、医 師の署名を確認するという内容で行われている。

実証実験後に行ったアンケート調査では、送 信症例数85例の成功率は95.2%となっており、 回答した医師の91%は今回の電子紹介状を有 用であるとされている。

今後、介護保険主治医意見書や電子サマリー 等への対応、医師会イントラネット内への電子 署名システムの設置等について検討する必要が あると考えられている。

印象記

常任理事 大山 朝賢

EHR(Electronic Health Record)

EHRは耳慣れない言葉であるが、ヨーロッパやカナダでは日常茶飯事で、EMR(電子カルテ) と対峙している。EMRが同一経営組織内の医療情報であれば、HERは地域レベル、国レベルで の共有「医療情報」といえよう。特定健診・特定保健指導が平成20年から導入されるが、その地 域レベルでの共有「医療情報」システムはすでに先進国では確立され、米国を除く多くが国の社 会プログラムとして組み込んでいる。その先進国のいずれかの国のシステムをモデルとしてわが 国の共有「医療情報」システムは作られると思うが、医師会の関わり方や国の姿勢が気になると いうことをパネリストの発言やフロアからの質問にはっきりありました。

共有「医療情報」としての電子カルテ共有モデル事業は、数年前から各地で立ち上げられてい る。よそ目には華々しくかつ格好よくみえるが、実際には運用面での資金調達に難渋し、約半数 は休止状態に入っているという。しかし今回の発表では資金面で苦労しながらでも着実に成果を 挙げ、テリトリーを拡大しつつある所や、これからまさに立ち上げようとしているところの発表 が聞けて有意義であった。レセプトのオンライン化に各病院が向かっていく中で、本県でも電子 カルテ共有モデル事業は約1億円の資金があれば立ち上げられそうである。

今回の事務局情報担当セッションの報告を興味深く拝聴した。コンピューターの設備投資に資 金がいるが、節約もできる。事務局は設備投資の際、医師会長に節約面をもっとアピールすべき であると思った。

印象記

理事 今山 裕康

今回の協議会の第一印象は“担当理事あるいは関わっている人達だけが熱くなっている協議会” というものである。議論に参加している会員は非常な情熱を持っていることはヒシヒシと伝わっ てきた。しかし、EHR(Electronic Health Record)(今回初めて知った概念)、地域ネットワーク システム、情報ネットワーク作りなどIT化が必要な理由が、現在の日本の医療情報システムが欧 米に遅れているので、それに追いつかねばならないというものであり、“何かちがうのではないか?”と違和感を憶えるとともに寂しいやら恐いような不思議な感じがした。即ち、最も基本に あるべき事に関して、議論がつくされているかどうかが非常に曖昧のままに事業が展開(推進) されようとしているのではないかという疑問があり、討論の中で指摘する先生もいたが、今ひと つはっきりしなかった。このままでは患者からの視点、国民からの視点、医師あるいは医療機関 からの視点、行政からの視点といった議論に欠けているように思われ、さらに情報の提供、共有 にばかり目が行き、患者不在の情報共有化が進められようとしていることは、非常に危険ではな いかと考える。

IT化には、相手が見えず、ただ様々のデータだけが行き来し、しかも簡単に集積出来ることへ の無気味さを持っている。そういった意味で行政や医療機関側だけでなく、患者代表、住民代表 が参加した議論を尽くし、国民的合意のもとに行うべきである。医療情報のネットワーク構築の 問題は、IT化時代、流れに逆らうことの出来ないものかもしれないが、目的、方法論、費用負担 等の議論において、患者不在、国民不在の議論にならないようにしなければならない。そのよう な意味で、常にオープンな議論と情報公開の重要性を再認識するとともに、医師会として、国民 に向けた情報の提供に努力すべきであると思われる。

ところで、現時点で構築されようとしている医療情報ネットワークで最も考慮すべき点は、患 者と医療情報が乖離していることで、患者の知らないネットワーク内でデータだけが行き来し、 閲覧出来るということで、非常に危険な状況と考えられる。私の個人的意見ですが、現代の技術 で最も実現の可能性があるのは、患者自身に情報を常に持ち歩いてもらうことではないかと考え る。そうすれば、個人情報のこと、セキュリティーの問題、データの集積、管理の問題も、おの ずと解決出来るのではないかと思う。個人情報保護法、守秘義務等、個人のプライバシーを大切 にする時代にあって、IT化はそれに逆行するテクノロジーになり得ることを常に念頭に国民的合 意を得ることが最重要で、その決定プロセスを明らかにすることもまた重要と考える。