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医師確保に関する喫緊の対応
−平成18年度地域医療対策委員会中間報告−

大山朝賢

常任理事 大山 朝賢

日本医師会では平成18年8月、地域医療対策委員会を新設し第1回委員会を開 催しました。その会議で唐澤人日本医師会長より「地域医療体制の今後と医師 会の役割」との諮問を受けました。本会議ではこの諮問を踏まえて、喫緊の課題 である医師確保の問題について検討を重ね、平成19年2月までに5回の会合を日本 医師会館で行いました。未だ十分な議論をつくしていませんが、とりあえず中間 報告として纏められたのが「医師確保に関する喫緊の対応」です。今年の3月8日 に久野悟郎委員長(愛媛県医師会長)から唐澤医師会長に提出されました。委員 は16名で九州からは合馬紘北九州市小倉医師会長、地後井泰弘熊本県医師会副会 長と私の3名です。去った3月17日大分県での、九州ブロック日医代議員連絡会 議で本会の報告を私が致しました。代議員会での発表時間は20分でしたので全部 を言い尽くせませんでしたが、医師確保に対する国の姿勢と、わが国の医師数の 現状、とりわけ産婦人科の問題点について報告しました。

本誌では、中間報告書「医師確保に関する喫緊の対応」を次のとおり掲載します。

平成18年度 地域医療対策委員会中間報告書

「医師確保に関する喫緊の対応」

平成19年3月
日本医師会地域医療対策委員会

はじめに

地域医療対策委員会は今年度、平成18年度 から日本医師会の常設の会内委員会として発足 した。本委員会が設置された背景には、少子高 齢化を迎えたわが国にとって、地域医療のあり 方、とりわけ地域医療連携の重要性がにわかに 増してきたことにあると理解している。そし て、現在、地域医療提供体制に看過しえない状 況が発生している。それは、医師確保の問題で ある。特定の地域や病院において医師不足が叫ばれ、さらには産科医、小児科医の不足が喫緊 の問題となっている。

これらの状況から判断して、唐澤人会長よ りいただいた諮問「地域医療提供体制の今後と 医師会の役割」の答申を委員会として検討する 過程において、医師確保の問題については取り 分け重要な問題と捉え、平成18年度中に中間 報告書を作成することにした。

かねてより、医師の需給に関する将来見通し では医師数の過剰を視野に入れ、医学部定員の削減に取り組んできた経緯がある。しかし、少 子高齢化社会が進行するなかで、医師数全体と いうマクロ的な問題とは別に、医師偏在という ミクロ的な産科医、小児科医不足が発生し、社 会問題化した。さらには、病院における勤務医 不足が病院における医療提供と医業経営を厳し いものにしている事実がある。また、郡部、へ き地、離島などにおける医師不足もさらに深刻 さを増している。国民の権利として「どのよう な地域でも公平で平等な医療が受けられる」こ とを前提とするならば、これらの問題は国の医 療体制の根幹を揺るがす問題として、国、地方 行政、医療関係者、国民が連携して解決してい かなければならない。

本委員会はこの中間報告をまとめるにあたっ て、国民・患者の利益を最優先とし、国民・患 者の視点に立つことを基本とした。そして、特 定の診療科、病院、地域における医師不足につ いて、これまでの経緯、現状、原因、国の対応 などを踏まえて、医師として、医師会として実 行し得る現実的な医師確保対策を検討した。こ の中間報告書が日本医師会の医師確保対策の施 策に貢献し得るものとなれば幸いである。

第T章 医師需給問題のこれまで

1.平成10年までの対策(国を中心に)

医師の需給に関しては、これまで厚生労働省 (以下「厚労省」と称する)の検討においても昭 和61年、平成6年、平成10年と報告書が提出さ れているが、その内容はいずれも将来的には医 師数が過剰になることを予測するものであった。

医師需給に関するこれまでの経緯

昭和45年 「最小限必要な医師数を人口10万 人対150人とし、昭和60年を目途に 充たそうとすれば、当面ここ4〜5年 のうちに医科大学の入学定員を1,700 人程度増加させ、約6,000人に引き上 げる必要がある」との見解が明らか にされた。

昭和48 年 「無医大県解消構想」いわゆる「一県一医科大学」設置を推進

昭和58年 「人口10万人対150人」の目標医師数の達成

昭和61年 「将来の医師需給に関する検討委員 会最終意見」において、「当面、昭和 70年(1995年)を目途として医師の 新規参入を最小限10%程度削減する 必要がある。」との見解が示された。

平成5年 医学部入学定員が7,725人となった (昭和61年からの削減率7.7%)。

平成6年 「医師需給の見直し等に関する検討 委員会意見」において、「昭和61年に 佐々木委員会が最終意見で要望し、 大学関係者も昭和62年に合意した、 医学部の入学定員の10%削減が達成 できるよう、公立大学医学部をはじ め大学関係者の最大限の努力を希望 する。」との見解が出された。

平成9年 「医療提供体制について、大学医学 部の整理・合理化も視野に入れつつ、 引き続き、医学部定員の削減に取り 組む。」旨が閣議決定された。

平成10年 医学部入学定員7,705人(昭和61年 からの削減率7.8%)。 「医師の需給に関する検討会報告書」 において「新規参入医師の削減を進 めることを提言する。」との見解が示 された。

注)厚労省平成17年2月25日開催第1回「医師 の需給に関する検討会」資料より引用

これらの検討会の結論は医師数全体というマ クロ的視点から出されているもので、ミクロ的 な視点として、医師の偏在問題なども指摘され てはいるものの、具体的なへき地・離島に関す る問題や診療科対策への提言が十分であるとは 言い難い。

また、平成9年6月3日には「医療提供体制に ついて、大学医学部の整理・合理化も視野に入 れつつ、引き続き、医学部定員の削減に取り組 む。」との閣議決定がされているとおり、医師の 需給問題に関する施策は、全体として医師数が将来過剰になるという予測を基に行われてきた。

あらゆる地域の国民へより公平で、より平等 な医療提供を可能にすることを原則とするなら ば、医師需給の問題はマクロ的視点からのみで はなく、へき地における医師確保や診療科毎の バランスの取れた医師の配置などミクロ的な視 点も不可欠である。へき地や特定の地域におけ る恒常的な医師不足は勿論、ここ数年、指摘さ れてきた小児科医、産科医の不足問題はミクロ 的な視点からの政策が不十分であった結果とい える。それは医療を取り巻く環境の変化、すな わち人口構造の変化による少子高齢化社会の出 現と、それによる疾病構造の変化を十分に理 解・把握できていなかった所以である。

2.平成15年における対策

このような状況のなか、へき地の医師確保の 困難性、医師の名義貸しなどが社会問題化し、 厚労省、文部科学省、総務省の三省合同の横の 繋がりとして、国はへき地における医療提供体 制の確保を目的に平成15年11月「地域医療に 関する関係省庁連絡会議」を設置した。

3.平成16年における対策

平成16年2月26日、「へき地を含む地域にお ける医師確保等の推進について」が取りまとめ られたことにより、国が医師偏在の解消へ向け て、事実上、本格的に取り組むことになった。 その中において「医師の養成・就業の実態、地 域や診療科による偏在等を総合的に勘案し、平 成17年度中を目途に医師の需給見通しの見直 しを行う。」として、地域や診療科による偏在 を俎上に上げた。

4.平成17年における対策

1)平成17年2月25日

これを受け、将来的には供給医師数が必要医 師数を上回るものの、特定の地域、特定の診療 科、特定の時間帯における医師の不足感が強いとして、「医師の需給に関する検討会」が設置 され、第1回検討会を開催した。

2)平成17年7月27日

「医師の需給に関する検討会」は「医師の需 給に関する検討会中間報告書」を取りまとめ、 公表するに至った。中間報告では、「医師の偏 在による特定の地域と診療科における医師不足 は深刻な問題となっており、喫緊に対応すべき である。」としている。その当面の対策として、

医師不足地域の医師確保策は、

  • i .地方勤務への動機付け
  • ii .地方勤務への阻害要因の軽減・除去
  • iii.医学部定員の地域枠の拡大
  • iv.医師の業務の効率化

などを挙げている。

また、医師が不足している特定診療科の医師

確保策は、

  • i .診療報酬による誘導
  • ii .地域の連携・協力体制の構築
  • iii.医療資源の集約化の推進

などを挙げている。

3)平成17年8月11日

地域医療に関する関係省庁連絡会議は「医師 確保総合対策」を打ち出した。これは、将来的 には医師過剰になる見通しであるものの、医師 の偏在による特定地域や小児科、産科等の診療 科における医師不足が、深刻な問題になってい るとの現状認識を示したうえで、前述の「医師 の需給に関する検討会中間報告書」と「へき地 保健医療対策検討会報告書」(平成17年7月27 日)の両報告書を踏まえ、緊急策として打ち出 し、平成18年度予算や国会提出の医療制度改 革案に盛り込み、具体化を図るとされた。

その対策の概要は「医師確保総合対策の事項 一覧」に示すとおりで、医療対策協議会の制度 化、集約化・重点化の推進、医学部定員の地域 枠の拡大、女性医師バンク(仮称)事業の創設 などがその特徴である。

【医師確保総合対策の事項一覧】

(1)地域の実情に応じた具体的な取組の推進

○医療対策協議会の制度化

(2)医療計画制度の見直しを通じた医療連携体制の構築等

○医療計画による実効性ある地域医療の確保・医療連携体制の構築

○医療資源の集約化・重点化の推進と地域内協力体制の整備

(3)へき地医療や小児救急医療等に対する関係者の責務の明確化と積極的評価

(4)養成・研修過程における医師確保対策

○医学部定員の地域枠の拡大(地域による奨学金の有効活用)、自治医大の定員枠の見直し等

(5)へき地医療等に対する支援策の強化

○へき地医療支援機構の診療支援機能の向上(代診医の派遣等)

○都道府県による医師派遣

○情報通信技術(IT)による診療支援等

(6)診療報酬における適切な評価

(7)需給調整機能の強化と働き方の多様化への対応

○マッチングの推進、仕事と育児を両立できる就労環境の整備

○女性医師バンク(仮称)事業の創設等

(8)医師の業務の効率化

○医療関係職種や事務職員との役割分担と連携等

(9)その他

○へき地等における人員配置標準の特例等

5.平成18年における対策

1)平成18年7月28日

「医師の需給に関する検討会」は平成17年2 月に検討を開始して以来、途中同年7月に中間 報告を取りまとめ、都合15回の会議を経て平 成18年7月28日に報告書を公表した。

報告書はマクロ的視点の将来の医師需給見通 しを前提に、医師の厳しい職場環境、偏在等を 踏まえた当面の対策についても提言している。 とりわけ、病院勤務医の勤務環境の改善、病院 と診療所の役割・関係の整理などによらねば、 全体としての医師数は充足するとしても、国民 の求める質の高い医療を安定的に提供すること は困難としている。

平成34年(2022年)の医師需給の均衡は別 として、今後の対応の基本的考え方として、

  • i .地域に必要な医師の確保と調整
  • ii .地域の中核的な医療を担う病院の位置付け
  • iii.病院への持続的勤務を可能とする環境の構築
  • iv.病院の入院機能特化等による生産性の向上
  • v .診療所の外来機能強化による病院への負担軽減
  • vi.専門診療と診療科・領域別の医師養成の在り方の検討
  • vii.医学部定員の暫定的な調整

などの施策を提言している。

2)平成18年8月31日

「地域医療に関する関係省庁連絡会議」は平 成18年8月31日に第10回会議を開催し、地域 間、診療科間あるいは病院・診療所間における 医師の偏在問題に取り組むための「新医師確保 総合対策」を取りまとめた。

その対策は「新医師確保総合対策のポイン ト」にあるとおり、短期的・長期的対応に分け られ、とりわけ短期的対応については平成19年 度予算の概算要求への案件となっている。

【新医師確保総合対策のポイント】

【短期的対応】

平成19年度概算要求への反映

○医局に代わって、都道府県が中心となった医師派遣体制の構築

○国レベルでの病院関係者からなる中央会議設置により都道府県の医師派遣などの取り組みをサポート

○小児救急電話相談事業(短縮ダイヤル「#8000」)の普及と充実
 →軽症患者の不安解消・病院への集中緩和

○小児科・産科をはじめ急性期の医療チームで担う拠点病院づくり
 →集約化・重点化を都道府県中心に推進

○開業医の役割の明確化と評価
 →軽症患者の不安解消・病院への集中緩和

○分娩時に医療事故に遭った患者に対する救済制度の検討
 →無過失責任保険の創設

【長期的対応】

○医学部卒業生の地域定着
 →地域枠への奨学金の積極的活用
 →医師不足深刻県における暫定的な定員増
 →医師不足の都道府県への自治医科大学の暫定的な定員増

第U章 日本医師会の対応

1.日本医師会の医師確保対策

「医師の需給に関する検討会」が平成18年7 月28日に報告書を提出したのを受けて、「地域 医療に関する関係省庁連絡会議」が平成18年8 月31日に「新医師確保総合対策」を取りまと めたのは前述のとおりである。日本医師会はこ れら関係省庁による医師確保対策とは別に、日 本医師会ゆえに実施可能な対策を独自に取るべ きとして、平成18年10月17日に「日本医師会 による医師確保に関する見解」を公表し、その 実行に向けて行動を起こしている。

この日本医師会の医師確保に関する対策は、 本委員会とは別に日本医師会として検討されて いるものであるが、本委員会の医師確保に関す る提案にとっても重要な位置付けになるため、 この章において紹介する。


日本医師会による医師確保に関する見解

日本医師会
平成18年10月17日

このたび日本医師会では、喫緊の課題である 医師確保問題への対策をまとめました。

医師偏在・不足の原因は、国による永年にわ たる医療費抑制政策の結果です。

日本医師会として取り組む対策で主なもの は、下記のとおりです。また、現在作成してい る「医療と介護のグランドデザイン」(仮題) でも、中長期的な視点に立った医師偏在を取り 上げる予定です。

今後、これらの対策をはじめ、様々な取組み や提言を行って問題解決にあたる所存です。

T.コンセプト

・安全で良質な医療を平等に提供する体制の確保:へき地医療の確保

・勤務医の確保:特に外科系を中心とした救急医療の確保

・かかりつけ医機能の充実:診療所と病院との機能分化と連携

・医師会活動の強化:地域医療の充実、安定した医療提供体制

U.主な対策(日本医師会として取り組むもの)

■ドクターバンクのネットワーク化

・医師の就職の情報提供および斡旋を目的とした無料紹介制度

・経験豊富で意識の高いベテラン勤務医の活用 (定年退職後の再就職等)

・各医師会のドクターバンク間の連携

・全国的なネットワーク

■女性医師バンクの創設、実施

・今年度の女性医師バンクを中心とした厚生労 働省「医師再就業支援事業」の受託に向け、 現在最終調整中。

・すでに職業紹介事業の許可申請をしており、 本年度中の事業開始を目指しているところ。

■ 地域医療のデータベース化

・各地域の医療需要・供給の把握、全国的な調 査・把握、需給・偏在の将来予測

・勤務医の就労環境、勤務時間・内容の把握、 臨床研修やいわゆる後期研修の現況

・住民・患者の意識、受療行動

・好事例・問題事例の汲み上げ、紹介システム (地域医師会→日医→地域医師会)


注)上記は、平成18年10月17日に日本医師会の定例 記者会見において公表した資料からの引用である。

2.日本医師会の対策への委員会の見解

特定地域と診療科の医師の偏在を生む結果と なった原因は、「第T章医師需給問題のこれま で」にあるとおり、国が医師の需給をマクロ的 視点に重点を置き、しかも、需要が供給を生む として、医療費抑制重視の観点で医師の需給問 題に対峙してきたことは否定しがたい事実であ る。そこで、日本医師会は平成18年8月10日地 域医療対策委員会を設置し、特定地域と診療科 における医師不足の検討を委ね、本件に関する 委員会の意見を聴取しつつ、前記のとおり、こ の喫緊の課題である医師確保策について日本医師会としての見解を公表したものである。

国はバブル経済崩壊以来、従来にも増して、 財政的見地のみから国民医療費の圧縮を図って きた。これは2年毎の医療費改定の推移を見れ ば一目瞭然である。日本医師会が、医師偏在・ 不足の原因を、「国による永年にわたる医療費 抑制政策の結果」と断じたことは当然のことと いえる。したがって、平成18年10月17日に日 本医師会が独自に取り組む対策として公表した 「日本医師会による医師確保に関する見解」を 本委員会は支持するとともに、積極的にその対 策に協力するものである。

また、日本医師会の対策は日本医師会として の立場で行い得るものである。そこで、「第V 章委員会の提言」では本委員会としての立場 からの意見、提言等を行うものである。

第V章 委員会の提言

現在起こっている医師確保の問題は、主とし て、医師の偏在と捉える。確かに、特定の医療 機関や診療科の局面においては医師不足と表現 できるが、この問題を総合的に捉えた時、やは り、偏在と捉えることが適切と考える。また、 ただ単に医師数を増やすことが医師確保の問題 解決とはなり得ないことも事実である。

現在の医師不足・地域偏在・科の偏在といっ ても各都道府県によって事情は異なっており、 又各都道府県内においても二次医療圏毎に大き なバラつきがあるが、勤務医の問題が主たるも のである。今後は医師会、行政、大学、公的医 療機関、地域の医療機関が入った都道府県医療 対策協議会が中心となり、都道府県単位、又は 二次医療圏単位で医師派遣体制を構築して行く ことになると思われるので、医師会もこれに積 極的に関与して行く必要がある。国においても 地域医療支援中央会議が設置され、医師確保に 関する国や都道府県等における取り組みを論議 することになっている。

女性医師の増加傾向は今後も続くとみられ る。女性医師は結婚、出産、子育てを機に離職 することが多く、再就業のための教育システム、離職防止のための託児所の設置、延長保 育、病児保育等の受け皿づくりが緊急の課題で ある。

その他、患者の過度の専門医志向の是正の啓 発活動、各地の事情に応じて病院をオープン化 し開業医師を活用して行くこと等が、一般的事 項として進めなければならないと考える。

以下、委員会で議論された個別の項目につい て述べる。

ア)研修医の地域偏在

新たな臨床研修制度の発足は、各地における 医師供給体制を根底から変える引き金となっ た。新卒の医師は、大学以外に臨床研修の場を 求める傾向が強くなっており、一部の大学を除 いて大学病院においては若手医師が減少し、地 域の医師供給要請に応じることが困難な状態に なっている。

その結果、地方の中小都市の病院では「医師 不足」が深刻化し、病院機能を縮小せざるを得 ない状況も出て来ている。この傾向は、都道府 県庁所在地以外の二次医療圏において、より顕 著となっている。

また、新たな臨床研修制度は、地方から都会 へ研修医を集中させる結果となったとの意見も ある。その一つの要因は、卒業生の数に対して 30%増しとなっている研修病院のポストの数に あるといわれている。

そこで卒業生の数と研修病院のポスト数を同 じとし、さらに二次医療圏毎に人口や医師の過 疎程度等を加味して地域枠を設定し配分すれば、 研修医の地域偏在は解消されるものと思われる。 その際には、研修プログラム、指導医等の研修 病院の指定要件を厳格に設定する必要がある。

イ)各大学の地域定着の推進

既に各地で行われている卒後の地域定着を条 件とした奨学金制度(奨学金制度には功罪ある が、それについて議論の余地がある)、あるい は医学部入学時の地域枠の拡大の拡充について は、今後とも継続して実施されるべきである。また、地域枠において、目的意識がはっきりし ており定着率が高いといわれている学士入学 (社会人入学)枠の拡大を考えるべきである。

ウ)ドクターバンクの効果的な運営

今後は、ドクターバンクの効果的な運営が一 層重要である。

ドクターバンクはこれまで多くの県で設置、 運営されてきたが、マッチングについては大き な成果を上げてきたとは言い難い。ドクターバ ンクは医師の職業的特異性からみても他職種か らは判断困難な点が多いと思われるので、医師 会を中心に運営すべきである。

その効率的運営のためには、単に需給に任せ るのではなく、担当理事が域内の事情を聴取し 積極的にマッチングに動くべきである。

また日医は、各県のドクターバンクをネット ワーク化し、ドクターバンク間の連携を促進す るシステムを構築すべきである。特に、女性医 師、シルバードクターの再就業をお願いし、積 極的に活用する必要がある。

エ)診療科の偏在対策

国は、産科・小児科の集約化・重点化の検討 を進めるよう都道府県に強く働きかけている。 当面、産科、小児科については二次医療圏単位 での集約化・重点化を考えることは止むを得な い。しかし、集約化・重点化に対する捉え方 は、地域の事情によって異なるものである。集 約化・重点化を検討することで地域の現状とあ るべき姿を再認識し、関係者が共通の認識を持 つことは重要であるが、机上の空論でない実効 性を伴う方向を導き出すことは容易ではない。

小児科については短期的視点に立てば、従た る標榜として小児科を掲げた開業医師の研修事 業も地域によっては有効である。同時に患者の 過度の専門医志向を是正する啓発活動も重要で ある。小児救急電話相談事業(#8000)にも 地域の事情に応じて積極的に協力することが必 要である。

また、今後医師を志す者に対しては、医学部卒前卒後教育の中で医師としての使命感を養わ せるとともに、各科の魅力、社会的重要性につ いて涵養することが重要である。さらに、卒後 の地域定着を条件とした奨学金返還の免除も考 慮に入れるべきである。

オ)病院のオープン化対策

医師確保対策として、現在ある医療資源を有 効に活用していくことは重要で、医療機関の連 携、地域医療における病院と診療所の連携、と りわけ病院のオープン化は必要不可欠である。 病院のオープン化による医療機関連携体制の構 築を地域における医師確保のひとつの方策と位 置づけて、地域医師会が音頭をとって二次医療 圏単位で主要病院のオープン化の検討をすすめ ていくべきである。

また、医師会共同利用施設のひとつである医 師会病院については、これまで地域医療の活動 の拠点として、かかりつけ医と連携しつつ地域 の医療に貢献してきたことは異論のないところ である。医師会病院が地域の実情に即した医療 連携の様々な形態を模索し、公的病院やその他 の民間病院に対する病院オープン化のモデルと なることは有益なことである。

カ)地域住民・患者との相互理解

医師会が医師確保対策を推進するにあたって は、地域の住民・患者に現在の医師偏在の問題 に理解を求めることが必要である。地域住民・患 者に率先して医療の抱える問題を自らのものとし て捉えてもらうことにより、各地域が直面してい る産科医療、小児医療、医療全般の問題などへ の対策が効果を上げていくものと思われる。

これは従来から各医師会が日頃の活動の中で 取り組んできていることであるが、今後の医師 会活動においては、対住民施策として重要な位 置を占めるものと考える。

キ)医師不足地域対策

医学部卒業後の新医師臨床研修制度の研修終 了後の一定期間内に、へき地や医師不足地域で の勤務の義務化を考慮する。

以上のような議論が成された。

本委員会は医師不足・偏在問題に関して議論 し、この答申をまとめたが、過去からの経緯が 生んだ現状に対して、限られた時間内で即効性 のある解決策は見出せなかった。

今後、本委員会としては、病院のオープン 化、女性医師をめぐる諸問題、地域医療連携ク リティカルパス等の問題についても検討し、そ の中で医師偏在の対策も継続して議論していく 予定である。

なお、次章「おわりに」において、この問題 に対する率直な意見を述べて本報告書を終える。 日医執行部におかれては本報告書を参考とされ、 今後の活動に反映されることを希望する。

おわりに

この中間報告により、我々は医師の確保問題 に対する処方せんを提示したが、それには緩や かな効果はあったとしても、現実的に考えれば この問題に対する即効的効果のある特効薬とは なりえないことは認識している。そして、対策 が机上における計画通りに動くことなどは稀で あることも覚悟している。これらの対策を実施 するに当たっては、医師や行政などの供給者側 の視点からではなく、あくまでも患者という需 要者側の視点から安全で良質な医療を確保する という姿勢が重要で、試行錯誤を恐れずに、地 道に進めていかなければならない。

われわれが忘れてはならないのは、形あるも のを一度壊してしまうと、それを元に戻すのは 容易ではないということである。その端的な例 が英国の医療制度といえる。サッチャー政権下 による医療費抑制策がブレア政権下では深刻な 問題を生ぜしめ、ブレア政権が急遽政策転換を して医療への多額の予算投入を図っているが、 一旦壊れた医療供給体制は簡単には元に戻らな いのが実情のようである。

現在の医師の確保問題を放置すれば、日本の 医療提供体制が崩壊に向かうことは誰もが疑い を持たないものである。何はともあれ、国、都 道府県、市区町村、大学、医師会、病院団体な どの関係者が都市と地方、また、都市部と郊 外、地方都市と郡部などのそれぞれの事情や地 域性を考慮に入れて、当事者意識を共有しなが ら十分な連携を図りつつ、施策の実行に取り組 むことが重要である。さらに、国民にも医療を 自らの問題として捉え、自らの責任で国民皆保 険制度を守ることを働きかける必要がある。

そして、地域医療対策委員会の中間報告書と して医師確保対策をまとめつつ素直に思うこと は、現在、我々が目の当りにしている医師偏在 という事象は過去の結果ということである。す なわち、厚労省による永きに渡る過去の政策の 積み重ねとして現れた結果を、今、われわれは 見ているに過ぎないのである。関係者がこのこ とに対する認識を十分に持ち、さらに反省しな い限りは問題の根本的な解決は見出せないであ ろう。われわれ地域医療対策委員会委員は何よ りも先に、医療を守り、国民・患者に貢献する ことを念頭に置いているのであって、厚労省の 過去の施策が誤りであったと責めているのでは ない。

これらの問題の本質は何処にあるのか。それ は、事象として現れる各問題への対策や戦術は あっても、問題解決を総合的に図る戦略がない ことにあると思われる。厚労省には数多くの検 討会、研究会があり、その検討会、研究会の報 告を基礎として各問題に対する解決策を練って いる。しかし、細分化されたテーマごとに検討 会、研究会を設置して、寄木細工のような施策 を行っても、現在の複雑な社会に対応しきれる はずもない。細分化されたテーマを個々に掘り 下げて検討する必要はあるが、それを有機的に 結び付ける機能、核となる組織も必要なことを 忘れてはならない。

場当り的な問題解決あるいは、時間とともに 形を変えた問題が発生するといったいたちごっ こを避けるためにも、全体を統括する司令部・ 司令塔が必要なことは否定しがたい。この必要 性を認識し、この設置を早急に行わない限り、 医師の確保問題も他の重要問題も根本的な解決 は望むべくもない。