独立行政法人 国立病院機構沖縄病院
院長 石川 清司
本シンポジウムは、研究者向けと一般市民向 けの公開講座から構成されています。昨年度に 引き続き指定討論者に指命されましたので、上 記シンポジウムの概要を紹介しますとともに、 沖縄県における「がん診療連携拠点病院」のあ り方について私見を述べます。
平成19年1月13日(土曜日)、国立がんセン ター、国際研究交流会館の国際会議場を主会場 とし、全国北は北海道がんセンター、南は九州 がんセンターの他、合計15施設をテレビ会議中 継施設として結んで討論が行われました。筆者 は、東京の主会場に参加しました。
シンポジウム8題の内容は、下記の主題で示 されています。
(1)がん対策基本法と今後のがん対策について
(2)諸外国におけるがん対策の状況とその成果
(3)がん診療連携拠点病院に求められるがんの治療及び緩和医療体制
(4)がん対策情報センターにおける情報提供機能
(5)がん診療連携拠点病院に求められる相談支援センター体制
(6)がん診療連携拠点病院における院内がん登録
(7)がん医療均てん化を目指した医療従事者の育成
(8)がん診療支援体制の強化:病理診断を中心に市民公開講座は、「正しいがん情報の提供とその利用」となっています。
国は、「がん対策推進基本計画」を策定し、 それを基に都道府県は地域の特性を踏まえて、 「都道府県がん対策推進計画」を策定すること になっています。本国会において推進計画が承 認されますと、平成19年度中には都道府県の 計画が立案される運びとなります。
基本的な施策として、1)がんの予防および早 期発見の推進、2)がん医療の均てん化の促進、 3)研究の推進を総合的、かつ計画的に推進する こととされています。都道府県は、従来の生活 習慣病対策等の諸施策との関連、整合性を考 慮、地域の疾病構造、地域医療計画等を勘案 し、その地域に適した「がん対策」を策定する ことが求められています。
とかく行政は、その形、枠組みを組むことの みに奔走しがちですが、「がん対策推進基本計 画」の目的は、1)がんの罹患率と死亡率を減少 させることと、2)がん患者とその家族のQOL の向上を達成することにあり、その実現のため の施策こそが求められるものです。予防から、 検診、診断、治療、終末期ケアに到る総合的対 策を、科学的根拠に基づいて効率よく実施する ことが求められています。
1990年代以降、諸外国では国レベルでのが ん対策を系統的に行うことにより、年齢調整全 がん死亡率は減少に転じていると評価されてい ます。日本においては、急速な人口の高齢化の 影響により、粗全がん死亡率は増加の一途をた どっていることが指摘されています。がん対策 は予防(主として禁煙)、検診(早期発見)、治 療(臨床と研究)の3 分野で数値目標を設定 し、総合的な施策が要求されます。
「がん診療連携拠点病院」に対する考え方 は、各々の地方自治体の置かれた状況により異 なります。県立がんセンター的な施設が既に存 在する県においては、当然のこととしてがんセ ンターが中心的役割を担うことになります。大 学病院ががんの診療と研究に指導的役割を果た している地域においては、やはり大学病院を中 核に、他施設との連携が構築されています。
がん診療連携拠点病院の役割は、全国レベル の診療水準の維持と医療情報の提供(患者・医 療従事者・連携拠点施設)、臨床試験等の推進 があり、院内がん登録とその解析は基本的な事 項として実施されなければなりません。
がん医療均てん化を目指した医療従事者の育 成の問題は大きな課題です。多くの公的医療機 関が医師の確保に苦労を強いられている現状に あり、加えて看護師配置基準における7対1看 護の設定は、緩和医療等の在宅誘導に大きな障 壁となってきております。臨床腫瘍内科医師、 専門医の養成は急務です。大学のカリキュラム の問題から、卒後研修、後期臨床研修、大学院 における位置づけ等多角的な養成体制の確立が 必要とされます。医師、看護師のみならず、が ん専門薬剤師、放射線技師、心理療法士、治験 担当者の育成等多岐にわたるスタッフの育成が 必要となります。
厚生労働省から示された施設基準の問題点 は、「何でもありき」といった施設が選ばれる 仕組みになっています。「集中治療室」「無菌 室」の有無等の条件もその一つです。血液疾患 においては必要ですが、現在の固形癌の治療に おいては、集中治療室や無菌室を必要とするよ うな化学療法は、治療関連死亡を極端に高くす るものです。QOLを考慮した集学的治療が求 められているのが現状です。緩和医療において は、緩和ケア病棟の併設が無視され評価の対象 とされず、緩和ケアチームの構成のみが選択条 件となっています。在宅誘導への考え方が背後にありますが、緩和ケアの質を維持するために は、高度の緩和医療と在宅医療との連携が必要 となります。
平均在院日数の短縮の問題は、がん治療の現 場においては、今後とも手かせ足かせとなるも のと考えられます。精神的ケアが強調されるに もかかわらず、きめの細かい医療の展開が困難 になる状況にあります。
基本的には、大学病院、国立病院機構、県立 病院、市立病院、そして民間病院の機能分担と 連携をめざすべきだと考えます。沖縄県は、政 策として県立病院に「県立がんセンター」とし ての機能を付与する計画があれば、おのずと施 設間連携の枠組みは設定されるものと考えま す。県立がんセンターとしての体制整備を推進 するか、施設間の機能分担を推進するかが基本 姿勢として問われます。
大学病院は連携の枠組みに参画すべきだと考 えます。がん対策においては、研究機能は大切 な要因です。大規模な、統一した基準での臨床 研究なくしては医学の進歩はなく、地道な基礎 研究も大切な分野です。がんの克服には、基 礎・臨床研究に裏打ちされた診療の質の担保が 将来を占うものと考えます。
他の都道府県とは異なり、沖縄県は比較的閉 ざされた一つの医療圏です。ある水準での、地 域完結型の医療の展開にならざるを得ないもの と考えられます。そのような地域医療の枠組み においては、各施設の機能分担は重要な位置づ けになるものと考えます。がんの診療には、大 型医療機器の設置を伴うため、膨大な予算が必 要であり、多くの分野の人材が投入されます。
ある程度、治療法の確立された「がん」の診 療においては均てん化を促進すべきですが、血 液疾患、一部の消化器がん、肺がん等、治療法 がいまだ確立されておらず、未解決の分野を多 く抱える診療分野においては今しばらく拠点化 による症例の蓄積が必要と考えます。「何でもありき」の姿勢では、進歩するがん治療を先駆 的に導入することは不可能であり、全国に発信 できる臨床データの蓄積、研究にも遅れをとる ものと考えます。
がん対策として、予防、検診、診断において は足並みをそろえた地道な運動の展開とがん医 療の均てん化が必要です。治療、研究面におい ては、離島県である沖縄県は大学病院を含め て、診療機能の分担でもって総合的ながん対策 を推進すべきだと考えます。広島県等、いくつ かの都道府県は施設間の機能分担を基本指針に 据えております。
長寿県沖縄の再現には、沖縄県福祉保健部、 県医師会も明確ながん対策のビジョンを描くべ き時期だと考えます。
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