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熱性痙攣への対処

島袋智志

沖縄県立南部医療センター・こども医療センター小児科
島袋 智志

【はじめに】

熱性痙攣は小児科領域ではよく遭遇する疾患 であり、多くは短時間でおさまり、反復したと しても約9割の児は2回以下の反復にとどまる。 しかし中には重積する例や頻回再発例等、対応 に苦慮する場合もある。

【初期対応】

発作持続時の救急処置として、「熱性けいれ んの指導ガイドライン」(後述)では1)呼吸・ 循環の維持、2)迅速かつ強力なけいれん抑制処 置、3)高熱に対する処置、4)原因の検索、の4 つを挙げている。救急室受診時になお痙攣が持 続している場合は迅速な対応が要求され、その 際は呼吸循環動態の変化に備えて充分な準備が 必要である。また重積状態を見逃すと脳障害に つながる可能性もあるのでけいれんの抑制は強 力に行い、頓挫の有無を念入りに確認する必要 がある。また脳炎・髄膜炎等の鑑別が重要であ るが特に乳幼児では意識レベルや項部硬直の判 断も困難なことが多く、非典型的な発作や乳児 の初回痙攣等には注意が必要である。1歳未満 では熱性痙攣は少ないことを頭に入れ、慎重な 対応が望まれる。熱性痙攣と判断しても即帰宅 とはせずにしばらくは経過観察が望ましい。経 過観察中に気になる所見があれば迷わず髄液検 査や画像検査を行う。また検査を行わないと決 めたらなおのこと一層慎重な経過観察が必要で ある。

【分類】

熱性痙攣は、Nelsonの分類によれば1)単純 型2)複雑型に分けられ、1)持続時間が15分 以上、2)焦点性発作、3)24時間で2回以上繰 り返す、のいずれかを満たすものを複雑型と し、それ以外を単純型としている。本邦では熱 性痙攣懇話会が1996年に熱性痙攣の指導ガイ ドライン改訂版(以下ガイドライン)を発表し ている。このガイドラインでは単純型や複雑型 という用語は用いられていないが同ガイドライ ンに示されている要注意因子(表1)の中の1、 2)「非定型発作」が上記の複雑型に相当する。

表1.要注意因子(文献1)

1.てんかん発症に関する要注意因子

  • 1)熱性痙攣発症前の明らかな神経学的異常 もしくは発達遅滞
  • 2)非定型発作( i :部分発作、ii:発作の 持続が15〜20分以上、iii:24時間以内 の繰り返し、のいずれか1つ以上)
  • 3)両親・同胞におけるてんかんの家族歴
     *7歳までにてんかんを発症する確率は、上記の因子がない場合(熱性痙攣患児 全体の60%が該当)で1%、1因子のみ陽性(34%)で2%、2〜3因子陽性 (6%)で10%である。

2.熱性痙攣再発に関する要注意因子

  • 1)1歳未満の熱性痙攣発症
  • 2)両親又は片親の熱性痙攣の既往
     *いずれも熱性痙攣の再発率は約50 % に達する。
【再発予防について】

米国小児科学会の勧告(1999年)では、単 純型熱性痙攣はほとんどが予後良好であるこ と、またバルプロ酸等の持続内服や発熱時のジ アゼパム(以下DZP)投与は再発予防に一定の 有効性はあるが治療の功罪の観点からは単純型 熱性痙攣(発作を繰り返したとしても)には勧 めないとしている。但し複雑型熱性痙攣への対 応は言及されていない。また両親の不安がかな り強い場合の発熱時DZP使用による再発予防策 を否定はしていないが心理的サポートが重要と している。本邦では先ほどのガイドラインでも 3回以上の熱性痙攣反復は熱性痙攣患児全体の 9%に過ぎず、基本的には単純型熱性痙攣に対 しては「自然放置が望ましい」としている。し かし実際には親の強い不安に押され、初回の単 純型熱性痙攣でもDZP坐薬を処方することも少 なくないようである。再発予防策の適応や投与 方法の詳細はガイドラインを参照して頂きたい がDZP無効例の存在や再発予防に関する解熱剤 の意義の乏しさなども説明に加えておきたい。

【てんかんとの関連について】

ガイドラインでは「てんかん発症に関する要 注意因子」が重なるにつれててんかん発症のリ スクが高くなることが示されているが、重要な ことは熱性痙攣の再発をいかに予防したにせ よ、「後年の無熱性発作(てんかん発作を指す) の出現に対する予防効果は認められない」ので あり、これは米国小児科学会の勧告でも同様な 見解である。ただし、熱性痙攣重積の反復と後 年の内側側頭葉硬化との関連も指摘されてお り、重積のエピソードがあった場合にはより積 極的に再発予防に取り組む意義があるかもしれ ない。

【脳波検査について】

熱性痙攣を反復した場合などに「てんかん」 ではないかとして脳波検査を勧められるケース も少なくない。梶谷によれば熱性痙攣後の脳波 検査では3歳以降に繰り返し記録すると実に患 者の35〜80%にてんかん様発射がみられるが、 それらの異常波はてんかんへの進展を予知する ものではなく、したがって脳波上のてんかん様 発射の有無を指標にして熱性痙攣の治療をすべ きではないとしている。熱性痙攣後の脳波検査 の意義について再考する必要がありそうである。

以上、熱性痙攣について述べてきたが日常診 療の一助になれば幸いである。

参考文献
1.福山幸夫・監:熱性痙攣の指導ガイドライン. 小児 科臨床49:207-215, 1996
2.Nelson KB et al:Prognosis in Children With Febrile Seizures. Pedatrics 61: 720-727, 1978
3.American academy of pediatrics Committee on quality improvement,subcommittee on febrile seizures : Practice Parameter: Long-term Treatment of the Child With Simple Febrile Seizures . Pediatrics 103 : 1307- 1309, 1999.
4.梶谷 喬:熱性痙攣の臨床・脳波・予後. 小児科臨床 54 : 1923-1930, 2001.