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泌尿器科領域の癌について

沖縄県立中部病院 泌尿器科宮内 孝治

【要 旨】

泌尿器科が扱う臓器は主に腎(腎盂)・尿管・膀胱・前立腺・陰嚢内であり、悪 性疾患もそれらの臓器より発生している。他に副腎・陰茎などがあるが、頻度は低 く前者は外科で扱う施設も多いため、一般的な上記5臓器の癌を組織別に疫学・診 断・治療や最近の動向について、他科や開業医の先生方の参考になるように紹介し たい。最近はエコーや腫瘍マーカーPSAの普及に伴い無症状で指摘され、泌尿器科 に紹介されるケースが過半数と思われる。早期発見の良し悪しは今後の問題である が、根治治療につながることはまちがいない。他科の先生方との連携がますます重 要となってきた昨今、専門外の先生方が泌尿器科の癌について知っておくことは有 用であると思われ、一読されることを期待する。

腎癌

腎癌は全癌の約3%を占め、40歳前後での発 症も見られるが60歳前後での発症が多く、男女 比は2 : 1 である。古典的には血尿・腫瘤触 知・疼痛が3大症状となっているが最近は人間 ドックなどでのエコー、あるいは他疾患精査の ためのCTで偶然腎に腫瘤が見つかり、泌尿器 科に紹介されるケースが多い。

診断は以前は腎癌が一般に富血管性であるた め、手術に際し腎動脈の本数を確認するために 血管造影を施行していたが、最近はCTの解像 度の発達がめざましくCTのみで確定診断し治 療に至ることが多い。特異的な腫瘍マーカーは なく尿細胞診も陽性とならない。

治療の基本は外科的切除である。偶然みつか った例は大きさが4〜5cm以下の小さいものが 多く、腎癌の場合は大きさが予後に相関するの で手術により根治の可能性が高い。逆に血尿な ど有症状で見つかった例は大きいものが多い が、転移が明らかでない場合は原発巣の大きさ に関わらず外科的切除を行う。転移がある場合 (血行性が主で肺・骨に多い)は患者の状態な どによるが、原発巣を摘除したことにより転移 巣の縮小がみられたとの報告もあり、転移巣が あっても腎摘を行う場合がある。再発例に対し ても同様にできる限り外科的切除が第一選択で あるが、多発あるいは患者の状態により手術が 困難な場合はインターフェロンまたはインター ロイキン2の投与等の免疫療法を行う。肺転移 には割合奏効するが全体の奏効率は20〜30% と低く、患者の経済的・時間的負担、薬の副作 用(インターフェロンの場合は発熱・うつ症状 など)を考え、患者サイドと相談し納得の上で 行っている。抗癌剤に対しては抵抗性で適応は なく、対症療法として骨転移による疼痛に対し ての放射線治療などがある。その他転移巣・再 発例に対する新しい治療法としては個々の患者 の腎癌組織よりワクチンを作成し、これを体内 に戻す治療(遺伝子治療)や免疫反応に重要な 役割を果たす樹状細胞を用いた治療法、さらに は移植片対宿主を利用した移植療法などがある が、これらの先端医療は、まだ実験的な段階に ある。

組織はほとんどが近位尿細管由来の腺癌であ る。予後は5cm以下の場合は90%以上根治が 期待できる。5cm以上のものや転移を有するも の、発熱など随伴症状のあるものは予後不良で ある。

また、腎癌は術後10年以上経って再発する 晩期再発例があることが特徴で、一生フォロー することが望ましい。頻度は低いが肉腫(肉腫 様腺癌)や遠位尿細管由来のベリニ管癌は悪性 度が高く、急速に進行し予後は不良である。

また最近の泌尿器科学会での話題は前述の手 術不能例に対する新しい治療とともに内視鏡手 術の是非で、内視鏡手術の普及とともにより低 侵襲(出血量の減少・術後疼痛の軽減・術後の 回復期間の短縮)かつ安全に行えるようにな り、内視鏡で腎摘あるいは腎部分切除を行う施 設が増えてきている。しかし技術の引継ぎの困 難さ・根治性・緊急時の対処などまだ課題は残 っていると考える。

腎盂・尿管癌

腎盂・尿管癌は全癌の0.5%以下と比較的ま れであり、男女比は2〜4:1で60歳前後に多 い。腎盂〜尿管は移行上皮なので癌の発生母地 は膀胱と同じだが、壁が薄いため周囲へ浸潤し やすく、また内視鏡が困難なため診断が難し い。発見されたときは進行している例が多い点 で膀胱癌とは臨床像が異なる。発見契機は無症 候性の血尿が多く、無症状で発見されるのは偶 然エコーかCTで水腎がみつかり、泌尿器科に 紹介される例である。

診断は尿細胞診と画像(主にCT)が中心と なる。特異的な腫瘍マーカーはない。細胞診は 核異型度が高いほど陽性率が高く、診断の根拠 となる。さらに画像で造影される腫瘤を上部尿 路に認めれば確定診断となる。しかし、血尿と 尿細胞診陽性では膀胱癌が大半なのでこれを除 外する必要がある。腎盂〜尿管癌に膀胱癌が同 時発生することもしばしばあり、どちらかに癌 がみつかった場合は術式が異なるので腎盂から膀胱まで精査する必要がある。

治療は病期によって異なり、他臓器に転移が ない場合は外科的切除が第一選択だが転移があ る場合や患者の状態により手術が困難な場合は 抗癌剤による治療が選択される。限局性だが浸 潤が予想される場合や所属リンパ節の腫大が認 められる場合も術前あるいは術後に化学療法を 施行する場合がある。抗癌剤はシスプラチンを 中心とした多剤併用療法が一般的で、現在は MVAC(メソトレキセート+ビンブラスチン+ アドリアマイシン+シスプラチン)またはGC (ジェムザール+シスプラチン)が一般的と思 われる。2療法とも奏効率は30〜40%であり、 当院では入院期間が短く2剤である後者を行っ ている。

腎盂〜尿管癌はほとんどが移行上皮癌(TCC) だが、結石に併発した腎盂癌には扁平上皮癌の 発生もみられ、予後はTCCに比べ悪い。予後 は一般的に不良といわれているが、表在性では 5年生存率は90%以上と良好である。浸潤性の 場合、予後は転移を来たしやすいため膀胱癌よ り明らかに不良で5年生存率で10〜40%であ る。転移がある場合は2年生存率で10%以下と 極めて不良である。

膀胱癌

膀胱癌は全癌の約6%を占め60〜70歳での発 症が多く、男女比は3:1である。無症候性血 尿が主な症状で、血尿が主訴の場合は尿管結石 か膀胱炎が大半であるが、どちらも側腹部痛や 排尿時痛・頻尿など随伴する症状があるので他 に症状がない血尿は要注意である。

診断は腎盂〜尿管癌と同様に尿細胞診と画像 (エコー・CT)に加えて膀胱鏡で確定診断が得 られる。前述のように膀胱癌がみつかった場合 は上部尿路に異常がないか(水腎はないか)を チェックする必要があり、病期診断のために腹 部CTまた遠隔転移が疑われる場合は胸部CTや 骨シンチを施行することが望ましい。また、内 視鏡手術が容易であるため通常は腰椎麻酔下に 経尿道的生検(TUR-Bt)を施行し、病理診断をしている。

治療は病期によって大きく異なり、表在性 (膀胱筋層まで腫瘍が達していない)の場合は 生検時に根治術が可能である。表在性膀胱癌は 再発することが多く、その度に内視鏡的に切除 すればいいが浸潤性へと移行することもあり、 多発性・再発例に対しては再発予防にマイトマ イシンCやBCGの膀胱内注入を術後1週間毎に 外来で行うことが一般的である。それに対し浸 潤性(腫瘍が膀胱筋層を越えている)の場合は 拡大手術の適応となる。拡大手術とは膀胱全摘 術であり尿路変更を伴う。スタンダードは回腸 を利用した回腸導管だが、ストマに抵抗がある 患者も多く、患者の希望や腫瘍の部位によって は小腸を利用したネオブラダーを作成し尿道と 吻合することによりストマを必要としない尿路 変更も施設により行われている。この場合は腹 圧排尿となり、腎盂炎のリスクは高まると思わ れる。術前・術後あるいは再発例・手術不能例 に対する化学療法は腎盂・尿管癌と同様であ る。また、放射線への感受性はある程度見込ま れ、化学療法と併用する場合も多い。膀胱癌の 場合は表在性と浸潤性は全く別の病気と考えて よい。

膀胱癌も大部分がTCCであるが5〜6%に扁 平上皮癌が存在し、TCC と比べ予後は悪い。 表在性の場合は致命的になることはまれで、浸 潤性の場合も腎盂・尿管癌と異なり、膀胱は筋 層が厚いため全摘術での根治が期待できる。浸 潤が筋層までなら5年生存率は80%と全摘術で 十分根治が期待でき、筋層を越えた場合は25 〜40%程度となっている。

また、浸潤性膀胱癌に対しできるだけ全摘術 を避け、抗癌剤(全身投与あるいは動注療法) に放射線治療を併用しどこまで根治が望めるか ということがテーマの一つとなっている。

前立腺癌

前立腺癌は泌尿器科癌では最も多く、PSAの 普及に伴い1975年頃より増加傾向にある。ゆ っくりと進行することが多く、剖検で発見されることも多い。つまり癌が存在しても他因死す ることがあり、現在はPSAの普及により無症状 の前立腺癌がみつかることが多く、各施設・医 師により方針が様々であり学会の話題でもあ る。癌による症状としては排尿障害・骨転移に よる腰痛などがあるが、有症状にて診断される 場合はすでに進行していることが多い。

診断はPSAが高値であれば生検を行う。生検 は経直腸的あるいは経会陰的に一般にエコーガ イド下で行う。局所麻酔で可能であり、当院で は外来で施行している。生検で癌が認められれ ば腹部CT・骨シンチ・胸部レントゲンで病期 診断を行う。しかし分化度が低くPSAが上昇し ない場合もあり、触診は欠かせない。

治療は限局性か転移を有するかによって異な る。また、病理診断(グリソンスコア)や年齢 (期待余命)・患者の希望も加味される。限局 性の場合は外科的切除か放射線療法が適応であ る。前立腺全摘術は視野の確保が難しく相当量 の出血が予想され、また術後も尿失禁・勃起障 害などの合併症を発生することがあり、学会で も術式・神経温存などが常に討論されている。 放射線(外照射)は前立腺部に60〜70グレイ 照射するのが一般であり、最近は施設により会 陰よりヨード125を前立腺に埋め込む小線源療 法がより早期の場合には試みられている。手術 と放射線の効果はほぼ同等であり、その選択は 年齢や患者の希望などによる。転移を有する進 行性はホルモン療法が中心となる。ホルモン療 法には大きく分けて除睾術とLH-RHアナログ があり、両者の効果は同様とされている。さら に副腎からの男性ホルモンを抑えるアンチアン ドロゲン製剤が使用されている。ホルモン療法 は非常に効果的であり、PSAの低下はもちろ ん、疼痛や排尿障害など症状の緩和も期待でき る。しかし、ホルモン療法での根治は難しく、 特に病理の分化度が低い場合やPSAが異常高値 で診断されたケースは1〜2年以内にホルモン 抵抗性となることが多い。抵抗性(PSAの上 昇)と判断すると女性ホルモン剤やステロイド 製剤が使われているが、通常は数ヶ月でPSAが再び上昇傾向となる。その際にどうするかが最 近の学会でのテーマとなっている。保険適応は まだないが、タキサン系の抗癌剤などの有効性 は注目されている。

前立腺癌は大部分が腺癌であるが、まれに肉 腫や小細胞癌があり、それらは通常の腺癌に比 べ予後は不良である。予後は限局性であれば手 術・放射線などの治療により10年生存率が80 〜90%とされ、転移がある場合は5年生存率が 20〜30%である。

精巣腫瘍

精巣腫瘍は20〜40代に多く、全癌の約0.3% と発生頻度は低いが、若年者の癌死の第1位を 占める。胚細胞由来が大半である。また50歳以 上の高齢者の精巣腫瘍は大半がリンパ腫であ る。ここでは最も多い胚細胞由来の腫瘍につい て述べる。陰嚢内の疾患は鑑別に苦慮すること があるが精巣腫瘍は若年者の無痛性の腫大が主 訴となることが多く、要注意である。部位が他 人に見せづらいところなので無治療のまま放っ ておかれ、初診時にはすでに進行している例も 多い。

診断は触診とエコー検査でほぼ可能である。 精巣腫瘍を疑えば腫瘍マーカー(LDH ・α- FP・β-HCG)が大変有用であり、上昇してい るマーカーによって組織型のおよその見当がつ き治療効果の判定にも極めて有効である。また 病期診断のため胸〜腹部CTを行う。

治療は診断がつけば、準緊急的に高位除睾術 を行う。胚細胞腫瘍は大きくセミノーマと非セ ミノーマ(胎児性癌・卵黄嚢腫・絨毛癌・奇形 腫)に分けられ、両者は治療法・予後が異な る。どちらの場合も、転移がなく術後マーカー が順調に正常化すれば基本的に追加治療は必要 ない。転移のある場合、セミノーマは放射線へ の感受性が良好なため大動脈周囲リンパ節まで の転移であれば放射線の適応であるが、抗癌剤 への感受性も良好であり最近では第一選択とな っている。セミノーマは肺などへの臓器転移が あっても抗癌剤投与によりほぼ100%に近く根 治を期待できる。それに対し、非セミノーマは シスプラチンの登場により全体の治癒率は70% 程度と以前よりは格段によくなったが、肝・脳 転移を有するケースの予後は未だ悪い。いずれ の場合も治療の効果判定はマーカーが最も信頼 できる。化学療法のファーストラインはBEP療 法(ブレオマイシン+エトポシド+シスプラチ ン)かEP療法(エトポシド+シスプラチン) となっている。ファーストラインでマーカーの 低下が思わしくない時は、セカンドラインとし てVIP療法(エトポシド+イフォマイド+シス プラチン)が選択されるが、さらなる治療とし てタキサン系抗癌剤や大量化学療法が試みられ ているものの確立したものはなく、今後の課題 となっている。

参考文献
1)Emil A.Tanagho,Jack W McAninch:Smith’s General Urology,The McGraw-Hill Companies,15/e,2000.
2)国立がんセンターホームページ

著 者 紹 介

宮内孝治

沖縄県立中部病院 泌尿器科
宮内孝治

生年月日:昭和38年11月19日

出身地:北海道 札幌市

出身大学:東京医科歯科大学医学部 平成9年卒

著者略歴

平成9年 東京医科歯科大学医学部卒
       同大学病院泌尿器科医局入局
平成14年4月〜 沖縄県立中部病院泌尿器科 勤務
           現在に至る

専攻・診療領域
 泌尿器全般

その他・趣味等
 特になし



Q U E S T I O N !

問題: 7 0 歳女性が血尿を主訴に受診したら?

  • 1)抗生剤投与し、1週間後にフォローする。
  • 2)随伴症状の有無を問診し、必要なら泌尿器科 へ紹介する。

CORRECT ANSWER! 12月号(vol.42)の正解

問題:propeciaの副作用について、正しい ものはどれか。

  • a.propeciaは男性であれば、小児に投与して も問題ない。
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正解 c