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アレルギー週間(2/17〜2/23)に因んで
〜アナフィラキシーに関する治療の最前線(エピペンの紹介)〜

嘉数朝一

嘉数医院院長 嘉数 朝一

はじめに

2004年、8月にアメリカで映画俳優のダステ ィン・ホフマンさんが蜂に刺され、アナフィラ キシーショックで命の危険に陥った女性を助け たことが大きく報道されました。記事の内容は ロサンゼルス近郊の有名なマリブ・ビーチで女 性が蜂に刺され、数分後には彼女は目に強い痛 みを訴え、全身に発赤腫脹と呼吸苦が出現し、 いわゆるアナフィラキシーショックと呼ばれる 状態に陥っていました。

同行していた友人が警備員やライフガードに 連絡し、救急車を要請しましたが、女性の症状 はすぐに緊急処置をとらないと命に関わる状態 にまで悪化していました。

たまたま現場を通りかかったのが、ホテルに 帰る途中のダステイン・ホフマン夫妻だったの です。

ホフマン夫人も実は重度の蜂アレルギーだっ たためアナフィラキシー出現時に対応する薬を 常に持参しており、夫のホフマンさんがこの薬 を女性に注射をした後、救急車で搬送され、ア ナフィラキシーショックから彼女を救ったとの 報道内容でした。

さて、ホフマン夫人が持っていた蜂アレルギーに対する救急薬とはいったい何だったのでし ょうか。

それは、アナフィラキシー発現時の補助治療 薬で自己注射用エピネフリン注射液「エピペ ン」という薬剤です。周知のごとく、アナフィ ラキシーショックにおける救急処置として第一 選択は、エピネフリンという注射薬です。この エピネフリンが注射針一体型の携帯用注射セッ ト「エピペン」(図1)という製品名で平成15 年に蜂アレルギー患者に対して日本でも処方が 可能になり、蜂に刺された際にその場で患者自 身が注射することが可能になりました。

実はエピペンは、諸外国では20年以上も前か ら使用されていましたが日本ではなかなか承認 されず、ようやく平成15年に蜂毒に対してのみ 承認がおり、平成17年4月には食物や薬剤によ るアナフィラキシーにも使用が認可されまし た。近年、食物アレルギーの患者(特に小児) が増えてきており、アナフィラキシーを起こし たときのプレホスピタルケアにこの薬が重要な 治療補助剤であると位置づけられたからです。

今回はアナフィラキシーとはいったいどういう 状態を意味するのか、エピペンの適応患者とは、 購入方法、処方の仕方、使用方法、今後の使用 時における問題点について説明いたします。

1)アナフィラキシーとは?

アナフィラキシーとは、アレルギー反応のう ち、重篤で生命の危険を伴い得る反応を意味し ます。(アナフィラキシーの語源とは防護状態− phylaxisと反対−anaを合成したものです)。

蜂毒や食物、薬物等が原因で起こる急性アレ ルギー反応の一つで原因物質が体に入ると、数 分から1時間以内に唇のしびれ、蕁麻疹、腹痛 などの初期症状に続き、のどに詰まった感じ、めまい、さらに治療が遅れると呼吸困難、血圧 低下、意識障害などのアナフィラキシーショッ ク症状となることがあり、一般的には早急な救 急処置が必要とされます。統計によると、わが 国では毎年50〜60人の死亡者が報告されてお り、特にショック症状を起こしてしまうと血圧 の急激な低下、脳への血流が20〜30分間停止 するという深刻な事態を招きます。アナフィラ キシーショックの状態になった際には、早急に 適切な処置をとらなければなりません。

2)エピエンの適応患者

これまでに蜂に刺されたり、特定の食物や薬 剤で重度のアナフィラキシー症状を起こしたこ とがある、または起こす危険性の高い患者さん を対象とします。

甲状腺機能亢進症、重症不整脈症、糖尿病の 患者さんには慎重な使用が警告されています。

3)購入方法、処方、使用方法について

エピペン処方医師に登録された医師のいる医 療機関のみで処方が受けられます。処方ができ るためには講習受講が必要となります。

自己注射のため、厚労省は医師による患者お よび保護者へのインフォームド・コンセントの実 施を義務付けています。また、十分かつ適切な 指導ができる医師のみが処方することが承認要 件となっているため、販売元のメルク社は、講 習会に参加した医師だけに納入するシステムを 取っています。既に全国で約5,000人の医師が講 習を終え、処方できる態勢になっています。

エピペンは、保険適応はなく完全な自由診療 で処方されるため、薬価は決められていません。

実勢価格は診察費込みで1本当たり1万〜2万 円となっています。1回の診察で処方できる本 数は通常、1本が適当とされていますが、医師 の裁量に任されています。

保護者からの要望を考慮すると、1本は携帯 用、もう1本は家庭での常備用などとして、2本 処方するケースが多くなるのではないかと厚労 省は考えているようです。

エピペンは直径約17mm、長さ約145mmの円 筒形となっています。使う際は、注射器の末端にある安全キャップを外し、しっかりと握ったま ま大腿部の前外側に強く押し付け、その力で内 蔵されているばねが針を押し出し、筋肉注射で きる仕組みとなっており、服の上からでも注射 は可能です。通常、エピネフリンとして 0.01mg/kgが推奨用量であり、患者の体重を考 慮して、エピネフリン量0.15mg又は0.3mgを筋 肉内注射します。通常、成人には0.3mg製剤を 使用し、小児には体重に応じて0.15mg製剤又は 0.3mg製剤を使用することになっています。

詳しい使用方法はエピペンのホームページhttp://www.epipen.jpで確認してください。

4)今後の使用時における問題点

処方対象となるのがインフォームドコンセン トを受けた本人、保護者またはそれに代わり得 る適切な者となっています。適切な者がどの範 囲まで含まれるのか明確になっていません。

例えば食物アレルギーの小児が校内でアナフ ィラキシーを起こしたとき、本人が注射できな い状態の場合、養護教諭や担任の教師がエピペ ンを使用し注射をすると医療行為になるため現 行ではまだ施行できない状態です。差し迫った 課題として保育園、学校などでどう対応するか が問題になります。さらに今後の課題として、 救急救命士がエピペンを打てるような早急な法 的検討も議論される必要があります。

最後に

エピペンは蜂毒、食物、薬物アレルギーを改 善する薬剤ではなくアナフィラキシー等の症状 を緩和する薬剤であり、あくまでも緊急時の補 助治療薬であって医療機関での治療に代わり得 るものではないこと、またアナフィラキシー発 現状況は多様であり、本剤を投与したからとい って必ずしも有効であるとは限らず、本剤によ る治療には限界があることを、患者さんに理解 してもらう必要があります。また、本剤使用後 には直ちに医師の適切な治療を受けることを患 者さんに十分に説明しなければなりません。

今後、エピペンがアナフィラキシーを起こす 可能性が高い人々にとっては非常に大切な生命 線ともなり得る自己注射液と考えられます。